湯渡さんのレビュー一覧
投稿者:湯渡
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紙の本伊達政宗 1 朝明けの巻
2004/01/23 23:21
熟柿
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オヤジが読んでいた。
大学進学のため上京するにあたり全巻オヤジの本棚から失敬してきた。
そして十年以上が立つ。
大学時代の四年間が八割強を占めている
現在のワタシという人格を形容するにあたり、
その四年間から今に留まることなく私自身のあらゆるウゴキの、
けして正面ではなく常に裏少なくとも側面に削りきれないほどこびりつき、重層を形成しているものがこの本の中に積載している。
「機が熟す」
機にのぞんで風雲を巻き起こしたり、
機を失して生涯ロウコウに沈面したりする。
機嫌がよくて、機敏にうごいて、機会を掴んで、機密に参画して、
機に適してゆく機能があれば申分ないのだが、機を逸したり、機を失したりしていたのでは敗残者だ。
しかし、機は、向こうから柿の実のように
赤くなって見せてくれるわけではない。
機転を利かせて、熟した機を鋭敏に察知し、
これを即座に活用にするため熟考を繰り返しモノにする。
熟した機は人を待たない。一瞬にして訪れ、一瞬にして去る。
その機熟に備えて、常に気(呼吸)を整えて待つ。
そして「人生は客の心で」と共に。
紙の本風の万里黎明の空 上
2004/01/20 23:04
ラッキーストライク
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黄色の二本の線が引かれた電車の中から。
三人席の左端に座り、一冊の文庫を開いた。
この本を電車の中で
開くのもこれで四回目になる。
ゲンジツに浸かっていたくないとき。
アタラシイものをゼロから造るとき。
感情にパンチが足りないとき。
なんとなくタバコの銘柄を変えてみたとき。
両眼に映し出される一語一語が乱雑に重なりあわされた
記憶のフィルターで濾過され頭の裏へ画像として投影される。
一度も見たことのない仮想のセカイとは言えず、プレ現実セカイ。
所詮我国と片手で数えられる私の海外経験では映し出される映像は
たかが知れている。
一人一人のキャラクターから発せられるコトバが
自分自身の回顧に重なる。
ジグソーパズルのように一ピースずつゲンジツと入れ替える。
痛ささえ感じる隙のない筆力。
文庫にならなかったら手にしなかった一冊。
本を閉じカバンにしまいながら周りを見渡す。
改札に定期を通しヨメさんの待つ自宅へ歩を進める。
左手の先から銘柄を変える前の「ラッキーストライク」の
薄い白煙がゆれる。
40分弱の小さなゲンジツ逃避の終焉。
紙の本異国伝
2004/01/19 22:27
ミエナイ本
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先のミエナイ本を探していた。
今日もバスタブの中。バスタブが書斎。
「あ」から読むのも芸がない。
「ん」から読むのもキョウザメ。
五十音順に並んでいるところをあえて自分の名を
ひらがなに直しその順番に沿って一話一話を読み進めた。
名前の文字が乏しくなるとヨメさんの名前を借りた。
まだ十話。
ヨメさんの名前が2文字というのがイタダケナイ。
現在勤めている会社の社名、大学名、
去年まで我家の第三の住人だったハムスターの名。
まだ足りない。
ヨメさんの昔の姓。
まだ十九話。
学生時代のアクユウ達の名、よく考えてみると似たような名だ。
かぶり過ぎて文字が稼げない。
五十文字(五十話)とは何げにムズカシイ。
こんな形骸的な読み方をしているうちに、
頭の十センチ上方を横スクロールしていった
友人や情景が懐かしさと空虚を残していった。
「あ」からもう一度読もう。
各話の最終行にさしかかる度に眉間に大きな「えっ?」という文字が
が浮かび、次話の一行目に目を移すと跡形もなく崩去が49回続いた。
既に五十音順ではなくなっていた。すべてが「え」だった。
途中でお湯を何度か加えた。その度に新たな汗が流れ落ちた。
いい湯だな。
紙の本国銅 上
2004/01/18 17:39
穏温
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シズカナ本を探していた。
今湯面から生える二本の腕の先に「国銅」が開かれて
いる。バスタブが書斎。
二本の腕だけで支え続けるには四六新書サイズは重い。
ココロの側壁にやさしい振動を加えられ、
ゆるやかな波が途切れることなく無限に続いていた。
けして後引くものではなく、断続的に微震が続く。
一頁一頁が粘り気を感じさせるものではなく、
両眼が追う一語一語が何の抵抗もなく僕まで届いた。
上巻を閉じる。
湯は冷めつつあるが、僕のカラダには穏温が続いていた。
気がつくと湯面から生える気を吸い「国銅」がイイカンジに膨れていた。
またヨメさんに怒られる。
いい湯だな。
紙の本バラガキ
2004/01/18 00:31
イイカンジだね。
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熱い。
バスタブに30センチほどお湯をため、右手に「バラガキ」を掴みつつ右足を差し入れた。
湯面から煌々と湯気が無限に生える中、カラダを逆L字に曲げて肩まで浸かる。熱い。温度設定を誤った。
足は湯面から出ている。逆半身浴。これが僕のバスタブでの読書姿勢。
バスタブと通勤電車が書斎となってから5年が経つ。
左右の両手の間には「バラガキ」が開かれ、空いているのは両足だけ、水でウメルのは諦めた。
聞こえるのはヨメさんが台所で皿を洗う音と換気扇が回る音だけ。
ホオを緩ませ、ワライを殺しながらページをめくり続けた。
気づくと湯面から生えていた湯気も消え、
当たるのを気にするほど熱かった湯も外気によりウメられていた。
353ページ目。サブッ。
いい湯だな。
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