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東京都サッカー4級審判員 中村びわさんのレビュー一覧

投稿者:東京都サッカー4級審判員 中村びわ

1 件中 1 件~ 1 件を表示

紙の本ジーコの「個」を活かして勝つ

2002/09/06 12:16

ジーコ始動!この人は、私たちにどんなファンタジーを見せてくれるのだろうか。<ヨーロッパ=組織、南米=個人技>という浅い認識では捉えられないブラジルスタイルの魅力。

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 2002年日韓共催W杯はつまらなかった。ここ数回の大会で一番面白くなかった。ジダンやデルピエロ、(中村俊輔)というファンタジスタの華麗なプレーはほとんど見られなかったし、バティゴールのカタルシスも得られなかった。決勝出場に賭けて脚の治療をつづけたバレージとかバッジオのリベンジ、延長戦ばかりでぼろぼろになりながら勝ち上がっていったアズーリというドラマ性に乏しかった(イタリアに片寄ってスマソ)。

 英国植民地時代、植民地チームはハンデつきで支配国チームと戦ったという。ヒトラー支配下、ナチスのチームに勝ったディナモ・キエフの選手は試合後ユニフォームのまま全員銃殺された。これらは、村上龍氏のエッセイ・シリーズで教わったサッカーの歴史の1コマであるが、それを考えると、初戦でセネガルが旧宗主国フランスに勝利した事実はドラマチックだった。世紀が変わったんだなという実感を持ちながらテレビ画面を見つめると、脱いだユニフォームを地に置き踊り回る得点後シーンがリプレイされていた。世紀が変わっても、呪術を大切にするような文化に私は限りない敬意を感ずる。
 限られた感激のひとつに、ゴールポストにもたれたカーンの失意の姿もあるが、やはりロベカルの上がり方というのが印象に残る。「おいおい、お前、守りはどうした? いつまで上がっていて平気なの?」というぐらい、ゴール前にアンドロイド顔を見かけた。
 素人目には、ポジションという役割分担までをも無視するブラジル個人技としか捉えられない。実際、「組織的な守備力に欠けたチーム」「GKやCBがブラジルのアキレス腱」というのが、W杯前の大方の評論家筋、マスコミ筋の見方だった。

 今回のW杯に関して、私が一番興味深く読んだ記事は、決勝戦当日の朝、日経新聞に掲載された文化人類学者・今福龍太氏のエッセイである。『フットボールの新世紀』の著書もある先生は、上記のようなブラジル批判に釘を刺した上で、フットボールのあるべき未来像をブラジルチームに見たという主旨の文章を書いている。
 現代ヨーロッパで主流となったのは、基本的に「勝負」が絶対視されることで成立する戦略である。つまり、中盤からプレスをかけつづけ、守備を起点としながら組織的に素早いパス回しで攻撃をしかける…というもの。ゴールへ至る創造的な過程を問わず、選手を駒に見立てる勝利至上主義。そのなかにあってひとりブラジルだけが、バックスの破天荒な攻撃参加やフォワードの美技とインスピレーションあふれるゴールにより、フットボールに別の快楽原理があると示そうとしている——そんなことを述べたあとで、今福先生は、イングランド戦後半、ロナウジーニョ退場後のブラジルの優雅なボール回しに、路地裏の少年の日の無垢の「永遠」を感じたと書いている。この表現に私は泣けた。

 アントラーズで通訳をしていた鈴木国弘氏によれば、ジーコは「クラブでヘドを吐くまで必死に練習している選手なんだから、日本代表では、プレーする喜びを感じながら自由にプレーさせてやりたい」(2002年9月3日付・朝日新聞)と言っていたらしい。
 ビジネスマン、経営者向きの組織論として書かれた本書には、一見すると葛藤する存在である「組織」と「個人」が、いかに融合し止揚し合えるかということが書かれている。アントラーズでの成功例を元に、組織としての凝集性が高い資質をもった日本人のチームなら、滅私奉公ではなく、「私」を生き生き動かしながら「公」のレベルを上げつづける道があるのだと示している。更に上の栄冠へと高みを追いつづけ常に華麗なプレーを見せてくれたこのリーダーは、私たちに一体どれだけの喜びを分けてくれることだろう。

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