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おぐにさんのレビュー一覧

投稿者:おぐに

11 件中 1 件~ 11 件を表示

紙の本聖の青春

2000/09/26 13:37

不器用なノンフィクション

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 不器用なノンフィクションだ。登場人物が不器用なら、書き手もやはり不器用で、だからこそ言いようもなく切ないユーモアに満ちている。
 難病を抱え、幼い頃から将棋だけに人生を駆け、29歳で病死した青年棋士、村山聖と、豪放磊落な若い師匠、森信雄の師弟愛。それを、決して名文ではないが、ごつごつとした味のある文章で描いている。
    
 この本の作者は、長く将棋雑誌の編集部に籍を置き、現在は将棋雑誌の編集長という。将棋の世界に詳しく、さらに師匠の森とは飲み友だちでもある。だからだろうか。村山と森という生きるのが不器用な男2人への視線がとても温かい。
 13歳の幼い村山が、30歳の森に弟子入りして始まった奇妙な同居生活。極端な個性のぶつかり合い。将棋の試合の成績を交え、淡々と事実を積み上げて描いているだけなのに、本の隅々にまでユーモラスな悲哀が満ちている。2人を近くから見守ってきた作者だからこそ、この珠玉のノンフィクションを書けたのだと思う。

 世の中には、確実に泣ける文章というのがある。
 例えば浅田次郎や重松清の短編がそうだ。もう泣かせどころが決まっていて、「ここで泣かせてやる」という作者の意図まではっきりと見えるのに、巧妙な仕掛けについつい乗ってしまい、気付けば頬が濡れてしまったりする。

 「聖の青春」で流す涙は、それとは違う。対極にある。
 予期せぬ瞬間、突然胸を衝かれ、嗚咽がこみ上げ、「うおお」とうなりながら奥歯をかみしめてしまう涙。文章に巧みさはない。でも、なぜか泣ける。とても切ない。

 こんな場面がある。
 ある冬の深夜の公園。師匠・森と歩いていた作者は、向こうからとぼとぼと歩いてくる弟子・村山に出会う。森は「手出し」と命令し、差し出された村山の手を優しくさする。
 たったこれだけのシーンだ。それを作者は「人間のというよりもむしろ犬の親子のような愛情の交換だった」と書き、思わず星を眺めるふりをして涙をこらえるのだ。

 不覚にも私はここで、電車の中でぽろぽろと泣いてしまった。
 落涙は、器用な傑作小説には抗えても、不器用なノンフィクションにはどうしても抗えない。

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紙の本バッテリー 1

2000/09/25 23:58

漫画ちっくな「やめられない面白さ」

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 一言で言えば、すごく漫画ちっく。もちろん、これはほめ言葉だ。

 主人公、原田巧はリトルリーグで脚光を浴びた天才ピッチャー。弟の青波は虚弱体質だが心優しく、実は兄の一番の理解者。家庭の事情で父の故郷に転居した巧は、その小さな町で、最高のバッテリー、永倉豪と出会う。

 この設定はもう、古き良き「あだち充」系青春野球漫画そのもの。
 誰もが読み飽きたような設定なのに、読み始めるとこれが止まらない。無茶苦茶おもしろいのだ。
 この「止まらないおもしろさ」というのがまた、漫画ちっくなんだな。

 結局、私は続編2、3巻と読むうち、徹夜してしまった。
 あえて言うなら、森絵都の「DIVE」に似たテンポの良さ。だから森絵都が好きな人なら、この3冊はお勧めだ。

 第1巻はもう、とにかくいい。少年たちの心のひだが丁寧に描かれていて、文句なし。
 第2巻になると、少々説教臭くなる。何しろ、テーマは中学校の管理教育。主人公の主張にも古めかしいものを感じるし、型にはまりすぎている。

 ところがどっこい、それでも夢中で読めるのは、脇役のキャラクター設定の見事さゆえだ。そもそも主人公の天才投手君にしろ、大人顔負けに老成した相手役の捕手君にしろ、「いるかよ、こんな中学1年生!」とチャチャを入れたくはなるが、その周りを取り巻く脇役の一人ひとりがとても生き生きしている。
 それぞれの思春期をもがく友人たちも。その周囲にいる親たちも。

 主人公だけが魅力的で、脇役は似たり寄ったりの児童文学が多い中で、これまた森絵都にも言えることだが、「バッテリー」の作者は脇役づくりがものすごーーくうまい。
 第3巻まで読み切って、なお「続編が読みたい」と思わせてくれた作品だ。

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何度も笑い転げ、泣き笑いし、最後は胸に手を置き、日本を想う本

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 時は、バブル経済がはじけたばかりの1992年。一人のインド人エリートビジネスマン、シャルマ氏が、遠路はるばる成田空港に降り立った——。
 そんなシーンから始まるこの本は、シャルマ氏の1年8カ月の日本体験記であり、日本人論でもある。

 屋根の上に人や荷物を乗せないバスに驚き、マンションでは廊下にテーブルを出したり線香をたいたりできないことに驚き、大型スーパーでは「食料品に溢れているのに蠅がいない!」と驚く。
 花見の席で歌や手品を披露する日本人の姿に、「インドで人前で歌ったりしたら乞食のカーストと勘違いされるのに」と驚愕したり。日本人の友人宅で鍋をつついた時、みなが一度口をつけた箸を鍋の中に突っ込むのを見て卒倒しそうになり、平静を装い鍋から豆腐を食べながらも、「この人たちのカーストは何だろう」と思いめぐらせたり。

 私自身がかつてインドを長期旅行し、あの怒濤のようなカルチャーショックの「洗礼」を受け、病みつきになり、いつのまにかインドにはまってしまった、という経験を持つからだろうか。ページをめくるたびに、笑い転げずにいられなかった。

 しかし、この本はただの異文化紹介に終わらない。
 彼はインドの調査会社の調査員として、日本に派遣された。つまり、今後、インドが日本を相手にビジネスする時、どんな点に留意すればいいのか、日本の文化的社会的背景を探り、解釈し、対策を立てるべき立場だったのだ。
 例えば、こんなシーンがある。
 口に合わない日本料理を出された時、宗教上口にできない酒や牛肉を出された時、どうするか。
 シャルマ氏はある日、酒席で女性が「真似だけさせてください」といい、グラスにビールを受けながら、乾杯のふりだけして、一切飲まなかったのを発見する。
 彼はこんな風に書く。「インド人ビジネスマンにとって、この言葉(「真似だけさせてください」)は有用な気がする。この言葉を使うことで、われわれは母国のタブーを一切犯すことなく、相手国の人々に不快感や失望を与えることなく、彼らの社会に入り込むことができると思われるからである」。
 そして実際、シャルマ氏は日本を去る時、後任の調査員に「真似だけさせてください」という言葉を引き継ぐのだ。

 シャルマ氏はいつも、いつも、自分がインド人であることを大事にしながら、相手が日本人であることも大事にし、お互いに折り合い、理解を深めていく道を真摯に探している。
 だからこそ、私はこの本を読み進めるうち、素直に面白がることができなくなってしまう。
 同じような努力を、日本人は積み重ねてきたんだろうか。

 彼は本の最後の方で、こんな風に問う。
「日本人ビジネスマンは、なぜ欧米人のように相手国の文化を研究しないまま、(インドに)やってくるのか」
 多様な民族と宗教を持たない日本人には、異文化人と接する際に前もって宗教文化を学ぶ必要性を感じられないんだ、と、彼は指摘する。

 一方で、インドの経済発展を願って働いていたはずの彼は、日本滞在中に、日本が経済発展を経て失ったモノに目を向け、インドに戻ってから会社を退き、砂漠に囲まれた町で隠遁生活を始めるのだ。

 この本は、訳者の山田和氏がインド旅行中、さびれた書店で発掘したという。その本を買った後、立ち寄った砂漠の中の町で、信じがたいほどの偶然だけれど、山田氏はシャルマ氏に遭遇する。インド好きの人や、欧米人の手による「日本人論」に飽きた人は、ぜひこの「偶然」と逃さず、一読してくれればと思う。

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「マスコミ人と研究者は必読!」の評は本当だった。

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 「マスコミ人と研究者は必読!」と言われ、読んだ。私は前者のほうだ。おもしろい。毒舌だが、説得力がある。

 著者が「ゴミ」と呼ぶ、根拠のない「社会調査」結果を、いくつも記事にした経験を思い出し、「ううう……」とうめきながら、今後は「ゴミ」を増大させないためにも気を付けて記事にしよう(あるいは記事化を見合わせよう)と思った。

 かつてある全国紙の1面に、若い女性のうちかなり多く(数字は忘れたが、6割とか7割とかだったんじゃないだろうか)が「夫婦別姓を選ばない」と答えた、という「調査」記事が掲載されていた。「へええ」と驚いたが、さらにもう一度記事を読んでもっと驚いた。その「調査」は、ある結婚情報誌が実施した読者アンケートだった。
 「結婚情報誌を好んで読む女性」「読者アンケートに答える人」……。そもそも調査対象の母集団に思いっきりバイアスがかかっている。

 こんな調査結果、1面に乗せるなよ。なーんて「目」を養うためにも、これは、情報の送り手側だけでなく、読み手側にとっても必読の書だ。

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紙の本快速・快適家事のススメ

2001/02/13 14:25

気持ちも暮らしもシンプルになれる本!

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 もしもアナタが、家庭で家事の多くを担っていて、仕事と育児とに忙殺されていて、「あああ、家事なんて全部機械がやってくれればいいのに!」と叫んだりしたことがあるなら、この本を読もう。

 女性誌がよく特集する「これであなたも収納の天才」とか「100円トクする家事の裏技」とかの記事をまねするうちに、どんどん家の中がゴチャゴチャしてしまったアナタ。ぜひぜひ、この本を読んで生活改善しよう。

 手を抜いて、ごまかすのではない。手を抜くから美しくなることがある。すっきり仕上がることもある。

 例えば、雑巾はきれいなのを買いそろえて、ディスプレイに耐えるようにする。牛乳こぼしたら、モップの先にセットして、ずずずと拭いて、雑巾はそのまま洗濯機に。
 「え? 雑巾は手洗いして絞って乾かすのじゃないの?」と私は驚いた。我が家では雑巾はみな煮染めの色をしていて、手洗いで落ちない汚れのせいで臭くて、時々乾かし忘れて本当のゴミになってしまったりしてたのに。

 雑巾、買ったぜ。きれいな雑巾だから、洋服と一緒に洗っても平気。洋服と干しても平気。ああ、こんなに簡単だったんだ! という本です。

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紙の本パイロットフィッシュ

2002/10/11 22:59

読後1時間経って、なぜか泣けてくるなんて

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 数年前に作者、大崎氏の「聖の青春」を読んだ時、私は迷わず、その本を「その年一番の作品」に選んだ。何より、取材対象との距離の計り方や、愛情の注ぎ方にとても共感ができた。
 技巧とかそういった類のものを一切かなぐり捨てても、私の心はやはりこの本に向いただろうな、と思えるほど、私はこの本を大事に思っている。今も。

 次に「将棋の子」を読んで、感嘆の声を上げた。文章も構成も巧で、前作とは違う意味で感心してしまったからだ。
 「この人、いつか浅田次郎みたいに短編小説を書いて、どの作品でも必ず泣かせ所を作って、読者を必ず見事に泣かせてしまうような小説家になっちゃうんじゃないかしら」
 思わず、そんな風に感じたものだ。

 今回の「パイロットフィッシュ」がノンフィクションではなく、小説だと知った時、「ああ、とうとう、小説を書かれたんだなあ」とドキドキした。きっと、泣かせる小説に違いない、と少し遠巻きに見ていたいような、それでいて、絶対に読まずにはいられないような、そんな気持ちになった。

 結論からいうと、私は一度も泣かなかった。もっともっと、ひたひたと心に迫ってきてくれる小説だったからだ。
 未だに、これが客観的に見て評価される小説なのかどうか、私には判断できない。ただ、一つだけ分かるのは、この小説は私の心の中に静かに静かに下りてきてくれた、ということ。
 読んでいる間、泣くどころか、ただただ、いい小説に巡り会った幸福感に包まれた。文章も、登場人物も、それぞれに私には心地よかったし、何よりこの小説の主題がひたひたと胸に迫った。

 「一度出会ってしまった人とは、別れることはできない。なぜなら心の中に深い記憶の湖があって、出会った人の記憶は湖の底に沈んでいるから」

 とても、本当にとてもよく分かる。
 本当は以前からずっと分かっていたはずのことなのに、こうして小説の中で言葉にしてもらったことで、私は何だか救われたのだった。

 読みながら、そして読み終えた後も、私は自分が過去に別れてしまった人のことをずっと考えている。
 できることなら、その人にこの小説を手渡してみたい、とさえ思っている。
 読み終えて、1時間くらい経った時、そっと、「あの人と本当に別れたのではなく、あの人とも一緒に生きているんだ」と口に出して言ってみた。
 ただうれしくて、やたら泣けて、どうしようもなかった。

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紙の本光さす故郷へ

2001/03/23 14:48

「戦争を語り継ぐ」なんて無理だと思っていたけれど……

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 シンプルにして胸を打つノンフィクションだった。
 内容に衝撃的な事実があるわけでも、どんでん返しがあるわけでもないのに。穏やかな魅力に包まれた本だと思う。

 ストーリーは、満州で終戦を迎えた一人の女性が、幼い子を抱えて必死で生きる道を探しながら、日本を目指すという話。たぶん、満蒙開拓団などの本を幾つか読んだ経験のある人であれば、話自体に目新しさはないだろう。奇をてらった内容でもない。ある意味でで、平凡なストーリーのはずなのだ。

 それなのに、どうしてだろう。
 とても新鮮な感じがする。
 「戦争」というとても重いテーマを真正面から扱っているはずなのに、シンプルな恋愛小説を読んだ時みたいに、読後、心の中を一陣の風が吹き抜けていくのだ。

 一番最初に思いつく理由は、女主人公自体の持つ人間的な魅力だ。
 戦争、満州からの逃避行、というテーマ自体より、主人公の生き様の方がずっと心に残るくらいに、生き生きとしたその人となりが、このノンフィクションに温かな魅力を与えているのだと思う。
 しかし、本当に大事な理由は、この本の筆者と主人公との特殊な関係にあるのかもしれない。
 主人公は、この若い書き手の「大叔母」に当たるという。当時大学生だった筆者が偶然に大叔母から戦中の体験を聞くところから、この物語は始まっていく。
 当事者の手によるものでも、客観的な書き手によるものでもない、ノンフィクションなのだ。

 「戦争体験を語り継ごう」という運動が、かつてあった。今の30代のほぼ全員が、「両親や祖父母から戦争体験を聞いてこよう」という学校の宿題(たいてい夏休みの宿題だったりするのだ)を経験しているんじゃないだろうか。
 事実、どんな悲惨な体験を書きつづった本よりも、衝撃的だった「はだしのゲン」よりも、肉親の戦争体験は強烈に身体に染みついた。
 まるで自分が体験したことのように、子どもたちは、両親の経験した空襲や飢えを、身体の痛みとして想像することができた。

 この世代に属する私は長じて今、親になり、自分の子どもにどんな風に戦争を語ろうか、と考えた時、途方にくれてしまう。実体験としての空襲も、飢えも、私は知らない。両親の戦争体験でさえ、私の口を経ると遠い昔話になってしまう。両親の話を聞いた時の私自身に痛みをきちんと加味したストーリーを、子どもにきちんと語り継ぐ自信がない。

 だからこそ、このノンフィクションに軽い羨望を感じる。
 この本は、20代の筆者が、大叔母の体験した「戦争」を、同じ女として、世代を超えて身体で感じ、若々しい文章で書きつづったものだ。できあがったノンフィクションは、筆者自身の、当事者としての痛みや感動が、きっちりと行間に表現されている。
 主人公への、筆者の暖かなまなざしこそが、この本の最大の魅力なのだ。

 これからの若い世代が「戦争」を読む時、手に取るのは、こんな本なのかもしれない。「遠い昔話」と読み捨てられないためには、若い書き手が痛みを持って聞いた体験を書きつづるしかないのかもしれない。
 そんな風にしか、これからの私たちは「戦争を語り継ぐ」ことができないのかもしれない。

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逆境の記憶を心に刻みつけたまま生きるということ

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 凄惨なポル・ポトの大虐殺と飢餓の恐怖の中で、生き抜いた少女の半生の物語。人が逆境の中で生きようとする時の力強さを、まざまざと見せつけてくれた本だ。

 父が殺され、母と妹が殺され、姉が治療も施されないまま汚物にまみれて死んでいった記憶を、あるいは終わりのない飢餓の記憶を、作者はどうしてこれほど詳細に、心に刻み続けることができたのか。この点に、作者の生命力のすさまじさを見る。
 辛すぎる記憶を、多くの人は忘れようとする。記憶にふたをしようとする。そうしないと、人は生きていけない。
 作者も、カンボジア難民として渡米してからしばらくは、やはりそうだったという。カンボジアを忘れ、英語を覚え、ピザを思い切り食べ、すべての記憶に蓋をしようとした。

 しかし、成長した彼女は、一気に語り始める。「地雷絶滅キャンペーン」のスポークスパーソンとして。

 父がクメール・ルージュの兵士に連れ去られた後、何度も想像した父の公開処刑の風景を。難民キャンプをクメール・ルージュの兵士が襲った日、頭上をかすめ、隣の少女の頭蓋を陥没させた銃弾を逃れようと身を伏せた時、水たまりの中をもがきながらグルグルと弧を描いていた蟻たちが目に映った事を。
 飢えに耐えられず、家族のための米を夜中にこっそり盗んだことを。その日から、飢えて生気を失った幼い妹の顔を直視できなくなったことを。

 恐怖におののきながら本のページをめくり、読み終えた時、ポル・ポトの時代を生き抜いた女性の生命力の凄まじさの方に、今度は言葉を失っている。これほど辛い記憶をすべて抱えてこれた作者だからこそ、これだけ凄惨な歴史を生き抜いてもこれたのだろう、とただただ驚くしかない。

 少し分量はあるが、それほど難しい内容ではないので、小学校高学年や中学生の子どもたちにぜひ読ませたい。同じ世代(主人公が5〜10歳ごろの物語。一家を支えた兄たちも、ほんの14歳ぐらいなのだ)の生きた歴史を知ってもらうのに、これほどの良書はない。

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紙の本四十回のまばたき

2001/02/13 14:22

なぜか私は読後に泣いてしまったよ

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 重松清氏って、こんな本を書いていた時もあったの?! と感動を味わえる、重松清ウォッチャーには絶対に外せない本。
 重松清というと、めちゃめちゃに文章がうまくて、泣かせ所を知っていて、でも浅田次郎のようなベタベタな泣かせ方じゃなく、あくまで胸にグググっとくるか、せいぜいホロホロっと涙の粒が2、3個転げ落ちるような、抑えの効いた文章による「泣かせ」で、かつリアリティーのある小説を書く……私の今一番好きな作家の一人。

 「定年ゴジラ」にしても、「ナイフ」にしても、「ああ、こんな人生、あるよな」と不気味なくらい思わせるのが上手な作品ばっかり。その中で、この作品はちょっと異色。「冬眠する女と売れない翻訳家」(もう一人重要な登場人物がいるんだけど、ネタバレになるから秘す)たちの物語。

 「生きてる人はもうそれだけで、死んでる人より意味があるんだ。すごいんだ」。メッセージはきっと、そういうことなんだと思う。「この人、これが言いたくて、本を書いているんじゃないだろうか」と勝手に解釈し、読んでる途中ではなく、読み終わった後に泣けた。

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紙の本光源

2000/10/07 04:10

奇妙にして圧倒的な相克小説

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 つくづく、この人は人間の相克を描くのが上手な人だなと思う。『OUT』でも『柔らかな頬』でもそれを感じたが、今回の『光源』は際立っている。
 今回の主な登場人物は、1本の映画を巡る女プロデューサー、かつて彼女の恋人だった撮影監督、新人監督、主演男優、元アイドルの女優の5人。この5人について、それぞれの間の10通り(5×4÷2)の相克を、寒気がするくらい見事に描ききっているのだ。

 こんな小説、見たことがない——と、確かに言えるかも知れない。

 それにしても、著者はいつもどうして、腹に怒りをためたり、嫉妬に狂ったり、復讐に心を揺らしたりする女を、描くのがこうも上手いんだろう。特にイヤな感じの女を描くのがうまい。すごくイヤな感じなのに、魅力的だったりする。
 おまけに今回は「男の嫉妬」を、最近の小説では珍しく克明に書いている。「男の嫉妬」のえげつなさに、正直言ってどきどきした。

 でも、ストーリー展開は腑に落ちない。
 はっきりと書けばネタバレになるので、書き方が難しいが、第四章「狂乱」と第五章「後日談」の間に発生したことこそ、今回のようにすっ飛ばしてしまうのではなく、桐野節でどろどろと書いてほしかった。あれだけの男女を狂わせた映画だからこそ、第四章と第五章の間で行われた映画作りについて、私は読みたかった。

 この小説は、例えば、宮部みゆきなら、高村薫なら、篠田節子なら、それぞれ、この中盤からエンディングまでをどう書くだろう、と想像するとおもしろい。
 高村薫なら、完成した映画も、しなかった映画も、それぞれ詳細に書き連ね、上下2巻になっていたのでは? 篠田節子なら、登場人物のうちの2人くらいが映画製作を突き詰めるあまり、チベットに行ってしまったり……。

 ところが、桐野夏生は最後まで、徹底的に登場人物の相克を描き続けるだけだ。その小説にはカタルシスのかけらもない。
 私自身は、できれば他人との「相克」に気付かぬ振りをし、「交わらない」関係を維持したいと思う性格だ。だからだろうか、好き嫌いで言えば、これは好きじゃない小説の類に入る。
 それでも鮮烈なイメージの残る小説だった。「奇妙にして圧倒的」。そんな読後感だった。

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紙の本放浪の戦士

2001/02/13 14:30

秘密の友だちを心に棲まわせたい人に

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 このシリーズを読み始めるなら、最低4冊は一度に購入しなければなりません。でないと、夜中に続きが読みたくて、悶絶することになるでしょう。恥ずかしながら、三十路の私が何夜も徹夜して、全巻完読してしまいました。

 冷静に評価するなら、小野不由美の「十二国記」シリーズの方がずっと深いし、読み応えもあるし、大人の鑑賞に堪えると思います。

 デルフィニア戦記シリーズの方はもっと気楽に読む本。ちょっとお気に入りの仲間たちのいる世界を自分の心の中に持ちたい10代の少女たちと、「いい加減小難しい話ばっかりじゃ飽きちゃうよ」という疲れた本好きの中年女性(私はこっちの方だ)に、お勧めです。

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