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コウちゃんさんのレビュー一覧

投稿者:コウちゃん

14 件中 1 件~ 14 件を表示

火車

2000/08/16 04:36

とにかく、読んで欲しい本である。

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 亡妻の従兄弟の息子から「失踪した婚約者の関根彰子を捜して欲しい。」と、休職中の本間刑事が頼まれたことから物語は始まる。調査を進めるなか関根彰子と名乗っていた女性は実は別人であることが判明する。
「なぜ別人が関根彰子に成りすましていたのか。」
「どうやって別人になったのか。」
「なぜ、関根彰子として失踪しなくてはならなかったのか。」
調査のなか次第に謎は明らかになっていく。そして本間刑事は、関根彰子と名乗っていた女性の次の行動を予測し彼女を捉えようとする。

 『火車』の主人公は本間刑事だが、もう一方の主人公は間違い無く関根彰子の偽者であろう。しかし彼女が本文中に実際に登場するのは最後のシーンのみであり、それまで彼女を表現し形成していくのは、本間刑事の調査のなかで明かされる事実と彼女を知っている人間の証言のみである。
 それなのにこれほど衝撃的に印象付けられる主人公もまれであろう。作家、宮部みゆきのすごさの一端である。
 また、主人公はもとより他の登場人物の内面に対しても、全編に渡って数多く鋭く描写されている。この部分が『火車』から感じる恐怖をより深いものにしている。

 この本は怖い。人間として拭い去れないような不気味な意識を自分の中に連想してしまうから。他人ごとでは無いと思えてしまうから。それは、『火車』の物語としてのリアリティの高さにもよるのだろう。
 間違い無く宮部みゆきの傑作の一つだ。特に最後の数ページの本間刑事の台詞と本書の終わり方は、ぜひ読んで欲しいところだ。

 尚、個人的には今井事務機の事務員「みっちゃん」が、とても気に入っている。

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2001/02/28 05:33

淡々とした日常から○○へ

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 老人の一人暮らしの日常を事細かに綴っていく文章。元大学教授で、妻には死に別れ、蓄えが無くなったら自分も死ぬつもりでいる。そんな老人の日常に少しずつ少しずつ、読むものを同化させてしまうような、そんな文章だ。
 下手な作家が、こんな文章を書けば、どこか現実味のないチグハグな感じになるのだが、そこはさすがの筒井先生である。中ほどまで読み進むと、不思議な違和感を感じてくる。どこが変なのかわからない。そのうちに現実から少しずつ離れていくのに気づく。
 もう遅い。
 現実なのかわからない…。どうやら老人と同化してしまったようである。気が付いたら読み終わっていた。現実に戻るには、少し時間が要りそうである。

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アインシュタインの宿題

2000/11/25 09:29

宿題は嫌いだけど、これなら・・・

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 名前はみんな知っているSFでおなじみのブラックホールや相対性理論を、アインシュタインの残した言葉を交えながら解説した本。とはいっても堅苦しいものではなく高校程度の物理の知識があれば結構楽しく読めてしまう。説明も漫画や図(この解説用の図も、見ていて楽しい手書き風のもの)を交えて楽しい。私は通勤電車の中で読んだのだが、一気に読みきってしまった。
 それでいて、読み終わった後に、「もうすこし突っ込んで相対性理論の本でも読もうかな」と思わせてしまう(決して本書の説明が不足というわけではないが)。
 こういった内容を扱う本は、大体が最初の十数ページを読んだだけで「もう結構!!」てのが多いと思っていたが、本書はそうではなかった。なぜだろう??
 きっと作者自身が相対性理論の理解の取っ掛かりに苦しんだ経験があるのかも?多分作者はアインシュタインが好きなのではないか?

 読んでいるうちに、あの有名な「アインシュタインのアカンベー顔」が浮かんでくる一冊です。気軽によむのが、○でしょう。

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竜は眠る

2000/07/11 06:59

私の龍はあなたの龍は…

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 はっきり言ってこの本の登場人物達は、小説には割とよくある、どこかで聞いたことのあるような人達だ。超能力を持ってしまったこと、あるいは超能力を持った人間と関係を持ってしまったこと以外は。
 超能力は登場するが「SFか?」というとそうではない(と思う)。登場人物の持つ超能力自体は、他のSF小説に比べれば些細なものである(テレポートもしないし空も飛ばない)。それよりも、その些細な能力をもってしまった人間が普通の人間の中で普通に生活する(この場合の「普通」の定義は難しいが)こと。あたりまえの中にある超能力。能力を持たない人間のリアクション。そして、知ってしまった事を他人事に出来ない登場人物達のやさしさ。そんなことがしっかり描かれている。
 この本を読むと、現実に今にも体験しそうなリアリティを感じる。別に超能力に限らない。私の中にもあなたの中にも龍がいて、その時を待っている。(のかも...)。そして、その時が来たら私は? あなたは?
宮部みゆき先生の傑作達の中の一つだ(言いきってしまった)。読んで損なし!!(また言いきってしまった。)

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キャットルーキー 1 (少年サンデーコミックス)

2001/02/28 05:40

オスネ・コタロウ??

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 プロ野球、大和トム・キャッツの罰金ルーキー、オス猫太郎。もとい、雄根小太郎を主役にした、キャット・ルーキー第一弾。
 調子にのれば球速160キロ、のらなきゃ120キロのはちゃめちゃピッチャーが、球団存亡の危機の立ち上がる!!
 個性あふれるキャラクターが魅力の野球マンガです。

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猫の地球儀 その2 幽の章

2000/11/25 10:56

「夢をかなえる」てことは・・・

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ビジュアル系小説「猫の地球儀」2部作の後編。
「スカイウォーカー」幽は、いよいよ自分の夢を実現するための行動を起こす。
「スパイラルダイバー」焔は、自分の存在意義を取り戻すため幽に再戦を挑む。
そして動きだした「教団」。「教団」は、幽の傍にいた神楽を狙う…。

 それぞれのネコたちは、自分の考えのなかで必死に生きて夢に向かおうとする。それが他者の夢や生き方や、時には命までもを食いつぶしているとは考えず…。

 多くの場合、自分の夢は他者の何かを奪っている。何かになりたいと願えばその席に別の者は座れない。何かが欲しくて手に入れれば他の者はそれを持つことは出来ない。本人にとって喜ぶべきことが他者にとってもそうとは限らない。本人の正義は、そのほとんどが他者にとってのそれではない。
 (今更、言う事でもないが)夢とはそういったものなのだろう。そして夢をかなえようと努力するものは、夢の本質を理解しなくてはならない。頭だけではなく心や体で…。
 それでも夢をかなえようとするのか?かなえる価値があるのか?ストーリーは、そんな疑問を投げかけてくる。
 ネコが主人公だが、その可愛らしさに隠された重みのあるストーリーは、結構考えさせられてしまう。幽の夢。焔の生き様。神楽の願い。それぞれに価値があり、それぞれに何かを奪っていくのだろう。
 (ところで、「第37代スカイウォーカー」の第37代って誰が数えているんだろう? クリスマスはきっと忘れているだろうし??? 「教団」に資料でもあるんだろうか?)

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猫の地球儀 その1 焰の章

2000/11/25 10:16

「電波ヒゲ」が私も欲しい…

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 時は遠い(案外近い?)未来。舞台は人類滅亡後にも地球の周りを回る無人と化したスペースコロニー。そして、そこには…
 ネコがいた!! ネコとロボットが!!

人間の残した色々な物の中で自分たちの生活を繰り広げているネコ。
地球のことを「地球儀」と呼び、死んだら魂は「地球儀」へ行くと考えているネコ。
「地球儀」に生きたまま行こうとして「教団」に狙われる「スカイウォーカー」ネコ。
「電波ヒゲ」で自由にロボットを操り戦う「スパイラルダイバー」ネコ。
同じく「電波ヒゲ」で自由にロボットを操りゴキブリを取っているネコ。
さまざまなネコたちが、ロボットをパートナーとして生活している。

 この物語の主人公は、第37代スカイウォーカーの黒猫「幽(かすか)」。「スパイラルダイバー」の無愛想な新チャンピオン、白猫「焔(ほむら)」。そしてゴキブリ取りが得意な三毛「神楽(かぐら)」。みんなネコ社会では、ある意味「異端」なネコたちである。
 「教団」からの追求を逃れるために「スカイウォーカー」幽は、「スパイラルダイバー」焔を自分の近くの引き付けようと考える。そのため、焔に挑戦して完膚なきまでに叩きのめす。焔は再戦を近い(幽の思惑通りに)幽の近くで力を蓄える。焔が好きな神楽もいっしょになって幽の周りをウロウロする。
 「猫の地球儀」2部作、前編の「焔の章」では、3匹のネコの出会いとそれぞれの生き方や考え方が交差していく。舞台やストーリーが割とヘビーなのに、話はライトな感じで進められていく(表面上だけは)のは、やっぱりネコの可愛さ(得に神楽!!)からくるのだろうか?
 小説というより(良い意味で)漫画やアニメの感覚が強い気がする(ビジュアル系小説ですね)。

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敗者の生きざま

2000/09/28 08:15

「生きざま」は今も昔もかわらないのかも

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 本書には、タイトル『敗者の生きざま』通り、死に行く者の最後や突然の死への悲哀、愛する者の死、人生の中での成功と挫折の分岐点など、勝者になれなかった者の死に行くまでの一瞬の生き様に焦点を当てた短編時代小説25編が納められている。また、それぞれの短編は古代飛鳥時代から平安期、源平の時代、戦国時代を経て江戸時代、そして幕末の動乱時代へと歴史の流れに沿って描かれている。
 実力が有りながら、ほんの少しの運がなかったばかりに勝者になり損ねた者の残りの人生は、歴史の中で語られることは、まずない(なぜなら、歴史書は勝者の側が書くものだから)。だが、その生きざまにこそ感動があったりするのではないだろうか?

 鈴木輝一郎の『火床』(ほど)は、戦国時代に羽柴秀吉から織田信長に献上するための太刀を鋳造することになった野鍛冶の話。一身を賭け仕事に打ち込んだ結果の一瞬の終わりと秀吉の最後の一言が、なぜか現代の報われる事の少ないサラリーマンの姿に見えてしまった。
 童門冬二の『葉がくれ猫』は、佐賀の龍造寺家から鍋島家へ権力が移行する過渡期に龍造寺家に使えた藩士の志田吉之助の心情を有名な化け猫伝説と絡めて描いている。
 宮部みゆきの『お墓の下まで』は、現代人にも通じる秘密への思いが描かれている。誰でも一つや二つは、秘密があるだろう。もし秘密にするのなら墓の下まで持っていく位の覚悟は必要なのだろう。
 三宅孝太郎の『死なせてあげる』は、今まさに問題になっている老人の痴呆の問題を扱っている。小説の中だけとは限らない怖さがある。
 菊地秀行の『桃の花』は、ならず者と駆け落ちした娘から母親への手紙の形式だが、同じような心境を現代でも持ち合わせているものがいるような気がして怖い。

 尚、本書には対の作品として『勝者の死にざま』がある。こちらも読んでみたい。

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三国志と中国

2000/09/28 08:10

三国志の枠を超えた対談集

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 「太平天国」「秘本三国志」「諸葛孔明」「中国の歴史」など中国に造詣の深い作家、陳 舜臣とこれまた中国と「三国志」に造詣の深い著名人たちの「三国志」を中心とした対談集。「三国志」のストーリや登場人物、時代背景や「三国志正史」と「三国志演義」の違いと、どうしてその違いが起こったかから、中国の人々の「三国志」に対する考え方や感じ方を論じている。
 「三国志」をしっかり読んだことのない人でも、劉備や諸葛孔明、関羽、張飛などの名前は聞いたことがあると思う。そのぐらい有名な話だが、その中には色々な要素が含まれた奥の深いものだというのが、この本を読むとよくわかる。また中国の風土から生まれた道徳や人の物の感じ方や考え方が、日本のそれと比べて話されている部分は、興味深い。
 特に面白いのが、中国と日本の戦国時代をくらべて論じているところで、中国には歴史上、名宰相と皇帝というペアが生まれているが、日本では宰相と皇帝を一人が兼ねている場合がほとんどで、名宰相がいないという点だった(信長しかり、秀吉しかり、家康しかり。軍師はいるが、宰相と呼ばれる人物はいない)。
 「三国史」をよく知っている人は、より興味深い本だと思う。
 三国史を読み直したくなってくる。読み直したら、そうしたらもう一度、この本を読もう。

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スローカーブを、もう一球

2000/09/28 08:05

スポーツはいいよね

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 第八回の日本ノンフィクション賞を受賞した作品。
 1979年のプロ野球日本シリーズ、広島カープ対近鉄バファローズ戦の、あの江夏豊投手の奇跡のような投球を克明に描いた「江夏の21球」を含めた8篇のノンフィクション。野球が4篇、ボート、ボクシング、スカッシュ、陸上の棒高跳びが各1篇ずつ、テーマとして扱われている。

 1979年の高校野球、「箕島高校 対 星稜高校」の延長18回の死闘と、そのときの選手たちや監督の心情を描いた『八月のカクテル光線』。
 あの、「ミスタープロ野球」長島監督から声をかけられ高校からプロ野球、巨人軍に入団しながらバッティングピッチャーとなった青年の心情を描く「背番号94」。

 どの作品も、必ずしもスポーツでの勝利者だけを描いたものではない。また、全ての作品がいわゆるスポーツの名場面を扱ったものでもない。『スローカーブを、もう一球』は、平凡な地方の高校の野球部が、自分たちのペースで野球をやって、大会を勝ち進んでいく。ヒーローがいるわけでもない。ただ、ピッチャーの得意な「スローカーブ」で勝ち進んでいく、その時の選手の心情を描いている。

 スポーツは、感動的なシーンをしばしば演出があるかのように人々に見せ、感動させる。おそらく当事者である選手たちが一番驚くような場面も度々ある。しかし、観客が思うような感動や高ぶりの中で、以外と冷静に「さめた」目で自分自身を見ている選手たちがいることもこの作品には描かれている。逆に観客がどう思おうと、選手のなかで納得し最高だと思う瞬間があるのだろう。やはりスポーツは、見るよりやるほうが楽しいのかもしれない。そんな気にさせる一冊だ。
 因みにタイトルの『スローカーブを、もう一球』は、とても気に入っている。

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秘密の手紙箱

2000/08/16 05:21

時代は女流作家か??

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 古今の人気女流作家の短編集。
 全編に共通なのは作者が女性であること。そして(編者が意図したかどうかわからないが)主人公が女性であること。

 実は、私は宮部みゆきの『弓子の後悔』に引かれて読んだのだが、他の作品も実に面白い。特に『傷自慢』『うすい壁』『わたしが会った殺人鬼』『暗闇の猫はみんな黒猫』がお勧め。

 新津きよみの『傷自慢』は、主人公の中年女性の唯一の肉親である「甥っ子」が結婚したことから起こる些細な心の動きを甥っ子の新妻に感づかれ、やがて過去の出来事が明るみになるのだが、ラスト近くの新妻の台詞に女性の持つ独特の恐ろしさを感じる。

 藤木 靖子の『うすい壁』は、主人公の女性が姉の自殺の原因を捜す話。主人公が見つけた自殺原因が、この程度のことは、知らないうちにきっとやっていると思わせるところがちょっと怖い。

 山崎洋子の『わたしが会った殺人鬼』は、主人公の女性の一人称で物語が進んでいく。ハッキリ言うと途中でラストが読めてしまった。しかし、そこに達するまでの主人公の女性特有の恐怖の表現や会話の間、ヒステリックな部分の描写がすごくいい。引き込まれる感じがした。

 若竹 七海の『暗闇の猫はみんな黒猫』は、まず題名がいい。物語に合っているし読む前には意味がわからない。扱っているのは割と重いテーマだが、内容を明確にして主人公に喋らせているため、そんなに重い感じがしない。この主人公の女教師は、おそらく作者の代弁者では無いだろうか? 個人的に好きなタイプです。

 普段、女流作家と意識せずに作品を読んでいる方にはぜひ読んで欲しい一冊です。

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鳩笛草 燔祭/朽ちてゆくまで

2000/08/16 03:23

超能力者の苦悩とは

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 超能力者を中心とした三作品。

 『朽ちてゆくまで』は、ふとしたことから自分が幼い頃、超能力者だったことを知り苦悩する主人公を描いた作品。やがて精神的に追い詰められ自殺を計る主人公が助けられた後に知る真実と超能力に対する気持ちの変化がうまく描写されている。タイトルもよく作品に合っていると思う。

 『燔祭』の青木淳子は自分が超能力者であること、自分の超能力で何が出来るのかを自覚している。その上で「自分は装填された一丁の銃である。だから武器として自分を使って欲しい。」と、女子高生拉致殺人事件で妹を殺害されたこの作品の主人公の前に現れる。そして超能力を使い容疑者(実際は犯人)を殺害しようとするが…。
 超能力を持つものと持たないものの気持ちのズレや、主人公の苦悩がよく表現されている作品。自分が、その立場だったらと考えてしまう。後の『クロスファイヤ』に物語は続いている(『クロスファイヤ』も読むべし)。

 タイトルにもなっている『鳩笛草』は、他の二つの作品と比べると、どこか「ほのぼの」とか「ほんわか」したムードがある。扱っている超能力の種類にもよるし描かれた主人公の性格のせいもあるだろうが、おそらく結末が希望を含んだ結果を見せているからだろう。
 主人公の女刑事は超能力で人の心を読み、事件の捜査をしていたが、いつしか自分の能力の衰えを感じ始める。自分の持つ超能力が無くなった時どうなるのか、主人公の不安が描かれた作品である。

 3つの作品は超能力を扱っているが主人公の立場は異なっている。超能力に対して主人公たちが、受け入れ(『朽ちてゆくまで』)、使用し(『燔祭』)、失っていく(『鳩笛草』)といった段階が描かれているのが興味深い。

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危険な童話

2000/08/16 00:33

妖しい恐怖を御堪能あれ。

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阿刀田高の得意分野ともいえる、誰でも遭遇しそうな日常に潜む恐怖を綴った短編集。
全作品に共通する不思議な(妖しい)雰囲気のなかで、いつのまにか最後まで読んでしまいます。

『茜色の空』は、茜色の夕焼けの下で交わした幼い頃の無邪気で純粋な約束を大人になっても実行しようとする、「邪魔な女房のいる会社社長」と「金に困っている医者」の話。何かなつかしくて、いかにもありそうです。
『夜の散歩人』は、同じイニシャルの人が殺される話。犯人の動機のアイデアが秀逸です。
過去に好きだった女性との思いで場所を訪れた男の話の『涼しい眼』は、何か物悲しさを感じる一遍。
『法則のある死体達』は、文字通り、ある法則に従って死体を見てしまい「次は…」と考えてしまう不条理な怖さがあります。
現実と幻想の境目を超える一瞬の怖さを描く『戻り道』。
『女に向かない仕事』は既婚者なら、よりいっそうの恐怖を感じるでしょう。
独身者には『窓の灯』がお勧めです。
最後の数行で怖さを想像させる『越前みやげ』。
『蛇』は独身サラリーマンには身近な恐怖でしょう。
そして、タイトルにもなっている『危険な童話』。ふとした瞬間に起こる狂気や殺気。読んで「ドキッ!!」とする方も結構多いのではないでしょうか?

個々の作品が趣向の違った恐怖を感じさせてくれるのはもちろんですが、最後まで読み終わると、それらが交じり合った妖しい恐怖を身近に感じさせられる一冊です。

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スイート・リトル・ベイビー

2000/07/13 08:30

赤ちゃんってかわいいよね?

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 赤ちゃんってかわいい。見ると無条件に抱きしめたくなる。
 みじかくて愛らしい足。思わずさわりたくなる、ぷにぷにでちょっと青いおしり。ちっちゃくてさわると気持ちがいい手。ふっくらとしてすべすべで、ちょっと赤いほっぺ。黒目勝ちで、起きているときは何かを訴えかけてくるような純真で愛らしい目。少しだけ上を向いた鼻。まだ歯が生えそろわない口。それらが、ちょっとまんなかによって愛嬌をみせる顔。まだ薄く柔らかい髪。思わず手を差し伸べたくなる「よちよち歩き」。満面の笑顔。泣き出す寸前の愛らしい顔。どこをとっても何をしてもかわいい。愛らしい。愛されるために存在するような赤ちゃん。
 お父さん似だったりお母さん似だったり、みんな別の人間のはずなのに、みんなかわいい。みんな愛される。大人になると無くなってしまう、赤ちゃんだけが持つ偉大な能力。この能力で赤ちゃんは生きている。大人に守られ、育てられて。

 そうである。かわいくて愛らしければ生きていけるのである。
 だから、かわいくて愛らしい赤ちゃんみたいなフリをした「人では無い生き物」も生きていけるのである。人間の大人の庇護の元に…。

 無条件に抱きしめたものが実は「違うもの」だったら?「違うもの」だとわかっても、抱きしめた手が離せなかったら?

隣にいる赤ちゃんはかわいいですか?
…それは、赤ちゃんですか?
…はっきり言って、この本、怖いです。

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