Haserumioさんのレビュー一覧
投稿者:Haserumio
書いてはいけない 日本経済墜落の真相
2024/03/17 18:51
「私の遺書でもある」(203頁)
13人中、12人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
インパクトがあったのは、やはり第3章と第4章。JAL123便を墜落に持っていった(あるいは、第4エンジンにミサイルを撃ち込んで撃墜した)その理由について、「もし、123便が無事に着陸したら、本当は何が起きたのか、完全にわかってしまうからだ」(155頁)との一文に戦慄。(まったく、早くブラックボックス公開しろよ。)併せて、今後の日本が生き延びる最後の道(ラスト・チャンス)は、敗戦直後と同様に、タブーを破壊するわれわれ日本国民の行動と言論・メディアの覚醒にあることを実感。また、文章表現はさておき、誤植の無いていねいな校正が素晴らしい。(最近の、大手出版社の書籍の誤植の多さには、ほんと辟易しているので・・・)
朝日新聞政治部
2022/06/01 20:19
オールド・メディアへの訣別宣言(読みごたえあり)
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ジャーナリズム(ジャーナリスト)論としても、企業組織論としても、日本政治論(史)としても読める大変読みごたえのあった一書。付箋だらけになった一冊ですが、肝心のいわゆる「吉田調書」問題について、背景・経緯や社内のドロドロをはじめとして実に明快に理解できた。(他の場所に行った東電社員が、「結果的に」命令に違反していたことは明白なので、要は原稿に「逃げ道」を作り忘れたところをさまざまな思惑を有する方々に利用されただけの話に過ぎないとの印象。元を辿れば、ある意味巷間よくある話であり、「のりしろ」と「鷹揚さ」を失くした日本社会や各種組織、職業人などのすさまじい「劣化」とレベルの低下を改めて感得。)著者のますますの活躍を願っています。
日本の歪み
2023/09/30 20:30
「道徳の授業で必ず教わるのも「みんなで考えましょう」ということです。どうやってみんなで考えるんだ、と思いますが。」(178~9頁、養老)
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
三者三様の着眼と語り口で読ませる対談集。自然体の養老に、シャープで深い東、多分にボケ役(?)の茂木というキャラ立ちも面白かった(私見)。一方で、「歪み」ということそのものについての定義というか分析がないので、いささかまとまりのない真面目な雑談に終った印象もある。養老氏が各所で、今後想定される大災害に日本再生の希望を見い出している点(氏いわく「地震待ち」(239頁))には、不遜ながら同感した。なお、読みごたえがあったのは第四章(死者を悼む)と第五章(憲法)。誤解をおそれずに云えば、あとは枝葉であった。
「日本語には「AはBである」とだけ淡々と書く言葉の形がないんですよ。」(138頁、東)
「英語だったら高校生でも大統領でも「I」で済むのに、日本の高校生は「私」なのか「僕」なのかでなやまないといけない。言語が高校生のスピーチのあり方自体を規定してしまっているということです。」(142~3頁、東)
「むしろ全てYouで済ませる英語が特別シンプルだから、リンガ・フランカ(国際共通語)になり得たんですね。」(144頁、茂木)
「同時にインターネットがつなぐフラットな世界から見ると、過剰な歴史は余計なことです。GAFAなどのプラットフォーマーにとって、歴史はあまり関係ない。」(210頁、茂木、歴史過剰と未来志向の相反性)
読後の感想を一言で云えば、日本人一般における「実感信仰」の不死身の強靭さということ。近代主義者として批判するむきも多いが、やはり丸山眞男がかつて縷々述べた諸点はいまだ妥当していることを改めて確信した。
カミカゼの幽霊 人間爆弾をつくった父
2023/07/03 02:40
大田正一そしてその家族の物語
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
昨日午前中に購入して、止められなくなり、本日午前過ぎに読了。贅言は無用。読めば判る一書。(内容が重いため、容易な要約も許されなかろう。)元ネタが、ETV特集「名前を失くした父~人間爆弾”桜花”発案者の素顔」として、2016年3月19日に放送されていたとは知りませんでした(再放送希望)。
「いまさらわしがほんとうのことは言えんのや。国の上のほうで困るやつがおるからな・・・・・・」(34頁、大田正一の言葉)
「大田は上層部に利用されたにすぎないのではないか、と植木はみている。・・・「・・・ 大田さんが発案したことにしとけば、実戦をやってきた人のひとつの考案だったということにすれば、そんなに問題にならない。それをうまく利用された感じがするの」」(48~9頁、植木忠治の言葉)
「こんな大それた、人間爆弾と呼ばれるような大戦略を(大田が)つくり上げたってそんなことできるわけないですよ。・・・ ぼくは、彼は犠牲者だと思っている。何百人をそれで死なせた責任を負わされてる感じがする。(上層部の人間が)あいつがやったんだ、俺じゃないよ、と・・・・・・」(56頁、田浦研一の言葉)
「ぼくは、彼の場合にはものすごく大きな見えない手が動いているような気がする。というのは、ハワイ作戦(真珠湾攻撃)のときの参謀がいたでしょう、戦後国会議員になったのが。あれと関係があるんじゃないか。」(159頁、同上、「使えなかった男」(163頁を参照)源田実のことですね)
個人的には、大田正一の前妻(というか・・・戸籍上の妻? 表現が難しい・・・)である太田時子とその子供たちの話も盛り込むべきではなかったとの感想を抱きましたが、なかなか難しいか・・・
分断と凋落の日本
2023/04/27 16:39
優秀合格答案も偏向採点者が評価すると赤点になる(のであろうが・・・)
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「妖怪の孫」安倍晋三に率いられていた軍団や現政府関係者、右筋の方々からは受け入れがたい内容なのでしょうが、本書に書かれていることのほとんど大部分はどう考えても正しい。(後世の「答え合わせ」が、皮肉な楽しみとなるであろう。)さまざまな問題群の原因と連環が、きっちりと整理されまとめられた一書。文章も明晰で読みやすい。また、次の一文を知ったのも収穫。
「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって、自分が変えられないためである。」(277頁)
ただ、誤植の多さには閉口した。(一例のみだが、12頁、38頁、43頁、93頁、98頁、155頁、167頁、182頁、211頁、249頁(ここは「優秀」では?)、257頁、277頁(ここは「黒地」なのでは?)、299頁、301頁などなど。)また、64頁の「銃殺」という表現はいただけない。せっかくの良書の紙価が、これでは台無し。編集者は猛省を。
国商 最後のフィクサー葛西敬之
2023/01/16 01:29
いや~、面白かった。売れているのもよく分かる。
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「国商」とは、国士にして政商であることの謂いであり(196頁)、「国益とビジネスの結合」(290頁)の喩えでもある。昨日昼前に本が届いて、面白さにハマってしまい、一気に読了。人物ノンフィクション(NF)であるとともに、歴史NF、ビジネスNF、政治NFでもあり、はたまた財界NF、スキャンダルNFであるという具だくさんの混ぜご飯のような一書。唯一、89~90頁と100頁で意味の取りにくい箇所があったが、誤植もなく、近時売れているのもまずは納得の作品。お値段以上の面白本でした。
それにしても、菅元首相の弔辞で有名になった山県有朋の「かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ」(304頁、306頁)ですが、それ以前の段階で、安倍晋三が葛西敬之を送るそのFB投稿で引用していたという事実を本書で初めて知り、思わずのけぞりました。さまざまな意味で、まったくもって笑える一事かと。
セクシー田中さん 1
2024/02/04 17:07
作者のご冥福をお祈り申し上げます。
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
作者の自死事件に触発された一読。作者の登場人物たちにそそぐ目線の優しさが、描画とストーリーから伝わってくる佳作。TV会社と脚本家は猛省して、ちゃんと償ってほしい。
一神教と帝国
2024/01/03 18:27
トルコ(というかイスラム・コミュニティー)を通して、日本を考える
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
大変面白く読了。印象に残ったのは、日本のアニメのイスラム世界における浸透度の高さ(修行、師弟、人間的成長などの観点より)とイスラム世界における高いレベルの文化コミュニティーの存在(人文科学の尊重的観点も含め)。特に、山本直輝氏の話が実に興味深く、こういう人が活躍できる日本社会であってほしいと思うこと大。
変な家 2 11の間取り図
2023/12/31 11:12
3.15公開の映画にも期待(チラシ入手済み)
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
夕方に読み始めて止められなくなり、今朝の2AM前に読了。やっぱり、こういう本は深夜に読むと興趣が倍加しますね。ところどころ首を傾げる箇所もありましたが、これだけ読ませてくれたので、星5つです。
個人的には、例えば以下の二点はどうなのかなぁと。
・(318頁)「家の心臓だから、鍵をかけてはいけない」のであれば、資料11の家は、熱心な信者の家なのに、その教義に反している。
・(429頁)義足がなかったとしても、トイレの前は(広い家なので)それなりのスペースもあるはず。そんなに都合よく階段から落ちて死に至るかね・・・
前作に比べて大容量になったせいか、キレがなくなったというか、前作の方がシンプルに怖いと感じさせるものがありましたが、それはさておき、ある意味、最後まで真犯人が現れない(というか、最後になっても姿を現わさない)という設定は、宮部みゆきの『火車』を彷彿とさせるものがありました。
紫式部と藤原道長
2023/10/14 15:40
「道長なくして紫式部なし、紫式部なくして道長なし」(319頁)
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
『紫式部日記』『紫式部集』『御堂関白記』『小右記』『権記』などを典拠に、紫式部と藤原道長それぞれの生涯と両者の交錯を歴史学上の推論も含め叙述した一書。なるほどこういうことだったのか(もしれないのか)と得るところ大でした(詳細割愛)。それにしても、279頁の系図は、藤原道長が創出したいわゆる摂関政治(外祖父・外孫政治)の形式的本質を一望させてくれて納得。(思えば、それが以後、院政や平清盛政権のみならず、現在の自民党政治(森喜朗を見よ)にまで連綿と続いている感あり。)また、天皇が行なうもっとも基本的な三つの「セイジ」を、「聖事」「政事」「性事」を称しているのは(266頁)、云い得て妙である。
なお、本書では『源氏物語』そのものに関する言及はあまりない。この点、読者によっては求めるところとは合致しないかもしれません。但し、本書を読んで、紫式部の本書に描かれたような生涯から推察するに、彼女の天才性というものが、その和漢にまたがる文才と当時の現実政治のダイナミクス(と虚しさ、儚さ)そしてある種現代におけるいわゆるキャリアウーマンにも通ずる人格的自立性の三位より生来した奇跡的な(稀有の)歴史的な「光芒」であったと思うこと大ですね。
牧野日本植物図鑑 新学生版
2023/05/28 10:37
こちらも良書、『牧野日本植物圖鑑 復刻 卓上版』と二冊揃え
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
NHK朝ドラに刺激され、2023/5/26に丸善丸の内店にてこちらも購入。直前に買い求めた『牧野日本植物圖鑑 復刻 卓上版』よりも高価であったが、普段遣いには本書の方がよさげ。座右に置いて、花々のスケッチの見事さを改めて堪能しています。
ルックバック (ジャンプコミックス)
2023/02/11 02:20
京本の一生に涙
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
出遭いと友情と成長と別れと再生と復活と、人生の万般が詰まった珠玉の一冊。京本の心情を想って、最後は涙々。現実が仮想に転換し、仮想が現実に回収される最後のシークエンスの構成と描写が絶妙。絶対に読むべき作品の一。
年寄りは本気だ はみ出し日本論
2022/08/07 19:38
またまた学びの多い一冊
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
これは面白いだろうと即決購入速攻読了。お二人の息の合った掛け合いで議論が展開していく読みごたえのある一書で、近時の日本(そして国際)社会について考える上での新たな視野と視点を学ぶことができました。諸所で披歴される参考本も不知のものが多く、今後の読書リストの参考になりました。評者の脳裡に刺さった箇所を幾つか:
「戦争の原因は愛だ」(23頁、尤もこの点は山極寿一氏を俟つまでもなく、ローレンツの『攻撃』の中でも開陳されています。)
「「腐る通貨」・・・ 一定期間で通貨としての価値を失効してしまうから、その間に別の価値と交換しないといけない。」(57頁、これは目鱗で、新井和宏氏の名前とともに覚えさせて頂きました。)
「手当たりしだいに集めたって収拾がつかないよ。・・・「そんなに集めてどうするんだ。無限に生きるつもりか」っていうやつもいる。」(66~7頁、評者のことを云われたのかと思いドキッとした部分。テーマや対象を絞ってそこに集中したコレクションこそ、やはり迫力が違うかと・・・)
「規則という論理だけで考えると、人間が思いもつかなかったようなブレークスルーが起きてしまう。計算のアルゴリズムが勝手に新しい世界を拓いて、その後を人間がついていくみたいなことが起きる。それこそが技術の進歩ということでしょう。」(87頁、「2-4=-2」の話)
「結局、AI社会というのは、われわれが「これが現実だ」「これが自然だ」と素直に考えていたものがなくなってしまう世界だともいえる。そうして、おそらく人間はこれからそういう世界にどんどん適応していく。それが、人間のほうがAIに似てくるということなんだ。」(100~1頁)
「精神主義は短期間しか通用しない」(117頁)
「変わらないところは変わらない。それなら、そういう特性をできるだけ上手に生かすしかないでしょう。」(120頁)
「僕は昔から、「あらゆることに適応的な意味があると考えるのはおかしい」といっていたんだ。・・・ 適応しているように見える場合も、形や行動が変わったから、自分にいちばん適した環境へ進出していったケースが多いと思う。それを事後的に見れば、環境に適応したように見えるわけ。僕はそれを「能動的適応」と呼んできたけど、悔しいから、誰もそれを池田清彦がいい出したとはいわないんだ(笑)。」(141頁)
本書を読み終えて、中国というのはいわばアメリカとロシアの中間型国家であると推察(それに中国社会の特性と歴史が独特の陰影を与えている)。ロシアのような独裁制(但し、「独」裁制ではなく、自民党的な派閥争い的要素(一定の民主主義?)を内包した「民主集中制」な訳ですが)とアメリカの如き弱肉強食を基本とする強欲資本主義(あるいは、それ以上かも)ないしはある意味剥き出しの経済的自由とを合金化した「ハイブリッド国家」がその規定としてふさわしいのではないか、こんなこともつらつら考えてみた次第です。(こりゃ手強いわ。)
人はなんで生きるか 他四篇 トルストイ民話集 改版
2022/08/02 08:36
滋味豊かにして心の糧となる五篇が収録されています。訳もさすが。
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
今月のNHK「100分de名著」の課題図書の一冊であったので、購入・読了。自らの心の在り様を問う五篇が収録されており、人生について考えさせられる。各篇とも、見事な骨格と描写は、さすが文豪の筆になるものと納得。(特に、「火をそまつにするとー消せなくなる」の後半などは、あたかも映像を観ているかのよう。)
「おまえが悪をもって悪を滅ぼそうとすれば、それはおまえに返ってくるだよ。・・・ 人を殺せば、自分の魂が血だらけになるだ。お前は悪人を殺したつもりでも、-悪を滅ぼしたつもりでも、そのじつおまえは、それよりもっとわるい悪を、自分のうちへひき込むことになるだ。災難には負けているがいい。そのうちには災難がおまえに負けるようになるよ」(123頁)
「彼は、この世では神がすべての人に、死の刹那まで、愛と善行とをもってその年貢を果たすように命ぜられたのであることを、さとったのだった。」(178頁)
「同じく敬虔なキリスト教徒でありながら、まったく異なった性格の所有者である二人の老人を対置することによって、形式的教会キリスト教と、真のキリスト教とを対立させ、形式打破の精神を高調しているところ、この人の作品としてまことにふさわしいものといえる」(188頁、解説より)
年に何冊か、こういう本は読みたいなと改めて感じました。