yinoさんのレビュー一覧
投稿者:yino
紙の本地図と拳
2022/11/12 14:35
国家とは何か、を問う1冊
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
1899年から1955年までの満州を舞台とした群像劇。日清戦争を経て、ロシアと日本の緊迫した関係の中では大きな存在意義を見せた満州が、エネルギー転換により徐々に価値が下がる中で、逆に太平洋戦争の火種となっていく様は、俯瞰した目線では滑稽でとても悲しく映る。地図や建築によって土地を切り開いてくのか、拳によって奪いにいくのか、緊迫の高まる昨今の世界情勢の中で、痛烈なメッセージを投げかけてくる弩級の1冊です。
紙の本六人の噓つきな大学生
2022/01/31 06:33
就活を題材とした良質なミステリー
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
難関企業の最終面接に臨む6人の大学生それぞれの「嘘」を巡るミステリー。次々とミスリードが重なり、二転三転しながら見事に回収されていく伏線が気持ち良い。人間性なんて表面だけでは分からないなんて、誰でも知っているにも関わらず、私達も日々の生活の中でお互いのことをミスリードしあってるんだろうなと気付かされました。
紙の本硝子の塔の殺人
2022/01/29 20:41
ミステリー愛に満ちた傑作ミステリー
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
とある雪山に立てられた奇妙な館「硝子館」にて、名探偵、医者、推理作家、刑事、執事、メイドといった、“いかにも”な登場人物達が織り成す密室殺人事件。探偵役の発するミステリーに対するメタ発言、ホームズ役とワトソン役の危険な関係、どことなく腑に落ちないトリック等、幾重ものフェイクに彩られたトリッキーで大胆なミステリー。とにかく読んでいて楽しい。新本格ミステリーへの惜しみない敬愛に溢れており、「このミステリーがすごい!」1位は逃したものの「このミステリー愛がすごい!」は文句なしの1位を与えたい。
2023/01/15 09:28
圧巻の解決編、必読!
3人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
病気やケガをしない、失われた四肢すらも甦るとされるカルト教団の本拠地を舞台とした連続殺人事件。「たとえ毒を飲もうが死ぬことはない」等の宗教上の奇跡を信じる場合に成立する真相、奇跡を信じない場合に成立する真相の2パターンの謎解きがロジカルに共立しており、2つの真相により犯人に迫る怒濤の解決編が圧巻。各種ミステリランキングで上位に選出されるのも納得のクオリティでした。
紙の本爆弾
2023/01/15 09:25
緊迫感溢れる濃厚なミステリー
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
都内にしかけられた爆弾を巡り、自ら警察署に赴いたスズキタゴサクと名乗る容疑者の男と刑事との、取調室でのハードな頭脳戦が凄い。このスズキの人物像がとにかく強烈で、対峙する警察、東京都民、そして読者まで心の内を暴かれる様でした。街を破壊する爆弾と、人間の心を破壊する爆弾、2つの爆弾からなるヘビーな緊迫感が、映像化に向いてそうなので、ぜひ演技派俳優陣で映画化して欲しいと感じました。
紙の本栞と噓の季節
2023/01/15 09:17
ビターな学園ミステリーを
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
図書委員シリーズ2作目。学園ミステリーのジャンルで、ここまでシビアな緊迫感の漂う作品に出会ったのは初めてです。前作を読んだ際には、今一つ物足りなさを感じましたが、本作で大化け。どの登場人物も一筋縄ではいかず、タイトル通り、最後まで「栞と嘘」に振り回される大傑作でした。個人的に、現時点での米澤作品最高傑作です。
紙の本此の世の果ての殺人
2022/10/23 11:46
特殊設定ミステリーかと思いきや、謎ときは王道
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
小惑星の衝突により、約2ヵ月後には滅亡する地球が舞台のミステリー。物語を引っ張る、暴走気味の正義感で突っ走る元警官が目立ちますが、終末の世界なのに“良い人”を演じる割に、変なとこでドライな主人公も良い味を出してます。「どうせ皆死ぬのに、なぜ犯人を追うの?」という疑問にもしっかりと理由が用意されており、一筋縄ではいかないストーリーも魅力。謎解きとしてはオーソドックスですが、中盤以降は緊張感も高まり頁をめくる手が止まりませんでした。ラストシーンも素晴らしく、読んで良かったと思わされました。
紙の本兇人邸の殺人
2022/09/18 00:52
高クオリティの3作目
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
シリーズ3作目。ゾンビ、予知に続き、今回は謎の巨人殺人鬼とミステリーを融合させ、またも完成度の高いクローズドサークルのミステリーを構築している。「犯人は探偵の敵なのか?」「そもそも、事件に対し謎解きするメリットはあるのか?」等印象的なテーマと共に、主人公と剣崎探偵の「ホームズとワトソン」を巡る心理描写までも組み込まれ、読み応え抜群。徐々に班目機関にも迫ってきており、次作以降の展開も今から楽しみだ。「特殊設定ミステリー」を書かせたら、現在今村先生の右に出るものはいないんじゃないでしょうか。
電子書籍ガラパゴス 下
2022/01/29 20:31
誰が被害者で、誰が加害者なのか
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
事件を追う中で、企業の為に犠牲となる、派遣労働者の残酷な労働環境が浮き彫りとなるミステリー。2016年にこの本が刊行されてから5年以上経つが、残念ながら現在の日本社会の状況は改善されるどころかどんどんと悪くなっている様に感じる。一度狂った歯車がなかなか戻らないのは、個人も社会も同じなのかもしれない。度々出てくる調査メモの累積が表すように、「地取りの鬼」と称される主人公の地道な調査の連続と、そこから真相に行き着くまでの終盤の怒濤の展開は読み応えたっぷりです。
紙の本3月のライオン 16 March comes in like a lion (YOUNG ANIMAL COMICS)
2021/10/24 11:45
極上の雰囲気
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
なんとも繊細な物語で、主人公の気持ちや周囲に変化は起こりつつも、不変なものなんて何もないという、そこはかとない不安や儚さが満ちて不思議な作品だなぁと思う。この作品の登場人物達に幸あれ。
紙の本聖アウスラ修道院の惨劇
2023/06/28 07:28
ミステリの魅力が盛り沢山の1冊
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
二階堂蘭子シリーズ長編第3作。今回は湖畔の修道院にて起こる連続殺人事件に挑む。ロケーションが素晴らしい冒険譚的魅力に加え、密室殺人、暗号解読、修道院に隠された秘密等々、見所満載で終始楽しく読了できました。
紙の本吸血の家
2023/05/31 20:58
王道の本格ミステリ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
二階堂蘭子シリーズ第二作。呪われた一族、雪密室をはじめとした不可能犯罪の三重奏、犯人との対決や二転三転する結末など、とにかく盛りだくさんな1冊。雰囲気、トリック、ストーリーのどれも良しな傑作ミステリだと思います。
紙の本捜査線上の夕映え
2023/01/15 09:23
直球が刺さる王道ミステリー
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「エモーショナルな本格ミステリーを書きたかった」とはあとがきの有栖川先生の言葉なのですが、トリックよりも動機や登場人物達の背景の解明に主眼が置かれた作風で、瀬戸内の小さな島の情景も重なりいつもより少しセンチメンタルな作風でした。特殊設定ミステリーが増える中、王道で丁寧に書かれた1冊。瀬戸内ファン、かつ有栖川ファンである私にとってはたまらない1冊です。
紙の本黒いトランク
2022/11/27 08:01
ミステリー史に残る名著
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鉄道輸送されてきた死体入りのトランクを巡り、容疑者の足取りを追うミステリー。強固なアリバイを前に、様々な証言、電車や船の時刻表、地図等を駆使して、少しずつ真相に近付く過程が丁寧に書かれています。創元推理文庫版以外にも収録されているか分かりませんが、本作が世に出るきっかけとなった過程や、有栖川有栖氏等の対談等の巻末ファンサービスも充実しており、ミステリー史に残る名著をとことん楽しめました。
紙の本その裁きは死
2022/10/23 11:45
さすがの完成度
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シリーズ第二作。前作以上に、探偵との関係性に悩むワトソン役(=作者自身)であるが、作者が慣れてきた為なのか、ホーソーンにも少し人間味が出てきて、なんだかんだ憎めなくなる。巻末の遊び心溢れた「謝辞」を含めて、現実と虚構が程よく絡むメタ的な目線も面白い。その上でミステリーとしては、地道な証言集めのなかに巧妙なヒントが散りばめられた本格モノであり、最新フォーマットで王道ミステリーが読める点が、本シリーズ最大の魅力だと思う。全10作を予定しているとのことであり、長く楽しめそうだ。