ベリ太さんのレビュー一覧
投稿者:ベリ太
君主論
2002/07/31 22:56
マキアヴェリの息吹が伝わる訳文
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
マキアヴェリズムをちなみに広辞苑で引こう。
目的のために手段を選ばない、権力的な様式。
権謀術数主義。
確かにそうである、しかし目的は何であるか?
個人として印象に残ったのは彼の思想の広辞苑的な側面ではなく、
運命にたいして非常に敬意と諦念を持ちながらも、
自己の能動的な意志によって可能な部分は必ずあると信じ、
それには徹底して尽力すべきであるという意思である。
曰く、私たちの諸行為の半ばまでを運命の女神が
勝手に支配しているのは真実だとしても、
残る半ばの支配は、彼女が私たちにまかせているのも真実である。
この書は、上に立つものの書ではない。
運命の半ばを己の意志のものにせんとするものの書である。
訳は、やさしい日本語を使用しながらも、
流麗さを多少犠牲にしてもマキアヴェリの息吹を可能な限り
伝えようとする。いままでの訳に対して出色といえよう。
運命を拓く 天風瞑想録
2002/07/07 04:07
叱咤激励
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
不況とリストラに脅かされる現代、
今までの価値観が崩れ去ろうとしている状況は、
自分自身の力を回復させてくれる何か強い言葉を求めてしまう。
最近の書店には、東西問わず種々のそのような本が並んでいる。
不明にして、天風師の名を最近になって初めて知った。
旧柳川藩の士族の子弟、激烈な性格は正当防衛とは言え、
10代にして殺人、頭山満に師事し更には率先して大陸にスパイ活動に出向く。
もう少し早く生まれたならば、過激な勤皇の志士か、西南の役に決起応じたであろう。
そんな彼が病の死線を乗り切り、
後に大悟した哲学のエッセンスの講述がこの本である。
彼は決して甘やかすことはない、ひたすら叱咤激励する。
そしてその叱咤のなかに人間の向上心を刺激しながら深い愛情を含めている。
現代の我等も負けないぞ! 心を奮起させる一冊である。
戦うハプスブルク家 近代の序章としての三十年戦争
2002/07/06 16:49
30年戦争のパノラマ画
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
ハプスブルグといえば日本ではウィーンを象徴の頂点として、
ワルツ、モーツァルト、お菓子等々と絢爛な文化の担い手としての
イメージが先ず浮かんでくる。
それは確かにハプスブルグの一つの姿であるが、
それと同時にカトリック信仰を柱石に据えて、地理的制限はあるものの、
世界支配すらももくろんだ強力な帝国でもあった
(事実は全ゲルマニアすら覚束なかったが)。
その野望の過程で一番の転機となったのはこの30年戦争である。
一般に30年戦争は教科書上と、スウェーデン王グスタフ・アドルフ、
ワレンシュタイン、リシュリューと光芒輝く登場人物に恵まれながら、
なかなかその内容にまで知ることが難しかった
(小説に少しでもその具体的イメージで触れることができるのは、
佐藤賢一氏の「ジャガーになった男」の一場面くらいか)。
そういう意味でもこの本は貴重な存在である。
文章は解かりやすく平明であるが実に生き生きとして、
楽しみながらぐいぐいと読むことができる。
専門家からすれば、もしかしたら内容は物足りないかも知れない。
しかし、書き手が自己満足ではなく本当に歴史を一般に知って欲しいと
思うならばこうあるべきではないかと思う。
この本に頼山陽の「日本外史」の流れを見る思いがする。
傭兵の二千年史
2002/07/24 10:54
「サンタ・マリア!」から「スペイン万歳!」へ
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
傭兵のイメージとは。
文字通り生きるために命を懸けて金で雇われるという矛盾。
そんな側面は常にともないながらも、
彼らの一つの頂点となった16、17世紀のランツクネヒトの
暴虐ほしいままの集団でありながら、
強い仲間意識とある種の公正が支配している世界に、
人間の一つの側面を見る思いがして感慨深い。
そんな集団が歴史の主役だった時代とは?
現在残る美術品や建築物のような
光の面では読み取れない時代の様相を感じさせてくれる。
30年戦争後、勝利の勝どきが「サンタ・マリア!」から、
「スペイン万歳!」に変貌をとげるとき、
情け容赦ない暴虐な傭兵がだんだんその主役の役割を終える。
一方で国家という大義名分を持った国民兵が主役に登場するにつれ、
戦争がとめどもない殺戮戦になっていく姿は何とも皮肉である。
著者の文章はとても読みやすく面白い。
気楽に読み進められるが、読者の興味を引くような配慮を感じる。
わたし琵琶湖の漁師です
2002/07/31 01:44
なかなかの漁師さんやで。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この漁師さん、ほんまに琵琶湖の魚が好きで好きでしょうがないみたいだね。
漁師さんってみんなこんなもんだろうか?だったらほんとに幸せな職業や。
しかし琵琶湖には、ほんまにようけ色々な魚が棲む場所やな。
鮒、鮎、モロコぐらいと思っておったらとんでもない。
こんな湖は、日本広しといえどもそんなにあらへん貴重なものや。
ところがだ、その豊かな場所がブラックバスに代表される外国の魚に
滅ぼされそうになっておるんじゃ。
この漁師さん、ここがいいところなんだが、
それこそ罪を憎んで人を憎まずのお魚版じゃ、
この本来ならにっく気やつをにっくきにした身勝手な人間に、
その責任を問うおる。
なかなかできた漁師さんやで。
まあ、こんなくだらん書評でもまずは一度読んでみいや、
釣りをせんもんでも、面白く読めることをうけあうで。
百人一首
2002/07/20 17:16
百人一首に興味のある人は必ず手元に置いておきたい。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
幾種類かの百人一首の解説書のなかで、
本書はきわめて特徴的であると言えよう。
歌があり、現代日本語があり、語義解釈、鑑賞と
おおよその形式は他書と類似している。
しかしその鑑賞までもこれまた優れものである。
中世から大岡信氏のものまで多くの解釈を紹介して、
百人一首と日本人との関わりの歴史の分厚い集積を見る思いである。
そして解説はこれで終わらない。
一首一首それに続く古注の全文引用紹介と
さらにはそれに対する解説である。
応永抄、経厚抄、頼孝抄という一般では目にできない、
江戸期以前のいわゆる古注という注釈が、
このようは文庫という形でこの価格で、
気軽に手にすることができるとは将に驚愕の思いである。
百人一首に興味がある人は他の類書があっても、
手元にこの本を備えることを強くお勧めしたい。
そして、これが採用した出版社に敬意を表するとともに、
絶版品切れにならないことを強く望みたい。
古文研究法
2002/07/20 09:32
深い学問を垣間見せる参考書
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この小西さんの参考書が未だ現役の本として
並んでるというのは懐かしさ以上に嬉しい驚きである。
学校教育で習うものは単独でそれがあるものではない。
深い学問の凝縮であり、長い道の端緒となるものではないか。
ならば勉強は楽しいものであるべきである。
そういう意味でこの参考書は実に勉強を楽しくさせてくれる。
付け焼刃に有効な参考書では決してない。
しかしこれに馴染む頃、いつの間にか自分の受験力が驚くほど
伸びていることに気づくであろう。
武士道とエロス
2002/07/06 12:36
先祖たちの激しい情念
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
元亀文禄の遺風を残した江戸時代初期は、
我々の想像を遥かに超えた激しい情念の世界に違いない。
むしろ下克上という徹底した現実主義の中での生命の争奪戦の機会の喪失が、
恋、それも男色というものにより激しい情念をもたらしたものであろうか。
恋の為に命のやり取りに及ぶ心理、
我々の先祖たちの生き様と思う時、現代の常識では愚行とされるものであっても、
なにか憧れにも似たさわやかな印象を感じることに否定できない。
この本は、そのような情念を色々な角度からとらえた貴重な文化史である。
数々の挿話は一つ一つ何か特別の印象を読者に残してくれるものと思う。
更にこの読後に例えば西鶴の武家物を読めば興もまたひとしおであろう。
歴史、或いは時代物に少しでも興味を感じる人には、
テーマにとらわれ逡巡することなく是非とも一読をお勧めしたい。
城下の人
2002/06/30 18:52
明治の最もリアルな映像の一つである。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
明治初期から日清戦争にかけて激動のなかの息吹を、
これほどリアルに語る本も少ない。
作家ではなくまさに自分の体験を語るものの強さであろう。
またしっかりとした教育を受けながらも明治元年生まれの軍人である著者の
会話を巧みに織り込みながら饒舌でなく、
平成の現代人にもぐいぐいと迫ってくる表現力。
著者の力量もあるが当時の短い歴史の中で言文一致体がここまで
発達したことにも驚かされる。
神風連の乱、熊本城炎上、西南戦争等々の記述は特に秀逸である。
敵、味方、士族、平民 登場する人物達のなんと魅力的なことだろうか。
これを読んだ後、ドラマや映画でこのあたりの時代を見ると、
残念ながら気抜けしたビールのように失望を感じる。
黒い聖母と悪魔の謎 キリスト教異形の図像学
2002/07/27 12:06
一つの芸術の奥行きの一端を教えてくれる好著である。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
異形の像にとらわれてはいけない。
本書はこのような一般的な新書では数少ない
中世ロマネスク美術の一つの側面にテーマを
絞り込んでそれを解説紹介した好著といえよう。
当然ながら、対象物、用語、地名、など、
出てくる単語そのものが馴染みのないものである。
それだけに、漠然とした知識の確認というよりも、
新しい事柄に出会う喜びを与えてくれる。
なじみの少ない物に対して、丁寧に解説しようという意図はあっても、
いい意味でのこだわりを持った書き方も、
かえって読者に取っては嬉しい期待だ。
ある章では引用やファサードに刻まれた
ラテン語の原文もしっかりのせて、
意味が解からないゆえに敢て見過ごしてきたものの
アピールも初めて知り、これもまた面白い。
そしてテーマを絞ったにもかかわらず、
このロマネスク芸術の持つ広がりを改めて教えて貰った。
知性の磨きかた
2002/07/26 01:01
これは人間の生き方に対する提言である
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
この書はでは、三日間の講義をそれぞれ章立ての構成を取っている。
一つは学問の楽しみであり、一つは読書の幸福、一つは遊びは創造である。
最初の学問の楽しみの楽しみに至るまでの道は尋常ではない。
その方法論の一般の人にとっての容易ならざる事である。
著者は決して生易しいことを話して自分の持論を譲らない頑固さを持つ。
まさにプロフェショナルの為の方法である。
本当に学ぶことが楽しいなら、その道の苦労は苦労でなく楽しいのである。
少なくとも題名の「知性の磨きかた」を手に取るほどの人間なら、
須らくそのような気概を持つべきであろう。
著者は若年からの勉強の必要性を強く説く、
しかし、一方で本居宣長の「初山踏」を引用して、
「また晩学の人も、つとめはげめば、思いの外功をなすことあり」
と年配者にも学問に勤めることをも忘れてはいない。
最終的には目的意識を持って主体的に続けることなのだ。
読書もまた然り、大切なのはそういう意識であろう。
これは一般のサラリーマン諸氏に対する生き方への提言でもある。
最後の章はいい意味での個人主義のあり方も含めて示唆に富む。
知性を磨くとは、自分自身の生き方を学ぶと事であろう。
ロマネスクの図像学 上
2002/07/20 12:36
多様性にあふれた中世
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
エミール・マールの名著「ゴシックの図像学」を手がけて、
はるか30年隔ててその前史のロマネスク(12世紀)を
手がけたという。
ゴシック時代が一つの秩序と統一という理念を
熱烈な情熱で目ざしたことに対応して、
マールも著作に同じような美を意識しながら進めてきた。
このロマネスクを扱った著作はそれと一変して、
もっと柔軟に理念よりも具体的な対象物をメインに進めている。
中世の暗黒時代と言ったような乱暴な言い回しは、
すでに廃れて久しいが、この本で改めて中世の多様性を教えられる。
たがだか100年いやロマネスクとゴシックの様式がほとんど混在する
ケースも多い中、この明らかな個性の違いは驚くほどである。
マールの著作はいつも対象に愛情を込めての研究が伝わる。
中世フランスから時代も距離も遥かに隔て、
さらに門外漢の私でも楽しめて読める根源はそんなところにあるのか。
マールの意図をしっかりと伝えた翻訳陣の
丁寧な頑張りにも大いに感謝したい。
ゴシックの図像学 上
2002/07/20 09:13
知識は芸術的感動をより深めるもの
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
中世図像学の権威であるエミール・マールの、
もっとも重要であり古典的な著書が、
こうやって簡単に手にできるとはまこと喜ばしいことである。
この著での図像研究の方法論は、
中世の思想・学問を統合したヴァンサン・ド・ボーヴェの
「(自然・学問・道徳・歴史の)鏡」の構成を
積極的な意味で踏襲しながら、
中世的な意味でも該博な知識を援用して図像の意味を解明する。
彼も言うように中世の芸術は、まさしく象徴的言語である。
そして、この著作を秀逸にさせているものをは、
中世芸術を見る彼が感性のレベルという芸術を見る根本のところで、
対象に深い感動を彼が持っていることをひしひしと伝わるからだ。
知識は芸術的感動を減衰させるものでは決してない。
より深くする手段の一つでもあることをこの本は教えてくれる。
造園を読む ランドスケープの四季
2002/07/16 07:42
庭園がより楽しめるよ。
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
我々の生活から公園や庭がなければ?
確かにそれによって生命の維持には支障はないだろう。
もしも人間の器量がその幅にあるとすれば、
庭園は人間の文明の一つの幅ではないか、そのような気がする。
この本は辞書風に四季の部立てにそって、用語、様式、歴史、現況と
様々な角度から庭園すなわち緑、土、空気を明らかにしていく。
庭園も人の創作である以上、何らかかの意図がある。
頭を空白にしながらの庭園の楽しみも魅力あるが、
創作の工夫を発見するのもまた楽しいであろう。
部立てはあるが、その時々に自分の興に任せて、
拾い読みを楽しめる本である。
中世美学史 『バラの名前』の歴史的・思想的背景
2002/07/11 21:41
「バラの名前」の深さ
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
「バラの名前」の背景を解明するシリーズに多くの本がある。
その中で、最も基礎的なものでありながら、
もっとも体系だっており、独立した本として興味深い。
知識思想が一つの統合を目指した中世の思考において、
もちろん美学として単独な価値観があるものではない。
しかしながら、確固とした美意識は存在した。
驚くほどの博学を発揮しながら、その意識の断片を抽出統合し、
その存在を解明していく過程も読者に知的喜びを与える。
豊富に盛られたラテン語はラテン語を解せない者にも、
なぜかワクワクさせる興がある。
「バラの名前」の深さ、改めて感じさせられた。
