大坪光男さんのレビュー一覧
投稿者:大坪光男
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華岡青洲の妻 改版
2003/10/12 02:32
滅私奉公の献身合戦
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
文句なしの傑作です。
この小説は史実に基づくお話ですが、歴史として残されて
いるのは「誰が何をした」レベルの、単なる行動の記録のはず。
これを読みとって、外に現れた行動から人の心の動きを細かく
ここまで分析して洞察し、緻密に執念深く眼前に見えるように
再構成しています。
基本的には嫁と姑の対立をテーマにしているのですが、時代背景から
どうしても封建制度の中の主君と家臣の関係が二重写しになります。
主君にとってどちらがより有用な人間か争ううちに、滅私奉公の
献身合戦になってゆく展開を見ていると、高度成長期の猛烈社員の
姿も浮んで来ました。
どちらも自分自身の価値は、主君や上司や夫にいかに認めてもら
えるか、という物差ししか持てないところが似ています。
この時代、他の選択肢は選べないですから、もっと悲惨なお話に
なっても不思議ではないのです。
でも、この小説の読後感は爽やかです。
それは花岡青洲が純粋な理想家で、私利私欲のためでなく理想の実現の
ために努力を惜しまない人物だからでしょう。
花岡青洲という人物を題材に選んだところも素晴らしいです。
ともあれまだお読みでなければこの世界を一度経験してみることを
おすすめします。
山尾悠子作品集成
2003/01/10 00:21
結晶化した言葉で構築された異世界のものがたり
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ファンです。
思い出話をひとつ。
その昔、70年代と80年代の境目に黄金時代がありました。
SF雑誌が毎月4誌も発行され、それぞれに新人を募集していた頃。
ある日僕はSFマガジンの女流作家特集で、ゼナ・ヘンダースンに
並んで山尾悠子という名があることを発見しました。
作品の名は「ワンス・アポン・ナ・サマータイム」
架空の街の架空のお話です。
それ以来、毎月発行されるSF雑誌の目次から、異世界の扉をひらく
4文字の呪文を探すようになりました。
絶頂期は破壊王が連載されているころ。
「奇想天外」誌の挿し絵の雰囲気も作品世界にぴったりで、毎月
思う存分作品世界に浸ることができました。
また、初の長編単行本「仮面物語」を手に入れて、装丁の安っぽさに
落胆しつつも奥付の発行日が2月29日であることに感激していました。
願わくは、ここに収録されなかった作品たちが、いつの日か作者の
寵愛を取り戻して、新作の中でキラキラと復活されんことを。
ジャングル・ブック
2003/01/10 00:59
不格好なヒトの社会
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
読んで最初に感じたのは、本当に子供の心で書かれているということ。
子供は成長するにつれて徐々に人間社会の約束事を覚え、やがて慣れて当然と思い、
最後には普遍的なルールだと思いこむ。
けれども、モーグリは違う。
自然界のルールを身につけて成長したモーグリの目に映る人間社会はおそろしく不格好だ。そこに描かれているのは、大自然の片隅に巣を作って暮らしているだけなのに、自然を支配していると自惚れていて、巣の中のルールに生死まで左右される情けない姿だ。
動物達の社会として表現されているのも人間自身の姿ではあるけれども、それは生き物としてのヒトが生得的に持つものに限られている。たとえば愛情と憎悪、支配と被支配、暴力と才覚などである。
作者はその両者の違いを冷徹な目で見通して対比させる。
子供の時に読んでも、大人になってから読んでも、それぞれの読み方で楽しめる深みのある物語である。
知泉 元祖「ヘェ〜」716連発
2003/09/20 00:00
テレビに向かないトリビアも
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
トリビアがブームだけれども、その前から長く続いている
メルマガから厳選された雑学の本です。
ピーク時には週に3本ぐらい来ていたメルマガからの再録だという
話なんですが、購読していたにもかかわらず、全く覚えていません
でした。
この本はメルマガ生まれなだけあって、編著者の杉村氏の個性が
出ている印象を強く受けます。
ゴールデンタイムのテレビでは放送しづらいネタや、某大物
女優の御機嫌を損ないそうな危険なネタや、あまりに高尚すぎて
よく分からないネタなども分け隔てなく採録されています。
あのテレビ番組ほどしっかりしたスタイルは持ってないですが、
自然な感じで気楽に読めます。
余談ですが、出ると知って即注文し、読んだ翌日に「トリビアの泉」
で同じ事をやっていたので、少しだけ優越感に浸れました。
たぶん、何年かして読み返すと内容をすっかり忘れてしまっていて
もう一度面白がれるのではないかなと思っています。
だからって何の役にも立ちませんけどね。
パナマの死闘
2003/01/27 23:31
カーク船長のモデルだという
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
スタートレックが最初にテレビシリーズとして登場する前の企画書に、
カーク船長のことを形容して「宇宙時代のホーンブロワー船長」と
書かれていたという。
その話を聞いてホーンブロワーシリーズを読み始めた。
ナポレオン戦争時代の英国海軍(帆船!)フリゲート艦の船長の話であり、
全く知らない世界を舞台としているのだが、写実的な描写のおかげでその
様子をうっすらと体験できたような気になる。
そのへんは良くできたファンタジーを読んでいるような気になった。
読んでみていちばん意外に思ったのは、主人公は卓越した才能と行動力に
恵まれているものの、英国海軍という組織に縛られている点である。
海軍本部の急な方針転換に振り回され、明らかに自分より無能な先任艦長の
不合理な命令や船員の慢性的な不足などの悪条件にさらされながらも、
何とか局面を打開しようと努力する。
その姿は現代の社会でもごく普通に見受けられるもので自然に共感を呼ぶ
のではないだろうか。
この「パナマの死闘」はシリーズの中で最初に書かれたもので、一話完結の
色彩が濃いお話である。
また、後のシリーズに比べると登場人物の性格がどこかこなれていない
印象を受けるけれども、その分なにか新しいものが生まれるときの熱気の
ようなものが感じられる。
ホーンブロワーシリーズに影響を受けたのはスタートレックだけじゃない
ような気がするな。
クジラの世界
2003/09/13 23:33
鯨の博物誌。あるいは捕鯨の歴史。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
人とクジラの関わり合いについて書かれた本である。
多くのページが捕鯨の歴史に割かれているが、体系的な説明ではなく博物学的な説明となっているので雑学的な興味を惹く。
特に、捕鯨が最も活発だった産業革命の時代、帆船が蒸気船に変わる頃に機械油やろうそくの需要を満たすため、手当たり次第に捕獲されたあたりが面白かった。
捕鯨船に乗り組む船員の様子、富み栄える捕鯨基地の港、絶対的な船長の権限、鯨との格闘などが、当時の物の写真や図版を見てるうちに甦ってくるような気がするほどだ。
西洋の話が中心で「遅れてきた捕鯨国」日本の話はほとんどない。
けれども、読み物として面白いと思う。
興味のある人は試してみては?
私は図書館でこの本を知り、貴重な図版が気に入って購入しました。
動物農場
2003/03/11 23:20
先入観をもって読みました
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
最初に、「ロシア革命からスターリンの権力奪取までの過程を風刺した寓話」
という予備知識をもって読みました。
今は亡き「ソビエト連邦」の歴史には詳しくないのですが、ボスの跡目争いから
軍部を抱き込んで権力を奪う過程や、ライバルを粛正して絶対的な権力を確立して
ゆくというのは、おなじみのパターンです。
そして、権力を確立した後は「民主主義人民共和国」(動物農場)の看板の下で
権力が腐敗し、最後には絶対王政の国(荘園農場)と区別がつかなくなります。
同時代に生きていない私たちが風刺の意味を理解するには、予備知識が必要かも
しれません。
でも、良く読めばその時代の雰囲気や、どうしても書かずにはいられなかった
作者の危機感のようなものを感じ取ることができます。
そういう意味で、歴史的な価値がある一冊です。
ハリー・ポッターと炎のゴブレット 2巻セット
2003/03/12 00:06
ハリー・ポッター最初の敗北
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
全7巻のちょうど真ん中にあたる本で、シリーズ全体のストーリーも中盤に
さしかかり、いよいよ物語が佳境に入っていきます。
1,2巻とは違って3,4巻は物語の世界を楽しむよりも、ストーリーの展開を楽しむ
方に重点が置かれているようです。
主人公たちも成長し、苦い思いを知り始める年齢にさしかかりました。
ちょうど思春期の入り口あたりでしょうか。
「お金がないってみじめだな」と気づき、さまざまな嫉妬も感じ始めます。
そして、ハリーは初めて打ちのめされるほどの敗北を喫します。
善の陣営と悪の陣営との闘争が本格的に始まることを予感させて
この巻は終わります。
最上級の娯楽大作。物語の構成がしっかり練られているし、読者への提示も
過不足ないので安心して楽しむことができます。
巻をまたがる伏線を覚えておくのは大変ですが、たとえ忘れたとしても
全巻揃ってから読み直すときに新たな発見として楽しめそうです。
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