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  3. 青木みやさんのレビュー一覧

青木みやさんのレビュー一覧

投稿者:青木みや

38 件中 16 件~ 30 件を表示

紙の本妖桜忌

2003/01/05 11:40

人の業を書ききる篠田節子

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 還暦に近い著名な女流作家・大原鳳月が死んだ。
 葬儀後、鳳月の担当編集者だった堀口のところに鳳月の秘書、若桑律子が原稿を持ってきた。鳳月の未発表原稿かとざわめきたつ堀口に律子は自分の作品だと告げる。鳳月のもとでの律子は教養のある有能な事務方だったが、文学的センスはない。だが、律子の原稿は、私小説を書かないと言われていた鳳月の一代記となっており、独占手記として発表され評判をとる。

 2回目の原稿を受け取った堀口はおかしな事に気づく。律子の堅い文体がだんだんと、鳳月の流麗で特徴的な文体に変わっているのである。ただ似ているのではない。鳳月そのものなのである。堀口は鳳月の遺作を律子が盗作したのではないかと疑い始める。

──

人間の本当の怖さをご存じないようですね。20代じゃ無理もないでしょうが
『妖櫻忌』74p 律子

 この台詞は、40歳間近い律子が若い編集者堀口に向けたものである。その通り「大人のホラー」に仕上がっている。人が誰しも多かれ少なかれ、利己的で自意識過剰で薄っぺらで情念に満ちた部分を持っている。子供のうちはそれを隠さない。しかし大人になれば、言葉で飾り態度ですり替えることを覚える。私がこの作品でぞくりとしたのは、そういう人の業ともいえる部分を篠田節子が書ききっているところだ。

 鳳月は書くこと・表現することに並はずれた野心を持ち、律子から知識や情緒、精気を吸い取り作家として大成してきた、とされている。その鳳月に若い頃から弟子として使えてきた律子は文学的才能がないばかりに、卓越した知識や記憶力、手堅い手腕を誰からも評価されず、被害者意識を持ちながら朽ち果てようとしている。

 律子は死後も絡みついてくる鳳月の影から必死で逃げようとするが、どちらが欠けても「物語」が成り立たないゆえに(世間は)それを許さない。通俗的な堀口は、名誉と金が得られるのなら、自尊心などなんぼのものかと思う。

 誰しもが自我や自尊心や矮小で卑近な己という、いろいろなものに捕らわれている。それを大事に思うのは、その人自身しかいない。だが、多くの読者や広く流布された「物語」に捕らわれた人々は……。

──

どこまでいっても、作者は作品に付随する影法師にすぎない。だれによって書かれようとだれが作品のどの部分を請け負っていようと、そんなことは物語にとってはどうでもいい。
『妖櫻忌』236p 堀口

 他人からしか語られなかった鳳月の真意は那辺にあったのか、整合性のとれないままに迎えたラストは業と哀れみをたたえている。

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紙の本保存食品開発物語

2002/03/23 22:00

保存食は知恵と工夫と科学の産物だ、と感心することしきり

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 イギリスのノンフィクション作家が保存食品が生み出された歴史や生活への影響を描いている。記述は詳細で、訳も読みやすく、食文化の違いなども面白かった。

 保存食の発達の歴史は、偶然から試行錯誤を繰り返し、そして大航海時代や戦争用糧食の確保の必要性から高度な技術を使うものに発展していった。

 最初は偶然から生まれたものが多かったのだろう。シンプルな保存法は乾燥だが、堅い干し肉から塩水漬け肉が好まれるようになり、さらに風味の良い燻製という方法が発達する。ついでに防腐剤も使う。加工肉に今でも使われている硝酸塩は、17世紀に狩りの獲物に火薬をすり込むと持ちがよくなったところから始まるそうだ。意外な発想にびっくりする。

 保存食は知恵と工夫と科学の産物だ、と感心することしきりである。
 
 ところで「保存食」というと、普通の人は、ある程度の期間保存できる料理ーたとえば漬け物やジャム類を思い浮かべると思う。保存食で重要なのは、腐敗や食中毒を起こさないようにすること。つまり細菌などの微生物の増殖を抑えることであり、そのためには温度・水分・酸素・栄養素のコントロールが必要になる。保存食と衛生管理は表裏一体なのだ。

 もちろん昔はそんな考えは露ほどもなく、本書でも19世紀に缶詰を発明したニコラ・アペールについて、清潔と衛生に細心の注意を払った(当時としては)珍しい人と記されている(p.327)。

 で、現代の究極(?)の保存食は宇宙食なのだ。初期はチューブに入った流動食とフリーズドライの無味乾燥な食事だったが、現在はレトルトパウチや冷凍食品が導入され、自己冷却缶などの新技術もある。また病原性菌を宇宙に持ち込むわけにはいかない、というわけで、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Points:危害分析重要管理点)と呼ばれる衛生管理の手法が開発され、安全性も高まっている。

 こういった宇宙食開発から始まった保存加工法は一般にも普及し始めているし、HACCPは、多くの食品関連企業で採用されている。

 現代の保存食はそういった食の多様性を支えているが、世界的に見ると食料のアンバランスを拡大させる要因ともなっている。本書では締めくくりで飽食の国と飢餓の国の格差が広がっていることを指摘している。日本人は食糧自給率が先進国の中でも低いことをもっと認識するべきだろう。

 著者はかなり広範囲に資料を集めているようだが、記述がヨーロッパ中心になっている点と科学的な説明が少ない点が弱いかな。でも欠点と言うほどではない。あと日本の保存食については間違いが。まぁ梅干しの醍醐味なんか理解するのは難しいだろうと思うけど。

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紙の本狂牛病・正しい知識

2001/12/21 00:25

混乱する情報を見分けるために正しい知識を身につける

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 日本で「狂牛病」が発生して以来、牛肉自粛の動きが続いている。狂牛病(正確には、牛海綿状脳症、BSE)が、牛から人に感染しないか、人から人に感染しないか、という不安が残っているからだ。BSEにかかった牛がよたよたと歩けなくなり、地面にへたり込んでしまう映像を、脳がスカスカになるというショッキングな説明つきで見て、それが我が身に降りかかるかもしれないと思うと、それは心配しない方がおかしい。

 実際問題として、「狂牛病」とはどういう病気なのだろうか。また行政が行っている全頭検査はBSEの牛を選別するのに有効なのか、検査結果を受けて消費者はどう動けば良いのか。『プリオン病 牛海綿状脳症のなぞ』などの著書もある山内一也東大名誉教授が、現状を分析し、判りやすい言葉で疑問に答えてくれるQ&A方式の一般向き実用書。

 人へのBSE感染防止には、BSE感染牛の「脳、脊髄、眼、回腸遠位部」を、食用、医薬品、化粧品に使用しないこと。これらには感染性があるからだ。とてもシンプルな結論なのだが、パニックが広がったのは、行政の不手際や病気の正体が謎に包まれているからだ。ただし日本では現在、世界でもっとも厳しい安全対策がとられている、という。

 どうもこういうまだ解明されてない事態が起こると、煽ったり誇張したり茶々を入れたりと、不安を増大させる言説が多くなる。環境ホルモンなどもそれに近い。そんな中で、今、判っていることと判っていないことを明確に説明し、言葉の意味を正確に伝えるために努力しようとする姿勢が現れている本は貴重。

【目次】
まえがき

第一章 牛海綿状脳症・BSE(狂牛病)を知る
「狂牛病」=牛海綿状脳症・BSEとはどんな病気か
牛はけっして「狂っている」のではない
感染源の肉骨粉とはなにか
BSEを引き起こす病原体は「異常プリオン蛋白」
BSE牛はどうして出現したのか
人のプリオン病(CJD)は接触感染はしない
牛から人への感染でBSEは種の壁を越えた
肉骨粉の全面禁止措置でBSEは消失するか
安全対策と科学的根拠─BSEは生前診断ができない
汚染された肉骨粉が世界に出回る
フランスでのBSE騒動に学ぶべきこと
日本でのBSE第一例─不可解な「疑似」判定

第二章 感染防止と安全対策を知る
正しい知識を身につけることが危機管理の第一歩
国際的な安全基準を確立することが重要
行政側はなぜリスク評価を直視しなかったのか
今後は、BSE牛が見つかってよかったと思うべき
牛原料の加工食品は安全か
牛由来の医薬品、化粧品は安全か
豚、鶏、魚、羊などの安全性は
血液と医療器具─人から人への感染で注意すべきこと
変異型CJD患者の発生状況

第三章 BSEをめぐるサイエンス
「微生物学のなぞの病原体」─プリオン
「伝染性」ではなく「伝達性」の病気
食人の風習から広がったクールーとCJDの関係
スクレイピー、クールー、CJDの病原体はなにか
ウイルスでも細菌でもないまったく新しい病原体
世紀末に牛と人の海綿状脳症が出現した
プリオン説にもなぞがある
生前診断の可能性をさぐる
潜伏期中の異常プリオン蛋白は検出できるか
日本のプリオン病研究は世界のトップクラス
感染・発病のメカニズムと治療法の未来
BSEがわれわれに投げかける大きな問題

あとがき

【関連特集】狂牛病&プリオン

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紙の本虹の天象儀

2001/11/11 14:12

ノスタルジアを感じさせるプラネタリウム小説

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 ツァイス型投影機が映し出す星空の美しさ、不思議さで多くの人々を魅了した渋谷の五島プラネタリウムは、2001年3月12日、惜しまれながら閉館した。投影機の技術者から解説者への道を歩んだ「私」はツァイス型の機能と星空に誇りを持っていたが、もはや解体に出すしかない。片づけようとしていた「私」のところに、プラネタリウムを見たいという少年が訪れる。
 解説をする「私」に、少年は言った。
 「古い機械を動かすと、昔にタイムトラベルするような気がしない?」
 奇妙な感覚が「私」を包み、身体が大きく揺れた。

 瀬名秀明の小説はこういう思い入れの強いものが似合うような気がする。プラネタリウムで映し出される幾通りもの星空はたった一台の投影機が担っている。今更ながらその性能はすごいことなんだなと知った。プラネタリウムの裏方である人々の夢や憧れがすごく伝わってくる。本書によって、星空が好きでプラネタリウムを愛し、カール・ツァイス投影機へを誇りにした人々の思いは残る。プラネタリウムとタイムスリップというネタはなにかノスタルジアを起こさせる。

 ただ、動機付けの書き込みが弱いところがあり、織田作之助への拘りなど、ところどころ展開が唐突に感じられるのが惜しい。でも、この一途でひたむきなアンバランスさ(という言い方はおかしいけど)、が瀬名作品の魅力でもあるのかなぁと思う。もどかしさを伴うさわやかさ、かな。

【青木みや】

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紙の本めろめろ

2001/03/04 09:49

好きになれて嬉しい

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 おじゃる丸の犬丸りんが贈る恋愛をテーマにした短編集。『偏愛』(読売新聞社)として
出されたものを改題したそうだが、『変愛』でも良かったんでは(笑)。

 ロックバンドを率いるダイナマイト姉ちゃんに惚れちゃうサトシくん、山奥のお寺修行
に来たカオルちゃんとの和尚様。ネットで恋愛に挑む正平くん、何でも取っておく勿体な
いババァのトメちゃん、イメクラで天国にいかせる里子さん、趣味は男の桃ちゃん。

 みんなのほのほと何かが好きです。好きってことは、たいへんなことだ。でも、なんと
かなっちゃうものなの。好きになれて嬉しいね。肩の力を抜いて、気持ちよくなれるよ。

【初出】

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紙の本かんたんに幸せになりたい

2001/03/04 09:47

その一瞬はしあわせ

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 絵本だ。『おじゃる丸』の犬丸りんなので、絵があるのは当然ともいえようが、実質は格言&問答集なのであった。ちょっと物事の考え方・見方を変えるだけで、幸せになれるというFAQは目から鱗のようでいて、そ、そんなこと言われたってという、へりつくこりくつ。
       Q:わけもなく落ち込んでしまいます
       A:ナルトを見よ。わけもなく妙に明るい
       (12p)

       Q:幸福とは何か、教えて欲しい
       A:幸せについて分析することから不幸は始まる
       (14p)

 おちょくっている遊んでいる。確かに発想の転換が出来ないから不幸なのだ。恨み言も愚痴も僻みも遊んでしまえば、その時一瞬だけでも幸せになれる。幸せってそんなもんでしょ。

       かんたんに幸せになれる者とは、かんたんに不幸になれる者のことである。(8p)

 遊んで幸せになってしまえー。やられました。

【初出】

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紙の本エゾモモンガ

2001/03/04 09:44

愛らしいエゾモモンガが満載

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 愛らしい容姿が愛されているモモンガ。でも、その生態を知っている人は少ないのでは。本書は豊富な写真でエゾモモンガの生活を紹介している。

 尾やヒゲの手入れしている写真や巣穴から顔を出している時の表情とかテレビでは判らない細かい動きが見れて飽きない。飛び方の解説もあって、飛膜を広げて風に乗りバランスを取る。なぜ空中でUターンまで出来るんだろう。不思議。

 サロベツ原生砂丘林の冬景色の中をエゾモモンガが飛翔する姿がなんとも言えず幻想的で息をのむ。食いだめや冬眠が出来ないエゾモモンガにとっては厳しい冬なんだろう。

 主役は著者が「元気」と名付けた5人兄弟の末っ子モモンガ。「元気」を語り手に、エゾモモンガの生態と四季を紹介している。写真を中心にしてあるため、文章量やや物足りない反面、絵本の延長線みたいで楽しめた。

【初出】

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紙の本「長寿食」世界探検記

2001/01/24 18:08

世界各地の「長寿食」研究の成果を一般向けに公表

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 WHOの健診で世界各国(25カ国60地域)の栄養調査を行い、「長寿のグルメ」推進のために奔走する家森教授が「長寿食」の研究成果を一般向けに公表したのが本書。家森教授が勧める「長寿食」とは、低塩低脂肪で大豆・豆類(大豆イソフラボン)や魚類、野菜(不飽和脂肪酸、食物繊維、抗酸化物質)が豊富な食生活。この理想的な食事を摂っているのが沖縄だ。だがその長命も食環境によって変化する。沖縄からハワイに移住した人とブラジルに移住した人を比べると、ブラジル移住の人はハワイに移住した人より短命になっているという。ブラジル移住の場合、脂肪分の多い牛肉の摂取量や岩塩の使用量が増えているのだ。

 各地を見てきた家森教授は、長寿食は一形態ではないし、「遺伝よりも環境」が寿命を決めるという。

 シルクロードのホタンではコレラが猛威を振るい、タンザニアのマサイ族には魂の血を持ち出されたと激怒された、スイスのチューリッヒでは検体のサンプルをなくすなどのフィールドワークの苦労話や各国の食文化もあわせて興味深い読み物になっている。

 ちょっと気になるのは、ネパールのナムチェバザールやハワイにタウリンの粉末や大豆たんぱくや大豆イソフラボンを持ち込み、食べて貰っていることだ。そういうものを食べる習慣のないところにそういうものを持ち込み栄養改善しようという意図は分かるのだけど、調査隊が去った後はどうやって供給され、その代金はどうなるのだ?その辺りのことも書いて欲しかった。「健康」や「長寿」のために食文化を無理に変えさせる必要性がどこまであるのか、という疑問も少し。
【初出】

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役に立つ食物栄養学講義全68話

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 食事は生き生きした生活を送るためのものであるが、現代に適応する「食物の食べ方」すなわち「食の文法」とはどのようなものだろう。本書は、日本経済新聞に連載された「働き盛りの栄養学」をベースにしたもの。見開き2p分の食物栄養学講義全68話を読むと、現代の食物を巡る動きが見え、「食の文法」も判ってくる。手軽で読みやすいコラムが詰まっている。

 食品学の新知識は面白い。牛乳に含まれる機能性たんぱく質ラクトフェリンは、鉄の吸収を調節し、貧血の予防・改善に役立つという働きが認められているという。他にも次々と新しい生理機能成分が見つかっている。私たちはまだまだ食品について無知なのだ。限られた栄養素の含まれたサプリメントを飲んで安心せず、多種類の食べ物を取るように心がけたい。

 食糧経済への言及もなされている。私たちはタンパク質や食物繊維に富む栄養豊富な「おから」を「産業廃棄物」としてしまっている。おからの生産量は年間75万トン。身近な食べ物を見直すことが必要だ。カロリーベースで約60%を輸入作物に依存する日本では、遺伝子組み換え作物以外にほとんど選択肢はなくなるという言葉はずっしり重い。

【初出】

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紙の本岡山女

2001/01/18 15:08

ジメジメと怖い

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 宮一の囲われもののタミエは、評判の「こしらえ映えのする女」だった。だが、それも商売に失敗した宮一が、タミエを連れて心中を図るまでのことだ。宮一はのどを突いて死に、タミエは顔面を日本刀で斬り付けられ、左目を失った。
 顔の左半分に傷を負い腐臭を放つ女を囲ってくれるものなどおらず、ますます傷は痛む。そのうちにタミエは幻を視るようになった。失われた左目に死者や未来が写るのだった。そうして評判がたった。「岡山市内に霊媒女性が現る」と。

 土着ホラーってどうしてこうジメジメと怖いんだろう。どこだかわからない真っ暗な闇の中で、冷や汗をかきながら、一歩踏み出さなきゃいけない気分。先へ進むと必ず、いつか深い穴底へ落ちていくと判っていても、踏み出さずにはいられない。特に「岡山バチルス」が独特の語りとおぞましさがあった。ただ岡山弁は『ぼっけえ、きょうてえ』より使用頻度が落ちたので、「岡山」色は薄い。

収録作
 「岡山バチルス」
 「岡山清涼珈琲液」
 「岡山美人絵端書」
 「岡山ステン所」
 「岡山ハイカラ勧商場」
 「岡山ハレー彗星奇譚」

作品とは全然違う岩井志麻子の素顔を知って驚け(笑)→岩井志麻子インタビュー
しかし岩井志麻子はいつ岡山から離れられるのでしょうか。

【初出】

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紙の本百年の恋

2000/11/19 09:45

鈍感で視野の狭い真一が、「パパ」になり、価値観の多様性に気づき始める

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 東大出信託銀行女性管理職パワーエリートの大林梨香子と食い詰めフリーライターの岸田真一。環境は正反対の2人が電撃結婚。あまーい新婚生活が待っているはずだった。ところが真面目で地味な生活派の真一は、結婚後も自分の生活ペースを変えない梨香子に振り回される羽目になる。
 大学SF研出身でSF評論や海外SF翻訳をこなすサイエンスライター。周りからは「タクシン=オタクな真一」と呼ばれている真一が、ジェンダーショックに見舞われ右往左往する話。鈍感で視野の狭い真一が、「パパ」になり、周りに教育されながら、価値観の多様性に気づき始める様子はたどたどしいが自然だ。それが本書の醍醐味だと思う。
 篠田節子は、社会性を帯びたテーマをエンターテイメントで表すのが上手くなった。肩の力が抜けてきたみたな感じがする。青山智樹の育児日記も、初々しくドタバタした状況が目に浮かぶようで、好い。
 あと梨香子側に視点をずらすと彼女もそうとう鈍感で視野が狭いが、傍若無人さで乗り切っている。彼女の変化も見てみたい。男女の分業とは向き不向きでやった方が良いと思う。経済力とかで決められるものじゃないはずだ。
 本書の感想を読むとジェンダーへの考え方が出ていそうで興味深い。

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紙の本0番目の男

2000/11/03 22:58

中編だが深い意図のこもった作品で、SFとしては良い感じ

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 2010年、環境工学者のマカロフは、自然環境の悪化、経済格差など人類の危機を打開す
るために優秀な専門家を対象にしたΣ計画に協力し、70年の眠りについた。彼の目的は、
自分のクローン達ー増殖個体群(マルチプリカンド)の《マカロフ》たちに会うことだっ
た。
 クローンなどの生殖技術の発達した未来を描く。この未来予想図はよく言われているの
で、あまりカタルシスは無かった。本書に描かれているクローニングによる増殖個体群と
いう姿に不気味さが感じられなかったのもある。
 なぜ不気味ではないのか、主役のマカロフ0(ノーリ)が、「人生の一回性ー《個》を越
える方法」とクローンに夢を託し、好意的な感情を持って語り手となっているからだ。そ
の「クローン=自分がなり得たかも知れない姿」という憧憬とも言える感情は最後に裏切
られ、マカロフ0は正しく自分という存在の意義を悟ることになるのだが。

 中編だが深い意図のこもった作品で、SFとしては良い感じに仕上がっている。しかし最
後はロマンチックすぎたかも。

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紙の本アトピービジネス

2000/07/22 00:34

アトピービジネスの繁栄ぶりは正しい情報を伝えていくことの難しさを感じさせる。

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 著者は「アトピー性皮膚炎患者を対象とし、医療保険外診療の行為によって
アトピー性皮膚炎の治療に関与し、営利を追求する経済活動」をアトピービジ
ネスと呼び、その隆盛の原因や経過を分析し批判を加える。
 劇的で意外性に富んではいるが全く科学的根拠のない民間療法ほど受けるの
はなぜだろう。一部マスコミの扇情的な報道が患者と医師の信頼関係を分断す
る要因となり、医療側も患者の戸惑いや不安を受けきれなかったことはあるだ
ろう。しかしアトピービジネスの繁栄ぶりは正しい情報を伝えていくこと、氾
濫する情報を取捨選択することの難しさを感じさせる。いろいろなことを考え
させられた力作。

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紙の本狂牛病 人類への警鐘

2001/11/20 22:45

目新しい視点ではないが、手堅いまとめ方

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 イギリスで、ウシの奇病である狂牛病(牛海綿状脳症、または「BSE」)がヒトに感染する可能性が認められたのが、1996年3月。EU諸国はイギリス産牛肉の輸出禁止措置をとり(1998年11月23日解除決定)、イギリス畜産業は大打撃を受けた。ところが、2000年秋になりドイツやフランスで狂牛病が発生。再びヨーロッパをパニックが襲った。そして2001年9月、日本でも狂牛病の牛が見つかり、東アジアで最初の発生となった。
 本書では、プリオンと狂牛病の関係や感染・発症のメカニズム、狂牛病に対するイギリスやヨーロッパの状況、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病で家族を亡くした当事者の談話、そして現代の食や農業事情などをまとめたものである。1996年から以降、ヨーロッパ諸国が混乱し神経質な雰囲気のまま過ごしていることがよく判る。
 狂牛病や羊のスクレイピー、そして人の病気であるクロイツフェルト・ヤコブ病の病原体はプリオンという蛋白質である。狂牛病は、スクレイピーで死んだ羊を動物性飼料つまり肉骨粉として牛に与えたところから広まったようだ。その狂牛病が人に感染すると、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(または「v-CJD」)と呼ばれる。
 プリオンは加熱や消毒に強く潜伏期間が長い病原体で、まだまだ解明されていないことが多い。プリオンについては『死の病原体 プリオン』に詳しいが、どの本を読んでも狂牛病の不安が解消されるわけではない。日本人に変異型クロイツフェルト・ヤコブ病が発生する可能性は低いと本書ではされているが、100%安全なわけでない。
 しかし、私たちはこれまでの経験を元に食べ物を選んでいかなければならず、単純に牛肉を食べないという方法は、場当たり的な解決策でしかない。根本的に食の安全性を確保するにはどうすればいいのか。本書は目新しい視点や解決方法が書かれているわけでないし、主張にやや偏りもあるが、手堅くはまとまっている。
 ちなみに著者が主張している牛の素性が判るような牛のパスポート作りについては、先日テレビで「牛の総背番号制」として取り組んでいる牧場を紹介していた。食肉となる牛を、餌まで完全に一頭一頭管理するシステムというのを有機農法の農家が率先するというのがとても皮肉に感じられる。
<目次>
第1章 恐怖の始まり
第2章 狂牛病とは?
第3章 大混乱のイギリス
第4章 不安はヨーロッパ大陸へ
第5章 クレアさんの死
第6章 クウエニブル村の悲劇
第7章 大丈夫か?現代の食
第8章 揺れるヨーロッパ農業
第9章 狂牛病・日本上陸の衝撃
第10章 人類への警鐘

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紙の本オルガスマシン

2001/07/05 15:32

珍しいSF

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 解説(大森望)によると、世界ではフランス語版してか出てない「イアン・ワトスン幻の処女長編」。「ワトスンが日本滞在中の60年代に構想し」、1970年に初稿、1982年に全面改稿された。

 舞台は、〈暗示感応性ウィザード&共感マシン(SWARM)〉と〈確定法運用モジュール(MALE)〉と(日常生活機械人間(DETA)〉によって管理された秩序の整った近未来世界。

 そこでは女は快楽と奉仕を男性に提供するために存在する。羊水タンクで育ち、注文通りに人体を改造されたカスタムメイド・ガール、10ドルでオルガスムをさせる自動販売機にさせられた女達やファックイージィ・ガールと、女はみんな脳ネットを埋め込まれたオルガスムマシン。彼女たちの「自意識」が目覚め、奴隷から解放されるのはいつの日か。

 小説としてはカリカチュアライズされた世界がどうもリアリティに乏しい。特に女性達の感情の起伏が突拍子もなく、革命に向かう思考の経緯も不鮮明なので、不自然さがぬぐえない。だが人間の隠された欲望を赤裸々に描くことに挑戦し、男女平等という建前の現代社会を強烈に風刺している辺りが珍しい。しかも初稿の年代を考えるとワトソンのフェミニズムに対する考え方を知りたくなる。

 あと表紙とカラー口絵のフィギュア(荒木 元太郎)が素晴らしく緻密な出来。なんというか小説本文よりこちらの方にリアリズムを感じて興味深かったです。

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