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  3. 三度目の正直さんのレビュー一覧

三度目の正直さんのレビュー一覧

投稿者:三度目の正直

11 件中 1 件~ 11 件を表示

紙の本売り渡された娘

2005/02/21 05:28

売り渡された少女の運命は。19世紀中期の英国が舞台のロマンス。

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まさかこんなに大がかりなストーリーが用意されていたなんて、誰が予想できただろう。読み始めの時点では全く予想していなかった展開の意外さに驚き、またその分得をした気分にもなった。

本書は後見人と被後見人のロマンスを描いた作品。
裏表紙のあらすじだけを読むと、タイトルも手伝ってか、少女がとても酷い目に遭わされる少し猥りがましい内容のような感じがして読むことをためらいそうになるが、なんのなんの、中身は起伏もありとても構成のいい秀作。ちなみに原題は『The Wager』。西田ひかるさんによる訳も滑らかで読みやすくとても良い。


19世紀中期のイギリスが舞台。ヒロインは16歳の孤児マリアン。
彼女は、後見人のホラスから突然、ピーター・デズモンドという紳士の家で暮らすように言われる。ホラスは賭博でお金が尽きるとマリアンを賭けてしまったあげく負けたために、マリアンの後見人の権利が彼からピーター・デズモンドへと移ったのだ。
そんなことなど何も知らないマリアンは、よく事情が飲み込めないものの、それまでひどい生活を送っていたのでホラスの家から出られることに喜びを感じた。そして彼女は、ピーター・デズモンドをきっと親切な老紳士に違いないと思い込んでいた。ところが実際に会い、ピーターが若い男だったことに驚くとともに、自分が彼の家に住むことの意味が分からず戸惑う。

一方、ピーター・デズモンドは、ホラスがやっている”商売”からマリアンを高級娼婦だと思い込んでいた。ところがマリアンに実際に会って際どいところで誤解だったことに気が付く。そして法的に本当の意味で彼女の後見人となってしまった彼は、今後の彼女の身の振り方をどうするべきか頭を悩ます。


最初の誤解が原因で二人の間には気まずい以上の雰囲気が絶えずゆらゆらしている。そして誤解が解けたと思いきや、さらに新たな誤解を招いたりして、二人の距離はちっとも縮まらないし、ハーレクインはハッピーエンドがお約束だと分かっていても、本当にこの二人はそこまでたどり着けるのかと心配になったほど。けれど、非常にじっくりと時間をかけて進むロマンスは、その間の二人の心情も丁寧にじっくりと描かれているだけに読み終えた時の充足感も大きかった。

そして注目すべき点は、学校が舞台として盛り込まれている点だろう。ここまで学校の様子が描かれた作品は他のヒストリカルシリーズ作品にはあまり見られないので珍しいのではと思う。マリアンの女子寄宿学校での生活、そして大学。女性が大学に進学するなんて普通では考えられなかった時代なのでその分余計に興味深かった。高く評価したい点だ。
それから、手に汗握るような命がけの救出劇や脱出劇までも盛り込まれてある。本当に内容が充実していて読みごたえのある秀作だ。

著者のサリー・チーニーは、この作品の前にもヒストリカル作品を4作品発表しているが、残念なことに日本語に訳されたものは現在この一冊しかない。いつか他の作品も日本語に訳されることを願うばかりだ。

また、本書と同じように後見人と被後見人のロマンスを描いた小説というのは結構あり、ヒストリカルシリーズでは他に、ミステリー要素を含んだ傑作アン・アシュリー著の『わたしだけの後見人』などがある。入手しにくいかもしれないが、興味のある人は本書と読み比べてみるのもよいかと思う。

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紙の本藁くじの花嫁

2005/02/03 02:37

藁くじで決められた結婚の行方。西部開拓時代が舞台のロマンス。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

アメリカンロマンスを多く手がけるダラス・シュルツェのヒストリカル作品。本書は彼女の作品中で一番と言っていい程に人気が高い。これまでは読みたくても入手困難だったので、こうして文庫本として発売されたことで喜んだ人は多いのではないだろうか。
また、ヨーロッパ舞台の作品が圧倒的に多いハーレクイン・ヒストリカルシリーズの中で、数少ないアメリカ舞台である本書は輝きと存在感が違う。


南北戦争終結後の西部開拓時代。
牧場を経営するカウボーイのマクレーン兄弟は、母が他界してから女手のない生活を送ってきたが、まずい食事と汚い部屋に限界を感じていた。それに跡継ぎの息子も必要ということで花嫁を探すことにしだが、どちらも自分は結婚したくないと主張。結局どっちが結婚するか藁くじで決めることにし、その結果兄のルークに決まる。そしてルークは牧師に相談するために足を運んだ教会で、趣味の悪い帽子をかぶった目立たない娘エレナーと出会うことになる。

前半は二人の出会いから結婚まで、後半は本当の夫婦になるまでの道のりが描かれている。
便宜結婚をした二人が心を通わせ本当の夫婦になっていく様はとても自然で読んでいて気持ちが良かった。


西部、カウボーイと聞くと、映画で見るような拳銃で撃ち合ったり決闘したりという図を思い浮かべそうだが、本書のカウボーイたちは文字通りカウ(牛)の世話を仕事とする男たちであってガンマンではないので、そういった荒っぽさは無い。
けれど、祭りでの草競馬のシーンは迫力があり、あっと驚く素敵な場面もある。

ルークの弟のロマンスや、エレナーの叔父一家の意地悪ぶりと滑稽さもみどころだが、ルークがエレナーに初めて出会って以来気になって仕方なかった彼女の悪趣味な帽子にも注目して読んでほしい。最後に思わず笑ってしまう場面が待っているはず。


ロマンス小説、西部開拓時代に興味がある人、藁くじに興味のある人、是非一読を。
思わず笑みがこぼれる爽やかなラストシーンが最高。

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紙の本闇に眠る騎士

2005/12/13 11:52

傷だらけの騎士と自由を奪われたウェールズの娘。1423年、中世イングランドを舞台とした切なさ全開のロマンス。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ハッピーエンドが前提であるハーレクインの本を好んで読む私は、「最初からハッピーエンドだと分かってるのになんで読むの? 読んで面白い?」と友人に言われたことがある。なぜと言われると困ってしまうが、ハッピーエンドだと分かっているからこそ読むとも言える。ハッピーエンドにたどり着くまでの山あり谷ありの困難を、二人がどう乗り越えていくかという過程を楽しみたいのだ。
 鮮烈のデビュー作『薔薇と狼』から2年。首を長くして待っていたスピンオフ(続編)の発売に歓喜した。ただ、スピンオフが出るとするなら今度のヒーローは金髪の騎士ニコラス・ベッカーだと思っていた人は多いはず。それだけに、ヒーローはヒュー・ドライデンだということにとても意外性があった。
ヒューは、前作では主人公の友人として登場し、ある男によって酷い拷問を受け心身ともに傷を負った騎士。前作の中では、酷い拷問を受けたらしいということは書かれてあったものの、どんな拷問を受け、どんな酷い傷を負ったのかなど具体的には書かれていなかったと記憶している。今回はそれが具体的にあかされており、そのあまりの内容に絶句した。まさかそこまで酷い目にあわされていたなんて思ってもいなかっただけに、”拷問”というものを甘く見ていた自分が呪わしくさえ思えた。
 心身ともに一生消えないような酷い傷を負い、明るさも生きる希望も失ったヒュー。そんな彼と出会うヒロインがウェールズ人の娘シャーン。
シャーンの明るさと無邪気さによって次第に癒されていくヒュー。シャーンもまたヒューに惹かれていくのだけれど、二人の間には大きな壁が立ちはだかっているのだ。シャーンは兄の意向で近いうちに修道院に入れられる身であるし、ヒューは他の女性に(仕方なく)求婚している身。
この壁がどう崩されるかが本書の最大のお楽しみでしょう。
 でも、本書の面白さはそこだけではない。
前作でもヒロインの隠された秘密やその設定に大変驚かされたが、今回もびっくり仰天である。巻頭に、ざっと簡単な登場人物紹介が載っているのだが、実際の歴史に名を残すあの人やこの人の名がずらり。ヒストリカルシリーズの他の作品でも実在の人物が登場することは珍しくはないが、大体はちょろっと登場するという程度。だが本書は主要人物としてかなり出ずっぱりなのだ。
ヒロインのシャーンにいたっては、なんとオーウェン・チューダーの妹という設定になっている。中世ヨーロッパの歴史をかじったことのある人ならご存知の通り、オーウェン・チューダーは国王ヘンリー五世亡き後もその妻キャサリン王妃の側に仕え、後に二人は結婚して子供ももうけたという男である。また、後にチューダー王朝を開くことになるヘンリー七世は彼の孫にあたる。本書ではまだキャサリン王妃と結婚はしていないが、二人の関係を匂わせるような雰囲気はある。本書では妹シャーンに冷たい酷い兄として描かれているところもまた面白い。
史実をうまく取り入れながら見事なフィクション仕立てになっていてその巧さには舌を巻くばかり。歴史好きさんなら大いに楽しめることは間違いなしだけど、たとえ歴史の予備知識が無くても大丈夫な作りになっているのでご安心を。
 看護師として勤めた後、大学に戻って歴史を学び「史実は小説より奇なり」と実感したことが小説を書こうと思ったきっかけだという著者。今後もどんなヒストリカル作を生み出してくれるか楽しみである。

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紙の本マリアの決断

2005/08/08 15:03

私生児マリアのシンデレラストーリー。中世イングランドが舞台のロマンス。

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1ページ2段方式で全284ページ。そこそこ厚みも分量もある本だが、中身は更にその2倍はあるんじゃないかと思うほど、ボリューム満点の一冊だった。
デビュー作『薔薇と狼』でその実力を見せ付けたマーゴ・マグワイアは、中世イングランドを舞台としたロマンス作品を多く手がけるヒストリカル作家。さすが実力派だと思わせられるプロットの素晴らしさと、細部までこだわった描写に加え、生き生きとした登場人物たちも魅力にあふれている。
本書は『精霊の花嫁』のスピンオフで、前作に登場したカーカム卿ことニコラスがヒーローとして登場。
ほとんどのヒストリカルシリーズがそうであるように、一冊読み切り型なので、前作を読んでいなくても問題なく読むことが出来る。こちらを読んで気に入ったら前作を読んでみるというのも悪くないと思う。
時は1429年、イングランド。
伯母の家で召使いのように暮らしてきたマリアは、偶然耳にしてしまう。実は自分はある公爵の娘であり、亡き母の所領も継承できるらしいと。自分には本当の居場所があるんだと希望を持ち、マリアは馬に跨ると伯母の家を命がけで飛び出し、所領だというロックベリーを目指す。だが途中で、猛スピードで走ってきた別の馬のせいで、彼女は落馬しケガをしてしまう。急ぐ彼女の行く手を邪魔したのはカーカムの城主、ニコラスだった。
お互いに相手には明かすことができない秘密があり、だけどお互いのその秘密には実は関連があったりして、そこらへんのつながりと話の流れが絶妙である。
出会ってからどんどん距離を縮めていく二人だけど、ちょっと読者置いてけぼりっぽく、お二人さんペースが速くないかい?なんて思っていたら、途中で前進がぴたりと止まってしまう。それどころか、二人の秘密が仇となり、話はおかしな方に転がり始める。事件、裏切り、救出・脱出劇と、特に後半は目が離せない展開で、最後まで失速することなくとても楽しめた。
甘美なホットなシーンが多いとロマンス部分だけが目立ってしまい、物語的に少しつまらなくなってしまうことが多いが、本書はロマンス以外の部分も読者の気を十分に引く内容になっていて、時代・歴史小説としてもロマンス小説としてもとてもバランスが良いと思う。
そして、1429年といえば、ちょうどあのフランスの救世主ジャンヌ・ダルクが活躍した時。敵であるイングランド側から見た、活躍する彼女の話題もちらちらと随所で出てくるので面白かった。
目標は、「目的意識を持ち、活力に満ちた芯の強いヒロインも描くこと」だという著者。私からみると、もう目標達成しているように思えるが、今後、マリア以上にますます魅力あふれるヒロインに出会えそうで、ますます次作が楽しみである。

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紙の本セラフィーナ

2006/03/06 20:52

咄嗟についてしまった嘘が思わぬ事態に。19世紀英国が舞台のロマンス。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 とっさについてしまった嘘が大変な事態を招いてしまったという経験のある人はどれくらいいるだろう。
「ああ〜、だから言わんこっちゃない!」と思わず嘆いてしまった本書は、ヒロインであるセラフィーナがまさにそういう事態に陥ってしまう物語である。そして、欠点が見あたらないくらいに本当に巧くて面白い。
 ナポレオン戦争終結後間もない19世紀初頭の英国が舞台。
外交官のチャールズは、兄が亡くなり男爵家を継いだが結婚に乗り気ではない。はやく結婚しろと急かしてくる祖母にうんざりする彼は、仕方なく条件付きで承諾をする。利口すぎず、従順でつつましやかで、口答えもせず、外見もいい娘とだったら結婚してもいいと。もちろん、そんな娘などいるわけがないと見越した上での発言だったが、祖母が引き合わせた女性セラフィーナは淑女の鏡そのものだった。
 ところがどっこい、このセラフィーナ、実は淑女なんて言葉とは無縁の性格。読書好きで学問もでき(この時代は女性が学問をすることは好ましくなかった)、木登りも得意なおてんば娘。家族の経済状況を救うために財産持ちと結婚しなければならなくなり、折しも男爵が結婚相手を探しているということを聞いたのだ。
けれど、男爵が望む相手は自分とはかけはなれたタイプ。でもどうにか結婚にこぎつけたい彼女は従順な娘を演じることにする。
 そのことだけでも、後で大変なことになることは目に見えているのに、もう一つ咄嗟についてしまった嘘から事態はとんでもなく複雑なことになってしまうのである。
 セラフィーナの嘘がいつチャールズにバレるかと始終ハラハラさせられ通しだった。でも後で嘘がバレてチャールズは怒っても、どうせすぐにゆるしちゃってめでたくハッピーエンドなんでしょ?などと軽くみていたら、見事にやられてしまった。バレてからの展開の持っていき方が巧いのなんの。そうなっちゃいますか!?というくらいにびっくりさせられた。
 嘘をついていることに耐え切れず、本当のことを言いたいけど言い出せなくなってしまったセラフィーナの胃がキリキリしてきそうな心情や、結果として自分で自分の首をしめてしまった彼女の惨めさが痛いほど伝わってきて、自業自得だと分かっていても読んでいるこっちまでも泣きそうになった。
 もし自分が悪気のない嘘をつかれたとしたらゆるせるだろうかと何度も自問してみたが、やっぱりゆるせる自信がない。一度壊れた関係を修復できるなんて絶対にありえないという考えの自分は、本書で、仲直りする勇気、相手の罪をゆるす勇気について教えられた気がする。
そして、恋なんていう非論理的な感情での結婚なんてごめんだわと、感情よりも理性での結婚を望んでいたセラフィーナの心の変化も見逃せない。もちろんチャールズの方も。
 実はこの作品は日本では過去に2度も刊行されている。1997年に初めて発売され、2003年に復刊、そして2006年に本書である文庫版が発売。他にコミックス化もしており、その人気の高さが伺えるし、実際に読んでみて納得の秀作だ。
ちなみに著者は英国の有名カレッジで長く副校長を務めていた女性だけあって、博識さが本書の中でも遺憾なく発揮されている。まだ著作数は少なくて残念だけど、叶うならセラフィーナの兄弟たちを主人公にしたスピンオフ作品を望みたい。

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紙の本薔薇と狼

2005/12/13 11:42

強情娘の謎と傲慢な騎士の奪還劇。中世イングランドを舞台としたロマンス。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 本書は著者のデビュー作。こんな凄いものを書いてしまう新作家の登場に拍手を送りたくなった。はっきり言って、読み終わるまでロマンス小説だということを忘れていたくらいにスペクタクル。とにかく何もかもが巧く、その完成度の高さには唸らずにはいられない。映画で観たら面白いだろうなとさえ思ったほどだ。
舞台は1421年イギリス。
国王ヘンリー五世の命令で、はるばるノーサンバーランドまで来た騎士のウルフレム・ゲアハート・コールストン(通称ウルフ)。王命は、サマズ男爵の義理の娘であるキャスリン・サマズ(通称キット)をロンドンまで連れてくること。こんな辺境の地の娘になんの用があるんだと王の意図をいぶかしく思い、また、そんな役にわざわざ王の補佐役である自分が選ばれたことに腹を立てていた。
一方、キットの方も国王が自分のような田舎娘に何の用事が?とさっぱり分からない。だが、彼女はこの地をどうしても離れたくない理由があり、ウルフら王の使者たちから逃げる機会をうかがっていた。
 また、もう一つ、ウルフにはどうしても遣り遂げなければならないことがあった。亡くなった父と兄の敵討ちのためにも、かつて従兄弟に奪い取られたウィンダミア城を取り戻すことが彼にとっては何よりも重要な目的なのだ。
王がキットをロンドンに呼び寄せた謎に加え、このウルフのウィンダミアを取り戻す復讐・奪還劇が物語の二本柱となり、さまざまな展開を見せていく。
気の強いキットと傲慢なウルフは何度も衝突し、その言い争いは時にぷっと笑ってしまいそうになるほどに面白い。でもムキになって言い返すキットが妙に可愛いかったりする。
 最後には二十年にもわたる苦しみからやっと解放されたウルフにほっとした。そして、義父に殴られるなど虐げられながら酷い暮らしをしてきた少年のような身なりのキット。彼女が幸せを手に入れた時は本当に安堵した。
やっぱりシンデレラストーリーは最高!と目をキラキラさせてしまうこと必至な一冊です。

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紙の本かぐわしき天使

2005/07/19 22:11

牧師の娘と元陸軍少佐、互いにトラウマを越えて。19世紀初頭、英国摂政時代が舞台のロマンス。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ハーレクインの本の中でも人気が高いヒストリカルシリーズ。主にヨーロッパを舞台に、中世ものから18、19世紀ものまでロマンス小説好きの心をくすぐるような粒揃いである。
アン・グレイシーの著作はまだ少なく、日本語に翻訳されている分に至っては片手で数えられる程しかない。けれど、秀作揃いなうえに、温かな読後感が最高で、最も注目なヒストリカル作家の一人。
大人気を博した前作『氷の伯爵』では、思わず微笑んでしまう可愛いらしいヒロインだったが、本書も負けず劣らずに初々しく可愛いヒロインが描かれている。
1812年イギリス。
牧師の娘ケイトは、父と兄を亡くし天涯孤独の身に。仕事を探していたところ、一人の老貴婦人が訪ねてきて、自分のところで暮らし社交界にも披露すると言ってきた。社交界に出入りしたくないつらい過去があるケイトは老貴婦人の申し出を断るが、なんと彼女は老貴婦人に誘拐され、荒れ果てた屋敷に連れて来られる。そこは、人を寄せ付けず部屋に閉じこもっている老貴婦人の孫ジャックの屋敷だった。
ケイトはなぜ自分がこの屋敷に連れてこられたのか、ジャックの方も突然現われたケイトがいったい何者なのか分からないままに二人の出会いは幕を開ける。
裏表紙に書かれているあらすじを読んだだけでも面白さが伝わってくるが、実際はその何十倍も面白い。ストーリーの運びがとにかくうまく、え?なになに?っと、1ページ目からぐいぐい引っ張り込まれてしまった。しかも、あらすじからは予想もつかない裏事情がわんさか出てきては、あらぬ方向に物語が展開していくので目が離せなくなる。退屈なんて言葉とは全く無縁の作品である。
良家の娘が下働きの仕事をするなど考えられなかった時代。それでもケイトは、誰にも世話にならずに自分で生活費を稼ぎたいという自尊心の強い女性。その頑固さには、ジャックもジャックの祖母のレディ・カーヒルも舌を巻く。特に調理場の床を磨くことをめぐってのケイトとジャックのしつこい程の押し問答には、呆れるやら笑えるやらで、どっちでもいいやん!と思わずツッコミを入れてしまった。
ケイトの過去には、思わず同情せずにはいられないような悲惨な出来事がある。倒れそうになる体に自分で鞭を打ちながら、毅然と顎を上げ、大地に両足をつけ必死に踏ん張っているかのような彼女の姿は、強がっているのが見え見えな分だけとても痛々しい。
最後に、彼女がとても恐れ避けていた過去の悪夢と再び対峙する場面では、逃げ出しそうになる心と体を必死に抑えるその姿に、そして、彼女の勇気とジャックを含め一部の人々の優しさに思わず泣いてしまった。ジャックも反対に、ケイトのお陰でトラウマを乗り越えることができる。
お互いの支えで、お互いにトラウマを乗り越えることができた二人の絆と未来は確かなもの。本当に素敵な読後感を残してくれる傑作だった。
また、実直で、ずけずけとしたものの言い方が気持ちのいいジャックの祖母のレディ・カーヒルなど、脇を固める登場人物たちもとても味があって魅力的。
願わくば、ジャックの友人フランシスを主人公にしたスピンオフ作品を読んでみたいと思った読者は私だけではないだろう。アン・グレイシーさま、お願いします。

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紙の本待ちわびた求婚

2005/05/31 00:02

26歳の彼女の幸せの行方は。19世紀初頭イギリスの田舎が舞台のロマンス。

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本当に待ちわびるタイトル通りの内容だった。原題は「An Ideal Match」だけれど、日本語タイトルの方が本書の内容をよく表わしていると思う。
著者のアン・へリスは、華やかな19世紀初頭の英国摂政時代(リージェンシー)を舞台とした物語を得意とする作家の一人。愛読書はオースティンの『自負と偏見』やC.ブロンテの『ジェーン・エア』だという。これにはなるほどと頷けるものがあり、彼女自身の作品も、会話の面白みや女性が強く生きる姿などこの両作品の要素を併せ持つような読みごたえのある作品ばかりである。ちなみに本書でも、主人公二人の会話の中にオースティンの『エマ』のことが登場するのでなんだか嬉しくなる。
主人公のジェインは26歳。母親を亡くしてから弟の母代わりとなり、病床の父親の看護で結婚のタイミングを逃してしまい、父が亡くなった後はまだ大学生の弟の代わりにずっと所領地の管理をしてきた。そして今度は、母の親友の遺言で、アマンダという18歳に満たない少女の後見人役になることになる。本書は、自分にはもう結婚のチャンスはないだろうとあきらめている彼女が幸せを手に入れるまでの物語である。
ジェインはある日乗馬で出かけた荒野でマックスという貴族の男性に出会うことになるのだけど、二人のロマンスが始まるのかと思いきや、あれあれ?という感じで話はそのまま真っ直ぐに進んではくれない。ジェインはマックスに好意を持つが、マックスとアマンダがお互いに好印象を抱いている様子を見て取ると、被後見人のアマンダにふさわしい男性と結婚させてあげる義務が自分にはあるんだと、自分のときめく胸を押し込んで、二人がうまくいくことを願いアマンダの世話をやく。
冷静でしっかりもので思いやりも分別もある素晴らしい女性というのは、時に損なものなのかもと切ない思いがした。だからこそ彼女が最後に幸せを手にした時にはとても嬉しかった。
とても丁寧な作品作りと、どこか品のよさを感じるところにも好感が持てる。なかだるみすることもなく、次々と思いもよらない展開が待ち受けていて読者を始終楽しませてくれる。そしてロマンスだけでなく、兄弟愛の美しさも描かれているところも注目だろう。さらには、マックスが何者かに命を狙われているというサスペンスな面まである。誰が何のために狙うのか? 犯人のしたことは赦されることではないけどその心情には思わず目が潤んでしまった。そして登場人物一人一人の姿が頭に思い描けるほどに際立っているのだ。全体的に見ても部分的に見ても秀作である。
ロンドン社交界の華やかなシーンも少し出てくるが、大部分はコーンウォールやサリーといった田舎が舞台。イギリスの田舎の美しい風景を思い浮かべながら読んでほしい。また、ジェインのような冷静でしっかりものでまじめがゆえにちょっと損してるような女性にも読んで清々しい気持ちになってもらいたい作品だ。

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紙の本華麗なる一手

2006/03/06 20:48

ギャンブル大嫌い娘と名うてギャンブラーの伯爵。19世紀初頭のロンドンを舞台としたロマンス。

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 二コラ・コーニックの作品はとにかく巧い。登場人物らの細かい表情や仕草にもこだわって書かれてあり、映画でも観ているように頭の中で映像として浮かんでくる。ミニシリーズ「放蕩貴族の素顔」の一作目である本書は、著者曰く、19世紀初頭の英国摂政期にも宝くじがあったことを知ったことがきっかけで思いついたストーリーなんだとか。
 舞台は1814年のイギリス。
主人公は、ギャンブルで身を滅ぼした父親に次いで、兄までもギャンブラーとなり、少女時代から貧乏暮らしを余儀なくされてきた貴族の娘エイミー。まずは、彼女のつましい生活を見てやってください!と声高に言いたい。食事も満足に食べられないその日暮らし。何年も新しい服を買えず古い服を繕って着、食料のりんごさえちょっと虫が食っているような安いものしか買えない。ろうそくは溶けて流れ残ったろうを再び集めて新しいろうそくを作る・・・涙がちょちょぎれそうなほどの節約貧乏生活なのある。
 彼女がこんな酷い生活をおくっているのに、兄はあっけらかんとして、残されたわずかな遺産を賭博で食い潰していく始末。もう、このダメ兄ちゃんどうかして〜!と何度こめかみがぴくぴくしたことか。
 だけどある日、一枚の宝くじ札を拾ったことで、エイミーの運命の輪は回り始めるのである。しかもそれは高額賞金の当選くじだったから大変。強盗、誘拐、殺人・・・当たりくじを持っていることを人に気づかれることはとても危険な状態だった。抽選会場からどうやって無事に帰ろうかと悩んでいるところへ、兄の友人である伯爵ジョス(放蕩者で名うてのギャンブラー)が声をかけてきて馬車で送ってくれることに。
 けれど、この宝くじが原因で、ストーリーはぐんと面白さを増すことになる。そういう展開の持っていき方があったか!と思わず指をパチンと鳴らしたくなったほどだ。さすが二コラ・コーニックだとしか言えない。ちなみに、拾ったくじをそのままくすねようとするようなヒロインではないのでご安心を。
 ギャンブル嫌いなエイミーはジョスを軽蔑しながらも、心のどこかで惹かれるものも感じていて、そこらへんの複雑な胸中がよく伝わってくる。二人の会話(言い合い?)も二人とも頭の回転が良いだけに切り返し方などがとても面白い。ストーリーのボリューム満点さと、恥ずかしがりやなのに時には大胆だったりするヒロインの可愛いらしさが際立った一冊だった。
 ちなみに、本書では嫌な女全開だったジョスの妹ジュリアナは、ミニシリーズ三作目(ラスト)『不道徳な淑女』のヒロインとして描かれているので、併せて読むのもいいと思う。

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紙の本伯爵令嬢の憂鬱

2005/03/26 07:30

伯爵令嬢と毒舌青年医師。19世紀初め英国摂政時代が舞台のロマンス。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ちょっと気恥ずかしい表紙絵だけれど、まあ、ロマンス小説だし、オンライン書店だと問題なく買うこともできるのでよしということで。けれど、ハーレクインのこういう劇画調の人物表紙にはいつもうーんと渋い顔をしてしまう。どうも堂々と買いづらいうえ、ハーレクイン=官能小説だと勘違いさせる要因になっている気がする。


さて、著者のアン・アシュリーは、19世紀初頭の華やかな英国摂政時代(リージェンシー)を舞台とした作品を多く手がける作家の一人。本書もそれに当てはまる作品である。

1819年のイギリスが舞台。
伯爵令嬢のジェインは、幼い頃から上流階級の教育と生活に縛られ、素直な感情を表に出すことさえもできない生活に不満を持っていた。そんなある日、いとこ夫妻の邸宅で開かれた夕食会で、夫妻の親しい友人の青年医師トーマス・キャリントン(通称トム)と出会う。だが、彼はジェインが今まで出会ったことのないほどぶっきらぼうで無作法な男性だった。そのうえ、トムは貴族を快く思っておらず、ジェインに対しても遠慮なく辛辣な言葉を投げつける。ジェインはそんなトムに腹を立てながらもなぜか心惹かれていく。

トムは、著者の日本でのデビュー作にあたる『貴婦人の秘密』で脇役として登場した人物でもある。なので、こういった続編的な関連作品、いわゆるスピンオフ作品の発売は読者としてはとても嬉しい。しかも、『貴婦人の秘密』の発売から4年も経ってからの本書の登場なので嬉しさもひとしお。洋書版をチェックしていた人なら日本語版はまだ出ないのかと首を長くして待っていたことだろう。前作を読んでいなくても問題なく読むことができるけれど、前作を読んでいるとより面白く読むことができる。

トムにはとても新鮮な印象を受けた。ヒストリカルロマンスに限って言えば、遠まわしに柔らかく毒舌という登場人物はたくさんいるが、トムはストレートに毒舌をふるう。しかも相手が女性だろうと構わない物の言いよう。そこまで言っちゃうの!? と最初はあわあわと面食らった部分もあるけど、読み進めていくほどこの毒舌が心地よくなっていくというか、トムはこうでなきゃと、思わずにやりとしてしまうまでになった。

作品の特徴としては、主役二人のうちヒロインの方が身分が高いという点だろうか。ジェインは伯爵家の令嬢。一方のトムは若いけど立派な名医。二人の間には一見なんの問題もなさそうだけけれど、この頃の時代では貴族と医師とでははっきりと身分差があり、結婚できなくはないがかなり大変なことらしいということが作品を通してもよく伝わってくる。階級制度のやっかいさをひしひしと感じた。トムのように「この階級制度というやつは!」と毒づきたくなる気持ちもわかる。

またこの作品ではもう一つ、ジェインの幼友達のロマンスも同時進行で描かれている。そちらもいろいろ問題有りで、すんなりとはいかないとても凝った面白い内容になっている。また、前作『貴婦人の秘密』で主役だったエリザベスとリチャードの二人も、かなり重要な役目で登場している点も嬉しい。


登場人物たちの軽快な会話も得意とする著者は、本書でもその腕を存分にふるっている。トムの毒舌に対してムッとしながらも毅然とした態度をとるジェイン。主人公二人の会話もどうぞ楽しんでください。

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伯爵と7人の息子の騎士一家に惚れて下さい。13世紀のイングランドが舞台のロマンス。

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「ディ・バラ家の物語」とは、中世イングランドを舞台としたデボラ・シモンズ著の大人気シリーズ。
デボラ・シモンズはハーレクイン社のヒストリカルシリーズを手がける多くの書き手の中でも、一番と言っても過言じゃないほどの人気を誇る作家。その人気の高さは彼女の作品を読めばすぐに納得いくだろう。登場人物の一人一人が際立ち、話の展開、盛り上げ方、読者のツボを心得ている作品の作りが緻密で素晴らしいのだ。


イギリスがまだイングランド王国、ウェールズ公国、スコットランド王国、アイルランド王国に分かれていた時代が舞台。
イングランドで広大な領地を治める最も力のある領主キャンピオン伯爵と7人の息子たちの騎士一家、それがディ・バラ家である。そのディ・バラ兄弟一人一人を毎回主人公に書かれているのがこのシリーズ。
本書の前巻にあたる『ディ・バラ家の物語 1』では、長男ダンスタン、三男ジェフリーの物語2作品が収録されていた。そして今回は、次男サイモンの『騎士と女盗賊』、四男スティーブンの『魔女に捧げる誓い』が収録されている。いずれの作品も元々はそれぞれ個別に刊行されたもので、本書は2作品ずつをまとめて収録した愛蔵版のようなもの。それぞれが独立した話なので単独で読めるようになっているが、全作品通して読むとさらに面白さが増す。というよりも、一作品でも読むと他の兄弟の話も読んでみたくなるので、気が付いたらシリーズ全作品読んでしまっていたなんてことになっても全然不思議ではない。それくらいに本当に面白い。

1つ目の『騎士と女盗賊』はディ・バラ家の次男サイモンの物語。
いつもむっつり不機嫌顔で、癇癪持ちで、敗北知らずな屈強の騎士であるサイモン。そんな彼の自尊心を打ち砕く者が現われる。与えられた任務の旅の途中の森で盗賊に襲われ、不覚にも囚われの身となってしまったのだ。彼を捕らえた野盗団の頭目はビーシアという若い女性。サイモンにとってこの事態は屈辱以外のなんでもない。しかも女性に負かされるなどもってのほか。彼はこの窮地をどうやって脱け出すのか、そしてビーシアの正体と目的とは……。
兄弟の中で一番ロマンスという言葉が似合わないサイモン。彼が女性に愛を捧げるなんて想像もつかない。だからどういうふうに心情が移りゆくのか興味津々で、読み進めるのが楽しかった。二人の難産なロマンスは、まるで映画を観ているよう。二転三転する展開に最後まで失速することなく読めます。

2つ目の『魔女に捧げる誓い』は四男スティーブンの物語。
兄弟一の美男子で女と酒好きなスティーブンは、なに不自由のない暮らしを送りながらも日々胸の中は虚しさで埋まっていた。彼は父のキャンピオン伯爵から、レストランジュ家の姫君ブリードを彼女の生まれ故郷のウェールズに送り届けるように言い渡され、気が乗らないまましぶしぶ引き受けることに。ブリードは地味なガウンに全身を包み、頭巾で髪をすっぽりと隠しているまるで尼僧のような女性。しかも始終しかめっ面でスティーブンを苛立たせる。一方ブリードも、スティーブンをただの飲んだくれで怠惰な男だと最悪な印象を持っていた。
こんな二人がどう心を通わせていくかは読んでのお楽しみ。


戦闘シーンや、刺激的で濃いロマンス部分も良いが、このシリーズからは何よりも家族の温かさというものが伝わってくる。
7人兄弟の誰もが父を敬い、他の兄弟と家に誇りを持っている。問題に行き詰れば他の兄弟ならどう対処するだろうと考え、窮地に陥れば、言葉に出さずとも当たり前のように家族みんなが手を差し延べる。そこに胸がじーんと熱くなる。そう、本書はロマンス物語でありながら同時に温かな家族の絆の物語でもあるのだ。

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