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桐矢さんのレビュー一覧

投稿者:桐矢

67 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本死の泉

2001/03/29 11:09

圧倒的な読後感…

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ページを開くと音楽が聞こえてくる。変声前の澄んだ声を持つカストラート、去勢された男性歌手。美しい双子の姉妹。古城の地下に広がる岩塩の洞窟。それらが、多重に絡まり合って幻想的な物語を紡ぐ。そして、ナチスによって行われた忌まわしい人体実験の記憶。
 舞台は、大戦中と、その後のドイツ。激動する運命に翻弄されるマルガレーテ。そして、ナチスの医師クラウスに、美声を愛された少年、エーリヒ。戦争というあまりにも大きな流れの前に良心も善人も悪人も飲み込まれていく。
 マルガレーテが、少しずつ狂っていく様子が、哀しい。美しく幻想的な物語でありながら、緻密に構成されている。
 惜しむらくは、この物語は、ドイツ人作の小説を翻訳したという形式になっているのだが、そのあとがきのほんの数ページで、今まで緻密に組み立てられて来た全てが読者を嘲笑うかのように、崩れてしまう。読者を混沌と恐怖の内に陥れるのが目的なら、立派にはたしたといえるのだろうが、個人的好みとしては、気持ちの悪い、居心地の悪さが残った。それでも、ページを閉じた後も、頭の中の音楽は鳴り止まなかった。

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紙の本ナシスの塔の物語

2001/03/29 10:59

ただ石を積んで…

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 さらさらと流れる砂の乾いた音が聞こえてくる。ナシスという砂漠の辺境の架空の街が舞台。
 昔ながらの職人の家に育ったリュタは、父親の様にりっぱな職人になることを目指して、修行の毎日を送っている。だが、その一方では、より早くより大量のものを魔法のように作り出すことの出来る、ドロスのはぐるまにも、憧れている。
 辺境の街は、はぐるまによって、変っていく。馬の代りに車が走り、砂漠を切り開き、新しい家が建ち並ぶようになる。はぐるま…人知の力は、砂漠…不毛の地を楽園に変えることが出来るのだろうか?
 愚者として登場するトンビは、最初から最後まで変わらない。街の外、荒れ果てた丘のうえに、ひたすら石を積み、たった一人で、高い塔を作り続けている。結果的にトンビは人々を救うことになるが、それはトンビがそうしようと思ってしたことではない。トンビはただ、空の上にいる死んでトンビになった母さんに会いたくて、ただその想いだけで石を積み続けたのだ。
 街を大きく住みやすくしていこうとしたドロス。昔ながらのやり方のなかに人としての幸せを探した職人たち。どちらが善でどちらが悪だと、言い切れるだろうか? 真実に一番近いところにいるかもしれないのが、愚者のトンビだった。
 架空の街のようすと暮らしがていねいに描写され、しっかりしたバックグラウンドがあることで、骨太のファンタジーになっている。

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紙の本詩人の夢

2001/03/29 10:57

待望の「紫の砂漠」の続編

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 「紫の砂漠」の続編。
 一生に一度の「真実の恋」によって性別が分かたれる種族が、紫の砂漠を囲んで暮らしている。真実の恋人を亡くした主人公シェプシは、いまだ産む性でも守る性でもないまま、優秀な書記としてのぞまれながらも、詩人になることを選ぶ。
 一方、昔、この星に降り立った「神」の言葉が解明され、禁囲区域だった紫の砂漠が開放され、平和だった種族の間に争いがおこる。
 「紫の砂漠」よりももっとSF色が強く出ているような気がするが、物語はSFの言葉で語られないまま進む。ネタバレになるので、これ以上は言えない。
 シェプシは再び真実の恋に出会うことが出来るのか。これまたネタバレになるので、「読んでよかった」とだけ言っておこう。ラスト前8ページの切々たる叫びに胸を打たれた。
 登場人物のなかでは、争いを嫌うシェプシに
 「わたしはあなたのやり方考え方がとことん嫌いだ。だがその虫酸の走る性格ゆえに、多分あなたは書記の指導者にふさわしいのだろう」
 と言わせたメセジェル、あなどれない。

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紙の本水の通う回路

2001/03/29 10:52

読後感のいいミステリー

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 人気ゲームソフトをプレイした日本中の子供達が「黒いマントを着た男」に襲われる幻影を見た。同時に多発する自殺未遂。そんななか、かぎを握るゲームソフトを開発した責任者は突然姿をくらましてしまう。
 面白かった。久しぶりにこれだけ緻密に組み立てられた作品を読んだ。催眠や精神など、わたし好みのディティールに、最後まで分からなかった犯人探しまで一気に読ませる構成。
 「水の通う回路」とは、いい得て妙。
 日本のディズニー、そう呼ばれるゲームソフト社長、桐生。桐生と全く正反対、俗物であくの強いライバル社の社長、神埼。口数の少ないゲームデザイナー。それぞれ、類型的に流れそうでちゃんと厚みのある個性を持っている。
 それに、サイコサスペンスと銘打っておきながら、読後感がいいのが、めずらしい。

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紙の本イエスの遺伝子

2001/03/29 10:49

一気読みミステリー

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 面白かった。結構ずっしりと長いが、一気に読んでしまいました。
 遺伝子学者である主人公は、不治の病に冒された一人娘を救うために、科学の英知を結集してタブーに挑む。今だかつて最大の奇跡の治療を行った人物、イエス・キリストの遺伝子。その秘密を解明すること。それだけが残された希望なのだ。
 イエスの遺伝子を解読できるとしたら…そんな発想の面白さと、主人公を暗殺しようと狙う、狂信的な宗教団体との手に汗握る攻防が本書の長さを感じさせない。
 解説にもあるように、本書に出てくる科学技術は、現実にもほんのすこしで手に届きそうな極めて迫真性があるものばかりだ。一つ一つのエピソードにしっかりしたリアリティがある。
 本書は、宗教と科学が抱える根源的な疑問を提示する。キリストの力を本当に手に入れたらいったいどうなってしまうのだろう。増えつづける人間が、病気もせず長生きするようになったら…。そして、奇跡の力=権力を手に入れた人間は次に何をする?
 個人的には主人公の取った行動にはちょっと疑問符。もちろんそれで、本書の面白さが損なわれるわけでなく、むしろ、何かを考えさせてくれる深さを与えているのだと思う。

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紙の本タイムライン 上

2001/03/29 10:46

時代冒険活劇

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 時間テーマのエンターティメント巨編。帯によるとすでに映画化が決まっているそうだ。
 量子テクノロジーによって開発されたタイムトラベルで、14世紀フランスで行方不明になってしまった教授を探しに、助教授と3人の大学院生が、時空を超えた冒険に旅立つ。
 波乱万丈はらはらどきどきで最後まで一気に読んでしまった。読者をぐいぐいひきつけるテクニックはすごい。それより驚くのは、量子テクノロジーがメインテーマではないということだ。十分にメインテーマになりえる、これだけの知識と仕掛けが、中世フランスでの冒険を描くためのただの道具でしかないのだ。だから、科学に興味のない読者でも十分楽しめる。恋あり、友情あり、典型的な悪役もいる、冒険活劇だ。

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紙の本王国記

2001/03/29 10:42

無垢な神の冷たさを

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 「ゲルマニウムの夜」の続編。
 主人公、朧(ろう)が前作にもまして魅力的だ。修道院のシスターを妊娠させた朧は、屈託ない笑いを浮かべて言う。
 「ぼくが例えば人を殺したとします。それからおんなの人を妊娠させて生命を誕生させたとします。そうしたらぼくの殺人は許されますか? 」「なぜってぼくの殺人のせいで喪った生命を自分の性行為で償ったわけですから」
 朧は、修道院に戻る前に人を殺している。それを知らない先生が答えるまでもなく、朧の視点には個々人の人生という視点が見事に欠けている。
 …だがそれこそが、神の視点ではないだろうか。人はアリの様に生き、交尾し、生れ、はいつくばり、そして例外なく死んでいく。そのどこにも神は介在しない。作者は目に見えない神を、人の魂を描くために、目に見える風景を、触覚を、匂いを丹念に描写していく。
 豚小屋のむせるような匂い。指の先が凍るような霜柱。骨がぐしゃぐしゃになった猫の死体。松の木の根本に放射する小便の湯気。精を絞り尽くされるような性行為。
 次作が早く読みたい。

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紙の本ゲルマニウムの夜

2001/03/29 10:40

神を求めて

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 芥川賞受賞作。
 思っていたのと全然違っていた。過激な性描写、暴力描写、そして芥川賞ではなく直木賞のほうが ふさわりかったのではないか…などという話を耳にしていたので、エンターティメント寄りのハードボイルド作品かと思っていた。
 見事に期待以上の作品だった。舞台は、久里浜修道院兼救護院。社会の枠から外れてしまった子供達が収容されている檻。その檻の中で、主人公、朧(ろう)は、神に唾を吐く。
 全然違う話なのに、遠藤周作の「深い河」を思い出した。あの作品でも玉ねぎをむいていく喩えが使われていたはずだ。神を求めて、見つけられず、それでもあがき続ける。深い河では、作者は、神寄りだったのだと思うが、この作品はどうだろう。花村萬月は、クリスチャンなんだろうか?
 本書には、三つの中編が収録されている。著者曰く、
 「三つの小説は、宗教を描く長大な作品のごく一部として書かれました。(中略)すべてを書き終えたときに、わたしは、この作品群に、「王国記」という表題を冠しようと思っています」

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紙の本デミアン

2001/03/29 10:36

魂を導く本

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 再再読である。はじめて読んだのは中学生だったろうか、高校生だったろうか。その時からデミアンとアプラクサスという名前が私の頭の奥底に住み着いた。
 そもそも、私はめったに再読をしない。読むべき、読みたい本がありすぎて、一度読んだ本を又読む時間が惜しいからだ。
 去年文庫本で見つけて再読し、感想を書こうとぱらぱらめくっているうちに結局もう一度読んでしまった。私の頭の中に住み着いていたアプラクサス(善悪併せ持つ神の名)は、思っていた以上に、私に影響を及ぼしていたらしい。お恥ずかしいことに、はじめて書いた小説(未刊行)のテーマがこの世は善と悪を併せ持つというものだった。その時は、自分なりのオリジナルな主張のような気がしていたが、これもアプラクサスのささやきだったのかもしれない。
 そして、再読で見方が変わった部分もある。最初に読んだときは、主人公のシンクレールを導き、生涯の友人ともなるデミアンを、私自身シンクレールと同調して読みながら、なかば神化していたらしい。今回読んで、人と違った「しるし」を持つデミアンが、どんなに孤独か、そして内面には悩みも矛盾も抱えていただろうと素直に思える。だから、デミアンがシンクレール(同じくしるしを持つ者)を見出したときの、喜びの大きさが実感として分かる。
 それにしても、ラストは、切なく、深く、感情をおもいきり揺すぶられる。この小説は、ただの自己実現に悩む青年の回想録ではない。善と悪だけでなく、思考と感情もまた、共存することが出来るのだ。

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紙の本二進法の犬

2001/03/29 10:33

愛をまっとうすること

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著者の言葉から
 「あなたは愛を全うできるか(中略)心の奥底に隠された深くて暗い闇こそがこの作品のテーマである。これはあなたとわたしの、そして全ての人々の、心の奥底を描いた小説である」
 やっぱり花村萬月はすごい作家だった。この作品のエッセンスは上の著者の言葉に集約される。全ての人が抱える闇の奥でうごめく不安、狡さ、狂気を真正面に見据えてどこまでも一緒に落ちて行こうというその潔さに感服する。
 主人公鷲津が家庭教師を引き受けた女子高生倫子は、少数精鋭の武道派博徒の組長の娘だった。インテリぶっていても所詮はまっとうな職業に就く事も出来ず、高級住宅街の奥様にパソコンの個人教授の課外授業でお小遣いを貰って喜んでいるような人間のカスだった鷲津。だが、組長とその犬である組員達の生き方に触れ、繊細で純粋な倫子を知るにつれて、変わっていく。
 この作品のすごいところは、「面白い」ことだ。賭博場での手に汗握る勝負や、倫子の息詰まるくらい切ない愛情や、きわどい性愛描写や、やくざ社会の裏など、とにかく面白い。
 人の闇を描くという突っ込んだお堅いテーマを選びながら、これだけ面白く書けるのだと目からうろこが落ちるような思いだ。
 鷲津は、確かに大きく変わっていくが、任侠者が背にいるということだけで肩をそびやかしたり、女房面をする女を殺したいと思ったり、大きなことを言っておいていざとなると腰が引けたり、小ずるく保身を考えている一面をも持っている。あえて格好悪い部分を描くことで作り物でないキャラが立ち上っている。
 人が社会を作る動物である以上、誰もが犬であり、犬になりたがっているのかもしれない。面白く読んだ後、深く考えさせられる小説である。

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紙の本エリ・エリ

2001/03/29 10:28

ストレートど真ん中SF

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 第一回小松左京賞受賞作品。小松左京がさまざまな作品で描いてきたテーマ、「人類の未来」「神の存在とは」に真正面から取り組んだ力作。
 舞台は21世紀半ば。「神はいない」敬虔なクリスチャンだった友人の最後の一言が、主人公の牧師、榊をアルコールに溺れさせた。極限まで進んだ科学が非論理的な存在を否定する。
 その一方で異星人による誘拐・アブダクション事件が続発していた。神を失った人類は、超越者としての異星人を求めるのか。NASAでは、太陽系外の地球型惑星へ宇宙船を飛ばそうというホメロス計画が進行している。
 そして、教会の威信をかけて、「科学によって神を証明」するために、バチカンの教皇自らが目をつけたのが、そのホメロス計画だった。
 著者の前作「エンデュミオン・エンデュミオン」をはるかに上回る完成度だ。登場人物は多いが、それぞれ魅力的で、わかりやすく書き分けられ、なぞを追ううちにこれだけの厚さの本が一気に読めてしまう。文句なしで、受賞が決まったというのも頷ける。
 後半にかけて、大きく俯瞰した構図になっていく。
 主人公の榊、気に入っているので、もっと活躍してほしかった。続巻を待ちたい。

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紙の本「超」勉強法

2001/03/29 10:22

勉強ほど、贅沢で楽しい趣味はないと思う

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 一度読んでみようと思っていた本。今となっては類似本がいろいろ出ているようだが、さすがにいろいろうなずかされることが多かった。
 勉強そのものは、教えてもらえても、勉強の仕方は誰も教えてくれない…。それを教えてくれる、優秀な教師であったり、家庭教師だったりするのだろう。
 一番、共感した言葉。「これらは投資としての勉強ではなく、消費としての勉強である。何のみかえりも期待せず、勉強することそれ自体を目的とする。これこそが、究極の勉強法であろう」
 もう、全くその通り。消費のための勉強は、ほんとうに楽しい。もちろん、この本は、「受験のための」勉強とか、「コミュニケーションのための」英語の勉強とか、「仕事のための」経済の勉強とか、そのような場合にも力になってくれるだろう。

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紙の本でりばりぃAge

2001/03/29 10:17

少女の仕組み

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 主人公の中学二年生、真名子の家では週に一回は宅配ピザが夕食になる。教育マニアで健康マニアな母親は毎朝腐ったプールの藻のような色の健康ジュースを作り、夜は教育研究サークルに出かけて留守にする。
 おとなになりかけの少女の目の前に、理想的なモデルはもうない。古くさい女性像には吐き気がするし、理解ある態度を演じるとりつくろった母親の教育論にもうんざりしている。
 そんな時、夏期講習で出会ったロン毛の浪人生と、庭先に真っ白い洗濯物のはためく古ぼけた家。ちょっとだけ寄り道をすることで真名子は自分自身を取り戻していく。
 14才の少女の揺れる心は、男性にとっては摩訶不思議でヒステリックにしか写らないのかもしれないし、女性にとっては、過ぎ去った恥ずかしくも懐かしい感傷なのかもしれない。
 汚さや曖昧さを許せない少女の潔癖さが、もういい年になってしまったわたしには少々痛い。 同年代の少女、あるいは、男性にこそ、読んで欲しいと思う。

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紙の本虚無への供物

2001/03/29 10:12

暗黒の混沌

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 初めて読んだのは、18才の頃だった。その頃一人暮らしをしていたのを幸いに、ご飯も食べずに、13時間ぶっつづけで読み通した連続最長読書記録を作ったのがこの本である。
 題名からして、ぞくぞくしてきませんか?
 舞台は、昭和29年の下町、とあるゲイバア(男色酒場)。サロメを踊る少年が観客の男性に、黄色い薔薇を投げる…ところから始まる。
 まず、氷沼家の次男が背中に十文字の鞭の跡を残した裸のまま殺される。そしてその一番の容疑者と思われていた叔父が密室の中で殺される。
 登場人物たちがそれぞれ独自の推理を順番に披露していくのだが、その合間にもつぎの殺人事件が起こる。交錯する推理ゲーム。五色不動伝説。氷沼家の色の部屋と、色彩学。アイヌ奇譚。流れるシャンソン。不思議の国のアリス。存在しない薔薇。すみずみまで、読者を惹きつけ、放さない仕掛けに満ちているのだ。
 それでいて、精緻なミステリーではない。…破綻しているのだ。おどろおどろしさと、大阪弁。リアルな地理感や猥雑な風俗と現実離れしたわざとらしさ。混沌とした一切合切、…が得体のしれないめくるめくような暗黒の世界を作り出している。

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紙の本永遠の仔 上

2001/03/15 16:42

その先にある救い

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 天童荒太のベストセラー。
 物語は1979年と1997年とが同時に進行していく。17年前、霧に煙る霊峰の登山道で起きた事件。それ以来、ずっと別々の道をたどっていた優希と笙一郎と梁平が、運命に導かれるようにして再会する。そして再び事件は起こる。
 この作品は自分をアダルトチルドレンだと自覚していてなおかつその事実を消化出来ていない人…は読まないほうがいいかもしれない。辛い描写が多すぎる。
 救いを描くために地獄をも描かなくてはならないのは、作家の宿命なのだろうか。残酷なシーンが話題になった同じ作者の「家族狩り」でも「家族」の崩壊がテーマとなっていた。「永遠の仔」でも親と子の関係が重要なテーマの一つになっている。
 「その先にある救い」を描くために、作者は親と子をずたずたに切り裂く。なぶる。叩きのめす。けれど、神が死んだ現代、魔法も奇蹟も起きない。作者が啓示する救いはあまりに小さく頼りなく弱々しい光でしかない。人として生きていくということは、這いつくばり、血と涙を流し、引き千切られるような痛みを味わいながらも進んでいくことなのだ。
 ミステリー仕立てになっているが、あっとおどろくどんでん返しがあるわけではない。犯人の動機自体やや弱い。全体の作りよりも、少年少女達の個々の描写が痛いほど鋭い。
 血にまみれたような登場人物が多い中で、こたつでお茶を飲んでいるのが似合いそうな叔父夫婦の存在にほっと一息ついた。

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