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yukatti (香雪雑記帳)さんのレビュー一覧

投稿者:yukatti (香雪雑記帳)

4 件中 1 件~ 4 件を表示

紙の本女性署長ハマー 上

2002/01/16 04:22

警察シリーズ三作目。市警から州警察署長になったハマー、彼女と共に州警に異動したアンディ、二人のどたばた奮闘記。

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 原題: Patricia Daniels Cornwell, ISLE OF DOGS, 2001. 本作はコーンウェルの小説では初めて、矢沢聖子氏が訳されている。

 読むに耐えない、くだらないとところどころで思いながらも下巻に入ると、波に乗れて一気に読み上げられた。やはりコーンウェルは並の作家ではなく、抜群に「読ませる」作家なのである。で、特に下巻に顕著だが楽屋落ちネタ炸裂。懐かしの検屍局とバージニア州のためにばりばり働いている検屍局長ドクター・スカーペッタも出てくる。

 しかしこの小説はコーンウェルにとっては一種の「挑戦」、実験的野心作、ではないだろうか。登場人物はすべて人種・出身地・職業などからなる「世間の偏見」とステレオタイプによって造形されているようだ。つまり登場人物はケイを除き記号的存在、カリカチュア(風刺画)そのものであり、悪党も狂言回しも権力者もすべてステレオタイプな描かれ方で俗悪、作者はそれらを笑いのめすものとして書いているってことで、要するにこれは伝統的なポンチ画風・パンチ風の風刺小説であり、そのスタイルをとったユーモア悪党小説、コメディ小説(しかしブラックな)なのだ、と考えられると思う。硬直した官僚機構、プロ意識に欠けた仕事をする人たちが次々繰り出すどたばた。読者は権力や権威、日常の決まり切ったうんざりごとのくだらなさを笑い、うさ晴らしをする…のがこの小説を読む作法として(?)正しいのであろう。そして次第に浄化され自分を取り戻していくポッサムとレジャイナ、知事クリムから得られるメッセージは、「やるしかないよ」JUST DO IT(下p.226)、自力で立ち上がり歩み出すこと。

 ただ残念なことに滑稽さがユーモアに昇華しきれておらず、風刺小説としてさらにブラッシュアップすべき余地があるように思った。個人的な好みを言うなら、痛快に読むために小説の攻撃対象を権力・権力者に絞ってほしい。また、人種を職業に絡めた紋切り型の描写はなるべく避け、外見をネタにせず、地に足のついたユーモアの発揮を願いたいところだ。

 それにしても検屍局長ドクター・ケイ・スカーペッタだけはやっぱり特別で(というかその真面目ぶりがかえって微笑ましい)、検屍官シリーズが懐かしく、コーンウェルにはケイの外伝的な作品をもっと書いてほしいなあ、と思ったりもした。

 ということで、逸脱した笑い+コーンウェルの作り上げた小説世界のなかでの内輪うけどたばた満載のこの小説、案外、あなどれないです。
(上記:香雪雑記帳掲載書評を改稿)

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紙の本サザンクロス

2001/01/25 15:35

3人の世直し道中はどこまで続くのか。—時事川柳的小説

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 ハマー、ウエスト、ブラジルのトリオが、『検屍官』シリーズ・ファンにはお馴染みの町、バージニア州リッチモンドにやってきた!!ハマーがリッチモンド市の(女性)警察署長となったのだ。『スズメバチの巣』に続く、警察小説シリーズ第2作である。

 ただし前作とは作風が異なり、ずいぶん読みやすくなった。終わりのほうのパレード・シーンが特に美しく、開放感にあふれている。このシリーズの行方は次の第3作でさらに明らかになるだろうが、どうも深刻な顔をして読むものではない、というのはわかってきた。

 だが、何も中身がないわけではない。これはユーモア、軽み、見立て遊びを含んだ時事小説だ。コーンウェルが川柳SENRYUを知り、読んでいることはまずないだろうが、いわば「時事川柳」的小説である。そしてこれは、作家として自分の筆力にある程度自信をつけたコーンウェルの、より上を目指してのひとつの挑戦と冒険といえる。

 主要登場人物三人の姿のうち、特にアンディ・ブラジルが、コーンウェル自身の姿とだぶる。彼女自身の過去、トラウマ、若かりし日のありようと重ね合わせて描かれるアンディ。ミニチュア化し、一種のカリカチュアとして出てくる登場人物と、舞台となる社会。そしてちまちまと楽しげに、彼らを活躍させるコーンウェル…。どこか箱庭療法的でもある。

 では、果たして挑戦と冒険は成功しているだろうか。
 深刻な事態を、深刻に重々しく書くのは比較的たやすいことだ。その通りに書けばよいのだから。ユーモアとペーソスをまじえて、辛口川柳的にまとめる方がかえって難しい。自分の中の変換器を通し、いかにその実態の「核」にせまれるか、が問われることでもある。そしてなによりも、何を書きたかったが読者に伝わらなければ意味がないのだ。コーンウェルがこの作品でそれに成功しているか、というと、残念ながらいまひとつ。その大きな理由の一つが検屍官シリーズの大成功。読者はこの『スズメバチの巣』『サザンクロス』の警察小説シリーズを読むときには、すみやかにケイ・スカーペッタの残像、検屍官シリーズの幻影を頭から追い払うことだ。

 豪華すぎる筋立て・現実追及・心理劇に走らざるを得ない検屍官シリーズから逃れて、(実は)おとぎ話的象徴世界に生きている3人と共に、川柳的味わいを味わおう。そして川柳を真に楽しめるのは、精神的成長を遂げてからだということも忘れずに。

(上記初出 香雪雑記帳。加筆修正の上改稿しました)

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紙の本検屍官

2001/02/07 19:34

困難に立ち向かう人医学と正義への献身

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 物語は6月7日明け方、検屍局長ケイが、自宅にかかってきた刑事マリーノからの電話で目をさますところから始まる。連続殺人事件の四人目の被害者が発見されたのだ。彼女は犯罪現場へ向かう。そして細心の注意を払いながら全力で検屍にあたる。死の臭いが立ちこめる現場から犯人逮捕に至るまで、彼女は調査権限を持った検屍官として立ち会うのである。

 まず「検屍官」が犯罪捜査に直接に関わっていくという、意外性に富んだ設定に好奇心を刺激される。検屍でいったい何が分かるのだ? 死因がつかめるだけではないのか? そんな疑念は読み進むにつれあっけなく崩される。やがて読者は、検屍やそれに伴う科学捜査の結果が驚くほど明確に犯罪の実体… 「そのとき何が起こったか」を示すことを知るだろう。そして判明した事実を用いて捜査陣が犯人を追いつめていく緊迫、スリル…。

 また、本作がミステリにありがちな設定・一匹狼の探偵や刑事の活躍を描いた小説ではなく、主人公を含む登場人物たちが検屍局、警察といったような組織に属する組織人であり、その立場に立っての活躍を描いた小説であることには等身大の共感を覚えた。やがて理解が生まれ良き仲間となる人物との出会い。陰謀。罠。そんな社会の重圧を、宮仕えで働くことの「しんどさ」を、組織の長として、またそれよりもさらに大きな組織の一歯車としてもがきながらケイはなんとか乗り切っていく… ちなみに、彼女のストレス解消の手段は、自宅で料理を作ること。見事な腕前だ。

 等身大。それは次に述べる魅力のキーワードともなる。この小説(ならびに『検屍官』シリーズ)はケイの一人称で語られる。地道な彼女らしく、あくまで自身が見聞きしたこと、感じ、思い惑ったこと、考えたこと、学び得たこと、実際に知り得たこと、それらしかこの小説には書かれていない。言い換えれば、ケイにとって身近な事象、等身大の身に届く範囲だけが書かれている小説だ。だからこそ読み手も彼女の一人称の語りを読むうちに、ケイといわば一心同体になって自然に作品世界に溶け込めるのである。

 作品世界に溶け込むお膳立てをするのはリアルな描写である。綿密な取材と彼女自身の体験に基づいた細やかな筆遣いが彼女の小説の特徴の一つだ。物語の舞台は細部に至るまでくっきりと同時代性を持って描かれる。そこに、フィクションでありながら同時に現代アメリカのドキュメンタリーや検屍官を取り上げたノンフィクションかのように感じられる、彼女の小説の魅力が生まれている。

 何よりも彼女は検屍官として実に丁重に死体を扱う。遺体を単なる証拠物件として扱うのではなく、人間として、被害者として思いやりを持って扱う。そのことがわたしとしてはもっとも印象的であり、衝撃的であった。ケイのこの姿勢は終始一貫、シリーズを通して変わらない。誠実さ。生まれ持った繊細さ、優しさ。医学と、正義への献身。それがケイという人物を如実に示しているように思う。彼女は困難に立ち向かう勇気を持っている。そんなケイに、ケイの「生」に、わたしは非常に惹きつけられたのである。

(香雪雑記帳より、原文を改稿)

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紙の本審問 上

2001/01/18 01:29

検屍官シリーズの集大成変わるべき時への助走胎動

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 ラスト・プリシンクト。“最終管区”と訳されている。その意味するところは。マガヴァンとルーシーが始めた「秘密結社」「理想の組織」である私的な捜査機関の名としてだけでなく……。この物語の謎を解く手がかり、キーワードとなる言葉である。

 主人公ケイ・スカーペッタの内面が対話や自問自答を通じてくっきりあぶり出される。この掘り下げの手段の選択と描き方はさすがコーンウェル、見事だ。ケイ以外の登場人物…これまでクールで大人のたしなみを保ってきたシリーズ登場人物に対しても同様のことが行われる。秘密事項の一種の暴露。結果、深い闇の底に横たわっていた真実、苦しみとともに隠されてきたこと、見て見ぬ振りをしていたものが次第にこの『審問』のなかで明るみに出る。上巻は助走的に、ゆるゆるとした話の運び。前作『警告』直後から話が始まるだけに、その陰鬱な雰囲気をそのまま引きずっている。前作までの内容の振り返りもストーリー・会話の中に織り込んで要所を押さえながら物語は次第に白熱し加速し、下巻に入ってついに疾走するに至る。重大な変化の予感、読後に漠々と広がる未来への示唆。これからケイはどこに旅立つのか。…とりあえず最愛の姪・ルーシーのヘリコプターで、ニューヨークへ向かうようだ。

 検屍官シリーズは本作で11作目。シリーズが続く中で物語的には特に人間関係などにおいて煮詰まってしまい、過剰に複雑かつ繊細、内向的な部分も出てきていた。ここのところの数作においてやや閉塞感が漂ってきていたのは否めない。今回でどうやら大きく設定が変わり話が動くきっかけが見え、そうなることで今後の伸びやかな新展開に期待したいところである。

 さて、本書ではケイの「あり方」に明確な変化が起こっている。ケイは『警告』の中で殺人未遂・傷害事件の直接の被害者となり、心身に深い傷を負う。本作『審問』ではそれゆえケイは上記のように精神的には「自分のことしか考えられない」状態になっているようで(当然ながら検屍局長・傑出した人物ケイらしく、それでも精一杯冷静に状況を分析し、周りに配慮してはいるけれども)、我が身を支えるために懸命に生きる、やや頼りなくはかない状態になっている。周りのサポートも自然と受け入れているような状況だ。そんなふうな、弱っているが故・悪状況に巻き込まれたが故に生じたものではあるがある種の無防備なナチュラルさ、権威から離れた自由なケイの姿や、彼女を中心に据えた話の運びがどこか検屍官シリーズ初期の諸作品を彷彿とさせ、好もしい。(恐らく)一年後の次作発売を、ゆっくりと再読を繰り返しながら待とうと思う。

上記初出・香雪雑記帳。加筆修正しました。

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