ベリ太さんのレビュー一覧
投稿者:ベリ太
紙の本音楽のヨーロッパ史
2002/07/06 11:47
音楽をとおしての生きた社会史である。
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これはいわゆる音楽史の本ではない。
音楽が戦争、祭典等の機会において果たしてきた役割を描く、
古代から現代までのヨーロッパ社会史と言えよう。
いたるところに音楽があふれている現代人にとっても、
オリンピックやワールドカップで聞く国家には何か特別な魔力が宿る。
音楽が非日常であった時代の人々にとって、
特別な機会で体感する音楽がいかに感情を動かし鼓舞するものか、
我々の想像を超えたものに違いない。
この本では、ほとんど聞くことのできない当時の楽器、
その楽器の持つ意味から始まり、
時代の流れとともに多くの記録の具体的な実例を盛り込みながら、
社会の一つの断面を見事に浮き出すのに成功していると言えよう。
中世から近世までの部分は特に秀逸である。
個々には短い記述ながらも、教科書的な歴史的事実を、
人間が生きていた事実に映し出す。
中世学人の一般教養とされた自由七科の一つの音楽、
その持つ意味を著者から改めて認識させられた感がある。
この本での近代から現代までの記述は付録と思って読んだ方がいい。
むしろ著者のこの部分だけで次回の著作に是非とも期待したい。
巻末にある4種類の年表もなかなか興味深い。
著者の読者への親切な配慮に感謝したい。
紙の本プルターク英雄伝 4
2002/07/29 01:11
悲憤慷慨の書
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幕末の勤皇の志士たちの多くの手には「日本外史」があった如く、
フランス革命時にはジャコバン派、ジロンド派問わず広く読まれた。
英雄の列伝は時代を超えて魂を昂揚させるものがある。
本4巻は、そのなかでも特に興味深い。
ハンニバルをして古今第一の名将と賞賛せしめ、
遠く下っては、マキアヴェリもアレキサンダー大王に
勝るとも劣らぬ評価を呈したエピロス王ピュロスの登場である。
(本書ではエピラス王ピラス)
高い勇気と優れた軍略を持ち合わせ数度も隆盛するローマ軍を破り、
最後にはスパルタとの乱戦の中、壮烈な戦死をとげる。
おそらくは長い歴史の中で数え切れぬほどの人を
悲憤慷慨の思いに至らしめたであろう。
訳はドライデンの英訳に基づくので、固有名詞は総て英語読みであり、
多少気にならないことも無いが、日本語として素晴らしい。
紙の本愛すべきイギリス小説
2002/07/28 23:06
罪作りな本
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どんな深い思想があろうとも小説は読んでいて
面白くあるべきだ。
著者のここで選んだ作品群もまさに基準は著者の好みという。
そういう趣旨だから、文学史や名作全集に
鎮座ましますものばかりでない、いや少ないくらいだ。
英文学を専門に学んだ人でない限り、
おそらくは初めての名前や作品も多いだろう。
私もそうであった。
著者のあまり熱心な読み手でないという言葉を信じるならば、
面白いものに対する嗅覚には素直に敬意を表したい。
取り上げる作品作品が、皆そろって個性的で魅力的に写る、
それこそ「愛すべき」作品群である。
この本のおかげさまを持って読めもしない英語の本が、
私の本棚に諦めが顔で変色してきている。
本にとっては罪作りな本である。
2002/07/28 11:19
人間が人間として生きる模索
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著者は「狂い」をあらゆる宗教の共通基盤であり、
その「狂い」は、理性では覆いきれない人間性の最も奥深い闇の中で、
不気味にトグロを巻いている何物かである、という。
我々の日常の意識では「狂い」を
そこはかと無く畏怖し遠ざかる心の傾向がある。
それは無意識に感じる衝動を無視して社会常識に則って生きていく身には、
それを正面から目を据えて見ることに何か存在を危うくする怖さでもあろうか?
しかし、「狂い」は理性的理解を超えた知恵を持ち、
人間が総合的に人間として存在するには本源的なものである
「狂い」の虚心な受容を示唆させられる。
著者のいう「狂い」はもはや辞書的意味からイメージされる
「狂い」というものとは違う。
そして求める所の最後は?
最後に著者の語る昔見た映画の1シーン。
どじゃぶりの雨の中、知的障害のある少女が、
自分がまいた種から咲いた花に嬉しそうに水をやっている姿。
このほんの数行になぜか涙が出るほど感動する。
紙の本「ダメな部下」を戦力化する法 辣腕社長が書いた! モチベーションを高め,チームを活性化する
2002/07/27 09:41
この本をダメな上司に捧げる。
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この本を読んでダメな部下を何とかしようと
思うならばそれは大きな間違えである。
部下がダメになる原因のほとんどが上司である。
考えてみれば人を使うほど難しいことはない。
ましてや人の価値観がこれほど多様となり、
仕事がなくなってもそれなりに生存できる時代において、
人のモチベーションを高めるには?
この本の題名は、非常に逆説的である。
私も含めて、ダメな上司は必読すべきである。
紙の本声に出して読む般若心経 サンスクリット語・チベット語・日本語での読経CD付
2002/07/27 09:29
興味を超えた不思議な魅力
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何と言っても付属のCDは魅力的である。
日本語での心経の読経だけでなく、
チベット語、サンスクリット語の読経は、
本書がなければ先ず一生聞くことなどなかったであろう。
BGMの雷雨、せせらぎの音とともに流れるそれは、
単なるめずらしいものを超えた不思議な魅力がある。
私事で恐縮だが、
横になりながら聞いていると自然に深い眠りに入ってしまった。
著者の心経の紹介も好感が持てる。
法理解説などを控えめにしながら心経を軸に生き方を説いていく、
心経に対する深い信頼が伝わる。
自分が真に信じるところがあるからこそ、
それは人に伝わるのだろう。
こういう本をこの値段で享受できる現代を、
素直に喜びたい。
2002/07/24 22:20
…散歩という題名を遥かに超える充実内容だ
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観光旅行の知らないドイツには様々な遺跡、古建築を持っている。
例えばケルンの大聖堂を驚嘆の目で仰ぎ見る傍らには、
初期中世屈指の力強い美しさを誇る聖パンタレオン教会が、
人目を気にすることなく静かに佇んでいる。
本書では地理的よりも時代の階層ごとに区切り、
先史時代からローマ時代を経て後期ゴシック時代までの
各地の古建築を解説している。
日本ではほとんど知られてない遺跡建築が数多く盛られ、
しっかりしたその説明は題名にある「…散歩」の水準を
大きく超えたものである。
特に著者は特筆していないが、文章から判断すると
総て自らの足で調べ確認したように思われ、
描写もなかなか好ましい説得力がある。
もし余裕があるなら、ドイツに行く折はスーツケースに
入れたい本だ。
紙の本一遍上人 旅の思索者
2002/07/24 12:00
一遍上人を通して自分の生き様が問われる
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「とにかくにまよふこころのしるべには
なも阿弥陀仏と申すばかりぞ」
一遍上人入滅の前年、臨終を迎える弟子に送った歌である。
この突き放すような冷たさの底にある慈悲の心とは。
本書は数枚載せられている写真が語るように
引き込まれる自然描写の美しさをもつ「一遍上人絵巻」を軸に、
上人の事跡と思想を追っていく。
伝記的な事実を想像を控えめにして良心的に古記録を拾いながら、
一遍上人の心の奥底を綿密にたどろうとしていく。
見えてきたものは高徳な僧というイメージとはほど遠い。
我々と同じように煩悩の厚い雲にギリギリまで
とらわれていたように思われる。
常に意識される罪業の果てに死、そんななかでの徹底した自己否定、
「狂」がともなわなければ心での理解は不可能であろう。
本書は興味以上の重たさを残してくれた。
紙の本遠野物語
2002/07/22 00:33
これが日本の姿だったのだ
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たかだか100年ほどの前のこと、
紛れも無くこの日本でのことである。
至るところに神様がおはし、不慮の死は神様に至り、
或いは妖怪が家の中にも跋扈し、
今や絶滅した狼はいまだ現実に恐怖の対象であった。
例えばある豪家での嫁が河童の子を孕み生んでしまう顛末、
素朴な語り口に妙な現実感があって、
そんな事実を今ほとんど本気で信じてしまっている。
この古風な文体もその雰囲気を醸し出している。
久しぶりに読んで改めて自分の背後の隠れた連鎖を感じる。
2002/07/20 16:18
いつのまにか座右の書
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座右の書には意識してそうしているものもあれば、
いつの間にかそうなってしまっているものもある。
二百数十文字の中にはどのような
深遠な意味潜んでいるのであろうか?
泰道師はこれを解き明かすのに、
決して深遠な言葉を用いていない。
なかには俵万智さんを引用して心経の義を教えてくれる。
真理はまさに些細なこと、ふとした言葉にもあるといえよう。
積まれた本の山に無意識いつも
手に取りやすい位置にこの本はいる。
泰道師は心経を現代に生きたものにしてくれる。
紙の本毒の文化史
2002/07/20 11:20
毒は人類の歩みを語る
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本書は、日本の美術史家であり文化史にも精通の杉山氏と、
薬学において高名な山崎幹夫氏との毒の文化史的側面から、
日本、中国、ヨーロッパにわたり歴史的流れに沿いながらの
対談集である。
人類誕生以来食べるという行為にあたって、
必死になって自然界の物のより分けがなされてきた。
毒という物はそのような必死の経験知識の集積でもある。
死をもたらす毒、一方で薬と表裏一体でもある毒が、
一種のロマンの影を帯びているのか?
近代以前では毒と同様、毒を使用する側、
される側にも人間の個性が現れる。
対談は毒に対する何か愛情に近いものを感じさせられ、
それによって一気に興味をかきたてられる。
もっとも、そんな感情も毒が殺戮という無個性なものとなる
近代以降は重苦しいものとなる。
人類の進歩とは? この毒というものを通して、
生々しく考えさせられる。
紙の本生きていく願望
2002/07/19 00:10
さわやかな生き様
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長い人生を生きたからといって、多くの経験をしたとは言えない。
更には、充実した人生はもっと違うところにあるであろう。
しかし、多くの経験をし、いつも自分が幸せだと言い聞かせ、
そしてその人生が長い時、真の意味で人生の老師というべきであろう。
この本はそんな人生を送った彼女が飾り気のない
直截な思い考えを綴った小エッセイ風の人生談義である。
全編を通して流れるもの、世間一般の道徳の基準を超える体験すらも、
自分自身にやましさがなく、生きるということを追求した体験は
彼女以外は真似のできない清涼感が漂う。
価値観を超えて、
人の体験を肯定できるというのはなかなかできるものではない。
彼女の体験はそんな肯定否定すらも超える生き様を持ち、
この本はそんな姿を映し出している。
紙の本宮廷の音楽
2002/07/15 23:27
ゆったりと手に取りたい
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クリストファー・ホグウッド指揮のモーツァルトの交響曲全集は
いわゆる巨匠達の演奏を聞きなれた耳には衝撃的であり、
オリジナル楽器の可能性と音の魅力を広く認知させたと言えよう。
その彼が手がけたこの著作は中世から17世紀18世紀を中心に
19世紀までの宮廷での音楽と受容を軸とした小史である。
音楽史の主役の場であり膨大なフィールドを持つ宮廷、
画像をふんだんに取り入れたこの薄い本に
それをどう取りまとめていくか危ぶまれるほどであったが、
ヘンデルの伝記と同じように当時の資料を適度にちりばめながら、
軽く読みやすいものにする一方で
内容的に充実させるという巧みさを見事に発揮している。
バロック音楽をBGMに好奇心を少し広げて、
ゆったりと手に取り楽しみたい本である。
あわせて訳文も著者と意図を配慮した感じのいいものである。
紙の本ローマの歴史 改版
2002/07/13 11:28
頭に残したい歴史
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日本人の少し古い世代では、
歴史の断片や逸話が脳の深いところに染み込んでいた。
宇治川の先陣争い、熊谷直実の出家、新田義貞の太刀、
楠木正成の桜井の別れ、或いは桶狭間の戦い、真田幸村の奮闘等々。
ヨーロッパ人にとってもそのような意味で、
ローマ人の歴史は脳裏の染み込み体の一部になった
生きた歴史である。
本著は年代的な順序を追いながら、
彼らヨーロッパ人がうなずきながら
面白く読むことを意識した本といえよう。
当然、我々日本人にも楽しめる。
約も特に奇をてらわずとても読みやすい。
通り一遍でなくこれが頭に残るほど読み込むことができれば、
今までと違う楽しみを味わえるに違いない。
2002/07/13 09:12
中世の幻視者の姿を解明する優れた評伝
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巻頭に続く16ページの図版。
ロマネスク風のやや稚拙ながらも強く奇妙インパクトを与える画像は、
まさしく中世の幻視者とは何かを示唆する。
しかしヒルデガルトは単なる幻視者ではなかった。
人を引き付ける宗教者で、優れた組織管理能力。
一方で医学、生理学、生物学、音楽等にも通じた当時の百科全書派であった。
本書は年月の軸を巧みに絡ませながら、
ヒルデガルトの様々な側面を印象的にほぐしていく。
評伝としても面白さとともに安心できる手堅さを感じながら読める。
幻視者というだけでなく中世の知識人の姿を理解する
絶好の書といえよう。