ワック書籍編集 小林さんのレビュー一覧
投稿者:ワック書籍編集 小林
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トヨタを創った男豊田喜一郎
2002/12/10 12:53
トヨタ・スピリッツの源泉
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人の一生がその人の「死に様」に凝縮されるというなら、この場合はどうだろう。享年52歳。死因脳溢血。仕事のため、故郷から遠く都内料亭で原稿を執筆中だった。資金繰りの悪化と労働争議の果て、銀行団の協調融資の条件として会社を分離され、自ら職を辞した。2年とたたず会社は危機を脱し、社長復帰の要請を受けたわずか数日後、復帰を目前にしてのことだった。
これが、トヨタ自動車創業者・豊田喜一郎の最晩年だ。その死はわずか数行で記して余りある、それほど唐突な幕切れだった。しかし、だからこそジャーナリスト・野口均が本書で描いた原稿用紙650枚を優に超えるその「生き様」が、ますます輝きを放つ。財閥でさえ後込みをした未開拓の大事業に打って出、あくまでも自前開発にこだわり、失敗、また失敗の連続の末に誕生させた国産乗用車。しかし、そこまでだった。日本に独自の大衆乗用車をと願い、その量産の夢を果たすことなく、喜一郎はおもむろにこの世を去る。最終的に、時代と運とが彼に味方しなかった。3年後、その遺志を継いだ者たちによって初の国産本格乗用車が発売された。5年後にはアメリカに国産車第一号が輸出された。以後も独自の生産方式を発展させながら、30年後には工販合併を実現。そして50年後の2002年、世界自動車メーカーのビッグスリーに既に名を連ね、グループ連結経常利益は1兆円を突破した。輝くばかりだ。しかし、多くの人がトヨタの草創期を知らずにいる。トヨタの強さの源泉を知らずに、ただ表面だけを追いかける。
喜一郎なくして、おそらくトヨタは現在のトヨタではあり得なかったろう。だからこそ、遺された者たちにとって喜一郎は特別な存在のようだ。現在の社長・張富士夫は、喜一郎の没後トヨタに入社するが、著者の質問に対し、「もし喜一郎さんにお会いしたら、今のトヨタでダメなところはどこですか、と聞いてみたい」と語った。
むしろ、わずか数行の死に様だからこそ、彼は後代に多くのものを遺せたのかもしれない。喜一郎がトヨタに遺したものとは何か。その生き様が本書で疾走する。
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