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  3. ひろしさんのレビュー一覧

ひろしさんのレビュー一覧

投稿者:ひろし

473 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本永遠の0

2010/08/09 12:06

お薦めというより読んでくださいと御願いしたい。

168人中、160人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

国も狂い人々もみな狂った、昭和初期戦争の時代。そこで死んでいったのは
数百万人に登る純粋で男らしい若者達、青年達、少年達。読んでいてあまりに無念、あまりに残念で悲しくてしかたなかった。いや・・・感情的な事はまず置いておいて、本作品の構成の事を書かせて頂くと、いわゆる戦争モノである。それも第二次世界大戦におけるゼロ戦乗り達の話し。現代に生き残った兵士達が、当時を語る形式で物語りは進むのだが。そう戦争の話をドキュメンタリータッチで描いた作品はたくさんあるだろうし、戦争を題材にエンタメ作品に仕上げたものもあれば、ミステリ風に仕上げたものもあるだろう。しかし本作品の他に比類なき素晴らしい点は、ドキュメンタリータッチで描かれている中にも、ミステリ風なテイストを混ぜ込んであるところだと思う。ただ単に戦争の悲惨さ、だけでは終わらない所が本作品の白眉たる所だと思う。
 弁護士で、自分をとても可愛がってくれる最愛の祖父は、実の祖父ではなかった。それを知った26歳でニートの主人公健太郎は、姉でフリーライターをしている慶子の依頼もあって、本当の祖父の事を調べ始める。宮部久蔵というその人が第二次世界大戦時にゼロ戦乗りであった事を知った二人は、当時の戦友を訪ね祖父の人となりを聞いて行く。すると絶対に生きて家族の下に帰ると言い続けたという宮部を臆病者だと罵る者もいれば、帝国海軍一の凄腕パイロットだったと語るものもいた。囲碁を愛し、妻と生まれたばかりの子を心から愛し。必ず生きて帰ると誓った実の祖父宮部久蔵。戦地でも、天才的な操縦術を持ちながらも決して命は無駄にはせず、生きて帰る事だけを考えた宮部。しかしならばなぜ宮部は自ら航空隊に志願したのか。そしてなぜ、特攻隊に志願して死んで行ったのか。次々と当時の仲間から語られる宮部の人となりとエピソード。それらがあまりに興味深く、途中からはもう宮部に惹かれっぱなしで、戦闘シーンになると死なないでくれ!と思わず本を持つ手に力が入ってしまう。これが終盤になると、宮部を語る人がいなくならない事を、祈るような気持ちにさえなった。そして物語最後に思いもよらぬ人が、宮部を語り出すのだ。そして全ての秘密が、明かされるのだが。その真相を知った時、正直立っている事さえ辛かった。電車の床にうずくまってひいひいと泣き喚こうかとさえ、思ったものである。
 国の為天皇陛下のため、そして何より家族の為に命を賭して戦った若者たち。武勲を挙げたものは軍神として崇め奉られた。しかし戦後、たった数ヶ月の後、民主主義万歳、アメリカ万歳と手のひらを返した国民は、彼らを戦犯となじったのだ。何という不条理、何と言う無念。あの戦争で、どれほど素晴らしい命と魂が失われたのか。
 久々に物凄い作品を読んだと思う。読んでる間の時間がすっとび、全身がぶるぶると震えっぱなしだった。この作品をこの季節のこの時期に読めた事、紹介できた事を心から良かったと思う。オススメ、というよりはぜひお手にとって下さいと御願いしたい。そして共に、今日の平和について、深く考えて欲しいと思うのです。

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紙の本

紙の本さまよう刃

2008/08/06 17:29

私的復讐の是非。

33人中、33人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

元来私は過剰な性的描写のある作品、とくに女性に対する暴行が描かれた作品は、手に取らない。胸糞悪いだけだからである。実際、予期せずしてそのような作品を手に取ってしまい、途中で読むのを止めてしまった事も数知れない。そういう意味で、本作品を読み始めるかどうかしばらく躊躇した。女性に対する暴行と、それに対する私的復讐を描いた作品だと分かっていたからだ。それでもページを開き始めたのは、他でもない東野作品であるから。まさか唾棄すべき内容で終始する訳が無い、と信じて読み始めたのだ。果たして、読んでいる間じゅう、ずうっと胸が痛かった。主人公の男の想いを想像するに、心痛極まりない。

法治国家日本において、私的復讐は禁じられている。どんなに愛する者を理不尽に殺されようとも、その殺人者を私的怨恨を理由に殺害する事は禁じられている。誰でも知っている事だし、重々認識している。が、しかし。

妻を早くに亡くし、つましくも可愛い娘と二人楽しく生活してきた。その娘がある日、ケダモノのような少年達にさらわれさんざん蹂躙された挙句、殺されてしまう。さらに少年達はその残虐な行為の一部始終を、映像に収めていた。そして父親はその映像を、目の当たりにしてしまうのである。父親として、これほどの不幸があるだろうか。そして少年達は少年法に守られ、場合によっては殺人罪さえ問われないかもしれない。法の下、個人的感情で人を裁くことは絶対に許されない。しかし父親は、復讐の道を選んでしまう。逃亡した主犯格の少年を、さまよえる刃となって、追いかけていくのだ。

本作品は決して私的復讐を是としているわけではない。実際、作品中で警察をはじめとして、色々な立場の人間に事の是非を語らせている。建前と本音、という角度からもである。法治国家なんだから、もちろんそんな行為は許されない。拙い少年達を守り更正を図る法も、あって然るべきであろう。でも、でも本音を言うと・・・。

逃亡し続ける悪意に、復讐の刃と警察が近づいていく。しかし一途だった復讐者の心は、暖かな善意に触れ揺れ動き、憎悪が薄れ平穏を取り戻しかける。しかし悪魔の囁きとも言える一本の電話が、刃の憎しみをまた加速させてしまうのだ。そして・・・偶然の連鎖なのか、運命の悪戯なのか。鍵を握る者たちがみな、終焉の地に集まって行く。そしてバラバラだった運命が、一本に収束された時。悲しい結末と、意外な事実が、明らかになる。

読後、まるでさまよう刃が、自分の喉元に突きつけられたように感じた。
「さあお前は、是なのか?非なのか?」と。

私は正直たった今、本音で答えることが、出来ない。

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紙の本

紙の本カラスの親指

2012/03/05 11:25

久々に気持ちよくしてやられた!

26人中、26人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ミスリーディングの名作、と言っていいと思う。「最後にひっくり返される」系の、一言で言えば「詐欺師たち」の物語。過去に傷を持つ詐欺師達が、その過去を打ち消すために一発大逆転のデカいペテンをしかけてやろう、という流れ。作品冒頭に、登場人物の一人がこんなセリフを言う。「良い詐欺というのは、騙されている側が最後まで詐欺にあったと気が付かないこと」。その時はなるほど読んでいるのだけど、まさかそれが、他でもない自分に言われている事とは・・・。
うだつの上がらない男やもめの詐欺師が二人。そこに転がり込んできたやはり詐欺師の少女と、その姉と姉の彼氏。おかしな共同生活が始まると、5人の不思議な偶然や関係が分かってくる。そして共通した、「脅威」が有ることも。そこで5人はその脅威を打ち倒して平穏を取り戻そうと、アルバトロスと名づけられた詐欺作戦を開始する。一旦はまんまとうまくいったかのように思えた、その作戦だったのだが。
作品そこここに、様々な布石や符牒が仕込まれている。それがドミノのようにパタパタとひっくり返って・・・というよりも最後の最後に一気に起爆してすべてをひっくり返してしまう。以前読んだ歌野晶午さんの「葉桜の季節に君を思うということ」ではやはり最後に全てがひっくり返って「ポッカーーン・・・」とさせられたけど、この作品は「ドカーーーン!」て感じ。そして胸に来る。
「カラスの親指」、そのタイトルがだんだん解き明かされても行くのだけど、だんだん解き明かされる度に、その意味が深くなるのも面白い。主人公の5人が一つの作戦を実行しながら、実はお互い騙し騙されの間柄。一体誰が誰を、そして何の為に騙しているのか。しかし最後の最後に騙されるのはその5人の中の誰か、じゃない。読み終えた、アナタです。

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紙の本

紙の本悼む人

2009/01/06 11:04

覚えて、いて。

20人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日々テレビやラジオや新聞が伝える、凄惨な事故や事件。加害者の名前は心に残る事もあるが、被害者の名前は余り記憶に残らない。さらには、被害者の凄惨な「死」は記憶に残っても、その人の「生」は心に留められない。亡くなった方にしてみれば、記憶して欲しいのは「死」だろうか。否、誰かを愛し誰かに愛され、誰かから感謝され誰かを感謝した、輝く「生」であるに違いない。その生を心に留める「悼むたび」を続けるのが本作品の主人公、坂築静人である。偽善の気持ちも企み無く、他人の死を心から悼めるのか。誰の為にでもなく何の利益も目的とせず、ただ純粋に故人を悼む者。静人はそういう旅を続ける青年である。非常に深く、興味深いテーマだ。

ではその静人の「悼み」を、故人を偲ぶ人々が必ずしも感謝し喜ぶかというと、そうでもない。というか、そうでは無い事の方が多いのだ。故人の何を知ってるのか。とって付けたような哀悼の意など、偽善にしか見えない。そんな行為をして何がしたいのか、誰が喜ぶのか。静人は、とかく遺族からは受け入れられない事の方が多い。では、静人の行為は無意味な事なのだろうか・・・。人の「命」は、いつか終わりを向かえる。しかしその人の「人生」は、続いていく。誰かの心にその人がある限り、その人の人生は続いていくのだ。人がこの世を去る時の一番の願い、それは「覚えていて欲しい」なのかもしれない。

作者の天童荒太さんは、この作品を書くのに7年かかったという。そしてその間に10冊もの創作ノートを作ったとの事。また一人一人のキャラクタを一から作りこんでいったそうだが、主人公の静人に至っては、自ら人が亡くなった現場を廻り、キャラクタを作り上げたのだとか。そして「静人日記」を作り、メディアで報道される故人の中から毎日一人選んで、その人を悼む日記を毎日書き続けた。本作品を書き終えた今でもその日記は書き続けているというから、この作品への深い深い思い入れを感じる。そしてそれが見事に、作品に表れていた。

人が全てを脱ぎ捨て去った後に残った姿を描かせたら、天童氏はやはりピカ一である。そこに残るものは決して美しくはない。ドロドロとヘドロが渦巻くような風景だったりもする。しかし不思議と、それが人間なんだろうと納得できてしまう。やはり凄まじい、筆致の持ち主である。本作品も読みながら、何か重たいものが体に埋め込まれたように感じる。しかしそれは決してこれまでの作品に感じたドロドロとしたものではなく、逆に清廉な何かを胸に詰め込まれたようである。この感覚は過去作品には無かったように思う。もしかしたら氏はこの作品で、新しい場所へと上がっていったのかもしれない。

しかし重い。1ページ1ページがあまりに重い。あらゆる者にとって喜びであり恐怖であり、全てである生死。それをテーマに書き上げた作品であるから、それも当たり前なのかもしれない。だから、あなたがいかな速読の達人だとされても、一言一句かみ締めるように踏みしめるように、読まれる事をお勧めしたい。そう、静人が続ける「悼む旅」の、その足取りのように

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紙の本

紙の本流星ワゴン

2005/06/02 15:30

父親と、息子。

19人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

重松清という作家の文章の素晴らしさは、その浸透力にある。文章を目で追うに連れ、まるで水のように体に溶け込んでくる。だが決してその水は高原の岩清水ではない。時に苦く時には汗臭い。そして時には涙のしょっぱさを伴って、それでも、こちらの心にするすると溶け込んでくる。それはもう読む、という感覚さえ超えてしまっているかもしれない。目で文字を追う、それだけでいい。それだけでこちらの心に染み渡り、指の先まで痺れさせてくれる。以前の作品で、中年の課長が新入社員を前にしての余興で、仮面ライダーの物まねをするシーンがあった。薄い髪を振り乱して「とうっ!!とうとうっ!!」とライダーキックの真似をするくだり、まさに30代後半の私には、「わらってしまう」よりも、「わかってしまう」のだ。そして激しく胸を、締め付ける。

子供は中学受験に失敗した事から不登校になり、親にまで手を上げるようになった。妻は知らずのうちにテレクラに通うようになり、男遊びに狂っていた。死んでしまおうとは思わない。けれど、死んでしまってもいいかな・・・と思い始めた38歳のカズオの前に、一台のオデッセイが停まる。ワイン色のオデッセイに乗っていたのは、なんと数年前に交通事故で亡くなった父親と息子だった。彼らは悔恨の情を捨てきれず、つまり成仏できずにこの世を彷徨っているのだ。
カズオは「やりなおしの現実の世界」にオデッセイで運ばれるのだが、そこで今では病床に伏せている父親の、若かりし頃に出会う。現実世界では反発し続けてきた父。その父親の若かりし頃の姿に朋輩と呼ばれ心を通わせる事で、自分の境遇を新たな視線で見る事が出来るようになる。できる事なら、この「やりなおしの現実の世界」で、悲惨な現実を変えたいと思考錯誤するのだが・・・。
異世界に存在する、3組の父と息子。それぞれがそれぞれの間に、悔恨と情愛ゆえの無念の物語を持って出会う。そして3つの物語はまるで螺旋を描くように、深く強く複雑に絡みあって行く。そしてその螺旋を絡み合わせているのは、DNAだ。親と、子。夫婦は別れてしまえば所詮他人でしかない。しかし、親子はどうあっても何があっても、親子なのだ。そのDNAは悲しいほど普遍であって、繋がっている。この3つの螺旋の絡み方、それはまるで上織物のように緻密で美しい、奇跡の模様を描き出す。読む側はこの螺旋に飲み込まれ翻弄されて、オデッセイの行く末まで運ばれていくしかない。そして物語は大きなうねりからさざ波に変わり、終焉を迎え、涙が胸に染み込んで行く。
もしあなたが世を憂い、もういいかな・・・なんて考えてるとしたら。一刻も早くこの本を手にとって欲しい。ワイン色のオデッセイが、音も無くあなたの前に、現れる前に・・・。

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紙の本

紙の本美丘

2009/07/16 11:24

素晴らしいとか凄いとか、それしか書評タイトルが思い浮かばない。

15人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

悩みに悩んでも、全く書評タイトルが思い浮かばなかったのは初めて。何度書き直してもしっくり来ない。所詮私の稚拙な短い言葉で、この作品を一言で現す事など到底出来ないのだと諦めた。
二十歳の大学生、太一の独白で始まる本作品。ほんの2ページ程のそのプロローグを読んだだけで、素晴らしい作品で有る事を直感し、直後から物語に引き込まれてしまう。そして作品の最後の一行を読み終えた時。私はまたこの最初の2ページを読み返し、ぽかりと胸に空いた大きな穴を太一の言葉で埋めずにいられなかった。これはきっと、この作品を読んだ誰もがする作業に違いないと思う。

読書が好きという以外は、取り立てて目立つ所も無い大学生太一と仲間5人。その太一達の前に突然現れた女の子、美丘。美しい丘、とかいてミオカ。気に入ったら例え誰かの彼氏だろうと、例え女の子であろうと、手を出してしまうような破天荒な女の子。善だと思えば友達を差し置いても困っている老人に手を差し伸べ、悪だと思えば例え屈強な男だろうと、コンクリの塊で頭をカチ割り前歯をへし折ってしまう。どうしてそんな生き方が出来るのか。美丘は言った。「人生は永遠じゃないって、知ってるから。」だから自分の欲望に正直に真っ直ぐ、生きる。当たり前のように思えるその言葉には、実は深い意味があった。彼女は絶望的な病気の、感染者だったのだ。ミオカは流れ星が燃え尽きるように、命を削って輝いていた。次第に美丘惹かれて行く太一。大事な人を裏切っても、太一は美丘を選ばずにはいられなかった。そして二人は絶望に裏打ちされた幸せな日々を、共に過ごしていく。しかし絶望は恐ろしい速さで二人を追いかけて来た。病気の発症。薄れ行く美丘の記憶。太一の事さえ、分からなくなってゆく美丘。太一も美丘もただ涙する日々に、思い出された約束。そして太一は、忘れていた約束を守る為に、病床の美丘の元へと向かうのだった。あまりにせつない、その約束を守る為に。

石田衣良作品が好きです。池袋ウェストゲートパークに魅せられて以来、ほぼ全ての作品を読んできました。どの作品も完成度が高く、胸震わされる物ばかり。それはきっと人間の本質や、命を謳った作品が多いからのように思う。本当にどの作品も素晴らしいけど、しかし本作品の凄さはどうだろう。凄いというか凄まじいというか。そんじょそこらのお涙頂戴ストーリーとは一線を画す…どころかカテゴリさえ異にしたい。感動じゃない、感涙でもない。ココロが叫ぶ、「すげぇ」。あまりに命の物語、あまりにヒューマンな物語である。また細かな設定やふとした描写も素晴らしい。テーマもストーリーも素晴らしいが、細かい所でやはり石田さんの比類なき筆致が際立った一作だと思う。私的には氏の最高傑作、と評価したい。
終盤はダニエルキイスの名作、「アルジャーノンに花束を」に少しテイストが似ているだろうか。いやその先にあるのが確実な死であるのだから、本作品の方が残酷かもしれない。でもだからこそ、そこからは強烈なメッセージが送られてくる。

死んでも死にたいなんて言うな。みんな生きろ。
今日を一生懸命全力で生きろ!

ミオカのそんな声がココロが、頭に胸にガンガンと流れ込んで来るようだ。 

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紙の本

紙の本影法師

2012/12/22 08:42

ずばっと読めてぐっと感動

15人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

この作者の代表作「永遠の0」を年間で購読した本の中で一番、と思ったのは一昨年の事だったか。果たして今年もこの年の瀬に来て、同じ作者のこの作品を、私が読んだ中では今年一番と推薦したい。
こういう本が読みたい、という人が多いのではなかろうか。友情、愛情、そして自身の一生と命を賭しての深い深い思い。お涙頂戴モノと言われる方もいるかもしれないが、やはりこういう物語は王道、ぐっと来てしまう。そしてさすがの百田尚樹さん、素晴らしい筆致で物語最初からズバズバとこちらの胸を打つ。久しく「感動」から遠ざかっている方に、ぜひお進めしたい。
江戸時代の芽島藩筆頭国家老、名倉彰蔵の元に一つの知らせが届く。それは竹馬の友だった、磯貝彦四郎の、不遇の死であった。そこから、彰蔵の幼少時代(勘一)の回顧とともに、物語は展開していく。
学術にも剣の腕にも、誰にも負けなかった天才彦四郎。中士の家に生まれながらも、下士の身分の自分にも気さくに付き合ってくれた。お互いを認め合ってからは、いつでも自分を助けてくれた。そう、自分を命がけで助けてくれた彦四郎。その彦四郎が、最後は身を落として不遇の死を遂げたという。それは一体、ナゼなのか。人生を投げ打ってでも、自分を助け続けてくれたのはナゼなのか。その真相が明らかになると、彰蔵は泣き崩れるのだった・・・。がしかし、物語の最後に「袋とじ」として、もう一つの真相が明らかになる。これがまた、切なく物語を締めくくる。
このような良作にこのような蛇足を付けるのは心苦しいが、テイストは浅田次郎氏の「壬生義士伝」に近いだろうか。あの作品に感動を覚えた方なら、またぜひ読みたいと思われていると思う。であるならぜひ本作を、お手に取られることをお勧めします。

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紙の本

面白い以上に、嬉しくさえなる一冊

14人中、13人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

こういう斬新な切り口、テーマを持った作品を読むと、本を読むことが好きで本当に良かったなぁと嬉しくなってしまう。ページを繰りながら、「考えよったなぁw」と、思わずニヤニヤしてしまったりする。まぁなにせ一言、面白かった!
まずテーマ。古書にはもちろんその中に物語があるが、新品とは違って、人から人へと渡って行った、その物語があるという。作品への思い、渡す人への思いを重ね重ねて、古書は人から人へと渡っていく。その部分を題材にして、紡いだのが本作品なのだ。いやもうなるほどなぁと、感心さえしてしまった。そしてそこから紡ぎだされるのは、決して殺人事件とかのいやな匂いのする物ではなく、とてもヒューマンでぐっと来る物ばかり。古書がその姿から語る物語は、そうでなくてはならない。
それと主人公の一人である、五浦大輔という青年の設定も面白い。いかつい体つきをしながらも本が大好きなのだけれど、幼いころのトラウマで活字を読むことが出来ないというのだ。その青年が「ビブリア古書堂」の若く美しい店主、篠川栞子に出会うのだが。この店主、人見知りがひどくてほとんどまともに話せない。ところが本の事になると、とたんに饒舌になりいくらでも話してしまう。それが人に疎んじられて、また人見知りになってしまう。とここで、需要と供給が一致するというか、活字が読めない本好きの大輔と、本の事をいくらでも話したい栞子は気が合うようになり、ケガで入院中の栞子に代わって、大輔がビブリア古書堂を切り盛りするようになる。
また物語構成も非常に好感触。最初に書いたような「古書にまつわる人間物語」が4編ほど納められた短編集であるのだけど、多少オムニバスっぽい雰囲気を漂わせつつ進んでいく感じが楽しい。そしてまた、最初の物語でそっと残された懸案が、最後の最後にずば!っと提示される。それぞれの話を楽しみながら、最後に「おお、そう来たか!」とこれまた楽しかった。
私的に終わり方もとても好き。二人が急接近するでもなく、終ってしまうでもなく。物語の続きを感じさせる終わり方と言うか、ほのかに未来を感じて閉幕。最後に本を閉じて「はぁ満腹!ごっそさまでした!」という気分w。
エログロもバイオレンスもなく、逆に楽しみながらアカデミックな知識も得られる。これぞ老若男女、誰にでもお勧めできる一冊だと思う。…これシリーズ化しないかな、ぜひ続きが読んでみたい物である。

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紙の本

紙の本万能鑑定士Qの事件簿 1

2010/04/27 08:31

期待度120%のニューヒロイン誕生。

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

松岡圭祐氏と言えば、まず思い浮かぶのは「千里眼」シリーズである。押しも押されぬ大ベストセラーシリーズとなっているこのシリーズの主人公は、スーパーヒロイン岬美由紀。作品中ではもう、地球的アイドルと言っても過言では無いような存在になりつつある。この岬美由紀こそ氏の生み出した一大ヒロインである事は間違いないと思うが、実は他の作品にも、非常に魅力的なヒロイン達が存在する。マジシャンシリーズの里美沙希や、青い瞳のニュアージュシリーズの一之瀬絵梨香などがそう。それぞれ全く違ったキャラながら、とても魅力あるヒロインとなっている。果たして今回、4人目のシリーズヒロインが誕生した。今回のヒロインは若く美しき鑑定士、凛田莉子その人である。最初に言ってしまうがこの凛田莉子、岬美由紀に勝るとも劣らないほど、魅力的である。
何せ本作品を読んでいて、作品構成のウマさをひしひしと感じた。物語に入りやすく、どんどん興味を引かれて引き込まれてしまう。あらゆるところに、読者を取り込む飽きさせない工夫がなされているのだ。物語は「力士シール」と呼ばれる、太った顔が描かれた風変わりなシールが数千枚、東京中に貼られる事件から始まる。一体誰が何のために貼っているのか。週間角川の若き記者、小笠原が取材を始める。そして入手した力士シールを鑑定してもらおうとネット検索で見つけたのが、万能鑑定士Q、凛田莉子であった。
この導入部分も非常にウマいなと思った。力士シールという、突飛も無いけど滑稽な、ちょっと肩透かしの素材を使って気軽に読者を物語に入り込ませる。しかしここから、読者がはっとする程の展開を見せていくのだ。そのテンポと歯切れの良さが非常に気持ちよく、あっと言う間に物語に引き込まれてしまう。
そしてこのヒロイン、凛田莉子の設定がまた非常にウマい。沖縄は波照間島出身の23歳。ゆるいウェーブのロングヘア、猫のように大きくつぶらな瞳、抜群のプロポーションの美人。しかも非常に理知的だけど、どこか憎めないところがある。ところが万物を鑑定する能力は超人的、と来れば興味をひかれずにはいられない。どのようにして、若くしてその能力を得たのか。きっとすごい過去があったのだろうと想像させられるのだが。なんと過去の莉子は勉強はからっきしの、天真爛漫だけが取り柄の女の子だったのだ。ここでまた読者は、莉子のまさかの過去に「えーっ!」としてやられる。ウマい。それではどうやって莉子は、短時間で天真爛漫キャラから万物を鑑定出来るほどの知識を得ていくのか。読者の興味は増すばかりなのだ。
I巻は大きく「莉子が故郷沖縄を後にして、鑑定士として独立するまで」と「小笠原と出会って力士シールを調査する中で、ある事件に出会っていく」事がランダムに提示される事で進んでいく。その間にちらほらと挟まれる、大事件。うまくしないと非常に分かりずらくなりがちなこの構成だが、もう見事に魅力的に読者を物語に引き込む事に成功している。小さな事件(事象)を重ねる事で読者を飽きさせず、中程度の事件で引き込んで、全てを内包する大パニック事件の発生で、I巻を締めるという。こちらはもう、先へ先へと気持ちがはやるばかりである。全体的な構成のウマさはもう、さすがとしか言いようが無い。
新シリーズスタートとして、物語そのものも構成も、ヒロインの魅力という意味でもこの上無い作品に仕上がっていると思う。そうなると松岡ファンとして気になるのは、岬美由紀との絡みである。過去のヒロイン達は、みな岬美由紀の千里眼シリーズとコラボしてきた。これはファンとしてはたまらない事である。私の年代で言えば、まさにウルトラ兄弟が大集合した時のあの興奮に近いものがある(笑。いつか莉子も美由紀とコラボするのか。そう期待させるキーワードが、本作品にも埋め込まれていたるもするし。そういう意味でも、この先非常に楽しみなシリーズが始まった。凛田莉子のこの先の活躍から、目が離せない。

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紙の本

紙の本ミッキーマウスの憂鬱

2008/11/19 16:03

夢の守り人。

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読み始めてすぐ、「これは一体アリなのか!?」と驚いてしまう。この物語は東京ディズニーランドの裏側、つまり絶対のタブーについて事細かに説明しながら進んで行くのだ。日本人なら知らぬ者のない夢の国、東京ディズニーランド。その裏側や実態は、子供であっても触れてはいけないと分かっている、絶対のタブーであるはず。それが採用面接の様相から実際の裏方の仕事の詳細(美装部・運営部・法務部・調査部他)からその理念やポリシー、細かいマニュアルまで詳細に知らしめている。それどころか、夢の世界の裏側は決して夢の世界ではなく、対立や出世欲さえ渦巻く、普通の会社と何ら変わらない世界である事まで描かれているのだ。まるで、ディズニーランドに関する暴露本の様相さえ呈しながら、物語は進んでいく。良くここまで書けたなと、不思議にさえ思った。
そういえば松岡さんの作品で、以前ディズニーランドが出てきた事を思い出した。「千里眼-岬美由紀」のラストで、心身共に鍛え上げられた北朝鮮工作員の女が、ディズニーランドのどんなアトラクションに乗っても憮然としているのに、最後の最後イッツァスモールワールドに乗ると激しく涙し、拍手喝采で素晴らしい!と絶賛するのだ。私はその一節を読みながら、ああ松岡さんは相当ディズニーランドに詳しくてらっしゃるのだなぁと思ったもの。その松岡さんだからこそ、書けた内容なんだろうと思う。

派遣の青年後藤大輔が、何とか面接を通り裏方としてディズニーランドで働き始め、夢の世界と裏方の現実とのギャップに悩む・・・という展開なのだが。一つの事件が、物語を俄然面白いものに変えていく。何とミッキーマウスが失踪・・・いや喪失してしまうという、前代未聞の事件が起こるのだ。たかがきぐるみと思うなかれ、それは東京ディズニーランドの存続の危機に繋がり、何とアメリカとの外交問題にまで発展しかねないという。最後にきぐるみに触れた、後藤と同僚の美装部の女の子が犯人に仕立て上げられそうになる。調査部の面々は大問題に発展する前に、彼女をスケープゴートにして責任転嫁を図っているのだ。一体ミッキーマウスはどこに行ってしまったのか。後藤は彼女の為ディズニーランドの為に、必死にミッキーマウスの跡を追うのだが。
そこに働くキャストでさえ思いもよらぬ展開、そして驚きの結末。本作はもちろん、暴露本などではない。ドキドキハラハラのミステリー、そして胸熱くなる青春物語なのだ。ぜひ誰にでも、読んでもらいたい。本作を子供達が読んだら、夢を壊してしまうだろうか。否、私は思う。夢には汗と涙が、必要なんだって。そして仲間と心を通じ合わせて力を合わせてこそ、実現できる夢があるんだって。夢を与える事に夢を見て、一生懸命になっている人達がいるんだって。そこにはただ夢があるんじゃない、夢は作られ、守られているんだって。教えてやることは悪くない。そこにまた、夢が一つ膨らむようにさえ思う。

最後のどんでん返しも見事!超胸スッキリ、で読み終えることが出来た。
もう何年も足を運んでいないが、久しぶりにディズニーランドに足を運んでみようかな、等と思わされてしまった。

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紙の本

紙の本時生

2005/08/19 13:47

君が生き残ると思えば、僕は今この瞬間でも、未来を感じる事が出来るから。

11人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

正直に言って、「秘密」以降の東野作品はピンと来なかった。「秘密」も映画化されたくらい人気あったようだが、私はあまり面白いと思えなかった。それ以降の「白夜行」や「片思い」等も同様。
なんて言うのだろう、嫌らしさとか淫靡さ、みたいなものが微かに感じられてしまって、どうもかつての東野作品のようにスカっと気持ちよくなれなかったのだ。もう、当面東野作品は手に取らないで置こう、とさえ思い、本屋で彼の名前を探す事は無くなっていた。
ところが先日本屋に行くと、平積みにされた一冊の本のタイトルが、ずば!っと目に飛び込んできた。「時生」。タイトルを見ただけで、ビビビと来てしまった。手に取らないと決めていたはずなのに、他の本には目もくれずにレジに持っていった。
そして電車の中でページを開いたのだが。久々に、電車を乗り過ごした。は!っと思ったときには降りるべき駅を逸していたのだ。・・・来た。これこそ、名作に出会ったときの私的現象なのだ。
僕はしちめんどくさい作品は嫌いだ。時間を使ったトリック等も、あんまり読む側を混乱させるような作品は、名作とは呼ばない。
ストーリーもトリックも、すっと胸に入って染み込んで欲しい。考えて考えて「ああ、なるほど」っていうのは疲れるばかりで、全然スカっとしない。そして単に分かりやすいだけではもちろんダメだ。そこからなんらかのテーマや魂といったものを感じさせてくれて初めて、良い作品と呼べる。
本作「時生」は、やはり時間超越を使った物語である。そして物語の軸になるのは巨大企業の「横領・贈賄」事件。しかしながら、それらはこの作品が訴えかけるテーマを描き出す、単なる素材でしかない。そう、この作品で描き出されるものは「愛情」だ。親から子へ、子から親へ。男から女へ、そして女から男へ。何もかも、時間をも超えた、深い深い愛情の物語なのだ。
最後の一行で涙溢れた。東野圭吾はまだまだ、枯れてはいなかった。
細かい事はどうでもいい。キャラの魅力がどーたらとかも、語る必要が無い。とにかく手に取り、読んでみて欲しい。そしてあなたの愛する人の事を考えてみて欲しい。誰かを愛しているという事は、何と素晴らしい事なのだろう。

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紙の本

紙の本とんび

2013/02/23 07:04

「親」にはつとに染みる一作

10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

重松氏の作品で「家族愛」を描いた物というと、最初に浮かぶのは名作「流星ワゴン」なのだけれど。「流星ワゴン」がちょっとSFチックでいくつかの家族愛を描いた物なら、この「とんび」は一人の男が人生全てをかけて、息子を愛し抜いた物語。しかし「流星ワゴン」に勝るとも劣らない、というか傑作ぞろいの氏の作品の中にあってもピカイチと評したい。誰にでも染みる物語ではあるけれど、私のような子を持つ親、得に高校生の一人息子を持つ私などには少し染みすぎてしまう。それは少し「痛み」や「恐れ」にも似て、苛まれる人がいるかもしれないのでご注意。
主人公のヤスにはずっと家族がいなかった。だから妻が出来て子が出来た事に、本当に言葉にならない「幸せ」を感じる毎日だった。だけど事件は起きてしまう。3人だった家族は2人になってしまい、ヤスは息子のアキラに一つの秘密を抱えて育てて行くことになる。照れ屋で不器用なヤスは、いつもいつもうまく気持ちを伝えられない。思いとは裏腹な辛辣な言葉が飛び出してしまったり、時に手が出てしまったり。でもその底にある深い深い愛情は、アキラに十分伝わる。ヤスの幼なじみや地元の大人たちにも育てられ、アキラは「とんびが鷹を生んだ」と呼ばれる程優しくて賢い少年に成長していく。そしていよいよ巣立ちの日、別れの日がやってくる・・・。
今、学校と親と子供たちの間にいろんな問題が起きている。体罰問題、親の教育放棄、そして子供の不登校やいじめや引きこもり。子供たちの命にさえ関わる重大な問題。もしかしたら、そういう問題に対する答えの一つが、この「とんび」なんじゃないかと思う。辛辣な事を言おうが手を出そうが。そこに真っ直ぐな深い深い愛情があれば、子供には伝わる。正直、私にもその経験がある。その部分が、論点として今欠けているのではなかろうか。「お前の子供に対するその行動、そこには深い愛情はあるのか」と、それをこの作品は語りかけてくるように感じた。
最後に。本作品は物語はもちろん素晴らしいんだけど、最後の一行が本当に美しい。うまく息が出来なくなってしまった程。本当の傑作というのは、こういう一文の言葉や語調の切れ味や美しさが素晴らしいのだと思う。もう芸術の域をさえ感じる最後の一文を、ぜひお楽しみに読み進めてください。

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紙の本

紙の本きみの友だち

2008/10/03 10:28

いやもう、素晴らしいとしか言葉が無い。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

重松さんの作品は読むたびに、氏の最高傑作と思ってしまう。
でも本作に到っては「最高」とか「傑作」という言葉さえチープに感じる。
本当に色んな意味で、素晴らしい作品。
読み終わって涙がぽろりとこぼれた。でも何の涙か分からない。
嬉しいのでも悲しいのでも感動したというのでもない。
でもココロの奥からこぼれた涙。そんな気がした。

小説には、書評が書きやすい本と書きにくい本が確かにある。
では重松さんの作品はどうかというと、いつも作品を読みながら、
あふれるように言葉が浮かんでくる作品ばかり。
だから本作品も読みながら、思いつく言葉を書評として書き留めていた。
そしてそれは結構な長さになってしまったのだけれど。
作品を読み終わって、全て却下することにしました。
それなりに一生懸命書いたけど、この作品を評するのには、
あまりに言葉がチープ過ぎると思ったから。

読み始めは、子供たちが子供たちの、
それなりに理不尽で残酷なコミュニティの中でどうやって立ち居振る舞い、
乗り越え成長していくのか、を描いた作品だと思った。
それはそれで非常に興味深いが、
リアルに書くには非常に難しいテーマでもあるなと感じた。

ところがそれだけでは、全然無かった。
連作となっているそれぞれの作品の絡み合いも見事だし、
例えばヒロインの恵美ちゃんのそっけない態度とか、
ストーリーテラーになっている、子供たちを「きみ」と呼ぶ存在は誰か、
であるとか。作品中の?が最後に見事に説明される。
そして本を閉じた時、涙がポロリと毀れてしまう。
作品全体が、綺麗にすっと腑に落ちココロに染み込む。そんな作品である。

子供は思った以上に大変だ。そして、色々考え色々頑張っている。
選ばれる者と、選ばれない者。生きる者と、死ぬ者。
子供たちはそんな毎日を乗り越え日々成長し、
過酷だけど素晴らしい人生を、今日も歩いていく。

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紙の本

いやもう、現代文学の奇跡ではと。

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

初めてこの本を目にした時、入ってきた情報に脳みそが追いついていかず、軽い恐慌を来たしてしまった。大好きな作家の名前が並んでいる。大沢在昌に京極夏彦。石田衣良に東野圭吾と並ぶともう脳みそパニックである。さらに逢坂剛に今野敏に柴田よしき!?「私の好きな作家ベスト10」を上げたらこの7人でほとんど埋まってしまう。「このミステリがすごい!」でも出たのかと思いきや、なんと本のタイトルが「小説!こちら葛飾区亀有公園前派出所」と来た。脳みそは恐慌通り過ぎてカオス、ハルマゲドンである。
そしてとうとうその内容を理解した時、僕の脳みそは一瞬で炸裂した。このそうそうたる作家が、あの両さんとコラボした!というのだ!そして何と!あの鮫島が!あのマコト君が!両さんと絡んでいるという!ありえんんんんん!!
新宿鮫といえば近代警察物の金字塔。直木賞の受賞作品である。
そう、主人公鮫島は刑事。それも警部(ホントは警視)だったりする。そう両さんの上司になるのだ。だが、そんな事を鼻にかける鮫島ではあるはずないし、そんな事でへりくだる両さんでもあるはずない。いや一体この辺りの絡みはどうするのか・・・と、思ったら。ウマい!なるほどな、そういう風に絡めましたかと、大沢さんのさすがの構成に涙さえしてしまった。
そして池袋ウェストゲートパークのマコト君であります。
だってこの作品の書き出し、
「あんたは両津勘吉を知ってるかい?
偉大なる人類の祖先クロマニヨン陣の骨格をした
恐るべきスーパーコップだ。まあ規格外なのは確かだが、
警視庁にだって新宿鮫みたいないい男ばかりでなく、
はずれくじもまわってくるからな。
でかい組織には思わぬ名物もいるって話。」
うをををを・・・マコト君である!そう、IWGPシリーズを彷彿とさせるこの冒頭。しかし!そこにはあろう事か両津勘吉の名前に、なんと新宿鮫の名前まで!もうこの時点で、IWGPファンの涙腺は緩み全身びっしりと鳥肌状態である。
さらに京極作品では、大原部長が「中野の」「古本屋に」行くという設定。ええもう、京極ファンならここで膝が笑うはず。そしてやはり坂の上に・・・。
他作品も、そう言った読者サービス的な部分もふんだんに盛り込んで、素晴らしく胸沸き血躍る作品になっていました。
各作家に秋元治氏、誰かのファンなら必読の、永久保存版!の一冊です。

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紙の本

面白すぎる!

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読むにつれ、本書を形容する言葉が次々に浮かんできた。
でも要約すると「面白い」、この言葉に尽きるような気がする。
日本語で「面白い」というと、興味深いという意味とユニークだという
意味があるけど、本作品はその両方を、十二分に兼ね備えている。
だからどんな形容よりも、シンプルに、「面白い」。
これがもっともしっくり来るように思う。

作者は広告業界で今日まで22年間活躍し、CMプランナーや
ウェブ・プランナー等、非常に興味深い仕事をこなして来られている。
またネットの世界では「さとなお」の名前で知られた超有名人、
カリスマである。今日までHPのヒット数は2200万を数えるというから、
ハンパな数字ではない。そういった経歴を持つ作者が、
ネットというメディアを中心に据えて、これからの広告のあるべき姿、
を書いたのが本書である。だけど決して広告業界だけに向けた本ではない。
私は広告業界とはほど遠い業種に勤務しているが、
読むほどに本の内容が自分の仕事に照らしあわされてきて、
脳裏にぶわわわ!っと色んな考え、アイデアが浮んできた。
ページを繰る度次から次へと溢れ出るそういった思考が邪魔で、
読み進めるのに苦労したくらいだ。

近年ネットの登場と共に、消費者とメディア世界の構図が激しく変化した。
その変化した消費者に、どう接していいのかアプローチしていいのか。
悩んでいる者は、決して少なくないはずだ。
そう変化した消費者に対するには、こちらも変化しなくちゃいけない。
その為には何を、どう変化させるべきなのか。これが基本的なテーマ。
興味深いというか、切実でさえあるテーマである。
悲観的にさえなってしまいがちなそのテーマを、ユーモア交えて説明・
提案してくれているのが、本書なのだ。
例えば、広告を消費者へのラブレターと喩えているのには感心したが、
インタネットを商品の本当の姿を映し出す「ラーの鏡」だと
書いてあったのには、思わず笑ってしまった。
しかし言いえて妙、その通りなのである。
ここらへんに、作者の比類なき魅力があると思う。
それはつまり、「伝える力」である。
こんなに伝えたい事が真っ直ぐ読者に伝わってくる、
そしてそれを素直に受け取れる本も、珍しいのではなかろうか。
どんなに良い事素晴らしい事が書いてあったって、
読者に伝わらないのでは意味がないし、必要も無い。
内容や構成のウマさもあるのだろうけど、この本は決して、
上から物を言わない。同じ目線か、ちょっと下くらいから、
笑いを交えて話しかけてくれる。だからきっと、
読む方の心にすうっと、言葉が入ってくるのだろう。
読む相手をとことん思いやった言葉選びと構成。
実はこういう所にこそ、この手の本の大事さがあるのかもしれない。
そしてそれこそ、この本のテーマになっていたりもする。

多種多様な趣味嗜好から得た、豊富な経験と引き出し。
そこから繰り出される言葉は一つ一つが大変面白くて、興味深い。
その作者が提案する、これからの消費者とのコミュニケーション方法。
経済活動に従事する、誰もが読んで欲しい・・・いや読むべき、名著である。

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