ういろうさんのレビュー一覧
投稿者:ういろう
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マツダのルマン挑戦ストーリー 1974−1997
2022/04/24 21:50
高額だが十分価値ある内容
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マツダのルマン本はこれまで様々出版されてきたが、その内容は年毎のレースレポート的な内容に寄せているか、或いはマシンのクローズアップ的な内容(特に787B)に寄せているか、概ねこのどちらかが定番だった。だから、内容は充実していてもそれらは点の史実としてしか記憶に残らなかった。
しかし、この本はシグマオートモーティブと手弁当で挑み始めてから91年のルマン優勝を経て、97年ルマンでマツダスピードとして活動を打ち切るまで、全てが一本の線で繋がっていたことを実感させてくれる。それはこの本の著者・三浦氏が長年マツダスピードの企画・広報を務めておられた方だけあって、チーム内側の視点から詳しく史実を伝えてくれたからであり、それがこの本の最大の魅力であると思う。
マツダが今までルマンを軸としたレース活動を毎年してきたことは繰り返し述べられてきたことであり、我々も知っていたことではあるけど、どちらかというと表層的なところまでしか理解していなかった。ところが、この本を読めばマツダにとってルマン決勝こそが一年間の中で唯一の本番であり、それ以外のJSPCやルマン直前の英国テストは全てルマンのための準備・開発の一環に過ぎなかったことがよく分かる。それも、毎年毎年ルーティンで同じスケジュールをこなしながら、人もマシンも悩みながら少しずつ進化していったことが如実に伝わってくる。更には、ルマン活動はマツダスピードの大橋監督とドライバーの寺田氏、この二人が常に中心となって回っていたこと、マツダがルマンに根を下ろし、ライバルメーカーにも対等に認められていたことも伝わってくる。トヨタや日産のルマン活動はどちらかというと外様的な匂いが最後まで消えなかったが、マツダは明らかに浸透していたことがよく分かる。
そしてもう一つ、この本の魅力は内部関係者しか知らなかったであろう写真もふんだんに使われており、その数々の写真とともにマツダのルマン活動に関わった人々の熱が文章を通じて芯まで伝わってくることである。
又、91年ルマン優勝後、ウイニングマシン・787B-002シャーシの扱いをめぐるマツダ本体とマツダスピードとの軋轢、55号車のレプリカ5台がどのモノコックから作られたか、92年のMX-R01がただの間に合わせではなく、ロータリーに替わるレシプロエンジンによる綿密な長期計画の起点であった事実など、これまであまり知られてこなかった91年優勝後のマツダスピードが置かれた苦悩も、この本を通じて初めて知ることができた。読了後の満足感も大きい。
この本を書店で手にとっても、袋詰めにされていて内容を確認できない諸氏も多いと思う。しかし、今までの「マツダ・ルマン本」とは明らかに一線を画す内容となっており、高額だが価値ある一冊であると思う。
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