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投稿者:楽園のマスター
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失われた恐竜をもとめて 最大の肉食恐竜をめぐる100年の発掘プロジェクト
2003/10/13 18:20
なぜエジプトなのか?恐竜化石発掘に挑んだ二人の男のドキュメンタリー
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最近の恐竜研究の世界では、骨の解剖学的な些細な違いを議論したり、コンピューター解析による系統学の報告が増えている。しかし、なんといってもわくわくするのは、新しい化石の発見とそれにまつわる物語ではないだろうか。
この本は、エジプトの魅力にとりつかれた二人の男による恐竜化石発掘ドキュメンタリーである。エジプトにあるのはピラミッドのような古代の遺跡だけかと思っていたら、なんと新種の恐竜化石も眠っていたのだ。
では、なぜ二人の男はエジプトを選んだのだろうか?
最初にエジプトで発掘したのは、ドイツの古生物学者、ストローマーで、20世紀初頭のことである。彼は、哺乳類の起源が南アフリカにあるとの自説を裏付けるため、エジプトに向かった。当時は北米起源説が主流だったのだ。
そこで彼は哺乳類ではなくスピノサウルスなどの恐竜化石を発見する。このスピノサウルスは、カバー全体に描かれているように背中に帆のあるちょっと風変わりな恐竜だ。
しかし、その新種の発見もほとんど注目されることもなく、第二次世界大戦の爆撃により破壊されてしまう。残ったのは論文だけだった。
2000年のプロジェクトを率いたのは著者の一人、当時米国の大学院生だったジョシュ・スミス。そもそもの発掘話は、ビールを飲みながらの会話から始まったというからおもしろい。発掘について指導教官から指示を受けたというわけではないのだ。彼は、北米という成果の得られやすいありふれた場所を避けて、かつてストローマーが挑んだエジプトを選んだ。
たのもしいことに、米国ではこうしたフロンティア精神あふれる若い研究者が、太古のミステリーの解明に積極的に挑んでいるのだ。
恐竜の化石発掘現場が過酷な環境なのはよく知られたことだ。しかし、当然のことながら、若い院生が率いるプロジェクトの前には、発掘以前に、資金集めに始まる多くの困難が立ちはだかっていた。有名な博物館などが行う巨大プロジェクトと異なるのだ。もちろん、大学では資金集めのための講義はない。
やがて多くの困難を乗り越えて、彼らはティタノサウルス類に属する新種の大型竜脚類の化石を発見し、パラリティタン・ストローメリと命名する。属名は“波打ち際の巨人”を意味し、種小名はストローマーの功績をたたえたものだ。ストローマーは、発見した恐竜ではなくて、失われた恐竜で有名になった。
とかく新発見ばかりが注目されがちだが、北米大陸と切り離され独自の進化を繰り広げた南米大陸の古環境の解明にまつわる話も興味深い。発見された大型竜脚類が、“波打ち際の巨人”と命名された理由がよくわかるし、「なぜ三種類もの大型獣脚類が共存し得たのか?」という「ストローマーの謎」にもせまっている。
難解な専門用語はほとんど使われておらず、おもしろく読めるのは、冒険ものを得意とするライターが書いているからであろう。また、物語に関連した古生物学や恐竜についての基礎的な解説がある。大陸移動などの話は、内容を理解するには不可欠だからである。
ただ、参考文献などは一切示されていない。より詳しく知りたい人にはちょっと残念である。
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