山川ハルナさんのレビュー一覧
投稿者:山川ハルナ
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海辺のカフカ 上
2002/10/06 21:59
タフであること
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『父』なるものへの宣戦布告。『母』との対峙、『お姉さん』と仲直り。
思春期の揺るぎの中で、もがいてもがいて、田村カフカは少し『大人』になることが出来た。世界で一番タフな少年として自分を奮い立たせることによって。様々な責任の所在を明白に意識することによって。
わかりやすい衝動から短絡的な実践に走ることは簡単だ。(いつでも勃起できるような)ゆるい性的興奮状態や(暴力事件を起こしたり、レイプに挑んだり)突如現れる攻撃性に身を委ねることは、不安定な精神を確たる肉体で安定させようとするあがきでしかない。結果的には、不安定な精神に導かれた肉体はあちこちで空中分解を起こしひずみを深くしてしまうだけ。
田村カフカは一つの壁を乗り越えたわけだけれど、たった一人の力でどうにかした出来たわけではない。大島さんや佐伯さんといった目に見えて友好的な人たちだけが支えになってくれたのではない。星野さんやナカタさんのように、関係ないところで格闘している人の力が知らずに大きな、決定的な後押しとなっている。結果としての複雑で理想的なバランス、割り切れない世界の仕組みを受け入れよう。
私はもちろん飽きもせずにラストの電話シーンに感動する。穏やかなカフカ青年の心象を受け取る。『海辺のカフカ』を経て自分の思考に変化が出ていることを感じる。今、同時期に『カフカ』を手にしている人たちに思いを馳せる。世の中にはたくさんの人がいて、たくさんの物語があり、たくさんの成長の瞬間がある。
村上春樹は、書き下ろし作品を同時代に手にするという喜びを読者に与えることのできる、数少ない現代作家ではないだろうか。
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