カブタロウさんのレビュー一覧
投稿者:カブタロウ
| 1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
2024/07/23 14:47
時間そして生と死と
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
同じようなパターンの繰り返しの毎日に嫌気がさし、やはり同じような繰り返しの日常を題材にした小説があったなあということで魔の山のことをふと思い出した。
確かに20代のころに一度読んでいるはずだが、サナトリュームでの日常が淡々と描写されているだけの小説だったなという印象だった。本書を楽しむには人生経験というよりある程度の知的素養が必要かもしれない。
今回読み返してみて劇的なドラマのないこの小説の濃密さに驚いた。
マン自身が 「千二百ページに渡って繰り広げられる観念構図の夢幻的結合」 と評したように観念の嵐が吹きすさぶ観念の一大絵巻物のような小説だ。この場合の観念とは思考であり、哲学であり、感情であり、意志であり、欲望である。
この小説の主題の一つが時間観念についてだろう。マンの時間に関する見解が織り込まれながら物語は展開してゆく。
絶対的基準となる時間軸など無い世界、何しろここは一年が一日、去年が昨日のように感じる秘境魔の山なのだから。この魔の山の中にあるサナトリュームは相対的時間感覚が極めて強く支配し、全体基調において死や病気への親近感・親愛感が色濃い。
魔の山そこは死の香りが強く漂い、義務と束縛のない無秩序な魔境。
その中で繰り広げられる様々な登場人物の観念の反目と錯綜。例えばセテムブリーニとナフタの論理とペーペルコルンの感情。そんな中で当初単純な精神の持ち主であった青年ハンス・カストルプの精神は複雑さを増し発展してゆく。
「死への親近感から出発して生への意志でおわる変化」、マンが最も親しみ深いとするこの変化はハンス・カストルプの中に体現されたのであろうか。
死と病気の世界から生への意志を戦火の中に飛び込むという行為によって昇華させたハンスの中に。
| 1 件中 1 件~ 1 件を表示 |
