サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. ころびさんのレビュー一覧

ころびさんのレビュー一覧

投稿者:ころび

27 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本リオノーラの肖像

2001/03/21 04:44

ただひたすらラストエピソードのために

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ゴダード初挑戦は、一冊物から。しかし、厚い〜。

 二人のリオノーラ、ですか。

 70歳のリオノーラ(娘)は娘を伴い旅に出る。自らの過去について、子供達には慎重にぼかし続けてきたが、すべてに納得できた今、時間をかけて語る時が来た。
 まずは少女期のこと。両親はすでに亡く、祖父母とともに、貴族の館に住まいながら、含みのある棘につつかれ続けた日々。彼女の側に立つ人はだんだんに遠ざけられ、祖父も亡くなり、継祖母が再々婚するにいたりほとんど使用人の生活に。なぜ、こんな扱いを受けねばならないのか? こんな扱いを受けねばならない理由、そして消えそうに古い記憶。やがて駐留した軍隊士官が、救いの手をさしのべ、すべての記憶にふたをし、いわゆる幸せな結婚生活を過ごす。継祖母が亡くなり、とうとう謎は謎のままに終わるかと思われたある日、奇妙な訪問者が訪れ、長く古い、リオノーラ(母)を取り巻く記憶が語られる。
 物語全体に戦争(第一次+第二次大戦)が影を落とし続ける翳り。少女期を、不幸に過ごさねばならなかったリオノーラ。絡み合う視点から、少しずつ明かされる一人称の物語達。
 一人称の語りが続くことにより、どこからどこまで信じていいのか、解消する謎より、増えていく謎。手に汗握る波瀾万丈の物語、ではなく、静かに静かに淡々と展開するミステリー。なんというか、当然ながら語り手の思惑で謎が謎を呼び、先の読めない展開。煮え切らない^^; 抑えた性格の登場人物達。際だつのが傍若無人な侵入者達。
 途中、ずっと不信を持って受け止めたエピソードも、最後にすっきり納得。なかなか手の込んだお話で、面白かったな、ですんなり読了するはずだったが。

 ラストで彼女が曾祖父に約束するせりふ。これで、彼女をずっと気にかけてくれた(今は亡き)男達の、ためにためた想いがあふれてきて、思わず落涙。まずは曾祖父、そして配偶者、やがては突然の訪問者……、時を経て後気付く、近親者の思いやり、こういうのに弱い。しかし最近涙もろすぎるな……。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本マネートレーダー銀行崩壊

2001/10/09 02:05

『私がベアリング銀行をつぶした』改題作

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1995年2月末 イギリスの伝統あるマーチャント・バンクが倒産した。原因はシンガポールの責任者、ニック・リーソンの2年に渡る損害金隠蔽 が一気に表面化した事による。本書は、その張本人の手記『私がベアリング銀行をつぶした』という身も蓋もないタイトルにより平成9年に出版されたものの文庫化である。ノンフィクション。初めに運命の逃亡日の様子を描き、そもそもの発端に戻って、克明な日付により、徐々に深みにはまっていく様、嘘のような言い訳の綱渡り、それでもなお取り返せるはずの数字は一人歩きをして損は増え続ける。行間から吹き出すニックの恐怖の悲鳴。ばれればいいと思いつつも、周囲は気づいているようないないようなしかしまともな指摘も受けず、泥沼に漬かりきった運命の日。

 その道に明るいプロあるいは厳しいビジネスに生きる人達の人には投げ本であったらしいが、素人(読者たる私)にはトレーダーのシステムがわかるとかわからないとか、関係なしに面白かった。一方の側からだけの記述ではあるが、十分に迫力ある記録(あるいは壮大な言い訳)である。でも、トレーダー達の制服って、なんて陳腐なの(笑)

門外漢が無責任に楽しめた一冊、よって★三つ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本黄昏にマックの店で

2001/03/24 00:31

忘れられないロストマとの出会い

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 まず何より、なんて読みやすいのだろう! 本を買って、借りて、もしくは貰って、その日の内に読み出して止まらなくなったのは久しぶり。

 はじめまして、の、ロス・トーマス。解説による「多すぎる登場人物」も別に苦にならなかった。

 主人公は亡父とそっくり。葬儀に現れた懐かしい誰もがそれを言う。しかし、32歳の、父より賢い主人公は動揺しない。これだけしつこく亡き父にイメージを重ねられると嫌になるのが普通だろうに、まるでそれがない。読んでいる最中にも、これでは主人公はどこにいるのだ?と思えていたのに、最後には父の幻影はなく、一人の主人公として存在している。本当に何より、とても読みやすかった。笑いもあるしね。

 昔、高校の国語教師だったかな? 夏目漱石は何故読みやすいか、と延々説明してくれました。「主語+述語」がはっきりしているからだ、と。文節が短く、すっきりしている、と。そういう感じでした。歯切れの良い文。余計な言葉に彩られない文。それでいて、全てが語られている。時には、話の流れが「?」ということもあったけれど、気にならない。一言。面白かった(^^)

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本ドロレス・クレイボーン

2001/04/12 00:19

凄みのある女性達の絆

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 キングをホラーだと思って読んだことは一度もない。とはいえキング オブ モダンホラーか。
 本作は、「らしき」箇所がないことはないけれど、純粋に現代アメリカを生き抜いてきた....働きづめに働いてきたなんとも迫力ある女性の、なんとも迫力のある独り語りの真実の声。じわん。世の母達よ強くあれ....かなぁ。

 長編得意のキングにしては1冊完結だなんて....と思ったら、『ジェラルドのゲーム』と対をなすそうな。内容に関連があるわけではないが、登場人物同士が交差するとかしないとか。向こう側の少女の物語も、知りたいな。

 この小説は全編「ドロレス」の口語の記述だけで進む。わずかなエピローグ以外は。雇用主殺しの容疑をかけられた65歳の主人公が、とうとうと自分の半生記を物語るわけです。そう、30年前の夫殺しのことなどを(ネタバレにあらず)。何十年間と関わりつづけた雇用主(家政婦として、付添婦として)との生活を。

 雇用主と主人公。まあ、凄みのある女性達。気まぐれ傲慢金持ち女を地でいく雇用主と、気性激しく働き者の主人公。この火花散る対決も、笑わせてくれるし、しんみりさせてくれる。そして。
 「女というものは、ときには性悪になるしか、しかたがないときだってあるの」

 さすがだなあ、と。やられたな。
 「母」の凄み、女の友情....友情じゃないな、絆か。こんな同志がいれば老後も「恐く」ない(かもしれない)。
 頑張れ男の子(笑)路線(最近はないか)もうまいけど、たくましい女性も素晴らしい。裏表紙にある「慟哭の〜」は嘘でないって。滂沱の涙とは言わないが。早く対なる『ジェラルド〜』も読みたいぞお〜。

#月影先生(えへへ)の一人芝居で観てみたい...

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本誓約 上

2001/03/24 00:52

山ほど期待して

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 随分期待を持って読み始めたためか……少々肩すかし。前半溜めに溜めた鬱屈を後半軍事法廷で爆発させるのかと思ったら、それも無し。割といい子で終わったラストに読者はもやもやが残るのであった。『将軍の娘』『バビロン脱出』に並ぶ出来を期待したのに。

 …ベトナム戦争終了から20年弱過ぎたある日、主人公ベンジャミン・タイソンは隣人からあベトナム戦争を扱った一冊のノンフィクションを見せられる。そこには、彼を名指しで告発する描写が続いているのだった。なぜ今になって、どんな理由で? 本を読みつつ当時の記憶も蘇り、彼は悩む。「あのこと」を他言せぬ誓約を破った裏切り者は、誰だ? 誰がなんのためにタイソンを告発する?

 はっきり言って、非常にわかりにくい。主人公が悩んでいるらしいのは、理解できる。くどくどしく描写されているから。主人公が鬱屈しているのはわかる、相手を変えては繰り返しひねくれたコメントを出しているから。そう、くどいのだ。しかも主人公の心情を追うばかりなので、外の世界(主人公を巡る世間)の反応が今ひとつぴんとこないのだ。たまには書かれるけれど、ホンの1行「マスコミは大騒ぎ」とだけでは、実際どれほどの騒ぎかわからない。読者の想像に任せると言えば聞こえはいいが、確かに多少は想像の範囲だが、安全な内にこもってふてくされた主人公の思いを延々読まされ続けるだけではない気分転換にも、きちんとそれなりの騒ぎは描いて欲しかった。こんなに厚い上下本なんだから。

 とにかく前後関係がわかりにくい。時々挿入されるノンフィクション(作中作)部分も時系列が合っているのかいないのか。半ば自棄になり、かつ隠そうとするタイソンの独白だけでは、実際のところなにがなんだか、なのだ。で結局いったいどうしたいのだ?と何度も主人公に向かって呟いている読者がいるだけだ。カバー説明にある「〜そして決意する。敢然、軍籍復帰して〜」とはほど遠い主人公の態度にいらつくばかり。成り行き任せに法廷に立つ、が正しくはないか? ついぞこの人物の毅然とした態度というものを見た記憶がない。

 ま、それはそれとして。軍事法廷。変わった見物でよかったです(^^) ですが、日程構成はあっさりしたもの、証人も少なく、主人公の思いは告発した証人に対してのみ能動的に見えるだけ。自身の弁護に至っては、潔いと想う人も多いのだろうが、ええかっこしいの見栄っ張りに思える。対して、弁護士コーヴァには、なかなか妙な親近感を覚えたのは、主人公への当てつけかも知れない。 

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本蠅の王 改版

2001/04/13 00:00

少年達は自由だ。何をするにも。

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 いつかどこかで何度か聞き覚えたタイトル。気が付いたらレジに差し出していた。さて、どれほど語り継がれる物語であるものか。というわけで、内容については全くの白紙のつもりで読み始めました。が、この映画のビデオ 、見たことあるなぁ、と。物語のラストで唐突に(鮮やかにと言ってもいい)思い出した。なるほど。アレの原作かぁ。
 なにやら戦争中(第三次世界大戦とか?)イギリスから疎開する少年達を乗せた飛行機は、とある南洋の無人島に不時着した。大人達はいない。6〜12.3歳の少年達はその地を楽園として過ごすのか、地獄と化すのか…。

 島の様子を探った後、少年達は叫ぶ。
「『宝島』みたいだ」「『燕とアマゾン』みたいだ」「『珊瑚島』みたいだ」
 果たして、それほどうまく行くものだろうか?

 少年少女へのお薦め小説にはない狂気がここにはある。大人達が信じたがっている子供達は無垢であるとの神話も、ここでは通用しない。かといって、リアルなお話でもない(あの野豚は一体どこから来たんだ)。エゴと規律のぶつかり合い。そう、うるさい大人がいない分だけ、少年達は自由だ。何をするにも。

 楽しめた、とも、面白い、とも形容できないけれど、衝撃作。一気読みでしたが、ちょっともったいなかったな。
 乾いた少年の話をもっと、という方には『悪童日記』などもお薦め。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本噓、そして沈黙

2001/04/12 23:52

悲惨な状況とは裏腹にとぼけた刑事

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 面白かったとか、読んでよかったとか、通らねばならない本かなぁ、なんて思う本はかずあれど、こういうの好き!と、はっきり言えるものって少ないですよね。これは久々に「好き」が言える本。
 「『サイコ』『羊達の沈黙』の伝統を受け継ぎ、新時代を築く傑作!」とあり、思わず構えて読み出したが、思わずこけるエピソードの数々。
 なんなんだ、このとぼけた語り口は! 次々と展開される事件は、それぞれ陰惨狂気に満ちているのに、とぼけた刑事、とぼけた犯人の様子につい笑ってしまう。総468Pを日曜の半日をつぶして、一気に読了してしまいました。
 途中どこかでこんな雰囲気のものを観たような…記憶の底をたぐると『刑事コロンボ』に思い当たりました。コロンボのとぼけた味は、半分計算されたものだろう、なんて観ていましたが、なんと本書の刑事は地でいっている(笑)

 しかし、この手の小説の犯人と刑事が同じこだわりを持つという設定は、少々お馴染みになってきて新鮮味はない。ただ今回いわゆる一般的幸せな家族も登場していることが嬉しかった。そう、バランスをとったように。あまりに悲惨な状況のオンパレードというものは、いかにフィクションとはいえ、気分が悪くなる。
 ところで、原題ですが、ずっと"LIE TO ME"の"ME"は、誰のことだろうかと思っていた…。『彼』の言葉であるとは…。「嘘」も…方便。
 ラスト、後味の悪い思いをするのではないかと想像したけれど「彼」が誰であれ、嘘であれ真実であれ、読者ともども幸せにしてくれてありがとう。…読んだ人でないとわかんないね。  
 あの女性って好き。見事じゃないですか。したたかでたくましい(^^;)あこがれちゃうね。ちょっと登場人物に好きなタイプがいないと、読み進むのは少ししんどい最近です。また、あんまり主人公刑事を哀れとは思わなかった。あれも、それなりいいんではないかと。下手に家族(妻子)を引きずることはない。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本弥勒

2001/03/21 04:56

逃げた先に待つものは

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 講談社なのに面白かった(^^;) ←これがなんと言っても正直な第一感想(異論は多々ありましょうが、今まで私的に当たりがなかった出版社)。
 どこにでもいるような、傍観者であり挫折者であり逃亡者である主人公だ。
 現実に向き合おうとせず何となく日々を過ごしている永岡秀彰。妻耀子を田舎から連れて来たのは自分なのだと繰り返し思うのは、マスコミにもてはやされ、収入をも大きく水を空けられているという妬みがあるから。そしてお互いに興味を持てなくなった夫婦が、何となく離婚もせずにそのまま名ばかりの繋がりを続けているという。共通点は美をかぎつける嗅覚だけにある。もっとも方向性は限りなく両極で交わるところはない。

 妻の美的感覚には讃辞を送るが、その表面的な愛で方にいらだつ主人公。が、しかし、主人公が傾倒する宗教美術への感覚も似たようなものだよね。それらは宗教があって初めて存在する物。彼は宗教と切り離した部分のみでしか語らない。用途に拘りはあるみたいだけれど( '')

 ちと脱線するけれど。
 例えば、阿修羅像。興福寺所有とするこの有名な像は、実は京都国立博物館でガラスに囲まれて陳列されている。何というか、写真で見るより寒々とした印象を受けた。本物の持つ迫力とはいわれるけれども、本来あるべき場所にない宗教物は、単なる鑑賞物に落とされる。そこに込められた祈りは、ガラスに遮られて届かない。(せめて奈良国立博物館に置けよと思うがいろいろあるんでしょうね。)

 何が言いたいかというと……、あちこちの歪みにいらだちながら、自らも歪んだ主人公の想いに読者たる私は妙に醒めていたのだった……、東京編。というより、導入部。

 で、怒濤の政変部。一読者は恥ずかしくなるほど、主人公と同じ立場であった。どっちつかずに後悔の山……、そして目の前に現れたのは。
 突っ込み出来るところは多々あれど、おもしろかったので甘いと思いつつも★5。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本極大射程 上巻

2001/10/09 02:33

射撃好きにはたまらない(そうでないと没入はつらい)

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

正直に言っちゃう。一度投げました、これ。丹念にボブをはめる準備をしているのは、わかるんだけれど、どうにも眠気を誘う。で、再挑戦。で、一気読み(笑)。そのうち記憶にある名前のFBI捜査官の動きを追い出す。う〜。きっとボブは彼の名前としでかした失敗を知っている埋め合わせに、ここでボブの名前に当たらせたんだろうなぁ、と思いつつ。200Pあたりでやっとボブをはめるからくりが見えてきた。なるほど。そこからは一気一気。回り出すと止まらない崖から落ちた雪玉。大きく育って、大変満足いたしました。ははは。いやぁ、でだしボブって相当な年寄りかと思いましたが、40代後半なのね、まだまだなんとか無茶の出来るお年頃だ。同世代読者はきっと喝采を送ったことでしょう。いまいち、も少しニックに活躍させたかったけれどね、まあ、見せ場はあるし文句は言わないでおこ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本永遠の仔 上

2001/09/23 05:24

子として母として立場を変えて読んでみる

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 とてもわかりやすすぎるほど典型的な実子虐待仲間の過去と現在、その家族。断続的に起こる殺人を絡めて、何が起こったのか起こっているのか、謎を深めつつ丹念に綴られていく「上」。
 あくまで伏せられる少女優希の虐待内容が肝なのだろうが、志穂、優希の母。この人の真情を聞かせて欲しい。是非書いて。これだけではないはずだ。
 祈るように「下」に手を伸ばす。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本仕事くれ。

2001/05/15 01:08

良くも悪くもセールスマン

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 このタイトルに、思わず目を留めた。なんちゅー直截的な(笑)。イヤしかし、まさしく今の心境でして。作者にも見覚え(『ビッグピクチャー』)があり、気がついたらレジの前におりました。
 物語は急上昇急降下をくりかえし、絶頂期からどん底まで、幾度となく翻弄される主人公には、深い同情と憐憫を覚える(笑)。身につまされる方も多いはず(あらすじは「日経ビジネス2000/4/10」の通り)。
 えっと。読み始め、ちょっと訳文に違和感ありました。いやに直訳っぽく感じた。それからカタカナ語が氾濫気味。すぐ慣れちゃいましたが、こんな文章でしたっけ? 前作(ビッグピクチャーも訳者は同じ)。ん〜。ニューヨークのビジネスマンってことで、効果(揶揄)ねらったのかな、とも思う。でも、読みにくいからやめて欲しい…。
 会話がくどくなる寸前で押さえてある。と誉めるべきか、もう少し簡潔に押さえてくれたらと言うべきか。「敏腕をふるってしゃべり倒す(本書内の文章)」のが信条なら、仕方ないか(でもでもこの言い方ってなんか引っかかる)。そのニューヨークのヤッピーだかプレッピーだかのイメージに、憧れつつ背伸びしつつつきあいながら、結局真に理解し合えないことを強烈に自覚しているのだろう。主人公はかのケネディ一家よりも「偉大なるモティベーター(本書内の文章)」氏の方が、理解できるし対処しやすいのだろう。

 明るい、前向き…よく言えば。このひと、めげない意地っ張りですよねぇ。くよくよいじいじするけれど、長続きしないというか。どうしても落とせない顧客への対処法そのままが、このとんでもないトラブルの解決に回される。決してあきらめないこと。ちょっと調子よすぎるぞ、と思わないでもない最後の対決に至る過程も、薄日の差し始めたラストでさえも、きっかけさえあれば、席につき飲み物を飲むことさえ出来れば、と。

 謎多き銀行マン、オリバー・マクガイア、以前の部下シリオ。こんな部下を持てたってことは、それほど捨てたものではない奴だったってことですよね、この主人公。転がり出すまでの描写をかなり丹念(スリルあるセールスマンの日常^^;)に、一旦動き出したらとても目を離せないテンポよい「転落」に、そして転落も解決もどちらも「人」が鍵になる、良きにつけ悪しきにつけ人間関係に乾杯。前作『ビッグピクチャー』と比べると、間違いなくこちらを押します。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本死の泉

2001/04/26 01:09

蜘蛛の糸が幾重にも織り込まれた物語

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 穏やかな陽光、集うのは金髪碧眼の姉弟と見まがう3人と1人の幼子。マルガレーテは二十歳、フランツは十歳、エーリヒは七歳になっていただろうか。幼いミヒャエルはまだ何も知らない。ひとときの絵、オーバーザルツベルク。

 ここは、第二次大戦時のドイツ、私生児を生むため若い妊婦が集まり、見目よい小児を選別しSS将校に提供するナチの施設レーベンスボルン−生命の泉−。すべてはここから始まり、そして還る。
 前線へ向かうまでのひととき、若い戦士達は女達と遊ぶ。「生めよ増やせよ」とドイツでも奨励されたわけです。彼らの遊びも遊びではなく、国策に沿った行動となるそうな。マルガレーテもそんな中妊娠するが、爆撃により住居と職を失う。行く当てもなく、噂に聞くレーベンスボルンで子供達の世話をしながら子を産み、我が子を飢餓と混乱から遠ざけるため所長と結婚をする。そして外地から寄せ集められた「よきアーリアン」であるフランツと美声を持つエーリヒを引き取り、混沌に向かう外界から切り離された生活に安住していく。何よりも、誰よりもこの子のために…。そして所長である夫クラウスは、狂気を内包した研究者でありカストラートを信奉する。世俗的倫理がなんだ、ナチ政権の行方がなんだ…。

 思い返せば少ない人物による物語。そして、蜘蛛の糸が幾重にも織り込まれた物語が展開していく。

 かなり凝った構成になっていて表紙→目次と開いていった先にあるのは、またも表紙である(文庫が出たようですが、この辺りどうなっているのだろうか?)。本書は翻訳小説の形を借り、訳者が著者を訪ねるあとがきまでが、一つの形の小説なのです。翻訳形式部分は3章に別れ「I」が一貫して「わたし」マルガレーテの手記・敗戦まで、「II」「III」が敗戦15年後であちこち描写する場所が変わる。そして訳者あとがき。…そして著者皆川博子のあとがきで終わる。

 非常に美しく幻想的な小説。静かで少々変化に乏しいかもしれない「I」ではあるけれど、これがなければ15年後はあり得ない。まこと騙し絵のような…。ラスト近くで思わず「騙されたぁ〜」と声が出るほど、うまく騙してもらえて嬉しい読書でした。中心となる人々にいろいろ思うことはありますが、何を書いてもネタばれしそうなので割愛。小道具は不気味なものを取りそろえているのですが、最後まで表面上の「美」で覆われて気になりませんでした。というか欲を言えば、もっと地底のおどろおどろしさを出してもらってもよかったかなぁ。
 第二時大戦をドイツの側から見る不思議さ。日本のいわゆる庶民感覚を全面に努力忍耐を押し出したものを考えると新鮮でした。ビジュアル的印象は萩尾望都。

 どうも、今少し後に残るものがなかったですね。思い返して絶対的に不足するのは、登場人物の迫力ではないかと。執念、偏執さが足りない。それは、手記でない部分は誰が書いたのか、を考えると「故意に」省いたのかもしれないけれど不満になってしまう。戦後編は動きがあって、読みやすかった。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本リプレイ

2001/04/13 00:04

やり直せるものならば

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 タイムトリップもの、でいいんでしょうか。ある時点で死に、過去の自分に意識が跳ぶお話です。

 どこかで聞いたような気もしますが、このアイデアを考案したのが誰であるのか知らないです。この小説が初出であれば脱帽。面白かった。一気に読みました。
 もっとも、ラスト、それで実はどうだったんだという気も起こりましたが。
 んでもいいなぁ、現実逃避したい年齢なもので、こんな具合にやり直しが出来ることは夢であります。実際起こったら?まあ、主人公と同じで孤独感に押しつぶされそうになるとは思うけれど。結局の所何も変わらなかったことになるのだし(いや変わったんだけれど=変えていけるわけだし)、混乱。
 いつまでも夢見ることを忘れたくはない、カモ。

 友人がぜひ読め、と北村薫『スキップ』とともに薦めてくれた本。自分の人生について振り返ってみよう。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本八番目の小人

2001/03/24 00:23

なんて小説を読んでしまったんだろう....

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 時代は1946年初秋。割と成り行き任せの主人公マイナー・ジャクソンと、その相棒・狡くすべての人々を手玉に取ることに喜びを感じるタイプ(?)の小人ニコライ・プルスカーニュ(ニック)。それぞれ相手を信用しきっているわけでないが、なにやら奇妙な人捜しの旅を始める。

 英米ソ+富豪の父娘が探し求める人物はクルト・オッペンハイマー。それぞれがそれぞれの思惑により、彼を自らの道具にするべく奔走する。未だ混迷のドイツにおいて。


 小説を楽しんだ、といえる。面白かった、とも。けれど、なんて作品を読んでしまったのだろう。こういう時代だったということでしょうか。「クルト」何とも彼が哀しい。なにより哀しい……。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本踊る黄金像

2001/03/24 00:14

GET

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 どたばた喜劇....? GET A HUSTLE いそがなくっちゃ!!!どたどた.....ばたばた......。実に実にめまぐるしい(^^;) 像は確かに踊っている黄金の僧侶像なのだが、その周りをどたどたばたばた駆け回る人々の騒々しさといったら!! 有り体に言えば、お宝争奪戦。分刻み秒刻みでのすれ違い。

 1シーンごとが短くころころ場面転換してくれる、時間軸も先に行ったり後戻りしたり、少しもじっとしていない。当然「数多くの」登場人物達も一カ所にじっとしてはいない。それなのに状況がちゃんと理解できる。う〜ん。うまい。

 この作者はずいぶんと沢山の筆名を持っている。話題の『悪党パーカー』もその別名義作品のうちのひとつ。未訳作品も多い。発表数も多いようだけど、絶版品も多いようですねぇ。ミステリアスプレスって、はずしが少なそうで、嬉しい。でも、置いてある冊数って、どこも少なくって寂しいな。と言うときのためのオンライン書店か(^^;)

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

27 件中 1 件~ 15 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。