Toshiさんのレビュー一覧
投稿者:Toshi
ただしさに殺されないために 声なき者への社会論
2022/08/13 19:01
啓蒙の光が当たらない場所へ
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近代以降の「個人主義・自由主義・資本主義」という物語がもたらす啓蒙の光が取りこぼしてきた大きな闇にスポットライトを当てた内容。 ウエルベックの著作や橘玲さんの著書が好みの方は特に面白く読めると思う。 この本を読んで、「時代錯誤で差別的だ」と感じるのであれば、その者はある意味おめでたい人間なのだろうなと思う。 近頃ネットワーク科学の進展によって、経済的な格差を始めとするあらゆる格差は実際のところ、より大きな「つながり格差」に端を発している事が明らかになっている。
さらに、グローバルかつ自由に誰とでもアクセスできるようになったが故に、全てを手に入れられる人間が現れる一方で、誰からも同僚・友人・配偶者・家族として迎えてもらえない人間が生まれ、その格差は大きくなっている。 そうした問題に対して「社会関係資本」が重要だと叫ぶ知識人やインフルエンサーは多いが、その資本を分配して、除け者にされた人達を暖かく身内として引き受けるという実際的な議論に入った瞬間、「個人の自由の侵害」や「不当で前時代的な搾取」という論理を利用して正当化を始める者が多い。
そうした主張に対して著者は、それがまかり通るなら、時折起きる暴動や事件も必要経費として払う覚悟がないといけないという指摘をしていて、ここまで核心に迫る事ができる姿勢に感銘を受けた。 また、終始著者の「私だけは何も見過ごしたりしないぞ」という強い決意と優しさを感じた。
似鳥沙也加 1st写真集 Ribbon
2022/10/19 18:16
妖精の生い立ちから今に至るまでの軌跡
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紙媒体での写真集を先に購入したが、それがあまりにも良すぎたので、電子書籍でも購入。
hontoだと、「読割50」の付いた書籍を紙媒体で購入すると、5年間その書籍の電子版は半額になるので、なおさら得をした。
電子書籍版でも変わらず美しく、妖艶。
インタビューでは、似鳥沙也加さんの苦労された生い立ちと、そこから這い上がった今の活躍も綴られている。
今後も末永く応援させて頂きます。
Ribbon 似鳥沙也加1st写真集
2022/10/12 18:01
憂いのある澄んだ瞳とファンへの思いやり溢れる妖精
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
以前から応援させて頂いている似鳥沙也加さんの初写真集をついに購入できた。
タイトルの『Ribbon』は、ファンとの強い繋がりと感謝への気持ちを表したのことで、言葉通り、彼女自身のファンへの温かいメッセージも写真集の中で綴られている。
写真はというと、彼女の魅力の1つである憂いのある澄んだ瞳と健康的でメリハリのある肢体が存分に見られるものとなっている。それに、これまでのデジタル写真集や雑誌掲載での写真よりもさらに攻めた内容となっており、僕達ファンにとってはたまらないと思う。
特に素晴らしいショットは、序盤の草原でのワンピース姿のショット、中盤のプールサイドでのショット、後半のバスルームでのショットだろう。
沙也加さんはとても謙虚で奥ゆかしい性格であることから、グラビアモデルとしての自信をあまり持たれていないようだけど、本当に素晴らしい方であり、これからも益々活躍されることだろうし、僕達ファンも末永く応援してます。
8woman Next Stage 美裸神∞契
2022/08/10 21:01
美女祭り!
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業界を席巻するとても美しい名だたる女優さんや超大型新人女優さんが勢揃いし、そこに有名な写真家の方の技術が加わったこれ以上ないくらいの素晴らしいラインナップなのに、お値段がとても安くてお買い得。
これは買って損なし!
事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学
2022/04/20 19:47
家庭から学業、ビジネスまで、あらゆる交渉の場面で役に立つ
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事実で他人を説得しようとする傾向が特に強く、ことごとく挫折してきた自分にはピッタリな本。 事実は説得の際には大して役に立たないということまではわかっても、具体的な手法まではあまり詳しくなかった自分には素晴らしい読書体験になった。
大学の講義で交渉学に興味を持って学んでいた時に、「交渉学の手法はどれも合理的な人間を対象としている感じだけど、実際の現場では上手くいかないのでは?」と感じていたのだが、この本で述べられる知見は既存の交渉学とは違い、感情やインセンティブに働きかけるものなのでとても実践的。
ビジネスマンや学生はもちろんのこと、誰にとっても役に立つものになると思う。
成功する人は偶然を味方にする 運と成功の経済学
2023/07/01 14:55
進化論&複雑系科学&経済学
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進化論ベースで経済学について研究しているロバート・H・フランクの最新刊。
成功者が成功者たり得るのに最も大きな影響を与えているのは偶然である事を、経済学やネットワーク科学を用いて証明している。
努力や才能と同様、運も必要不可欠であり、また、成功に最大の影響力をもたらすのも運である事が述べられている。
努力や才能が最も優れ、運はあまり良くない人間と、努力や才能はそこそこだが、運が抜群に良い人間が競争した場合、後者が勝利する。
また、かつては地理的な障壁や物理的な障壁によって、勝者が地元を超えて全ての地位を手に入れる事は抑えられていた。
しかし、グローバル化と情報化社会の進展によって、たまたま1番手になった勝者が全てを手に入れ、僅かに劣る2番手すら殆ど何も手に入らない「勝者総取り効果」がアカデミアや政財界、エンタメやスポーツなどのあらゆる領域で生じている事も指摘されている。
また、自身の成功が努力や才能のおかげであると勘違いする人間の認知が、複雑な仕組みであるグローバル化した情報社会では不用意な競争や福祉サービスの停滞、成功者の傲慢と格差の拡大をもたらす様だ。
そして、著者は終盤で、「累進消費税」という消費額に基づいて課税をする税制を紹介し、富裕層に引っ張られて生じる過剰な消費競争を抑制しつつ、その税で社会保障を充実させて格差の解消を図る施策を提案する。
未だに不平等は問題ないと考える人間は多く、また、ジェンダーや移民の問題などの〈横〉の格差に関しては敏感な社会学者やマスメディアでさえ、グローバル化や自由主義によって割を食わされた白人労働者や低賃金で働く男性に関しては無視する中で、著者の様な〈縦〉の格差に言及してくれる経済学者の存在こそが、これからの政治においては唯一の希望となるだろうと感じた。
【オールアザー版】似鳥沙也加デジタル写真集『蝶々結び』
2023/03/25 16:35
引き締まった肢体と憂いのある瞳を持つ美女
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前回、紙媒体で似鳥沙也加さんの写真集購入したので、その続編となるアザーカットが多数収録された『蝶々結び』も新たにゲット!
ちなみに前回購入した『似鳥沙也加 1st写真集 Ribbon』は電子媒体でも購入したので、これでシリーズが合わせて揃った!
どちらもめちゃくちゃ素晴らしいです!
『蝶々結び』の方はより一層攻めた刺激的なカットが沢山あって、これもまた本当に良かった。
特に目を奪われたのは白のタートルネックでのショットと、前回の写真集同様、浴室でのショット。
普段から細いだけでなく、健康的なスタイルを披露している沙也加さんだけど、今回はより一層引き締まっていて、きっと撮影に至るまでに相当努力されたのだなあというのがものすごく伝わってきました。
そして何といっても、憂いのある表情や儚げな視線が一番好きです!
Ribbonの方はもう3度目の重版とのことで、これからもさらに活躍されることを祈ってます。
消費資本主義! 見せびらかしの進化心理学
2023/03/21 17:27
“外見で人を判断しないのは愚か者である。”
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進化論の観点からマーケティングについて述べた本。
この本でのキーワードは「コスト高シグナリング理論」。
この理論では、ヒトのあらゆる行動のほとんどは、自身の「中核六項目(IQ+ビッグファイブ理論の五つの性格特徴)」を周囲に向けて宣伝することを目的としていて、より信頼のできるシグナルの発信のために人々は身を削っているというもの。
それら六項目は生まれつきある程度決まっていて、なおかつ一生を通して比較的安定しており、それらの項目から消費者の行動や政治的な価値観を予測できるので、この理論をマーケティングに活用すればよいとのこと。
ヒトのこうした営みは狩猟時代から行われていて、だからヒトは他人の性格を会話や振る舞いからかなり正確に把握できる様に進化したそうだけど、消費資本主義によって、現代人は会話や振る舞いではなく、代わりにほとんど意味がない無駄な買い物競争に力を入れることで周囲に自分をアピールしてしまっているとのこと。
さらには皮肉なことに、多様性こそが人々の結びつきや社会への信頼を壊し、それが環境や人々に悪影響をもたらす消費資本主義の流行を招いてしまっているという不都合な事実を統計から述べて、後半ではそれらの問題に対しての政策提案まで行っている。
マーケティングや行動経済学に興味がある方なら、必読の書。
歎異抄
2023/03/21 17:25
浄土真宗の名著
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浄土真宗の開祖親鸞の弟子である唯円が、親鸞亡き後に開祖の教えから離れていく信徒達や世の中を歎(なげ)いて、今一度師の教えを説くために泣く泣く著した書。
この本を手に取ったきっかけは、文系エリート達の実力主義や政治的な正しさの押し付けを批判的に述べている作家の御田寺圭さんが、事あるごとに親鸞の教えを高く評価されていたから。
読んでみたらなるほど、期待以上に素晴らしい書物だったし、特に現代にこそ必要な考えが述べられていた。
それでいて宗教書とは思えない「読むセラピー」とも言える様な温かさがあった。
善行やお布施、知識や徳の多さで救われるかどうかを決める仏教徒達にあきれ、その教えではたまたま生まれや育ちに恵まれただけの人間達がうぬぼれと傲慢におちいり、一方で、たまたまそれらに恵まれずに犯罪に手を染めたり、貧困や孤独に追いやられた者達は救われないと考えた法然や親鸞は、阿弥陀仏への信仰と他力本願による救いを教えとする浄土門を築き上げた。
それを良く思わない権力に近い立場にある他宗派の偽善的なエリート達に島流しにされても、罪人として貧民街で寄る辺のない人々に寄り添い、自身の教えを広めていった親鸞や唯円の生き方には惚れ惚れした。
それにしても知識や道徳は所詮インテリの見栄と保身の道具でしかないことや、人の善行や共感もまた、それらを得られない真の弱者は救えないことを見抜いている点において、ストア哲学だのケアの倫理だのと、口先だけのお説教を並べ立てる倫理学者よりもはるかに親鸞は人間の本性を理解していると言える。
また、親鸞達が批判する、才能や恵まれた環境のおかげなのに全てを自分の手柄だと考え、自分達の都合の良い様に社会のルールを書き換える当時のエリート仏教徒達の姿は、現代の大学やマスメディアで偉そうにしている文系エリートそのもので、この手の連中はいつの時代もいるのだなと思った。
偶然の科学
2023/03/21 17:22
“もし一切が必然であるなら、希望というものはあり得ないであろう。”
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20年ほど前に生まれ、インターネットの発展に後押しされる形で、自然科学・社会科学を問わずあらゆる分野を包括しながら急激に進展しつつあるネットワーク科学の開祖の1人であるダンカン・ワッツの本。
社会・歴史・経済・経営・アカデミア・エンターテイメントなど、あらゆる分野での成功や失敗が、単独の組織や個人の才能と努力ではなく、それらが属するネットワークと偶然によってもたらされたものであることを、科学的根拠を用いて証明した本。
著者によれば、未来や過去の出来事はあり得るかもしれない複数の可能性が存在するにも関わらず、ヒトは単一の結末や結果ありきで考えて大きく思い違いをする様だ。
また、そうした結末や結果は相互作用や偶然によってもたらされるのに、単一の人間や組織に原因を見出して、過剰な評価をすることも多々ある。
これらの誤りは日常生活では役に立つものの、社会や経済などの複雑なシステムについて考える際には役に立たない様々なバイアス(後知恵バイアス・生存バイアス・ハロー効果・自己奉仕バイアス等)によるものとのこと。
後半の章では、過去のデータに基づく予測や未来志向的な計画が役に立たないそうした複雑な問題への処方箋として、リアルタイムでの情報収集と現場主義、短いサイクルでの試行錯誤を基本とする帰納的な解決策が実際のケースと共に紹介される。
具体的には、トヨタ生産方式やZARAの販売戦略、インターネット上の膨大なデータやSNSを駆使してリアルタイムで情報収集と統計分析を行い、速いサイクルで修正を繰り返していくクラウドソーシングなどの取り組みが紹介されており、非常に参考になる。
ネットワーク科学は大学時代に少し学んでいたし、偶然の重要性も理解しているが、現代の宗教である個人主義や能力主義の問題点をもっと深掘りして理解したいと考えていた僕にとって最高の良書。
また、政治やビジネス、アカデミアやエンターテイメント等、分野を問わず特定の業界で活躍したい人間は読んでおいて損はない。
超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる
2023/02/23 22:27
現代日本の戦場である孤独死現場の取材録
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他人事とは思えなかった。
著者の取材と文章によって、孤独死を遂げた人々や自宅がゴミ屋敷状態になっている人々を中心に、彼らを取り巻く遺族、その後の処理を担う遺品整理業者や特殊清掃業者、民間のボランティア団体の置かれている状況が綴られていくものとなっている。
最も自殺率が高い中高年男性の窮状は往々にして無視されがちなのは知っていたが、やはり孤独死を遂げた人々には現役世代や男性が多く、彼らはその属性故に支援を受けにくい事が描かれていた。
一方、この本で述べられている彼らを支える側にある人達は属性関係なく支援を行っているのが示唆的だった。
また、彼らも辛い過去を抱えた者達であり、同じ様な未来を辿ってもおかしくない人々である事が余計に問題の複雑さを表している。
最終章では行政や特殊清掃業界が取り組んでいる孤独死への対抗策やテクノロジーによる解決策が述べられているが、著者も述べる通り限界があり、あくまでもやらないよりはマシといったものだろう。
この本で述べられている社会的格差や社会的孤立の問題は日本だけでなく、先進諸国でも見られる。
近代以降に個人主義と自由主義という物語を選んだ時から、遅かれ早かれこうなる事は必然だったのだと思う。
それらにメスを入れない限り、テクノロジーやビジネスによる対処は対症療法でしかないのだろう。
息苦しさやお節介、権威主義を毛嫌いするのはわからなくもないが、あらゆる解決策はトレードオフであり、ここまで社会的格差や社会的孤立の問題が深刻になっている以上、コミュニティの再構築と集団主義の再評価は必要不可欠だと感じた。
一方、個人的には僕達世代が生きてる間に社会的孤立への根本的な解決策が図られる事は期待できないと考えているので、僕個人としては、早めにウェアラブルデバイスの携帯やヘルスケアアプリのインストールを行い、ゆくゆくは孤独死保険の加入と遺品整理に早めに着手しておこうと感じた。
ダーウィン・エコノミー 自由、競争、公益
2023/02/23 22:18
自由がもたらす個と集団の対立への処方箋
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進化論の観点から経済学を研究するロバート・H・フランクの名著。
内容としては、消費・貯蓄・投資・軍拡競争・環境保護などのあらゆる面において、いくら個人が合理的に行動したとしても、全体としては最悪の結末になることをダーウィンの洞察や経済学の集合行為問題の観点から述べたもの。
そうした「合成の誤謬」や「共有地の悲劇」が生じるのは相対的な優位性が重要である場面で生じ、それらを防ぐために、累進消費税やピグー税を始めとする課税対策で個人のインセンティブを変えることが有効であるという事実を示している。
本書では、市場の失敗を左派が述べがちな競争や自由の不足、機会の不平等や資本家による搾取が原因ではなく、合理的な個人達による完全競争が原因であると説いている点で新鮮。
また、非合理的な行動の有無に関係なく、市場の失敗が生じることを述べている点でも、行動経済学よりもさらに先を行く。
巷に溢れる綺麗事とは違い、人間の生活のあらゆる局面ではいつも他人と比較した時の相対的な立ち位置が重要なのであり、そうしたために人間の脳は相対的な地位を重視する様に進化してきた。
しかしそのことが、個々人が合理的に行動したとしても過剰な競争を生み、全体としては勝者総取りや特定の業界への雇用者の集中による生産性の低下、貧困層の生活の破綻を生んでしまうそうだ。
経済的な成功者は往々にして、単なる偶然で恵まれた資質と立場を手にしただけであることを証明していたり、規制ではなく、費用便益分析に基づいた課税によるナッジ方式での対策を推奨していたりするという点で、格差問題に警鐘を鳴らす既存の文献や研究とも一線を画す。
言うなれば、サンデルの『実力も運のうち』に理論的な基盤を与えた本という感じ。
また、終始リバタリアンや既存の左派の問題点を、誰にでも分かり易い事例を用いて事細かに説明しているので、この本一冊あれば十分の良書。
われわれはなぜ噓つきで自信過剰でお人好しなのか 進化心理学で読み解く、人類の驚くべき戦略
2023/02/23 22:13
進化心理学の入門書として最適
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「他人と比べる必要なんかない!ありのままに!」、「一人でも大丈夫、自分らしく!」みたいな何の助けにもならない綺麗事にウンザリしている人はぜひ読んでほしい。
それに進化心理学の入門書としても最適。
ヒトが生態系の頂点になれたのは、ひとえに「社会性」こそが一番のキーワードである事が様々な心理学や脳科学、人類学の研究から明らかにされていく。
複雑な課題を解決する上で必要な計算能力や計画性、自制心もまた、元々はグループ内の他者からの評判や協力を得られる為に進化した社会的知性の副産物であるという、常識とは違った知見も得られた。
また配偶者競争によって、ヒトは他者と比べて自分がどの立ち位置にいるかを確認し、一喜一憂する心理が進化したそうだ。
そうして極端に社会的に進化したのが人類なので、高い技術的スキルを持つ人間も基本的には社会的なイノベーションの開発に偏るが、社会的スキルに欠け、一方で技術的スキルを持つ人間は技術的イノベーションを生み出す事が多いみたいだ。
そうした個体は男性に多く見られ、社会的スキルを持つ女性でも十分な働き口がある男女平等な国ほど、生物学的な選好の差が先進国での理系分野での性差を生むという知見は示唆に富む。
何かと性差を社会や男性のせいにする社会学者やジェンダー研究者は、もう少し生物学の勉強をするべきだろう。
最後に、現代社会への警鐘が述べられている。
本来なら家族や友人、共同体との関わりを求める欲求は進化的に最も満足度をもたらしてくれる訳だが、現代ではそうした欲求をごまかす下位互換としてのエンタメや次々と移り変わる人付き合いがあふれており、それらが現代人の不幸に繋がっているとのことだ。
人間とはなにか 脳が明かす「人間らしさ」の起源 下
2023/02/23 22:11
進化心理学を体系的に学ぶにはもってこいの良書
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
下巻では、人間と動物との違いを、芸術と意識という2つのトピックでさらに深掘りしていく。
そして最終章では、遺伝子工学やサイボーグ工学の発展から、これからの人間の未来予測をしている。
音楽や言語の基盤となっているものは他の動物も持っているが、人間だけが音楽や言語の「文法」と呼ばれるものを持っている。
人間の生み出す音楽や言語は、いくつかの要素をある規則に沿って組み合わせれば、無限に意味のある旋律や文章を生み出すことができる。そんなことができるのは人間だけだ。
また、意識に関しても、左脳がもたらす機能により、人間だけが混沌とした状況の中からあるパターンを見出し、さらには、無意識の中で繰り広げられるあらゆる思惑を1つの筋の通ったストーリー(自己)に組み立てることができる。
また、その左脳は自分や相手、そしてあらゆるものに意図や信念を見出し、それが行動予測の精度を向上させるのだが、その代わりに、人間には物理的な制約を受けない魂やクオリアみたいなものがあるのではないかという誤ったスピリチュアルな考えを生み出してしまうことにも繋がっているとのことだ。
さらには、他の動物は入ってきた感覚を受け入れるだけだが、人間だけが過去の記憶に基づいた予測をすることができ、それを入ってきた感覚と照らし合わせることができる。
そして最終章では、人間は知能だけでなく、身体と情動、特別な経験が組み合わさって構成されているが故に、コンピュータをモデルにした今のサイボーグ工学は上手くいかないと述べている。
また、遺伝子工学に関しても、ある現象や機能にはいくつもの遺伝子が関与していることを述べ、自分の好きなように編集する事は難しいと締めくくっている。
人間とはなにか 脳が明かす「人間らしさ」の起源 上
2023/02/23 22:09
進化心理学を体系的に学ぶにはもってこいの良書
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
進化心理学について体系的に学ぶにはもってこいの入門書。素晴らしすぎて、もっと早くに出会えなかったのが残念。
具体的な内容としては、サピエンスとその他の動物とを分けるものを明らかにすることで、「人間らしさ」を再発見していくものとなっている。
サピエンスとその他の動物との違いとしては、左脳と右脳の機能の分担(左は言語、右は注意と知覚)、発話と高い精度での道具の扱いを可能にする直立二足歩行、大脳新皮質や前頭前皮質の拡大と、その中の神経細胞の接続度の向上がある。
また、言語機能をもたらすFOXP2遺伝子や高い知能をもたらすマイクロセファリンとASPMと呼ばれる遺伝子の急速な進化、高い社会的技能と複数の道徳心を扱う脳内の専用メカニズム、情動の抑制や価値観の修正、意識的な模倣と「心の理論」と多岐に渡る。
余談だが、ハラリは『サピエンス全史』の中で人間とその他の動物の違いを「虚構」にしか見出さなかったが、そうした虚構を生み出す前から以上の様ないくつもの違いがあり、ハラリやシンガーの様な動物倫理の研究者達の、「動物を人間と平等に扱え」という主張はあまりにも滅茶苦茶だと言える。
また、ハラリは家父長制の起源を文化のせいにしていたが、ガザニガのこの本では、家父長制はチンパンジーにも見られる生物学的なものだと証明している。
高い社会的技能と複雑な連携が可能な動物が常に資源が不足している環境に置かれると、オスは意図的に別の群れの同種を殺し、メスと食糧を手に入れ、メスはそうした凶暴なオスを食糧供給源兼用心棒としてパートナーに選ぶ。
そうした条件が整っているのはチンパンジーとサピエンスだけなので、家父長制は紛れもなく進化がもたらした産物であるとのことだ。
