ばいきんまんさんのレビュー一覧
投稿者:ばいきんまん
プロテスタンティズムの倫理と資本主義の《精神》
2000/12/14 20:52
これぞ、傑作ホラー
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読書家なら、一度は名前を聞いたことのあるマックス・ウェーバー。代表作にも数えられるこの本、普通の人なら難しい本だと敬遠して、手に取ることもないでしょう。
実際、むずかしい(^_^;)。でも、我慢して読み進めていきなさい。すると最後には、ウェーバーがキングやクーンツといったホラー小説の大御所にひけをとらない「作品」を書いていることがわかるでしょう。
宗教改革の後、プロテイタントの神様がどれほど冷酷なまでに禁欲を強いたか。冷酷な神にご愛顧を得るために信者がどれだけ苦労したか。そんな神へ帰依の道が、どこをどう間違って、金儲けに精を出す「資本主義の精神」に変貌していったのか……。
怖いぞぉ……背筋が震えるぞぉ……ホラーは小説やマンガや映画だけにあるわけじゃないのだ。論文だって、立派なホラーになる。
アラン・ケイ
2001/03/08 13:05
21世紀にも色あせない価値ある論文
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古くからのマックユーザーなら知らないものがいないアラン・ケイ。彼がゼロックス・パロアルト研究所で1972年に作ったALTOというワークステーションをスティーブ・ジョブスやビル・ゲイツらが見たところから、GUIインターフェイスを持つMacやWindowsが生まれた。
この本は、ALTOの制作前後に書かれたもので
「パーソナルダイナミックメディア」
「マイクロエレクトロニクスと、パーソナルコンピュータ」
Mac128kが売り出されたころに書かれた
「教育技術における学習と教育の対立」
「コンピューターソフトウエア」
の四つの論文と訳者の解説からなる。
読者は、「パーソナル・ダイナミックメディア」でいきなり
「あらゆる人を未来のユーザーと仮定したら、ダイナブックはあらゆる人の役に立つだろうか。それともあまりの多くの人のために、あまりに多様な機能を作ろうとする重みに、つぶされてしまうだろうか。潜在的ユーザーは極めて幅広く、特定の要求を意識してダイナブックを設計したら、機能だけは豊富だが、結局誰の要求も満たすことのない、ただの寄せ集めのがらくたになってしまうだろう」
なんて文句を読んで驚くだろう。これはパーソナルコンピューターなど世界に一台もなく、パソコンができるきっかけとなったマイクロチップの低価格化を推し進める電卓戦争真っ盛りだったころに書かれた論文だ。なのに怖いまでに現代を見通している。こんな予言が盛りだくさん。(注:ダイニブックは東芝の商標名の意味ではない。この本を読めばなんのことかわかる)
だが、この本の凄みはそんな予言的な部分にあるのではない。天才ケイが何を理想とし、理想というハードルの高さに苦しみ、妥協を余儀なくされてきたか。その過程を追っていき、今のパーソナルコンピューターはどこからおかしくなってきたかを読み取るのが正しい読み方だ。
もともと誰にでも役に立つ機械を作るはずだった彼の関心は、時を経るごとに子供に移っていく。目次を読んで、読者はコンピューターサイエンスに教育論が入っていることに違和感を抱くかもしれないが、これも読めば形を変えたインターフェイス論だと気がつくだろう。コンピューターを子供に触らせ、リテラシー云々と言っている人たちは、この「教育技術における学習と教育の対立」だけでもぜひ読むべきである。「コンピューターに子供をプログラムさせたいのか、それとも子供にコンピューターをプログラムさせたいのか?」と問い、子供とコンピューターが危険な出会いをしないように守り、コンピューターに関心を持たせるようにしなければならないと、ユーザーインターフェイスという言葉を最初にこの世界に持ち込んだ人間が言っているのだ。
「コンピューターソフトウエア」は、そのユーザーインターフェイスという言葉を世界最初に、彼が使った論文だ。ここにあるVISICALC(世界最初の表計算ソフト)を彼が引き合いに出すところに、彼の敗北を見るのは私だけだろうか。
こういうものを読んでいると、横文字を何度も連呼して情報化社会云々なんて言う輩がうっとおしくて仕方がなくなる。一流に触れれば、二流以下の言説の価値がわかる。ダグラス・エンゲルバードに次ぐ天才、ケイの論文の価値は二十一世紀にも不朽である。
テロ爆弾の系譜 バクダン製造者の告白
2001/06/30 00:18
これぞ爆弾本!
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爆弾作りに惹かれ、趣味が高じてホントに爆弾を造ってしまった大島渚の友人でもある録音技師の爆弾本(笑)
昔の事情からしてぶっ飛ぶ。今の若者がパソコンに詳しいように、昔の少年は武器について詳しかった。戦前の少年誌には活動映写機と並んでピストルの広告が載っていた! 中学校に射撃クラブがあって、実弾を撃つのも普通だったそうな。特に筆者はもともと好き者のに加えて、親戚に陸軍火工廠の技手がいたこともあって爆弾の製造技術に詳しかった。そんな時代に生きた青年があるとき「球根栽培法」を手に入れる。なんだこれは? インチキなことばかり書いてあるじゃないか。「球根栽培法」はインチキだと言いふらしていると、ある組織が「爆弾を造ってみないか」と近づいてきて、よっしゃと請け負った。
物語の合間に歴史的テロに使われた爆弾についての詳細な解説があり、その性能、信頼性などの解説があったりして、これがまた興味深い。技術的に検討してみると人一人殺せないようないようなのも多かったようだ(笑)。
結末は、大島渚が寄せた序文にある通り、これを映画にしても誰も信じないだろうと思えるモノ。日本でも裏では熾烈な諜報戦があったことが伺える。
ただし、これ読んで爆弾を造ろうとしても無駄だそうです。大事なところは一切書いていないので、素人がここに書いてあるようにやったら命のの保証はないそうです。
つきのふね
2001/06/30 00:15
子供だけに読ませるのはもったいない
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いつも一緒だったさくらと梨利、間抜けなボケ役勝田くんがからむ青春物語。桜沢エリカのメルヘンタッチの装画に妙に惹かれて買ってみたが、思わぬ拾い物。ハードボイルド・冒険小説好みの読者に特に勧める。
ある日突然そよそよしくなったさくらと梨利。仲たがいの原因は、万引きグループのルール違反をさくらがやったから。万引きで捕まったさくらは不思議な雰囲気を持つ智という青年に助けられる。孤独になった不安を埋めるため、智の家に出入りするさくら。なんとかをさくらと梨利を仲直りさせようとする勝田。そんな折りに、地域で連続放火事件が起きる。
巧みなミスリード、あっと驚くどんでん返し。ミステリとしても第一級だが、それ以上に重い素材を扱っているのに、メルヘンタッチの透明感に溢れる文体が素晴らしい。エンディングは感動極まる。生きる力を取り戻す傑作。
ゴッドファーザー 上
2001/03/08 12:59
最高に美しい悪漢の物語
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言わずと知れたマフィア小説の最高傑作。フランシス・コッポラの映画の原作としても有名。アメリカ社会の暗黒面に焦点をあて、それまでただの悪漢扱いされていたマフィアに骨肉を与えた仕事は永遠の輝きを放つ。
旧きよき時代の覇者だったコルレオーネファミリーが麻薬取引をめぐる抗争に巻き込まれ、大敗から逆襲へ、そして同時にファミリーの構造改革に転じていくストーリーは、残酷で、壮重で、美しい。
イタリアで権力に抵抗する組織として生まれたマフィア。権力のお仕着せではなく自らの作った道徳に忠実であろうとする組織が犯罪にかかわるのは、権力が自らの犯罪を正当化することに対する叛逆のためだ。だが、権力のみならず、反権力も堕落する。反政府勢力が、ただのテロリスト集団に堕した例は世界中に腐るほどある。
自らの正義を維持するためにファミリーのドンとなってしまったヴィトー・コルレオーネは政府やFBIから睨まれても、イタリア移民の権利を守る、尊敬される男だった。息子たちは正業に就き、ごく普通の米国市民として生きてほしかった。殺し屋百人千人より、一人の弁護士の方が強く、金を稼ぐことがある。息子達がアメリカで幸福に、理想に忠実に生きられる正業に就く。それが理想的な生き方をするために、手を汚さざるを得なかった彼の願いだった。そのため、彼は政界や経済界にマフィアの中で最高のネットワークを構築した。だが麻薬という金のなる木に他のマフィアが興味を持ちだし、彼のネットワークを利用したがったときから彼の計画は狂っていった。血で血を洗う抗争が始まった……一応、彼の三男であるマイケル・コルレオーネが主人公になると思われるが、何よりこの作品の読みどころはヴィトー・コルレオーネの生き様だろう。
決断の条件
2001/01/22 04:30
会田リーダーシップ論の集大成
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新潮選書を代表するロングセラーのひとつ。
マキャベリ「君主論」や「韓非子」などの古典から抜粋した三十の言葉を平易な日本語に直し、一つ一つに会田流の解説を付けてある本。
選んでいる言葉は、いずれも重大な意思決定を行う者なら必ず知っておかねばならないことばかり。だが、人によってはこの本は毛嫌いされる。人間のもつ、どうしようもない負の側面を徹底して見据えて書かれているからだ。たとえば、憎まれ役は他人にやらせろといったような、日本人のメンタリティを逆なでする言葉が厳選されているからだ。
一生懸命やっても報われることはないんじゃないか。真心をもって仕事をしても応えてくれないじゃないか……なんて不満を持つ人は、読めば目から鱗が落ちる本だ。一生懸命や真心で自分を説明するのは、思考停止しているだけだと思い知るだろうから。
マホメット
2001/07/18 22:48
コンパクトな入門書
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世界的に有名な日本人イスラム学者が書いたマホメット論。著者は若き時代に熱病に取り憑かれたようにこれを書き、学者として脂が乗りきったころに一度書き直しているが、それをまた昔の形に戻したという。おそらくは若い人たちに自分のかつての感激を伝えたいという意図があったと思われる。学問的論文というより、小説のような趣のある本だ。
もっともマホメット論と言っても、前半はほぼマホメット以前のアラブ世界の解説に頁が費やされる。砂漠の民の人生観が語られ、これに対していかにイスラムの教えが画期的だったのかを我々は知ることができる。
またマホメットがもともと小心者であり、強烈な姉さん女房に助けられながらこわごわ布教を進めていく過程。ヒジュラ前後のマホメットの心の動きがコーランを根拠にして語られるのが興味深く、さながら歴史小説を読むようだ。
伝説の類いを排し、確実な部分のみを書いているせいか、多少しり切れトンボのような印象がないこともない。が、イスラムを知るうえでコンパクトで面白い入門書と言えるだろう。
ブラヴォー・ツー・ゼロ SAS兵士が語る湾岸戦争の壮絶な記録
2001/03/08 13:08
ほんとかよと疑いたくなる面白さ
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タイトルは湾岸戦争時に英国軍特殊部隊SASが使った作戦名。この作戦に指揮者として参加した著者の体験記。
すでにイラクがイスラエルにスカッドミサイルを発射していた。作戦内容はイラクに密かに侵入し、スカッドミサイル発射阻止のために地上情報線を破壊せよせよというもの。無線通信はすでに沈黙させてあるが、地下に埋設された光ファイバー線は生きていた。ついでに、できればスカッドもいくつか破壊せよ。地上軍の進攻はまだ遠い1991年一月。筆者は8人構成の部隊を率いてイラク国内深くに潜入する。危険な任務なのはわかっているが、計画は万全のはずだった。
ヘリで密入国したまでは良かったが、目標に近づくと思った以上に敵は多く、守りは強固だった。すぐに見つかってしまい、筆者の部隊は必死に逃げ回るのだが、さすがは超一流部隊の猛者たちだ。彼らを追いかけるのにイラク軍は250人の死傷者を出したという。
だが、敵はイラク軍だけではなかった。隠れる場所がほとんどない砂漠。酷寒の砂漠気候が常時襲いかかってくる。その上通信状態が悪いものだから状況報告の通信も届かないので助けも来ない。夜中に移動し、やっと朝までに隠れ場所が見つかったものの、朝起きてみると目前に敵が駐屯しているなんてことはざら。それでもなんとかシリア国境まで著者たちはたどり着くが、そこでとうとう捕まってしまう。
著者らSASのメンバーは、昔の日本の学生寮の住人や体育会のような体質をもっているらしい。だが困難な状況の中にも、ユーモアを忘れない。監禁された部屋の中、イラク兵があやまってM203擲弾を発射したが爆発せずに済んだあたりなど、ものすごく怖い体験だったはずなのだが、読んでいて笑ってしまう。仲間は売れないが、自分のことなら時々何とでもなれとふてくされて、要らぬ暴言を吐いて必要以上に殴られるくだりなども面白すぎて、ほんとかよと疑ってしまうくらいだ。
拷問を受けながらも発狂せず、相手を試しながら駆け引きを続けるしたたかさは、そんな著者たちの性格が好影響を与えているように思えた。小説では「戦闘マシーン」は、なんらかのトラウマを抱えている設定になることが多いけども、恐怖や苦痛にとことん耐えることができるのは、本当は著者たちのような超ネアカ人種でなければ無理なのかもしれない。
開発フィールドワーカー
2001/02/09 12:34
国際ボランティアって、政治家だったんだ。
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海外青年協力隊など、国際ボランティアにあこがれる人は多い。私などもそうだったが、自分の無芸を省みて参加しようとはしなかった。だからこうしたボランティアに携わる方々を尊敬していたのだが、この本を読んで、そんな考えは吹き飛んだ。
著者の野田直人氏は、国際協力をやる周囲の同僚から「厳しすぎる」と言われるらしい。冗談じゃない。野田氏の考えはごくまっとうなだけだ。この本に書いてある考え方が厳しいと思えるような人たちには、国際協力なんて仕事はやって欲しくないと思う。
それにしても笑ってしまうのは、著者が経験したタンザニアやネパールなどの地域住民の姿は、見かけは全く違っても、行動様式は日本の地域住民にそっくりだということ。都会人にはわからないかもしれないが、田舎ではこういうタイプの人は多いんだ(^_^;)
だから、国際協力を志す人だけでなく、自治会役員から代議士まで、政治に携わる方のガイドブックとしてもおすすめだ。
その意味で、本のタイトルをもうちよっと考えたほうが良かったのではないかと思う。国際ボランティアなどをする人だけが読者対象なら、その世界での著者の知名度も高いので「開発フィールドワーカー」というタイトルでいい。だが、表紙にある「自分を磨くための65章」なんて言葉から察するに、版元は国際協力の経験を伏線とした生き方論としても売ろうと考えていたはずだ。そう考えるなら、このタイトルはあまりに素っ気ない。
そして粛清の扉を
2001/01/28 20:26
一箇所だけ、アンフェア
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この作品の魅力は、何と言ってもリアリティを無視した設定にある。うだつの上がらぬ、気弱な中年女教師が、テロリストに変貌して大活躍なんて、あり得ると想像するほうがおかしい。
もちろん、著者は読者がそんな読み方をするのは百も承知だ。小骨がノドに引っ掛かったような違和感を読者は保持したまま最後まで読まされてしまう。そして最後は赤川次郎得意の「あれ」で終わらせる。で、「あれ」の解明のために続編が書かれるようだ。うまく逃げたな(笑)
ただ一つだけ苦言がある。一箇所だけ明らかなアンフェアがあるが、これは簡単に処理できるはず。いかにも映像作家が書いたと思える文体をミスリードのテクニックにして成功しているのに…… これは編集のポカミスだ。次作ではないように頼みます。
犠牲の羊たち
2001/01/27 14:47
ミステリーなのに純文学?
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これは読む人を選ぶミステリーである。言い換えると、本格ファンより純文学ファンの方が、この作品を高く評価すると思う。
上品かつ透明感のある濃密な文体は、スピーディーに進む物語に慣れた人には、第一部、二段組の125ページくらいまで忍耐を要求する。主人公たちが置かれている心理的な状況を描くと同時に、謎の提示にそこまでかかるからだ。
今はニューヨークで暮らす、どこにも所属意識を持てないイスラエルの英雄の次男リューク。父の訃報を知らされ、イスラエルに戻った彼を待ち受けていたのは、リュークがまだ幼かったころに軍から脱走し、父親の名誉を傷つけた長男ダニーの遺産相続に関する指示書だった。行方不明だった兄はどこに…… 兄を探す旅は、次第にシェークスピアばりの「父殺し」の様相を帯びていく。
社会から尊敬される父の姿と隠された過去。イスラエルを創ることに命を懸けた世代と、イスラエルがすでに存在している世代の相克。父から離れ、世界のどこにも居場所がない自覚を持つ孤独感…… アダルトチルドレン絡みの小説に飽きたら、歴史の重みに翻弄される孤独な登場人物たちの姿は新鮮に見えるだろう。
最近、ジョン・ル・カレや、グレアム・グリーンを本屋で見ることは少なくなったが、著者ニール・ゴードンを彼らの後継者とする欧米の書評は確かに的を得ていると思う。
日本で主人公たちのような立場にたったことのある世代といえば、ゲバ棒振っていた世代の人だと思うが、そんな世代の人はこの本をどう読むだろうか、興味がある。安保・全共闘世代の方の書評を待ちたいものだ。
斎藤家の核弾頭
2000/12/14 20:54
一般にはお笑い、公務員にはホラー
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篠田節子が、最初に直木賞にノミネートされ、落ちたのにキレて無茶苦茶やったれと思って書いたという近未来お笑い小説。ごく普通の小市民・斎藤さんちが国家権力に騙され続け、怒り狂って最後には手製の核ミサイルで国会議事堂を狙うという荒唐無稽なお話。
政府が斎藤家に浴びせる苦難は、いずれも、いかにも公務員がやりそうなことばかり。荒唐無稽な小説を読んでいるのに全然荒唐無稽に思えない。非常によく考えられ、構築された未来世界のプロットと、篠田節子独特の毒が絶妙のバランスでぐいぐい読ませ、笑わせます。
ところが、これを笑えない人たちが一部にいます。善良で頭のいい(一部の)公務員です。読ませると、ページをめくるごとに吐き気がしたり、頭がかっとなったり、怖くなって冷静に読めないようです。彼らに言わせると、一歩間違うと、自分たちが斎藤さんちを苛めるようなことをやってしまいかねない……優秀な公務員は、自分たちがどれほどの権力を持っているのか、きちんと自覚しているのですね。自分たちが加害者になるかもしれない恐怖。それが、ものすごいリアリティで迫るホラー小説に見えるようです。
作家の元公務員というキャリアが、こんなにところで活かされるのか……軽いお笑いを目的として書かれた小説だけど、読む人が読めば、骨太なホラー小説とも読めるようです。
物語の体操 みるみる小説が書ける6つのレッスン
2001/01/23 22:41
小説家志望より哲学趣味にウケるかも
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帯で、高橋源一郎が「『文学』を神秘化するあらゆる試みを粉砕しようとする。その徹底の度合いにおいて、この本以上のものをぼくは知らない」と書いているが、高橋くん、もうちょっと勉強しなさい。クーンツの「ベストセラー小説の書き方」があるじゃないか。若桜木虔の公募ガイドの連載はもあるぞ。丸山健二の「生者へ」だって、渡辺淳一の「創作の現場から」だって、森雅裕の「推理小説常習犯」だって文学の神秘化なんて一切してないぜ。
著者の大塚さんは、専門学校で高校出たばかりの生徒にジュニア小説の書き方を教える講座を持ち、そこでの講義をもとにして書いたそうだ。
読者対象として、いわゆる小説が飯を食うより好きという人種ではなく、フツーの人に置いている。しかし、批判が怖いのかあちこちに「文学」の世界の人の書いた小難しい引用をつけて論理の補強をするのはいただけないなぁ……。「とりあえず盗作してみろ」「方程式でプロットがみるみる作れる」「村上龍になりきって小説を書く」……一見過激そうだけど、似たようなことを言っている人は他にもいる。
だが、ゲームやマンガの世界の影響を今の作家がどれだけ受けているのかの構造的な分析や、今の創作者の創作能力の欠如の原因を五つの技術のどこが欠けているかで説明するところなどは、大変感心した。
でも、正直なところ小説を書く人より、東浩記あたりを好む人の方が面白く読むかもしれないね。
新左翼運動その再生への道
2001/01/23 22:36
新左翼から日本が見える
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著者小西氏は反戦自衛官の草分け的存在。思想的には中核派に近いところにいたが、中核派にいたことはないそうだ。
「本書を、権力との闘いにのなかで斃れた戦士たち、内ゲバによって斃れていった戦士たちに捧げる。願わくば、本書がこれらの戦士たちの家族・友人たちの心に安らぎを与えんことを」
とある冒頭からもわかるように、新左翼運動に対する反省から書かれている。白井朗の「中核派民主化宣言」と違い、感情面は押さえられているので部外者にも比較的読みやすい。
注目すべきは、内ゲバなどの要因を革マルや中核派などのイデオロギー対立だけでなく、当時の日本人の民主主義的成熟度の低さにも求めていることだ。なぜなら、あの当時イデオロギー対立は外国の新左翼運動にもあったが、外国では内ゲバはなかった。なぜ内ゲバが日本だけで起きたのか。鋭い指摘だと思う。そして、この指摘を援用すれば今の一部の企業経営者達のイデオロギー、すなわち日本の会社の思想も見えてくる。
日本の新左翼は敵の中に味方を作るより、味方の中に敵を作ることに熱心だと小西氏は言う。新左翼を自分の会社と言い換えてみるて納得するサラリーマンもそれなりにいるだろう。
偏狭な思想、呆れるような時代認識など、新左翼を毛嫌いする人が多いのはわかる。実際筆者も大嫌いだ。しかし、こうしたモノを生んだ根は日本社会のあり方、そして我々の精神構造の中にもあることを理解できるなら、この本は面白く見えるだろう。
墜ちた鷲
2001/06/28 00:53
不運
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サントリーミステリー大賞を取った後、夭折した作家の遺作。過去に他のミステリーの賞に何度か落ちていて、森村誠一からは、かなりきつい講評をもらっている作品の最終改訂版。
心を病んだ少年が誘拐された。犯人から身代金の要求はなく、犯人の要求は子供を救いたければ、ヘリと超一流の腕を持つパイロットを用意せよのみ。冒頭から誘拐された子供の無線通信、誘拐事件発生の次に救出ヘリの搭乗準備と二つの時系列で物語は進む。
どちらかというと古い構成。定石を踏んだトリック。ミステリーとしては並の作品だと思う。しかし、登場人物はどれも魅力的で、事件発生によって変わっていく人の姿は心地よいものがある。
ミステリーの形式にしなければ、傑作になったのかもしれない。しかし、ミステリーにしなければ。この作家はデビューできなかったのだろう。ジャンル不問の長編エンタテイメント賞がなかったことが、この作家の不運だと思う。
