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石堂藍さんのレビュー一覧

投稿者:石堂藍

1 件中 1 件~ 1 件を表示

アバラット

2003/01/07 12:06

この物語は、常に二面性を持ち、ストレートな割り切りを許さない。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ホラー作家として知られるイギリス作家バーカーは、ファンタジーの書き手でもある。新作『アバラット』はヤング・アダルト向けのファンタジー・シリーズで、バーカーならではの別世界アバラットが舞台だ。
 アバラットは25の主要な島からなる群島である。島にはそれぞれに、24時間による時間が割り当てられている。例えば真夜中の島ゴルゴシアムはキャリオン卿の支配する恐ろしい島で、午後三時の島ノンスは夢の島であるというように。そしてどの時間にもあてはまらない25番目の島は、アバラットの魔法の源泉であるとも言われる、神秘の島である。
 アバラットには魔法使いや奇妙な生物や亜人種が大勢いるが、ここにも通常の物理的法則や生活の法則は働いている。その限りでは現実と変わりがなく、いかにもファンタスティックではあっても、単純に夢のような世界とは言えない。しかもアバラットは現実世界とつながっていて、かつては交易も行われていたらしい。彼らはこちらの世界をヒヤアフターと呼び、夢のような世界だというお伽噺を半ば信じている。アバラットとヒヤアフターは、要するに同じ次元の存在なのである。
 主人公のキャンディはヒヤアフターの少女である。飲んだくれの父、貧しい家、目の敵にする教師、いじめる級友……キャンディには居場所が無く、ひょんなことからイザベラの海を呼び寄せ、アバラットに到達する。そしてめくるめくような体験を味わう。物語は、魔法的な別世界でのキャンディの冒険を描いたものと要約できる。
 キャンディは現実から逃避するためにヒヤアフターを飛びだすのだが、キャンディは実はかつてはアバラットに属していた存在であり、キャンディの旅立ちは同時に帰還でもある。主人公からしてそうであるように、この物語は、常に二面性を持ち、ストレートな割り切りを許さない。バーカーの描く怪物的キャラクターが魅力的なのも、みなこうした二面性を備えているからだろう。
 この二面性ゆえに、物語の今後の展開もまた、単純であることは許されない。物語がどのように動いていくのか、続刊の待たれるシリーズである。(bk1ブックナビゲーター:石堂藍/書評家)

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