belfaさんのレビュー一覧
投稿者:belfa
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紙の本五千回の生死
2001/04/05 02:17
腐敗ゆく赤
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トマトはヒトの体と同じだ。柔らかくて、赤くて、みずみずしくて、皮一枚破ったら液がドッと、流れ出す。
若きころの余熱をくすぶり続けている男の回想で話は始まる。大学生のころにアルバイトとして行っていた工事現場に、九州訛りのある、今にも死にそうな中年の男がいた。
その男に、語り手は二つの頼みごとをされる。手紙の投函と、トマトを買ってくること。それはきっと、人生と生の象徴なのだ。
そのトマトの赤いこと!芥川龍之介の『花火』のような鮮烈なカラー!
時にぼくらは、色の中に、悲しみを覚える。映画などで、回想シーンはセピア色に描かれるが、本当はきっと、思い出の方が色鮮やかだろう。現実こそが、セピア色なのだ。
悲しみに明け暮れ、色に騙され、それでもぼくらは呼吸する。
この本の最初に収録されている「トマトの話」は全篇モノクロームな中にあってトマトの、むしろ腐敗していく途中だからこその鮮やかな赤が印象に残る。
紙の本Water.
2000/09/22 06:14
イスと息と、オトコとオンナ。
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好きなイス。スベスベしてて、気持ちいいイス。でも、壊れているイス。
オンナは新しいイスを拾ってきた。そんな壊れているイス、捨てちゃえば?オトコに言う。そんなに好きなら、そのスベスベしたところだけとっておいて、イスの脚は捨てちゃいなよ。
オトコが言う。そんなのヘンだ、脚がなきゃ、イスじゃない。
オンナは惑う。う〜ん、たしかに、座る部分だけじゃぁ、これはイスじゃない。でも…あれっ?座れないのに、まだそれはイス?
ぼくらの世界は、好きなモノと、嫌いなモノと、どうでもいいモノからできている。でも、すべての根底にあるのは「気づきの哀しさ」だ。
ぼくらは気づいた、この世界の大半はどうでもいいモノからできているってことに。
ぼくらは気づいた、世界はそんなにカラフルじゃないってことに。
魚喃キリコ(nananan kiliko)の描くベタ塗りの「黒」にはカラフルな世界にごまかされることを拒絶する意志が感じられる。
色彩を排して、熱を排して、息を排して、匂いを排して、過去を排して…。そう、「今」を切り取るために一瞬、息を止める、そんな感じだ。
キミも息を止めて、心音を感じてみては、どうだろう?
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