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豊前国人さんのレビュー一覧

投稿者:豊前国人

1 件中 1 件~ 1 件を表示

愛についてのデッサン 野呂邦暢作品集

2021/06/18 13:16

完成度低い文庫化

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルになった連作は角川での初刊以後永らく入手困難でしたが、“大人の本棚”で復刊後は版を重ね野呂再評価のきっかけになった小説であり、今回の短編数編を増補した文庫化により、先に中公文庫からでた“野呂邦暢ミステリ集成“とともに格好の野呂入門書が文庫で揃うことになった。
ただし編者の岡崎氏は、“夕暮れの緑の光”いらい野呂紹介の第一人者の風情すらありますが、果たして編者として適任だったかどうか…。氏がこれまで野呂に関して書いた文章の多くは他者の評語のパッチワークですし、今回の編者解説でも安易な引用や明らかな誤記(古書店主が出かけてもいない秋田や出雲に旅をさせたと書いてます)をやらかしてます。
ちくま文庫の本づくりにも疑問を感じます。確かに野呂は惜まれつつの早死にでしたが、カバーや帯にある“夭折の“芥川賞作家という表現にまず躓いてしまいますし、決して代表作とはいえない短編を増補しただけで”野呂邦暢作品集“と銘打ったことにも違和感があります。また巻末で編者の私的な解説に紙面を割くくらいなら、みすず版”愛についてのデッサン”の佐藤正午解説を再録すべきでした。カバーデザインも中央線あたりのブックカフェをイメージした感じで、編者の人選を含め、ちくま文庫お得意の古本関連書としての編集にこだわるあまり、野呂本来の作品世界を想起させる本になっていないきらいがあります。
こうした編集や造本などの瑕疵があるとはいえ、若き古書店主を主人公にした稀代の青春小説が文庫化されたことはたいへん喜ばしい。気安く移動することが難しい時節柄、佐古啓介と京都、神戸、長崎を旅しつつ、読後には小説に登場しない町を仮に啓介がせどりなどしながら旅することなんかめ空想しながら、新たな読者体験を楽しみたいと思います。

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