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Guroさんのレビュー一覧

投稿者:Guro

3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本ノーフォールト

2007/10/03 02:46

妊婦搬送問題について考えたり意見を言ったりする人に。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(読んでほしい人:この国の医療制度について関心のある人に。医療訴訟、周産期医療、それから少子化問題に関心のある人に。妊婦搬送問題について考えたり意見を言ったりする人に。産科の実態について知りたい人に。法曹の人にも。)

この小説は、産科医が止むに止まれぬ思いで筆を執った小説です。ですから小説としての評価をするべきではなく、現状を伝えるルポルタージュとして評価すべきです。その点では、産科の実情、特に出産時の手術などについては克明に描写されています。

作家は、2年前からこの小説の構想をあたためていた、と「あとがき」で記しています。折りしも、妊婦搬送問題や、産科をやめる病院が出るなど、さまざまな問題が今年になって急浮上しており、間に合わなかったともいえますが、機を見て出されたともいえましょう。

小説は、分娩時の手術後の容態が思わしくなく母体死亡になってしまう事例から、医療裁判になってしまう、というケースを中心に進められていきます。本書のタイトル「ノーフォールト」は「過失はない」という意味であります。医師に過失はなかったのに、なぜ裁判で裁かれなければならないのか。訴訟の場に引きずり出されることによって、医療現場の士気の低下は避けられず、また、医学的に是とされる治療判断も訴訟的に否であれば採られなくなるという悪影響を及ぼすこと、さらに、医師を目指そうという人材が敬遠することなどから、医療現場の崩壊を招こうとしている現状が、登場人物各人をとおして語られます。

作家は、小説を通して、医療賠償制度の提案をしています。この制度は、『医療崩壊―立ち去り型サボタージュとは何か―』で、示されているものと同等のもののようです。

産科の問題がクローズアップされる中、こうした医師からの小説という声を通して、現状を打破する改革がなされることを願って止みません。

さて、医療事故の実数は減少しているにもかかわらず、医療裁判が増加している事実は何を指し示しているのでしょう。私の見立ては、「死」を受け入れる場所の喪失にあるのではと思います。この国の人は、すべからくして「病院」で死ぬようになってしまいました。人間の「死」を受け入れるには、相当な心への衝撃を避けることは出来ません。昔であればそうして衝撃は地縁血縁共同体で補われていたのかも知れません。しかし、現代の「死」は病院でもってしか表出せず、そこには「医師」という人が必ずや介在している。身内の死の衝撃を、その医師に対して、訴訟という形でぶつけてしまう心理というのがあるのやも知れません。

すべからく人が病院で死ぬようになった社会は、歓迎すべき社会だと思います。ですが、死を受け入れる場所として、その刃を医師に向けるのはやはり誤っていましょう。この国が抱えているさまざまな問題は、なかなか解決策が見出されないものですが、この医療訴訟の増加という問題に関しては、「医療賠償制度」という解が示されています。ならば、ぜひとも、そうした方向へ進んでいってもらいたいものです。

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人を生かす医療から、人を死なす医療という時代へ

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

(読んでほしい人:今を生きる人みんなに)
長生きしたい。みんなそう思っている。でもそれって、ただ生きてりゃいいってコトじゃない。長生きして、なにかをしたいってことにちがいない。

「そのしたいこと」って、ホントに出来ると思ってるのか、今一度考えてみたい。たとえば、定年後はたくさん旅行したい、って、足腰が今と同じくらい動くってことが前提だ。本をたくさん読むぞって思っていたって、目がちゃんと見えて、ボケていないアタマがあってこそだ。

長生きしたいって言うけれど、それって「健康で」かつ「長生き」ってことだ。でも、人は老いる。老いるというのは健康から遠ざかることだ。歩けなくなっても、目が見えなくなっても、ボケちゃっても、長生きしたい?わけじゃないよね。「老いて」かつ「長生き」を、ホントにしたいのか?

歩けなくなっても、視力が衰えても、寝たきりになっても、人はなかなか死ねません。医療が高度に発展したので、そう簡単には死ねなくなりました。でも、生きて○○がしたい、ということをかなえるほどまでには、医療は老いを直してくれません。

著者の久坂部氏はこれまで、医療の分野を舞台として、エキセントリックともいえるほど過激な小説を書かれています。『廃用身(文庫)』では脳疾患により麻痺して、動かなくなってしまった上肢や下肢を切り取ってしまえ、という医師を登場させています。また『破裂』では、一時的に心臓を丈夫にする薬を普及させるが、実はその薬は急性心臓麻痺を引き起こすのだ、という題材を持ってきています。これまで、著者の作品を読んで、提示されている世界は、著者がかくあるべきと提示しているのか、それともアンチテーゼとして提示しているのか、どちらかよくわからないとことがありました。

本書はそんな著者によるノンフィクションですが、こうして死ねない医療の現実を提示されてみると、医療の発展とQOLの向上をどう結びつけるのか、という一貫したテーマが垣間見えてきます。どんなに医療が発展しても「○○がしたい」を叶えられなければ仕方ない、生活の質(Quolity Of Life)が向上しなければしょうがないじゃないかと、小説を通して訴えているのだとようやく得心したものです。

とおして考えてみると、やはり、人は生きすぎているのではないかと思わずにはいられません。
医療はどうやって人を生かすか、ということを考える時代から、そろそろ、どうやって人を死なすか、について考える時代になっているのだと、真剣に思います。

平均寿命、にとらわれずに、平均健康寿命を前提に、人生を考えなければならん、とまじめに考えさせられました。

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介護の地平がいまここからひらけていく

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 人間はうまれてから「する」ことで生を獲得していく。うまれたばかりの赤ん坊は、ただそこに「ある」だけであり、なにかをする、できるようになるということを習得していくことで、「する」生き物になる。老いるという現象は「する」生き物が再び「ある」生き物へ回帰する過程であると説く。
 週に1度老人施設へ行くと、自らの時間の流れと、彼らの時間の流れをあわせられない「あせり」のような感じがつきまとい、非常に疲れる気がしている。本書を読んであらためて考え直してみれば、それは「する」という視点から眺めていたせいであり、(父を含めてだが)老人はただそこに「ある」のにもかかわらず、「する」生き物として見ようとしていたせいと気付く。
 敷衍してみれば、たとえば(自らは経験がないが)保育園や託児所などへ行ってみたと想像する。その場にいる子供らが、なにもせずそこにいるだけなのを見て、彼らは何もしていない…とあせるだろうか? そんなことは思わないのと同じで、老人施設に「いる」だけの人たちに、彼らは何かをしていないとあせること自体が錯視と気付かされる。

 子供をとりまくさまざまな問題が表出しているが、それは子供に「ある」というフィールドを用意してあげられずに、一日も早く「する」(生まれたときから英会話!?)というフィールドに引きずりだしているからとも、本書は説く。子供の時代に充分に「ある」(=そこにいるだけでよい)という環境でなければならないのだという。
「歳と共に誰もが子供へ帰っていくと、人は云うけれど それは多分嘘だ」という唄があった。おそらくそれはその通りだ。老人を子供と同じに扱ってはいけない。けれども、子供と同じ「ある」という状態に解体していくのは本当だ。異なるのは、その人は一度「する」人であり、その「する」「できる」を一つ一つ還していく、その精神的な葛藤であろう。

 ところで、近代医療という言葉がある。人を見ず、学問的な病名だけに執心されている現在の医療を批判した言葉であろう。それと同じに、介護保健後の介護も「近代介護」に成り下がりつつあるとも本書にある。いくら点数化計量化したところで、介護とは「ある」をめぐる環境の構築に他ならないのだから、人と人との関係の構築と不可分なわけで、全国規模で展開しようとした介護会社が頓挫したのは、きわめてまっとうだったとある。

 自らの介護体験は、序盤の1年をすぎ、これから在宅介護という新しい始まりを迎えようとしている。そうした中で、これまでの漠然とした不安や誤解をとりはらい、あらたな地平を開いてくれた待望の一冊であった。

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