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加藤四郎さんのレビュー一覧

投稿者:加藤四郎

13 件中 1 件~ 13 件を表示

紙の本完本文語文

2000/07/24 18:34

もうひとつの日本語

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 日本人は日常で話す言葉(口語)と、文章で使う言葉(文語)を使い分けてきた。明治の時代に坪内逍遥が「小説神髄」を表し、二葉亭四迷が「浮雲」を書いて、文章の世界に口語を導入する。やがて詩も口語自由詩が主流になり、教科書から古典が消え、気がついてみると文語は失われていた。そして文語がまだ生き長らえていた時代を、著者は文章を介して自由に行き来する。
 文語を失ったことは言葉を失ったということに限らない、と著者は考える。同時に古典を、伝統をも失ったのだ。それは、我々の今の日本語は寄る辺のない、いつ崩れてもおかしくはない言葉なのだということを意味する。
 英語を第二公用語にとの動きのなかで、日本語の行く末を危惧する声も当然ある。しかし著者の意図は警鐘を打ち鳴らすことでも、まして文語の復活を唱えることでもない。失った文語を振り返ることで、今の日本語に少しでも美しさを添えられないか、という、わずかな希望を提示することである。我々はかつて文語という、日本語の双子の片割れを失った。それを胸にとどめ、残されたみなしごを養わねばならない。

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紙の本朗読者

2000/09/02 20:43

「朗読者」であるということ

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 ミステリーふうの巧妙な話立て、感情移入しやすい文体などが評価されているが、それらがこの小説の真価を決しているのでは、もちろんない。
 三部構成で、第一部は少年と年上の女性との関係を恋愛小説のように描いている。第二部は裁判所を舞台としたドキュメントタッチ、三部は事後談というような形で物語は展開していく。そして部立てごとに、主人公と女性との距離が変化していくのも巧妙である。もちろん物理的な距離でもあり、心理的な距離でもあるが、その距離の変化が、彼の「罪悪感」をあおることにもなる。
 「罪悪感」とは、彼の「朗読者」としての罪悪感である。彼はつらい過去を背負っている彼女を救うこともできず、ただ物語を読んでやることしかできなかった。当事者でも、傍観者でもない「朗読者」。それがあらわすのは恋人同士の関係の本質でもあり、世代間の葛藤でもあり、戦争責任へのまなざしでもある。そして、恋愛感情の変遷もあり、世代間の隔絶もあった二人を繋ぎ止めたのも「朗読者」としての彼の立場であり、その関係は最後まで続けられるのである。
 これは罪悪感を感じながらも「朗読者」であり続けた、そうせざるを得なかった一人の男の物語である。「罪悪感」という現代ドイツ文学の重要なテーマを掲げながら、全世界に受け入れられる物語へと昇華したことに、この小説の真価はある。

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紙の本子どもと悪

2000/08/31 15:43

子どもにとって悪とは

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 子どもにとって悪とは何か。著者は臨床心理学者の立場からこの問題に迫る。知人の話から、子どもの「悪」の経験が、その人の成長にどのように影響を及ぼしたのか、またカウンセリングの経験から、子どもの「悪」の行動が親へのメッセージになる場合など、文学作品なども引用しつつ紹介している。また現代の子どもの「悪事」が陰湿化していく現実にも触れ、偏差値教育の悪弊にも筆は及ぶ。
 このように子どもと悪の関係を正面から追及した稀有な著作である。未成年の犯罪が増える一方で、社会における倫理が問い直されている現在、子どもとの付き合い方がわからず戸惑っている親も多いことだろう。そんな親たちにぜひ読んでいただきたい一冊である。

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紙の本戦闘美少女の精神分析

2000/07/22 12:20

オタクの世紀

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 オタク、とまではいかなくても、漫画、アニメに日ごろ親しんできた自分にとって画期的な一冊だと思う。特に前半部、「オタク」のセクシャリティに焦点を当てて、精神分析学やメディア論をわかりやすく援用しつつ彼らの実態を解明していくところなどは非常に興奮させられた。
 ただし、後半部で説明される「ファリックガール」の概念はアニメキャラのすべてに敷衍することはできないだろう。「ナデシコ」のルリが享楽的な戦闘を行っているとは思えないし、あくまで一部のキャラクターの魅力に限るのでなければ納得しがたい。
 とはいえ、これは普段アニメに興味を持たない人にも薦めたいほどの興味深い本だと思う。
 アニメ、漫画に疎遠な人は、オタク達がアニメキャラをあたかも実在するかのように追いかけるさまを奇異に思いがちである。しかし彼らを理解することは、肥大した文化と向き合って生きていかねばならない現代人にひとつの答えをもたらすかもしれない。

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紙の本きれぎれ

2000/07/22 11:39

日本の小説界を爆走する

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 町田康の文章はデビュー時から既にある完成に達していた。そして前著「屈辱ポンチ」頃から、彼の文章に飽きたという声も聞こえてきていた。しかし町田康は、この「きれぎれ」によって意図的に文体を崩すことで、語りのリズムを前面に押し出して見せた。この本を読む人は、あるいはその混沌とした話運びに戸惑うかもしれない。しかし彼の仕掛ける語りの爆走は、有無をいわせず結末まで読者をひきつけて離さないだろう。ここで彼の物語は真に「語り」の疾走感と一体になったのであり、町田世界の更なる展開を予感させる。

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美術史の中の書物

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 現在書誌学について書かれた本は大量に出回っているようだが、この著作は本の歴史を美術史の中から紡ぎだそうとするものである。
 聖母子像や中世の静物画から、日本の絵巻そして現代美術と、東西の美術史をひもときながらそこに本の存在を見出し、書物が人々にどのように読まれてきたのか、その変遷を新しい視点によって明らかにしている。
 読者は図版によって眼を楽しませながらも、人類の歴史とともにあった書物の歴史に思いをはせることができるだろう。そしてその思いは、他ならぬ現在の、本とともに生きる我々の生活に行き着くのである。

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紙の本路地

2000/09/01 08:42

日常を生きる人々

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 古本屋の主人、図書館の事務員、老年の詩人……。そんななんでもないような人たちの、ほんの少し歪んだ日常を書く七つの短編を収める。どの主人公も、ほんの少し傷つき、ほんの少し救われながら、これからも生きていこうという意志をもって日々を送るさまがえがかれていて、なんとなく一冊読めてしまう。
 またそれぞれの作品の登場人物に微妙なつながりがあり、鎌倉の古都という小宇宙を書き出したといった感じだ。また作品の合間に挿し入れられる、町の情景を書き出した掌編も魅力的である。谷崎賞受賞作。

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紙の本インターネット・マザー

2000/08/31 16:15

誇大なる自己を抱えて

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 ラカン派の心理学者である著者が、現代日本のさまざまな事象について論じた評論集である。特に若者の心理を、サブカルチャーを引き合いにだしながら親しみを持った調子で書かれており、また心理学者の説を所々で参照し、説得力を増している。
 私が興味を持ったのは、コフートの「誇大自己」を引用するくだりである。幼児期に得られる自己についての万能感「誇大自己」が、青年期になるまでに壊されず温存されることで、自分の特別さにすがろうとする現代の若者が出来上がる、ということであり、若者の心理をよく説明できていると思う。
 自分の存在に不安をもたざるを得ない現代の若者の心理を鋭く突いており、老若問わず読むに耐える一冊である。

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あっち側のポルノ

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 この本は、世界の女性たちが、ポルノという男たちの権力によって虐げられ、さらにその権力によって、虐げられてきた現実を歪曲されてきた事実、そして今もってされているという事実を告発するものである。古今のポルノグラフィをくだくだしく引用していくくだりは少し退屈に感じるが、男の権力というものがどのように形成されていくか、そしてその権力のためにどのようにして女が卑しめられるのか、といったことが精緻に書き連ねられていくさまは啓発的である。しかしあとがきにもあるように、アメリカと日本のポルノグラフィの事情の違いも考慮に入れる必要があるだろう。歴史的に、アメリカではポルノグラフィが人種差別と密接にかかわってきたこと、また日本では写真、映像技術の発達が遅れたために、実在の人間を使ったポルノの発達が遅れたこと、などである。
 この書に啓発されてあらゆるポルノグラフィの廃止を唱えるのは短絡以外の何物でもないが、女性が搾取されているという現実を知るための有用な書である。

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紙の本作家の値うち

2000/07/22 13:09

我々は本当に文学を読んでいるか?

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 文学作品を点数で評価することに対して、異議を唱える人は多いだろう。「文学の価値は読者によって決められるべきだ」とか、「じゃあ百点満点の小説っていったいどんな小説だよ」だとか。
 しかし点数化によって失われるものを十分承知で、この本は書かれている。それをさせたのは、現実にはびこっている文学の中の権威主義だということが、筆者の言葉から読み取れる。既に体質化してしまったこの文学の状況を打開するためには、正攻法では駄目だということだろう。かといって、この本に書かれている点数を鵜呑みにしてしまっては、この本の主旨を理解したとはいえない。読み取るべきなのは筆者の姿勢である。
 読者は実は弱い立場にある。実質的に文学の価値を決めているのは、既成の作家が審査員を勤める文学賞であり、高名な批評家である。読者はそれに従って読むものを選ぶ。もちろん何らかの形で価値は提示されなければならないと思うが、その「価値」は押し付けられる一方なのだ。われわれは本当にその作品の価値を認めて読んでいるのだろうか。そう疑うことを思い出させてくれたというだけでも、この本には値打ちがある。

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紙の本カブキの日

2000/08/31 15:29

伝統のほうへ

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 ポストモダン文学の先鋭といわれながら文学賞には恵まれなかった著者の、三島賞受賞作である。著者自身言っているように、かつての作風から「伝統的なもの」への傾斜が見られるが、彼の作風のウリであった、細部へ迫る迫力が薄れており、「伝統的なもの」がそれを十分補っているかどうかは疑わしい。
 主人公の少女蕪(かぶら)は、若衆の月彦に連れられ、異次元的な空間をさまよい、そしてカブキにおける自分の使命を自覚していく。このような筋を伝統の再生のプロセスと見ることができるようだが、異次元的な空間がSF的な描写をされるのみで、物語自体の魅力は薄い。前衛を走ってきた著者の過渡期的な作品と見るか、それとも行き詰まりを示しているのか、答えは以後の作品に表れてくるだろう。

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紙の本花腐し

2000/08/31 13:08

よくできた作品

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 実に芥川賞らしい作品だ。格調の高い文章、ちょっと哲学的なところもある会話、セックス描写など、受賞の条件がそろっているといった感じがする。ここに収められている二つの作品は、どちらも主人公の人生とその人生の舞台である場末の情景をしめやかな性のイメージで捉えるといったもので、その試みは十分に成功している。しかし、読後にどうしても物足りなさを感じてしまう。それはどちらの作品も、作品として完成されすぎている、あるいは一種の枠にはまりすぎているためだろう。作者の文学的な素養が、逆に物語の幅を狭めているということだろうか。なんにしろ、「よくできた作品」が必ずしも「優れた作品」ではない、ということがよく表れている。

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紙の本共生虫

2000/07/23 09:13

「引きこもり」の体裁を借りて

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 「引きこもり」という社会現象に材を取り、主人公がリアルを獲得していく過程が緊迫感のある筆致でかかれている。小説としての面白さはあると思うが、「引きこもり」という題材が十分生かされているとはいいがたいようだ。青年の暴力への衝動と戦争への憧憬、現代社会の欺瞞など、作者の長年の主題が時流に乗って書かれただけだという感じがする。そもそも「引きこもり」を社会的に捉えようとする意志が感じられない。村上龍のファンなら申し分のない出来かもしれないが、「引きこもり」についてしりたいというなら、斉藤環著「社会的引きこもり」、田口ランディ著「コンセント」をお勧めする。

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