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こばとんさんのレビュー一覧

投稿者:こばとん

14 件中 1 件~ 14 件を表示

読了後、主人公も大津も好きになる!

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2024年の本屋大賞受賞作。最後まで読んでこれはなかなかの作品だと感心した。

収められている6篇すべてが主人公成瀬あかりに絡んだお話なのだが、最初の「ありがとう西武大津店」は、中学2年生の成瀬が2020年8月31日の閉店の日まで毎日、西武ライオンズのユニフォームを着て地元局びわテレの情報番組ぐるりんワイドの中継に写りに行くお話。この年はコロナ禍で何もやれなくなってしまったことも、このようなことを始めた一つの理由らしい。「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」という成瀬のこの冒頭の一句からして、なかなかインパクトがある。

「成瀬あかり」は極めてユニークな人物造形。幼稚園の頃から運動もお絵かきも歌も勉強も群を抜いた存在で目立っているが、本人はそれを鼻にかけるでもなく飄々としている。他人を寄せ付けないところがあるため孤立していて、島崎とだけは仲がいい。話す言葉が女の子ことばでなく男の子ことばっぽくて、話しことばでなく書きことばっぽいところからして、なんだか変わっている。200歳まで生きると公言していて、ほかにも期末テストで500点満点を取るとか(結果は490点だったけど)日頃からスケールの大きいことを言って、そのうち1つでも実現すればいいと考えている。

本書には、大津や滋賀の西武大津店、琵琶湖観光船のミシガン号、スーパーの平和堂、きらめき坂、膳所高校などの地元ネタがふんだんに出てきて、それもストーリィの雰囲気づくりに一役買っている。

本書の印象を決定づけた最後の「ときめき江州音頭」は、成瀬本人の視点でこれまで出てこなかった成瀬本人の心の中の思いが描かれる。親友島崎が東京に引っ越すことになって揺れ動く成瀬の心情が温かい目で描かれていたり、地域の小学校で開かれる「ときめき夏祭り」の手伝いをするする中で、地域の人たちとの関わりにも一つ一つ心が動く。

たとえば、…
・成瀬は受験生なのに、突然数学の問題が解けなくなる。「島崎が引っ越すと聞いただけでこれほどの不調である。…島崎のことを思うとどうも感傷的になってしまう。」
・卒業式まで髪を切らないと大見得を切った成瀬に島崎が言う。「『成瀬の言いたいことはわかるけど、なんかモヤモヤするんだよね。こっちは最後まで見届ける覚悟があるのに、勝手にやめちゃうから』成瀬は背中に汗が伝うのを感じた。振り返ると心当たりがありすぎる。成瀬が途中で諦めた種でも、島崎は花が咲くのを期待していたのかもしれない。これでは愛想を尽かされても無理はない。…どうしていいかわからなくなった成瀬は、階段を駆け下りて家に帰った。」
・「その後もきらめき中学校の吹奏楽部や、公民館のコーラスグループ、有志の三味線やジャグリングなど、バラエティに富んだ人々が舞台に立った。この人たちだって、来年もここにいるかどうかはわからない。同じメンバーが揃うときめき夏祭りは二度と開催できない。そんなことを考えていたら目の奥が厚くなってきて、成瀬はあわてて頭を左右に振った。」

ここまでの5篇はすべて成瀬以外の視点で描かれていて、成瀬は必要以上のことは口にしない性格で、なんだか無表情だし、何を考えているかよく分からないところがあるが、ここにきて(当然のことなのだが)成瀬もいろいろと思うところがあることが伝わってきて、急に親近感が湧いてくる。これにご当地ネタも加わって、なんだか大津という街まで好きになり、愛着が湧いてくる、という不思議な効果がある。ここまで来て、そういう、しみじみとした良い作品だと思うに至った。作者の緻密な設計図に乗せられた、ということだろうか。おススメの作品です。

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時を追う者

2023/07/22 22:54

時を越えて関東軍の暴走を阻止せよ!佐々木譲さんの最新作

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2年ほど前の短編集『図書館の子』がタイムトラベルが中心テーマとなっていたように、本作でも過去に旅行し、満州事変を阻止することによって悲惨な戦争の歴史を変えようとすることがテーマとなっている。
戦地から復員してきた藤堂直樹は、過去に陸軍中野学校で諜報員としての特別の訓練を受けていた。復員後、王子にある石鹸工場に就職したが、労働争議に巻き込まれて警察に逮捕されてしまう。ところが中野学校時代に近代史の講義を受けた、東京帝大史学科の教授でもある守屋がGHQに手をまわして釈放される。守屋は物理学の教授である和久田とともに“百年戻し”の伝承のある洞窟を通って満州事変が勃発する以前の世界に至り、事変を起こした当事者の排除をもくろみ、藤堂をその実行者として起用しようとしたのだ。最初は拒否した藤堂だったが、直後に巻き込まれてしまった事件から逃れるために、同じように事件に巻き込まれた仲間とともに過去への旅に同意せざるを得なくなる。
過去へと渡った直樹たちは、船で満州に渡り、大連そして奉天で憲兵や関東軍の警戒をかいくぐりながら機会を窺うのだったが、そこには中国の抗日組織も絡んできて…。
これ以上語るとネタバレになってしまうのでこの辺で止めることとするが、ミステリーと冒険小説の手練れである佐々木譲さんらしく、スピーディな展開に息つく暇もない。当時の満州における様々な様子の描写も細部まで精緻である。満州事変というと、とかく「関東軍の暴走」として語られることが多いが、本作の中では当時の満州で事業を展開したり住んでいたりする日本人の間では、関東軍の軍事行動を望むような期待というか「空気」があったような描写もあり、確かにそうだったのかもしれないとも思う。
そして、このストーリィは一体どのように結末するのだろうか?と考えながら読み進めていくと、案の定、ラスト近くで意表を突く展開があり、「え~、もうすぐラストなのに、どうなっちゃうの~?」というような急回転となる。「過去を変えると、どうなるのか?」これを突き詰めていくと訳が分からなくなってしまうが、最後の最後でその点に若干の不満が残ったが、とにかく佐々木譲さんらしく存分に楽しめる作品でした。

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超訳芭蕉百句

2023/07/09 10:46

芭蕉の名句と生涯についての驚愕の書

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芭蕉の生涯について何が通説なのかほとんど知識がないが、嵐山流なのか、芭蕉は衆道であったということと、幕府の隠密であったということを前提として論じている。
芭蕉は伊賀上野に生まれて、2歳年上の藤堂良忠(俳号蝉吟)の近侍役として仕え、良忠とともに貞門俳諧を学んだという。これが江戸に出てくる前の芭蕉の姿だが、2人は衆道の関係にあった。蝉吟はいわば芭蕉の初恋の人というわけなのだが、彼は25歳の若さで病没した。有名な山寺での句、「閑さや岩にしみいる蝉の声」は、「淋しさの」や「さびしさや」を経て「閑さや」に最終的に落ち着いていて、実は蝉吟を追悼する句であるという。本当だとすれば、全く知らなかった話で驚きだ。
それより以前の話になるが、日本橋に暮らし、俳諧の人気宗匠であった芭蕉(当時の俳号は桃青)が急に深川に隠棲したのは、幕府の政争が絡んでいるという。芭蕉の後ろ盾である津藩主藤堂家の当主高久(高虎の孫)は大老酒井忠清の女婿であり、大老忠清の力が芭蕉を陰で支えていたが、将軍家綱が没して後継となった綱吉によって忠清絡みの粛清の嵐が吹き始めたため、危険を感じた芭蕉はその嵐がおさまるまでは自らを抹殺して身を隠すこととし、宗匠として売れ始めて目立っていた桃青の俳号も捨てて深川に隠棲したというのである。
芭蕉は同時に水道技術者でもあり、江戸の水道工事に携わり、その関係の利権もあって多額の収入を得たこともあったという。これも全く知らない話であった。

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空白の日本古代史

2022/08/28 15:56

明快簡潔な説明と多くの図版で具体的にイメージできる良書

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4世紀から5世紀の「空白の世紀」の日本の姿について、最新の研究成果を踏まえて分かりやすく簡潔に紹介する新書です。冒頭のカラーページで、日本各地から発掘された鏡、家形埴輪、装身具、金銅製冠、甲冑、弓矢、刀剣の写真が掲載されていて、当時の様子が具体的にイメージできます。
内容は、
監修者インタビュー:「空白の世紀」の実像はどこまでわかったのか?
第1章:最新考古学から探る空白の世紀
第2章:「倭の五王」と雄略・継体の謎
第3章:空白の世紀と古代豪族
第4章:謎の時代に栄えた地方王権の全貌
第5章:空白の時代を生きた庶民の暮らし
となっています。
第1章では、「前方後円墳はなぜ全国に広がったのか?」「好太王碑は朝鮮半島進出の証拠なのか?」「沖ノ島祭祀遺跡はなぜ『海の正倉院』なのか?」など16のテーマについて、第2章では、雄略・継体両天皇を中心とするヤマト王権と大王の実像や王朝交替説について取り上げています。
第3章は、葛城氏、物部氏、吉備氏、息長氏などの古代豪族各氏について、第4章は毛野、武蔵、尾張、丹後、吉備、出雲、筑紫など各地の地方王権について解説しています。特にこの第4章は、古代史について中央のことしか知らなかった私にとっては目から鱗のことばかりでした。
そして最後の第5章では、住まいや食べ物、服装等の当時の庶民の暮らしぶりについて、1章を割いて詳しく説明しているのが私には特に新鮮に感じられました。
古代史に関心をお持ちの方には有益な書籍だと思います。

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闇の聖域

2024/01/28 21:37

日本統治下の大連を舞台にした警察小説

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警視庁を退職し、満州国大連の警察署に赴任した河村修平が遭遇する連続殺人の謎に挑むミステリー。
河村修平は神戸から船(ばいかる丸)で4日かけて大連に到着し、すぐに警察署の刑事課に登庁する。特務巡査として勤務するのだ。ところが赴任した翌々日に、早くも殺人事件が勃発する。写真館の主人・赤松が操車場に近い人気の少ない場所で、何か鈍いもので頸動脈を切られて殺されたのだ。修平と上司の高安は、赤松の写真館を捜索し、3人の男が写る写真を見つけるが、そのうちの1人が、修平が東京を離れる直前に殺された女衒に似ていることに気づく。赤松殺しの捜査を始めるとすぐに、今度は東亜奨学会の主幹・井上が同じような手口で殺されているのが見つかる。井上は、実は軍の特務機関員の土田大尉だった。
修平は、写真が撮られた場所が気にかかる。もしかして、そこはシベリア出兵で日本軍が一時占領していた浦塩(ウラジオ)ではないのか?そして第4の殺人が起こる。
話は大連で画廊の手伝いをしている若き画家・中村小夜のほのかな慕情の進行や彼女が患っているパーキンソン病と思しき病気の進行具合を交えながら一歩一歩と進んでいく。そして、最後に…。
最近の佐々木譲氏は時間旅行をテーマにした、あるいは絡ませた小説をいくつも執筆しているが、本作では時間旅行ならぬ“特殊能力”が絡んでくる。この点、好みが分かれるところと思いますが、いつもながらの疾走感満点の佐々木譲節炸裂で、十分楽しむことができました。

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将軍の世紀 上巻 パクス・トクガワナを築いた家康の戦略から遊王・家斉の爛熟まで

2024/01/28 21:26

イスラム史の泰斗・山内昌之氏が江戸時代の通史に挑んだ労作!

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イスラム史の泰斗・山内昌之氏が江戸時代の通史に挑んだ上下2冊の大作。徳川政権を一言で表せば、中世の分裂を克服して日本を「一つの国家」に近づけたとする。上巻は家康から家斉までを扱っていて、家康が作り上げた強靭な統治のシステムは爛熟の家斉の時代まで続くが、半世紀に及んだ家斉の治世こそが徳川の世の終わりの始まりだったとしています。
上巻だけで735ページという分厚い造りに小さな文字がびっしり。さすがに知らなかったことが次々と出てきます。冒頭の「序章 関ヶ原」において、“幕府、藩、朝廷、天皇”などの用語をどう扱うか、という議論が展開されていて、その内容からしてまず、知らなかったことだらけ。大作だけに、大きな流れを叙述するというよりは、ポイントとなる出来事や事柄を順に叙述していって、その中で大きな流れについても記述していく、というスタイルです。
読んでいて興味深かったのは、個人による通史だけあって、氏がさまざまな出来事や人物についての評価が率直に語られている点です。突き放したような否定的評価もあちこちに登場します。(もっとも私の読解力不足から、どのように解釈すればよいか分からない箇所もいくつもありました。)
イスラム史が専門の山内氏が日本の江戸時代の通史を個人で著わされるに当たっては、相当の勉強が必要だっただろうと想像します。各章に参考文献がびっしり並んでいます。氏の情熱にただただ頭が下がります。
何故に氏が専門外にも拘らず本書『将軍の世紀』を書くに至ったか。その答えが、「序章 関ヶ原」の末尾で明かされています。平成28年から「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」に参加した経験と繋がっており、日本人のメンタリティや現代日本の政治行動の基礎を改めて理解する手がかりを得られるのでないかと考えたためだ、というのです。

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樹林の罠 道警・大通警察署

2023/02/12 10:26

緊迫感と疾走感満載

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札幌大通警察署刑事課遊軍の佐伯宏一、少年係の小島百合、機動捜査隊の津久井卓らおなじみのメンバーが活躍する北海道警シリーズの最新作。
冒頭、スーパーの駐車場で単身赴任中の企業経営者が拉致される。一方、離婚して札幌で働いている父親に会いたい一心で、旭川からJRに乗ってきた小学生の女の子が札幌駅前で保護され、小島が児童養護施設に連れて行くことになるが、少女の父親も駆けつけてくる。大通公園脇の街路では、セダンの後部座席から降りてきた男がふらついて第2車線まで出てしまったところをトラックに撥ねられる死亡事故が発生し、津久井が現場に向かう。さらに郊外にある弁護士事務所に空き巣が入り、佐伯が捜査を担当することとなり現場に向かうが、盗られたものはないように見える。
最初、3人の警察官は、それぞれの同僚とバラバラに対応しているが、断片が次第に一つに繋がっていき、そこに恐ろしい構図が浮かび上がってくる。なるほど『樹林の罠』というタイトルが付く訳だ。
別々の出来事と思われた事件が一つに繋がっていく過程では、繋がりを示す手掛かりが都合よく見つかっていくきらいがあるのは、いつもながらだがご愛敬。何故だろう?どうなるのか?と思いながら手に汗かいて読んでいるのに、繋がっていかないことには面白くない。本作もまた、緊迫感と疾走感満載で、安定の一気読み。
それにしてもいつも驚くのは、作者が警察関係の小ネタに通暁していることだ。本作では例えば、容疑者の周辺の事情を聞くために警察署に呼んだ参考人を、佐伯は課の応接セットに案内するが、これは「会議室に招じ入れると、尋問ふうに感じるせいか、相手によっては緊張してうまく情報をもらえないことがある」ためだという具合。こういう小ネタがあちこちに仕込まれているのも、また楽しい。

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捜索者

2023/06/25 14:24

アイルランドの村に潜む秘密が暴かれる!

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思うところあって退職したシカゴ市警刑事のカルは、ネットで調べ、風景が美しくて気に入ったアイルランドの片田舎の村に移住する。長い間住む人もなかった緑の中の廃屋を購入し、ひとつひとつDIYで快適に作り替えていこうとしている。隣人のマートや食料品店の女主人ノリーンなどは、なにくれとカルの世話を焼きたがり、カルは田舎特有の人間関係の鬱陶しさに直面し、なかば当惑もする。
そんな中、林の中から山の上に住むトレイという子どもが現れる。トレイは、カルのDIYを手伝ってもくれるが、行方不明になっている兄の行方を捜してほしいと頼んでくる。カルはトレイの頼みを断ろうとしたのだが、気にかかるものもあり、逡巡しながらも次第に行動に移していく。
マートから誘われて訪れた酒場では地元の人たちがはしゃいでいたり、ノリーンからは夫と死に別れた妹のレナを引き合わされたりと、多少は動きもあるのだが、カルとトレイとの関係以外には概ね何事も起こらず、自然の中で静かに物語は進行する。
それが破られるのは、14章に入った400ページからだ(文庫本で、全674ページ)。静かな田舎の平穏な人間関係の中に、何が潜んでいるのか?実は、それまでの400ページの中には様々な形で巧妙に伏線が張り巡らされていたのだ。
本作は、英米各紙の年間ベスト・ミステリに選出されているとのことだ。

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ChatGPT120%活用術 世界中で話題の会話型AI

2023/06/25 14:19

ChatGPT早わかり!

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ChatGPTへの社会的注目が急に高まってきて、自分でもやってみたところ、その答えの適切さ(ただし極々一般向けの内容でしたがね。)と日本語の文章としての正確さ・自然さに心底驚かされました。
そうこうしているうちに、ChatGPTは仕事を含めて色々なことに活用できそうだ、というようなことをネットの記事などで見るようになって、どんなことに使えるのか?色々活用できるなら、使ってみなきゃ損だよね、と考えて、読んでみた次第。
この本を読んでみて、確かに実にいろいろなことに活用が可能と分かった。メールの下書きを書いてもらったり、アンケートの項目を考えてもらったり、契約書を作ってもらったり、ブレーンストーミングの相手になってもらったりetc、etc…。
ただし、万能ではなく、同じ質問を繰り返すとそのたびに回答が変わるとか、論理的な推論はできないとか、計算は苦手とか、内容に誤りが含まれることがあるとか、ごく一般的な話の流れしか作れない、などの問題点もあるとか(新聞で見たのですが、アメリカでは弁護士が裁判所に提出した訴訟資料に実在しない判例がいくつも記載されており、この判例を探しても見つからなかった裁判所がこの弁護士に照会したところChatGPTを利用したことを認めたとか。)。これは、ChatGPTは何かを思考しているわけではなく、入力されたプロンプト(文章)に対して、よく使われている言葉を数珠つなぎにして出力しているということが関係しているのでしょう。
本書の後半には、Excelを使うための便利な方法やMicrosoftのBingチャット検索の使い方、さらにはChatGPTの回答の精度を上げる具体的方法、ChatGPTとの会話を保存する方法などについても記載されています。

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天路の旅人

2023/05/04 13:08

想像を絶する困難な旅の記録

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沢木耕太郎さんの『天路の旅人』を読んだ。日中戦争さなかの昭和18年から戦後の昭和25年まで足かけ8年に亘り、蒙古人ロブサン・サンボーというラマ教の巡礼僧になりすまして内蒙古から甘粛省・青海省などを経てチベットへ渡り、さらにインド・ネパールまで潜行した西川一三さんの行動と、見たもの・聞いたもの・感じたものの記録だ。西川さんは『秘境西域八年の潜行』(中公文庫など)という厖大な記録を著しているが、これをベースにさらに2年に亘って直接話を聴き、それを元に書かれた大部な本。
西川さんは山口県に生まれ、福岡県の修猷館中学を卒業後満鉄に就職したが、蒙古から新疆にかけての奥地(日本では当時「西北」と呼ばれていた地域)への憧れがあり、恵まれた待遇の満鉄を退社して日本が蒙古に設立した興亜義塾に入学、さらには密偵としてこの西北地域へと向かったのだった。
「西北地域」と言えば、古来、シルクロードとして有名だが、草原や砂漠、無人地帯、さらには雪に覆われた峨々たる山脈が幾重にも重なり、峠越えや激流を渡河する必要も度々ある上、食糧や水の入手も困難で、匪賊に襲われる危険もあるなど、数か月を要する旅には想像を絶する困難が伴う。道案内も必要なので、最低でも数人、匪賊に襲われるのを防ぐために現地で行き会った人とできるだけ大きな集団となって移動するのが望ましい。場合によると、すれ違った隊商と、お互いの多くの家畜が交錯して混乱するため、どさくさに紛れて羊や荷物を載せたヤクを盗まれたりすることもある。路傍に行き倒れの死体を見かけることもあり、これは明日の自分かもしれないとも考えたりもする。
途中で何度も騙されたり、男たちに囲まれて高価なものを古い価値のないものと無理やり交換させられたりすることもあるが、一方で、親切な人の心の温かさにも触れることもある。遊牧民の、何ごとにも縛られない自由な生き方を目の当たりにして、憧れる経験もする。
夜は厳しい寒さの中で大体野宿(逆にインドでは灼熱の気候)。地面に敷物を敷き、その上で着ている毛皮を脱いで布団代わりに身体にかけて丸くなって眠る。時どき親切な人に家に招き入れてもらったり(ただし食事はそれぞれで勝手に)、農家の軒下を借りたり、納屋に入り込んで寝たり。町に入った際には、旅行者のための無料宿泊所に泊まることもある。長期滞在の町の場合は、ラマ寺に入ったり、有力者の家の下男に雇ってもらったりもする。
最後は現地の官憲に逮捕され、日本に送還される。西川さんは、その後も、無欲に、数奇な運命をたどるのである。

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レッドクローバー

2023/04/16 13:29

完成度高いミステリー、されど暗いテーマ

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まさきとしかさんのミステリー、『レッドクローバー』。

東京・豊洲のバーベキュー場でヒ素による集団殺人事件が起きた。犯人は犯行を認め、「ざまあみろって思ってます」と供述するが、動機などについては一切口にしない。ヒ素は12年前に北海道・灰戸町で起きた一家殺人事件で使われたものと同じ種類と分かったが、犯人と一家殺人事件との接点は確認できない。一家殺人事件ではただ一人生き残り、その後行方を断った長女が犯人ではないかと当時噂になっていた。長女は、果たして今も生きているのか、どこにいるのか。

新聞社を定年退社し、系列の月刊誌編集部で働く勝木は、12年前に灰戸町で取材経験があり、豊洲の犯人をめぐって取材を始める。勝木は灰戸町の取材時に長女を一瞬垣間見ているが、そのときの姿が今も忘れられない。当時一家は、町の人たちから疎まれていた。勝木は妻を病気で亡くしており、取材中もそのことが彼の心に影を落としている。そして妻の過去の経験も、本書を貫くテーマに関連していて、重奏し、共鳴していく。

429ページもある作品を読み進めていくと、それまで一見無造作に散りばめられていた各断片が次第に結びついていき、最後に驚くべき真相が明らかになる。ネタバレになるので、これ以上ここで紹介する訳には行きません。悪しからず。

著者のまさきとしかさんは、2007年に「散る咲く巡る」で第41回北海道新聞文学賞を受賞し、その後もいくつもの作品を発表しているらしい。本作は、ミステリーとしても、またテーマを持った“小説”としても、極めて完成度が高いと思う。扱われているテーマは、重く、暗く、そして現代的である。今までその存在を知らなかったが、相当のベテラン作家とお見受けしました。

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ステイト・オブ・テラー

2023/02/12 10:32

ヒラリー・クリントンが書いた国際政治サスペンス

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ヒラリー・クリントンが書いた『ステイト・オブ・テラー』が邦訳されたというので、読んでみた。正確には、カナダのミステリー作家、ルイーズ・ペニーとの共著だ。
無能な前大統領エリック・ダンを破って新大統領の座についたダグラス・ウィリアムズは、予備選を戦った相手の支持者でありマスコミを経営するエレン・アダムスを国務長官に指名する。女性国務長官が主人公であるとは、いかにもヒラリー作、といったところだ。前政権の外交の失敗を十字架に背負って韓国に乗り込んだエレンはみじめな失敗にあえぐこととなる。そんな中、ロンドン、パリと連続バス爆破事件が発生し、多数の死傷者が出る。犯行声明は出ない。犯人は、何のために犯行に及んだのか?一方、国務省の南・中央アジア局下級職員のアナヒータ・ダヒールの元に意味不明のメールが届く。それはジャンクとして処理されるが、アナヒータはそれが第3のバス爆破事件の予告でないかと思いいたる。そしてその標的たるバスには、ある重要人物が乗っていた。爆破は、防げるのか?
そして話はパキスタン、そして核合意廃棄後のイランへと飛ぶ。アフガニスタンからのアメリカ軍撤退はタリバン、そしてアルカイダの跳梁跋扈を招くことになり、武器商人の不穏な動向やロシアの介入も絡んで話は思わぬ方向へと発展し、ついにはアメリカ国内へと波及する。
これ以上書くと完全なネタバレになってしまうので伏せるが、カウント・ダウン的スリルも含めてミステリー要素・国際謀略的要素満載で、一気読み必至。と言っても、600ページもあるので、とても一晩では読めませんが。最後に失速してしまいますが、これを笑って許せれば楽しめますし、どこかで聞いたような話が満載、という意味でも楽しめます。

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噴火と寒冷化の災害史 「火山の冬」がやってくる

2022/11/03 15:29

「破局噴火」はいかに甚大な被害を招くか!

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「富士山は噴火するのか?」過去の日本では、地震や火山噴火がある時期に集中して起きている。1回目は平安時代の9-10世紀で、巨大地震や大規模噴火が多発し13回も改元された。2回目は江戸時代の18-19世紀。現在3回目の集中期に入ったとみる研究者も多いという。(p26)
日本は富士山に限らず火山が多い。破局的な超巨大噴火が起きれば、火口からの噴石や溶岩、さらには火砕流がふもとを襲い、壊滅的な被害を及ぼす恐れが高い。微細な火山灰が風に乗って全世界に広がり、飛行機のエンジンをストップさせるだけでなく、人が吸い込んで健康被害が生じたり、車のエンジンやエアコンも故障する。噴火の後に雨が降ることも多いが、火山灰が雨を吸うと重くなって家屋を潰したり、あるいは泥流・土石流となってふもとを襲ったりすることもある。
本書は、このような過去の世界における「破局噴火」による被害を、これでもかというほど紹介している。イタリアのヴェスヴィオ火山によるポンペイの壊滅、アメリカのセントヘレンズ火山やフィリピンのピナツボ火山の噴火などなど。日本でも阿蘇山、天明の浅間山の噴火、報道陣も巻き込んだ雲仙普賢岳、記憶に新しい御嶽山の噴火などなど。当時の様子を伝える記録を多数引用し、生々しいその実態を描いている。
破局噴火はまた、世界に「火山の冬」をもたらす。火山灰が太陽の光をさえぎって、気温低下が何年にもわたって全世界に影響を及ぼし、過去には大飢饉を何度も発生させてきたのだ。1783年のアイスランドのラキ火山の大噴火でヨーロッパ全土に火山灰が降り注ぎ、その後何年にもわたって寒波が襲って、農作物の不作が続いた。1788年から89年にかけて異常寒波が襲い、ついにはフランス革命を招くことになった。(p125)日本でも1783年の浅間山の噴火で火砕流がふもとの鎌原村を襲って597人の人口のうち生存者は131人だけとなったが、このあと88年にかけて寒冷化の中で天明の飢饉が全国を襲った(p136)。
火山の噴火に起因する地球の寒冷化は、歴史上たびたび大飢饉を引き起こしてきたことが良く分かる。大地震や火山に関心を持つ人にとって、必読の書だと思います。

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藩邸差配役日日控

2023/05/26 20:01

最後には、最大のサプライズが!

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先行する二作『高瀬庄左衛門御留書』、『黛家の兄弟』は架空の神山藩を舞台とした作品だったが、本作は東北が本領の神宮寺藩七万石の江戸藩邸の差配役である里村五郎兵衛が主人公で、連作集という点でも前二作とは異なっている。
藩侯の10歳の世子が行方知らずになる「拐(かどわか)し」、入札の不正を疑う「黒い札」、藩邸で新しく雇った女中は怪しげな魅力を放ち、男同士がいさかいを起こす「滝夜叉」、藩侯の正室の愛猫が行方知らずとなる「猫不知(ねこしらず)」、江戸藩邸の2人の実力者の角逐に巻き込まれる「秋江賦(しゅうこうふ)」の5篇から成る。
前二作同様「あっ!」と思わせるサプライズが各所に織り込まれている。特に最後の最後には、最大のサプライズが待ち構えている。

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