天竺桂 一さんのレビュー一覧
投稿者:天竺桂 一
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数学:新しい黄金時代
2001/02/11 02:46
原著者が気の毒
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翻訳がろくでもないんで、買わないほうがいいと思う。中身は数式を読み飛ばしていっても面白いのに。著者のキース・デブリンは気の毒だ。
「翻訳者、そは裏切り者」という諺はよく、どんなに心をくだいても、どうしても翻訳には原文にそわないところが出てきてしまう、ということをいう文脈で引かれるけれども、この本の翻訳は明々白々たる裏切り、というか、敵対してんじゃないの?とすら思える。この翻訳で4000円強のお金を読者に払わせようってのはほとんど詐欺に近い。
一番あきれたのは4ページ、素数の話の冒頭。
“最大の数を求めて最大の幸福を手に入れることは、人間にとって最高の活動である”と1725年にフランシス・ハッチソンが書いている(書名略)。彼が考えていたのは、当時知られていた最も大きな素数か、それとも数学の対象として最も基本的なもの、つまり人類をいつ果てるともなく引きつけて話さない、自然な数(かずをかぞえるときに使う数)、1、2、3、…、のどちらかであったことは間違いない。
さて原文は、
'That action is best, which procures the greatest happiness for the greatest numbers', wrote Francis Hutcheson in 1725 (書名略). It seems unlikely that he was thinking of numbers in the mathematical sense of greatest primes and the like, but his statement nevertheless applies quite well to man's never-ending fascination with those most fundamental of mathematical objects - the natural (or counting) numbers, 1, 2, 3, ... . (p. 4)。
なんで 'seems unlikely' (ありそうもない)が「間違いない」になりますか?それに、人名辞典を引けば、ハッチソンは“最大多数の最大幸福”の人だと書いてある。素数のことなんか考えてるわけない。
「最善の行動とは、最大多数の最大幸福をもたらす行動だ」と1725年にフランシス・ハッチソンは書きました。彼が知られている最大の素数とかそういう数学的な意味の数を念頭においていたとは思えませんが、それでも、一番基本的な数学的対象である自然数1、2、3、…に、人が絶えることなく惹きつけられるという事実に彼の言葉はとてもよく当てはまります」つたない訳だが最低限通すべき筋を通すとこんなもんだろうか。
たった一回、人名辞典を引けばこんなあきれたまちがいは起こらない。全然大した手間じゃない。原文と正反対の訳文でっち上げる前に調べてない単語を辞書で引け。
スペースが足りないから書かないが、明らかかつあきれるような誤訳は各章最低1つはあげられるしまちがいじゃないかもしれんけどこーはいわんだろーというあたりをあげはじめると本当に際限がなくなる。いい本なのに。素数と暗号の話から始まって、定番のゲーデルの話があって、渋いところで単純群の分類問題とか4色問題とかもあって、フェルマーの最終定理ももちろんあるし。ぼくみたいな全然できないけど文系だけど数学の香りに惹きつけられる数学ワナビーにも楽しい本なのに。著者がほんとに気の毒。
本文の引用は全て第1刷に基づく。英文の引用は全て、Devlin, Keith. Mathematics: The New Golden Age (New Edition). London: Penguin, 1998.より。
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