哲さんのレビュー一覧
投稿者:哲
紙の本ドゥルーズの哲学 新装版
2023/06/20 03:02
ドゥルーズを知るための最良の書
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この本は、ジル・ドゥルーズの哲学にその目的という観点から一貫した説明を与える最良の書である。
他のドゥルーズの入門書、解説書が悪いというわけではないのであるが、それらはドゥルーズを知らない層でも興味を持てるような書き方をしており(事実私がドゥルーズに興味を持てたのはそのおかげであるが故に私はそれを悪いなどとは露程も思わぬわけであるが)、それ故ドゥルーズについてわかったような分からないような気になって本丸に挑んでは無惨に散っていくのみであった。
この本の中ではドゥルーズによる各哲学者の読解を、彼の政治的思想やヘーゲルとの対決という問題の中でどのような役割を果たしたかという位置付けをする事によって彼の思想を明快に記す。
ドゥルーズのみに限った話ではないが、哲学者というのは単なる哲学の専門家ではなく考える者なのであり、その人の政治や宗教に対する考え方というものを無視して哲学を語ってしまうことはある意味ではその哲学者の色を漂白してしまっており、政治や宗教という彼の持つ毒(多くの人が忌避するという意味での)を薄めたものを飲むとき同時にその個性は消えてしまうのであって、蓋をされた臭いものに正面から向き合うときにその真なる姿が現れるという意味では、この本はドゥルーズの真の姿を映し出そうとした稀有なるものに違いない。
紙の本プラトン後期的ディアレクティケー イデアの一性と多性について
2023/06/08 01:49
『パルメニデス』理解の手引きとして
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個人的に興味があったので『パルメニデス』を読んだのだが、既読の方なら分かる通り、この著作(パルメニデス)は特に第二部と称される部分の意図が私には不透明に思われ、その時は田中美知太郎先生の解説を読んで無理やり納得するしかなかった。
この本は『パルメニデス』を、プラトンからのイデア論批判に対する応答として読むことでその中に体系的な内容を見出している。
私自身はプラトンを本格的に研究しているわけではないので、この著者の考え方がどの程度研究として妥当性を持つのか等は分からないが、少なくとも有意義な解釈であると思われるし、またそもそも『パルメニデス』について解説されている本は少ないので、その点でもとてもありがたかった。
紙の本吉本隆明1968 新版
2023/07/27 01:36
吉本隆明を体感する
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芥川龍之介論、高村光太郎論などから吉本隆明の偉大さを語るという本
吉本隆明というとそもそも現代においてはそこまで有名ではなく、少し哲学について詳しい人間であれば言語美、共同幻想論、心的現象論の三部作くらいなら知っているという程度の人物ではないだろうかと思う。しかし、如何せんこの三冊はどれも難しく、(共同幻想論はそこまでではないものの)長く、そして解説が充実しているとはいえない(山本哲士による吉本思想はそれ自身高度であること、また彼なりの形で吉本思想が磨かれていることから所謂解説書とは一線を画し、さらにアルファベータブックスなる出版社から最近新版の解説書が出ているものの、それらは哲学思想としての吉本隆明論としては所謂古典哲学者の入門書としての水準は達していないように思われる。無論あの本はあの本で十分に面白いものであると私は考えているが)。
その中でこの本が取り上げるのはそのような、思想家吉本としての本領とは少し異なった位置にいる作品群である。
吉本評論においてはそれらの作品が取り上げられることはままあることだと思うが、それが著者が当時感じていた空気とともに紹介されている様子はおそらく、読者に吉本隆明を体感させる優れた機会になるのではないだろうか。
一族で最初の大学生論などについてはまた、ある程度思想と生の関係という問題において普遍化できるのではないかなど、興味深い部分もあったと思われる。
紙の本ハイデッガー全集34 真理の本質について:プラトンの洞窟の比喩と『テアイテトス』 第34巻 第2部門 講義(1919-44)
2023/07/26 07:09
真理とは何であるか
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アレーテイア(非秘蔵)という語とプラトンの読解から真理の本質とは何であるかを読み解こうとした力作。
まだ自分では一割も理解できていないような気のする途方もない著作ではあるが、その一割に満たない部分でも既にこの作品の気概を十分に感じ取れる。
真理の本質についてという題名に注目して軽はずみに手に取ると痛い目に遭うとは思うが、ハイデガーによる真理の論であると覚悟して飛び込めば得られるものは大きいと思われる。
2023/07/15 20:43
哲学の基礎
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収録されている二作は、それぞれ以後の哲学を一変してしまったカント哲学の入門として素晴らしい作品。
事実の系列を問う形而上学から事実の妥当性を問う超越論哲学への移行、主観的格率から客観的法則へとその主題を移す義務倫理学
どちらも『批判』書から入るには重く苦しい道であり、この本はそのような意味でまさに哲学の基礎へ向かう絶好の名著と言えるでしょう。
紙の本サルトル 新装版
2023/07/13 02:17
サルトル思想に分け入る最適
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サルトルといえば『存在と無』という哲学、そして『嘔吐』という文学が代表されるであろうが、この本ではサルトルのそれ以外の面も見る事ができる(無論、上に挙げた二作は非常に重要なものであり、本書でも触れられているが)。
特に『弁証法的理性批判』は上述の哲学以降の彼の思索を理論的に提示する重要な著作であるのだが、ほとんど知られていない。彼の他の小説、戯曲、批評について触れながら彼の思想を追っていくというのも『存在と無』から彼の思想を紹介する多くの本と異なっていて面白い箇所だろう。
紙の本ハイデガーの超政治 ナチズムとの対決/存在・技術・国家への問い
2023/07/13 02:09
存在と時間以後のハイデガー
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ハイデガーといえば存在と時間があまりにも有名であり、哲学を専門的に学ぼうという考えを持たないほとんどの人間にとってそれ以外の著作は知られていないだろう。
本書は後期ハイデガーについてナチス問題に関連した政治論、技術論などの部分を知ろうとする場合最初に読む著作として非常に優れたものであろう。
無論、彼の思想全体は存在論を土台にしたものではあるのだが、中後期ハイデガーの形而上学として重要視されるカント書、ニーチェ講義については深く扱われない。これは題名を見れば分かることではあると思うし評価には加えないが、後期思想の解明と聞いて早とちりする人を減らすために一応。
2023/07/04 02:00
『存在と無』の優れた解説書
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サルトルの中でも哲学的主著として名高い『存在と無』の解説書としては素晴らしいと思う。
以下は概要を見れば分かることなので評価に影響するわけではないが、タイトルだけを見てサルトルの解説である、特に弁証法的理性批判など後期の著作の解説だと思い購入すると、残念な思いをするかもしれない。
重ねていうが、この本は『存在と無』の優れた解説書である。
2023/07/04 01:51
メタ倫理学を知る最良の入門書
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名前の通り、メタ倫理学に興味を持った人間が初めにに手に取るのに最も適した本であると考えられる。
規範倫理学、応用倫理学など現実に行われているものを分析するのではなく、正しいことはあるのか、なぜ善いことをするべきなのかなど、倫理学の前提を思考するものである。
これは私のメタ倫理学の無知故に起きた事態であるので評価に影響するわけではないものの、メタ倫理学に対し私と同じような期待をしている人がいないとも限らないと思ったので付言しておくが、例えば「なぜ人は倫理的な行動を知っていても現にそうならないのか」と言った理論と現実の関係のような部分はない。
2023/06/20 03:08
文学
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アイドルマスターシャイニーカラーズは非常に優れた文学と言えるのではないかと私は考えている。
無論、この本に収録されている作品だけでそれを全て楽しむことはできず、収録作品も完全に楽しむのであれば各アイドルのイベントに目を通す必要があるのではあるが、それでもある物語の断片たちがこのような形で結晶したことは祝うべき事柄である。
紙の本FOOL on the SNS 正 センセイハ憂鬱デアル
2023/06/08 22:25
反省を促す書
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数々の哲学者の入門書を出版している仲正昌樹氏が、SNSでの非難に応答する本。
読み進んでいくうちに、自分も同じような傲慢さに陥っていないかと何度も自省するきっかけとなる、誠実に学問に向き合いたい人はこの本を読むと、知識というより学問への態度として重要なものが得られると思われる(少なくとも私はそうであった)。
紙の本マチウ書試論・転向論
2023/07/27 01:44
思想と生についての論考
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全てではないがいくつかの収録作品を読んだ。
表題作のマチウ書試論・転向論はどちらも思想に対する関係というものの重要性を提示し、思想を空論的にただ脳内で展開することに対する厳しい批判をする(これは後者の作品に見られる)。
ちなみにマチウ書試論の「マチウ書」とは新約聖書のマタイ伝の事を指し、中に出てくるジェジュはイエスであったと記憶している。
ここについて所謂衒学的な態度を批判する向きもあり、私自身現時点ではそれに対し明確に反論することは出来ないが、そのような作品自体に対する態度はともかく内容の面において「関係の絶対性」と呼ばれるものは現代において哲学を学ぼうとする人間はある程度心がけなければならないものであるだろうと考えられる。
紙の本サミング・アップ
2023/07/26 07:24
文に触れること
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この本を読んでいる中で私が一番印象に残ったのは、同じような人は少ないのかも知れないが、外国語の理解に関する文章だった。現地の民でないものはある程度以上の理解の水準に達することは極めて困難になるというもの。
私にとって文に触れるということは一方でその人の思想の普遍的な部分に接しながら、同時にもう一方でその人の生活の中で極めて個人的な部分が自分のとある経験の中にもあるような気がするという特殊の触れ合いである。
面白かった。
2023/07/26 07:04
人間学を学ぶために
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人間学を学ぶための一冊目として読みました。
人間学といえばカントやシェーラーを想起したのですが、この本ではその歴史はホメロスから始まります。
題名の通り心身論の展開という部分に注目して、さらに先に紹介したようにホメロスからドイツ観念論に至るまでの人間観についての記述であるため、各部分について研究書に匹敵する水準の論述があると言い切れるわけではありませんが、これで概観し、そこから個々の論点を調べようと思ったり云々という点から見て非常に優れた本だと思います。
紙の本哲学入門
2023/07/19 22:28
哲学を習う/倣う
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哲学の入門というと多くは哲学者の考えを歴史、ジャンルによってまとめたものをイメージすると思うが、この本はそうでは(途中で観念論の立場に分け入ったりもするので無いわけではないが)ない。
無論、それが駄目な哲学入門だというわけではないが、哲学はそれだけでは無いのであり、ラッセルの『哲学入門』というのはそのもう一つの道であると言える。
それはすなわち、思索を倣うということ、彼の考えを追うことである。この本の中に出てくる本能的信念、整合性としての哲学、感覚与件(センスデータ)などは上述の哲学入門書の中では言葉すら取り上げられないこともあるだろうが、それは紛れもなくラッセルの知的格闘を象徴する概念であり、彼がこの概念群を用いて自身の哲学を構築していく様を見ていく中で読者は哲学がなんたるものであるかを習う=倣うのである。
私は彼の思想的立場に全面的に賛同を表明するわけではない。しかし、彼の振る舞いは哲学を教えるものとして模範の一つであることは確かな事実だろう。
ただ、中には従来とは少し使い方が異なる伝統的な概念もあり、そのあたりについて注意する必要はあるのかも知れない(が、あくまで少しなので概念の揺れについて実際に彼の研究をするなどでなければ見過ごして構わないかも知れない)。