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月餅さんのレビュー一覧

投稿者:月餅

1 件中 1 件~ 1 件を表示

太陽がいっぱい

2021/06/16 12:22

自分が自分を捨てた先

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

幸福とは言い難い生い立ちのトム・リプリーは、ゴミゴミした都会(NY)の片隅で軽犯罪すれすれのイタズラをして日々を過ごす濡れネズミのような人間。しかし、ひょんなことから裕福なグリーンリーフ家の跡継ぎディッキーに会いに、ヨーロッパという別天地に行くことになります。
イタリアでのディッキーとの交流を通し、全く違う階級(ハイクラス)の人たちの世界を垣間見るトム。
この階級の違いに違和感を感じるどころか、これが本来自分の住む世界であると確信。ディッキーとの未来をも夢見ます。
しかし愛憎相半ば…。
※ネタバレあり

愛されないなら殺してしまいたい。トムは短絡的に犯行に及ぶものの、自分自身を第三者的目線で見ています。
妙に冷静に行動ができるトム。
ディッキーの仕草はいつのまにか身についていて、声色、筆跡も含め形態模写ともいえるそれを武器にアリバイを固めていきます。
切り替えの早さと他人になりきることができる能力。自分を捨てる能力?
それこそがこの小説の原題「トム・リプリーの才能」を指すのでしょうか。

その後も行き当たりばったりな殺人をしアリバイ作りやなりすましに奔走。たくさんの欠落はあったのに。なぜだか運はトムを味方する…。

ディッキー・グリーンリーフになりすまし、ローマで高級なホテルやレストランに行きパーティで交流する彼はもてはやされます。みずぼらしいトム・リプリーはいません。自分が自分を捨てた先では、一体何が得られるのでしょうか。

本書の時代(1955年頃)のイタリアの様子も垣間見えて面白い部分です。アメリカンエクスプレスの使われ方、イタリアの田舎モンジベロの人々の様子(ディッキー「冷蔵庫を買ってしまったらメイドの仕事がなくなるだろう?」)高級な革製品の店としてGUCCIも登場。当時のローマやベネツィアの様子にも思いを馳せられます。

映画「太陽がいっぱい」でアランドロン演じるトムはフレディを殺した直後に自分で焼いたステーキを食っています。怖い。すばらしい演出です…。そしてとても面白い。しかしこの映画は原作とは全く別物であると考える方がよいでしょう。

最後に疑問。いくらトムが人格を盗む才能があるとはいえ、そして眉墨など化粧もしたとはいえ、ディッキーに扮したトムと、トムのままのトムとも会ったことのあるイタリア人警部補が、これを同一人物と気が付かないのには多少違和感があります。
読み落としたのかもしれませんが…。

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