中山康樹さんのレビュー一覧
投稿者:中山康樹
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ティ・フォー・トゥー物語
2003/01/30 19:17
今年度マイ・ベスト本、はやくも登場か。名曲をテーマにアメリカ音楽史を鋭くえぐる渾身の力作
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これも「出版不況」ということなのだろうか、かつては翻訳されるべき音楽書はそれなりに翻訳・紹介されていたが、すくなくともここ10数年、海外では注目すべき書籍が刊行されているにもかかわらず、それらの大半、まったくといっていいほど翻訳されずに終っている。
その昔、優秀な音楽翻訳本を「顔」としていた晶文社よ、JICC出版(現宝島社)よどうしたといってもはじまらないが、最大の問題は、こうした状況におちいったことによって、本来リアルタイムで日本の音楽ファンに紹介、伝達されるべき情報が入ってこなくなり、日本におけるその種の情報が、10数年前の状態で停止したまま今日に至っていることである。
たとえば「ジャズの歴史」にしても、日本においてはいまだニューオリンズ誕生説が定説となっているが、海外では、どうやらサンフランシスコで誕生したようだとの新説がもたらされたりもしている。
そんなトホホな鎖国状況に風穴をあけるかのごとく、すばらしい音楽書が登場した。この表紙、タイトル文字から、いかにも軽い、よくある「名曲入門書」かと思わせるが、これがどっこい、これぞ「研究」の名に値する労作であり、それこそかつて翻訳本を通じてしか知りようのなかったことが満載、ついに日本でもこういう「立派な」本が書かれ、出版される時代がきたのかと感動を覚える。しかも文章は平易で、読みやすい。
基本的には『ティ・フォー・トゥー』(邦題は『二人でお茶を』)という有名なスタンダード・ナンバーにまつわる物語だが、この本ならびに著者の視点がすぐれてユニークな点は、同曲以前のアメリカ・ポピュラー音楽史から説き起こし、さらには同曲がいかに演奏されたか、さらには作者がどのような生涯を送ったか、あくまでも「ノンフィクション」としての姿勢から検証されていること。
しかしぼくがもっとも感銘を受けたのは、そうして検証した結果や過去の文献に流されることなく著者の見方がしっかりと述べられている点で、とくに「ジャズ」という音楽がもって生まれたある種の宿命についての言及は、わずか数ページにして、これまであまた出ていたジャズ本を軽く凌駕するものがある。
また、後半、この曲を演奏するバド・パウエルという天才的なピアニストに対する分析においても、過去に書かれたいかなるパウエル論とも異なる見解が示され、おおいに刺激を受ける。
はやくも今年度マイ・ベストワンが出たかもしれない。 (bk1ブックナビゲーター:中山康樹/音楽評論家)
Jazz seen カメラが聴いたジャズ The life and times of William Claxton
2003/01/30 19:04
ウエスト・コースト・ジャズのイメージを決定づけた名カメラマンの作品と横顔
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映画『ジャズ・シーン〜カメラが聴いたジャズ』をご覧になったでしょうか。カメラマン、ウィリアム・クラクストンの半生を描いた、じつによくできた映画と評判です。
ウィリアム・クラクストンとはいかなる人物であり、カメラマンなのか。
かつてアメリカのジャズには大別してニューヨークを拠点とする東海岸ジャズ、サンフランシスコやロサンゼルスを拠点とする西海岸ジャズと呼ばれるスタイルがありました(アメリカのみならず世界が狭くなった今日、このような呼称はすたれました)。
クラクストンは主に1950年代を中心にその“ウエスト・コースト・ジャズ”を撮りつづけたカメラマンですが、クラクストンが一目置かれているのは(いいかえれば前述のように映画にまでなったのは)、“ウエスト・コースト・ジャズ”という名称を生み出し、同時にその写真を通じて西海岸ジャズのイメージを決定づけたことにあります。もちろんジャズを生み出したのはジャズ・ミュージシャンですが、“ウエスト・コースト・ジャズ”なる世界をつくりあげ、それを世に知らしめたのは一人のカメラマン、ウィリアム・クラクストンだったのです。
本書は映画の公開に合わせてつくられた、いわばクラクストンと西海岸ジャズの入門書。ノンブル(ページ数)すらふられていないほど小ぶりでかわいい本です。表紙を飾るのはクラクストンの写真のなかでもっとも有名な一枚、チェット・ベイカーと恋人ハリマの2ショット。じつに雰囲気のある一枚です。
巻末にはクラクストンと伝説的なモデル、ペギー・モフィットへのインタヴューも収録されています。一見、安直な便乗本にみえますが、これだけ洒落た造本で1000円とは、これはもう買うしかないと思います。 (bk1ブックナビゲーター:中山康樹/音楽評論家)
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