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上野昂志さんのレビュー一覧

投稿者:上野昂志

3 件中 1 件~ 3 件を表示

紙の本ユーロ贋札に隠された陰謀

2003/02/21 18:33

ヨーロッパ各国の通貨が統一通貨に切り替わった瞬間に贋札が出現。揺れるユーロ金融界!

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 あとわずかで新年を迎えようとしている二〇〇一年の大晦日の深夜、オランダはアムステルダムの王宮前の広場から、この物語は始まる。その広場にしつらえられたパビリオンで、メルカトル銀行の頭取が、オランダ紙幣を、二〇〇二年の元旦から流通し始めるユーロと交換するイベントをやろうというのだ。その瞬間の映像を全世界に流そうと待ちかまえるテレビクルー。それを取り囲む群衆。
 ところが、パビリオンの窓口で交換のためのユーロ紙幣を数えていた女性が、五〇〇ユーロ札の異常に気づく。彼女は、あわてて、この企画の立案者である広報担当のオスカーに連絡する。結局、オスカーの機転で、その場は五〇〇ユーロ札を使わない少額の交換に切り替えることで無事にすむが、中央銀行から送られてきたユーロ紙幣のなかに大量の贋札が混じっていたという事実は残る。いったい、それは何者によって作られ、どのような経路でメルカトル銀行の地下金庫室に運び込まれたのか。そして、その目的は何か?
 というのが、この物語のテーマである。主人公のオスカーは、ニューヨークで一人息子を残して離婚するという辛い経験をしたあと、別な場所で人生をやり直そうとアムステルダムの銀行に来た男である。二〇〇一年の大晦日のイベントも、彼が企画した。そんな経緯から、彼は贋札の出所を探ることになる。彼に協力するのは、一人娘を連れてロンドンからこの銀行のトレーディングルームに職場替えをしたシュテファニーという女性。そこから読者は、贋ユーロ紙幣の謎を追うという本筋に、彼ら二人のロマンスが絡むことを予測するであろう。
 実際、物語はそのように進むのだが、読みどころはやはりユーロ紙幣をめぐるさまざまな情報と、ヨーロッパの銀行事情といったもの、とりわけ租税を回避する処置を公然とやっているリヒテンシュタインの金融システムなどであろう。あるいは、この物語の最初から、贋札作りの背後にはロシア・マフィアが絡んでいると噂される、ソ連崩壊以後のロシアという存在に対するヨーロッパの見方など。つまり、これは贋札を切り口に、ヨーロッパの金融システムやユーロ紙幣という統一通貨に対するヨーロッパの人々の感情や心の揺れを描いた情報小説なのである。
 作者はオランダの新聞社に勤める経済ジャーナリストで、確かに、それにふさわしい取材力を駆使して書かれた作品であるが、純然たる推理小説としては、いささか物足りない。 (bk1ブックナビゲーター:上野昂志/評論家)

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まだ山田風太郎を読んでいないという不幸者、あるいは幸せ者のための道しるべ

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 あなたが小説などに興味も関心もないという人なら、敢えて何もいいますまい。だが、いっぱしの小説好きを自認するぐらいだったら、伺いたい。あなたは山田風太郎を読んだことがありますか? と。もし、ノーならば、おお、ミゼラブル! なんて可哀想な人でしょう。と思うが、だが、同時に、なんと幸せな人だ! と溜息の一つもつきたくなるかもしれない。そのココロは、要するに、小説好きを自認しながら、山田風太郎を読んでいないようじゃ、まだまだ小説というものの本当の愉しさを知らないね、可哀想に! と思うと一方で、これから山田風太郎のすべてを新しく知ることが出来るなんて、羨ましいな、という気持もあるからだ。

 では、その山田風太郎のどこから手をつけるか。
 歴史に興味がある人なら、『警視庁草紙』に始まる“明治もの”から読むのがいいだろう。ここで敢えて世の大勢に逆らっていえば、司馬遼太郎あたりで面白がっていては、まだまだ初歩、ということだ。いっぱしの小説読みなら即わかるように、司馬さんの文章は、説明文だからである。それに対して風太郎さんは、語るのである。そしてその語りは、名人の域に達している。だが、たんにそのような文章上の優位において、遼太郎より風太郎といっているのではない。本書で、野口武彦が書いているように、風太郎は、「めちゃくちゃ」にして「迷宮」の明治という時代の「原質」を掘り起こしているからである(「文明開化という乱世」)。しかも、その暗部を。司馬遼太郎は、あくまでも開明な近代主義者だから、その暗部を嫌って避けている節がある。

 また、とにかく奇想天外な物語の醍醐味を味わいたいという人は、忍法帖のシリーズから読むのがいいだろう。それがどんなに面白いかという点については、本書の細谷正充「風太郎忍法帖」が格好のガイド役を果たしている。そのうえで、風太郎忍法帖は政治小説であるという平岡正明の「風太郎左派」を読めば、その思想的な意義がわかるという段取りだが、その間に肝腎の小説を少なくとも十冊ぐらいは読んでいないとダメですね。

 さらに、メタ小説なんて代物を読みたいという人がいれば、『八犬伝』をお勧めする。これは、滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』の物語を語りなおすと同時に、これを書きつつある馬琴をも描いた傑作で、とにかく面白い。おまけに、あの長大な『南総里見八犬伝』を読む手間も省いてくれるのだから、二倍お得である。

 その他、室町ものもいいし、日記やエッセイの類も面白いし、いろいろな人の臨終の様子を並べた『人間臨終図巻』などという奇書もある。室町ものを集大成する前に亡くなってしまったのが残念だが、とにかく、山田風太郎は掛け値なしの天才なのだ。 (bk1ブックナビゲーター:上野昂志/評論家)

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紙の本サルタヒコの旅

2003/01/30 18:57

読めば読むほど、その存在の不思議さが増すサルタヒコって誰?

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 サルタヒコというのは、日本の神様のなかでも格別の人気者らしい。なにしろ手塚治虫の『火の鳥』などでも、姿を変えながら、ほぼ全編にわたって繰り返し登場してくるくらいで、他のキャラクターとは別扱いだからだ。では、そのサルタヒコの魅力というのは、どこにあるのだろう。
 まず、その姿は、「鼻の長さ七咫(あた)、背(そびら)の長さ七尺余り」というから、天狗のような長い鼻が垂れ下がった巨人で、眼は鏡のようにピカピカし、顔とお尻が赤く輝いているという。まあ、妖怪じみた姿をしていたわけだ。それが「天の八衢(やちまた)」にいて、上は「高天原(たかまがはら)」を照らし、下は「葦原中国(あしはらなかつくに)」を照らしていた。「天の八衢」というのは、国境のようなところだが、サルタヒコはそこで天孫ニニギノミコトを迎えて道案内をする。それによって天孫降臨が果たされたというのが、『古事記』や『日本書紀』に描かれたサルタヒコ神話というわけである。
 サルタヒコの魅力とは、その妖怪じみた姿や名前、また彼が国境にいて道案内をしたというその役割り、さらにはそれが国譲りという政治的な意味をも担っているという、その存在の多義的なありかたからきているといえよう。そこから神話学、民俗学、歴史学といったさまざまな角度からの研究や考察を促し、物語やマンガに転生させられていくことになるのだ。
 たとえばサルタヒコの「サル」を、そのまま漢字の「猿」に当てるのは鎌田東二がいうように問題だとしても、赤い顔と尻ということや、シャーマニズム的な思考を重ね合わせてみれば、サルタヒコに猿神のような性格があったと見ることはできる。すると、連想はごく自然に、サルタヒコと孫悟空の関係はどうかというところに導かれるであろう。その点を、中国文学者で『西遊記』の研究家でもある入谷仙介は子細に検討しながら、両者が太陽神であったという可能性を示し、そこからさらに孫悟空とギリシア神のディオニュソスとの関連に言及する。一方、比較神話学の篠田知和基は、サルタヒコとディオニュソスとの関係を考察するという具合に、世界はどんどん拡がっていくのである。
 もっとも、こういう点だけを強調すると、本書がなにかお固い学術書のように受け取られかもしれないが、決してそんなものではない。吉本ばなな、細野晴臣、美内すずえ、田口ランディ、岡野玲子といったさまざまなジャンルの人たちを交えた対談や座談会が、ごく身近なところから、この神話的な存在に対する興味をかき立ててくれるし、なによりもサルタヒコという存在そのものが、こちらを時空を超えた多様な世界へと導いてくれるのである。 (bk1ブックナビゲーター:上野昂志/評論家)

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