Kanaさんのレビュー一覧
投稿者:Kana
重慶爆撃とは何だったのか もうひとつの日中戦争
2009/05/29 22:17
日中戦争における知られざる非人道的行為
8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
東京大空襲よりまえ,ゲルニカ空襲の直後に日本軍による重慶の無差別爆撃が 3 年間にわたって,おこなわれた.明白な国際法違反だったにもかかわらず現代日本でそれが知られていないひとつの理由は,アメリカが東京裁判でとりあげるのをのぞまなかったからだという.南京虐殺を議論するのもよいが,日中戦争にはほかにも重大な問題があったことを,この本はおしえてくれる.
わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
2009/11/10 01:11
文脈のおとしあなにハマらないために
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「読解」というと文章のなかにあるものを解読することだとおもってしまうが,この本はむしろ本のなかには書いてないことがいかに文章の解釈に影響するか,とくにそういう「文脈」をただしく理解しないと「わかったつもり」つまり誤解することになるかを,いろいろな例をつかって説明している.この本をよめば,「わかったつもり」というおとしあなにおちるのをふせぐことができるようになるだろう.
アメリカ人弁護士が見た裁判員制度
2008/11/19 22:10
「非民主的」な日本の法律・政治,とくに裁判員制度への徹底的な批判と期待
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
アメリカ人であり弁護士である著者による裁判員制度と日本の政治や法律の批判の書である.
第 1 章においては,日本の法律や政治の非民主性が徹底的に批判されている.日本の法律が国民のためでなく役所のためのものだということがつぎのような論理で説明されている.「ある法律が誰のためにあるのかを知るには,その法律が誰の自由を制限し,誰に裁量の余地を残しているかが重要なヒントになると思う」.日本の法律は曖昧でグレーだが,それは役所や警察が介入したり介入しなかったり,自由にふるまえるようになっていて,かつ市民がクレームをつけることが難しくなっているのだという.「人権」や「三権分立」に関するかんがえかた,刑事事件における自白の重視や個人情報保護法からウィニー事件やコンピュータウィルス作成者が逮捕された事件までも,こういう視点で痛烈に批判されている.これを読むと,日本はここまで非民主的な国だったのかとおもわされてしまうが,著者は「多少大げさかつ簡単に書いてきた」とことわってもいる.
第 2 章では陪審制度とはどういうものか,裁判員制度とはどうちがうかが説明されている.ここは比較的淡々と書かれている.
第 3 章はいよいよ著者による裁判員制度の解釈とそれへの痛烈な批判が展開されている.著者によれば裁判員制度は「裁判を十分理解していない国民がいけない」ことが前提になっている.法律の専門家は裁判員にはなれないことになっているので,深い法律知識がないことが裁判員になる条件であって,そういう国民のために「分かりやすい事件」だけを対象にしているという.裁判員には守秘義務があり,それは裁判員をまもるためだと説明されているが,裁判官と裁判所が秘密の範囲を勝手にきめることができ,裁判官がなにをしても外部にもらされないようにするという,裁判官をまもり,裁判所に対する批判をなくすためのしくみだという.
しかし,それだけ痛烈に批判しながらも,著者は「裁判員制度に反対しているわけではない.むしろ,うまく機能してほしい」と書いている.これまで裁判官には被告人を有罪にしなければならないという圧力がかかる結果として 99% の裁判で有罪判決がいいわたされて冤罪がおおくなっていたが,「裁判員制度のおかげで,被告人を無罪にしても [中略] 裁判員たちがどうしても,ということだったので」ということで無罪にすることができるようになるかもしれないという.私もこれで,裁判員制度によって冤罪が減ることが期待できるとおもった.著者はまた裁判員になることを「義務」ではなく「権利」とかんがえようと提案している.
この本は裁判員制度の解説書とはいえないので,それが「どういうつもりで」つくられたのかは,あらかじめ知っておく必要があるだろう.そのうえで読めば,解説書や日本人が書いた裁判員制度の批判とはまったくちがう視点をあていてくれて,目からウロコというおもいをいだかせる.いろいろ裁判員制度やその周辺の法律の本を読んできたが,この本が一番のオススメである.
失われた場を探して ロストジェネレーションの社会学
2009/12/05 18:43
現代日本の若者がおかれた状況のするどい分析
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ハーバードの教授である著者が日本の高校などで丹念にききとり調査をおこなってまとめた日本人へのメッセージである.かつて日本の若者は「場」のなかで就職し昇進してきた.つまり,高校を卒業すると就職先が斡旋され,就職先でも年功序列にしたがっていればよかった.しかし,いまやそういう「場」は崩壊してしまった.
変化してしまった日本社会のなかで若者とその周囲のひとたちはどうすればよいのか? 著者は 4 つの提案をしている.そのなかには,周囲のひとがもはや「場」が存在したときの生き方ができないことを悟るべきだということもあり,アメリカ社会におけるようなウィークタイズを強化するべきだということもある.4 つともアメリカ社会が解決のヒントになっているようだ.
アメリカなどからまなべばそれで問題が解決するのかどうかは疑問だ.しかし,すくなくとも日本人にはみえにくい部分もふくめて,するどい分析をしているところにこの本の価値がある.
裁判員制度
2008/07/24 22:05
批判本からはえられない貴重な情報をふくむ
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
裁判員制度に批判的な本がおおいなかで,この本はむしろ積極的である.著者は陪審制度推進派であり,あとがきに「投書の理念を失い,国民の司法参加の理想からどんどん後退していくこの制度の制度設計の現実に落胆し」と書きながらも,陪審制度と裁判員制度のちがいや日本における戦前の陪審制度の歴史と裁判員制度導入の経緯などを冷静に分析し,将来の陪審制度確立への一里塚として裁判員制度をみとめている.2004 年に出版された本だが,批判本からはえられない貴重な情報をふくんでいる.
地図と愉しむ東京歴史散歩 カラー版
2012/01/14 17:18
知られざる東京の歴史がわかり,行ってみたくなる
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
東京の道路,川,鉄道などに現在ものこるちょっとした痕跡を,それらの過去にむすびつけている. さかのぼる時代も江戸,明治,大正,昭和と,さまざまだ. そして,東京にずっと住んできた私でも知らないことがほとんどだ. 知られざる東京の歴史がわかり,とても興味ぶかくて,行ってみたくなる.
アカデミア・サバイバル 「高学歴ワーキングプア」から抜け出す
2010/02/02 22:49
大学の暗澹たる現状とそこから脱却するためのヒント
6人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
5 章で構成されるこの本の 4 章までを暗澹たるおもいで読んだ. 大学教員になって食っていけるようになるためには,師事するに値する教授にとりいってイエスマンになり,チャンスをつかむことが必要だ. 大学ならどの世界でもそうというわけではないが,そういう 「白い巨塔」 のような世界はいまもあるのだろう. そういうものにすがらなければ食えない時代になったということだろう. しかし,5 章にはどんでん返しが待っている. 4 章までに書かれた現時点での解にとってかわれる解にはなっていないが,もっと本質的な解にせまろうとしている. もしもこの章をよまずにこの本をほうりだしてしまうとしたら,著者のかんがえの半分以下しか見ずにおわることになるだろう.
流通革命の真実 日本流通業のルーツがここにある!
2008/08/18 16:26
アメリカ流合理主義にもとづく流通論
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者は読売新聞記者出身ではあるが,1960 年代から大規模小売店業者を指導する立場になった.本書はその立場から書かれたものである.本書においてはアメリカの合理主義的なやりかたを紹介し,それが日本に根付かないことをいろいろな点から指摘・批判している.
たとえば,「有機栽培だから」,「自然農法だから」 よいといいつつ,その科学的根拠があいまいにされている点 (p. 71),マクドナルドのマニュアルが科学的実験をつきつめてできあがっていること (p. 202),台湾での買い付けにおいてアメリカのバイヤーが品質確保のためにきちんと指示をだしているのに日本のバイヤーはそれをしていないために品質が確保できていないこと (p. 241),日本のアイロン台は丈夫すぎて高価になっていること (p. 203) などが指摘されている.
しかし,アメリカと日本とのちがいやアメリカでウォルマートがきらわれていることなども考慮するべきだとおもえるが,こうしたことについてはほとんど書かれていない.アメリカの業界は日本より消費者を指向しているが,この本においては消費者の立場をどうかんがえているのかもあきらかでない.というわけで疑問の点もいろいろあるが,まだ,くみとれる点もおおいとかんがえられる.
暴走するインターネット ネット社会に何が起きているか
2007/11/15 23:45
5 年たっても示唆に富むインターネット論
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
インターネットに関する本で 5 年前に書かれたものといえば,通常はもう陳腐化している.しかし,本書は 5 年たったいまでも示唆に富んでいる. 3 章では "現在" の若者の労働観が「遊ぶように働く」スタイルだと指摘し,それとハッカーの労働観とむすびつけている.最近,仕事と遊びを区別しない,公私をはっきり区別しない生き方を肯定するひとがふえているとおもわれるが,そのルーツがハッカーにあるという指摘は,私自身をかんがえても納得がいく.本書のなかには最近の「環境管理型アーキテクチャ」論につながる内容もあり,これも興味ぶかい.興味をひかれる点はほかにもいろいろある.
ブログ魂 これにて免許皆伝!
2007/10/13 18:13
ブログによるコミュニケーションの教科書
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
書店でみたら,私だったら手にとるのをためらってしまいそうなカバーがついている.また「ブログ魂」という,読んでもなお理由のわからない書名がついている.しかし,内容はすばらしい.本書ではつぎのようにブログに 2 種類の分類をあたえている.
A: Q & A 系,B: ホームページ系,C: 掲示板系,D: 日記系
1: 情報系,2: 共感系,3: エンタメ系
自分のブログがどれにあたるかをかんがえれば,これからどうすればよいかもみえてくるというわけである.
本書でもっとも価値があるのは,どうすればブログをもっと読んでもらえるか,コメントがもらえるか,トラックバックをどう利用したらよいか,他のブロガーとつながることができるか,などに関する記述である.これらについては類書にないくらいさまざまな内容が書かれている.たとえば,タイトルひとつにしても,10 種類に分類して論じている.読んでもらうためには投稿する時間までかんがえたほうがよいと書いている.他のブロガーとのつながりに関しては,「ブログ・コネクター」になること,「ハブ・ブログ」とつながることをすすめている.ほかにもさまざまなことが書かれている.
最近ブログに関する本をあつめていろいろ読んだが,この本が一番,私が知りたかったことにこたえてくれた.
フラット革命
2007/10/02 00:21
ネットにとどまらない視野
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
本書はおもにインターネットがもたらした変化,とくに言論のフラット化 (匿名でも権威があっても「何を言ったか」だけで判断される) と,ウィキペディアなどにおいて意見の集約が困難になっいること,セレンディピティによって人と人とが出会いやすくなったことについてのべている.しかし,それと同時に日本において 2000 年代前半に「戦後世界」のわくぐみとそれを象徴する共同体が完全に崩壊した崩壊したことによって人々がばらばらにされたこともフラット化のひとつであり,それが「出会い系」へののめりこみを生んでいることも指摘している.このようなネットだけにとらわれないはばひろい視野はまなぶ価値がある.
創造的論文の書き方
2011/09/24 08:32
類書からはえられない,ふかい内容
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者の百戦錬磨 (?!) の経験がいかされた本だ. 類書からはえられない,ふかい内容にみちている. たとえば,他人を説得するための 3 つの方法つまり 統計的な方法,演繹論理法,データのきれはしを論理でつなぐ方法 (論理重合体合成法). それから,「不思議」 と 「面白い」 に関する話題,文章のつなぎかた,などなど. しかし,残念なのは論点が抽象的であり,具体例がひとつもないことだ. よく,かみしめて読む必要があるだろう.
災害ボランティア論入門
2011/04/24 01:39
被災者とむきあうボランティアをえがいている
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
2 章の最後にあるつぎのことばが,この本のもっとも重要なテーマをあらわしている. 「実際のボランティア活動の現場で気づかされることは,その活動がどのような役割をはたしているかということよりはむしろ,援助者として被災者とどう向き合い,関係を取り結んでいくのかという側面である.」 これは,これまで災害ボランティアがむきあってきたのはほとんど被災者だったということからきている. 東日本大震災ではいまボランティアはもっとガレキやヘドロのようなモノとむきあわされている. この震災でもやがてはもっとヒトとむきあうことになるのだろうか.
芸術立国論
2011/01/30 18:34
演劇を中心とする芸術の公共的な支持と市民参加,それによる地方再生…
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
著者はその父がたてたこまばアゴラ劇場の億単位の借金を 23 歳のときに背負って出発したという, そういう著者は芸術と市場経済とのかかわりにもするどい感覚をもっているようだ, 著者は桜美林大学でおしえているが,「学内の演劇の公演は基本的にすべて有料で上演するように指導している」という. どうすればチケットが売れるかをかんがえるのが重要だからだ.
著者はまた,演劇をはじめとする芸術の公共性を論じている. アメリカでは荒廃した地方都市の再生・再開発に芸術がつかわれて成功した例があるというとこから,日本でも中心街がシャッター通りとなり画一的な「郊外」でかこまれた地方都市において芸術がやくわりをはたすのではないかとかんがえている. そこでは,公共的な支援とともに,市民の参加が重要になる.
この本が出版されてから 10 年ちかくになるが,そのあいだに日本各地でビエンナーレ,トリエンナーレなどというもよおしがひらかれるようになった. それらは演劇とのかかわりはうすいだろうが,著者がかんがえていた芸術による地方の振興や市民参加を実現しているといえるだろう. 著者がのこしたするどいメッセージを,このようなこころみのなかに,さらにいかしていけるようにおもえる.