YUJIさんのレビュー一覧
投稿者:YUJI
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紙の本海辺のカフカ 上
2002/09/27 18:02
村上春樹という作家は馬のように25年くらい書いてきた
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久々の長編ということでわくわくしながら読み進んでいった。一人の作家を持続的に読んでいていいことは作品ごとに違う違和感をかんじることができることだろおもう。それはよく、ふらふらと散歩に出かける猫のように気ままなのかもしれない。それほどに読者と作家という関係は気ままでありながら、でも、どこかでつながっているのだ。そして、そんな違和感をとく味わえる作家が春樹さんだとおもう。海辺のカフカという作品は春樹さんがいうように色々な読み方、読むたびに違った見方ができる作品だとおもう。15歳の少年を中心にして読むこともできるし、他の人物を中心に据えて読むこともできるし、文体だけを、ストーリーだけを読むこともできる・・というか、そういう風につくられている。読者はそんな春樹さんの意図をふまえながら読んでゆくとおもしろいし、自分なりの読み方を考えついてもいいとおもう。ようするに海辺のカフカは気まぐれな猫なのだ。猫だから、どこにいくかわからない、でも、そんな猫だからこそかわいい。だから、読者は海辺のカフカという猫をよくかわいがらなくてはならない。くれぐれも飼いならそうとおもってはいけない。この猫は気まぐれでさびしがりやなのだから。
ところで、ある作家がこんなことを言っている・・二十五年というのは長く見えます・・一年、また一年と、二十五回重ねていけば、一頭の馬の寿命になります。たしかに長い・・しかし、何かが自分を成熟させた、老いさせたとは感じません。失望したとも思いません。要するに、そんなことは考えたためしがないんです・・そうか、よく考えてみると春樹さんも馬の寿命と同じくらいの間、作品を書き続けてきたのだ。でも、春樹さんはそろそろ、馬じゃなくて、他の動物、たとえば、カバ?とかウシ?とかゾウ?みたいに作品を書いていかれたらいいのではないだろうかとおもってしまう。なぜだろう?
紙の本葬送 第1部
2002/09/14 14:41
葬送
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布石という言葉がある。字義通り解釈するのならば、現代にありながら未来を遠望しつつ打つ一手ということになるだろう。まさに葬送は布石にあたるのではないか。
それは作品を読めばすぐにわかるだろう。所々に、まるで、来るべく未来を予感したかのような会話や心理が配置されているのだ。もちろん、それは小説中の登場人物達の言葉なのだが、著書はそのことを通して、ショパンやドラクロワといった偉大な芸術家を通して、仮想ともいえる壮麗な一生を経験したのではないか。そして、著者は偉大な芸術家達の一生を作品にすることにより経験を豊かにしただけではなく、本来的に自らが望んでいた、いや、本来こうであるべきという未来を放棄したかに見えるのだ。
なぜなら、これは著者の一連の三部作、『日蝕』、『一月物語』、『葬送』を見れば分かるとおり、これらの作品は現代にありながら、異空間ともいえる壮大な文学的アジールを創出している。そして、これら一連の作品は成功し、ある一定の成果も納めてきた。
が、それゆえに現代との乖離してしまうというのは否めないだろう。それは人がアジールに逃げ込んだからといって何時までもそこにいることが出来ないということと同じなのだ。いつかはアジールから人は出てゆかなくてはならないのだ。さもなくば、人は人ではなくなってしまうのだ。
だが、『葬送』を完成した著者は森鴎外や夏目漱石が初期の三部作を完成させ、そして、成熟していったようにその文学的視野を広げ、これから成熟してゆくのだろう。
著者がこれから、どのように本格的に現代にコミットメントしてゆくかが楽しみだ。
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