宮島理さんのレビュー一覧
投稿者:宮島理
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病むアメリカ、滅びゆく西洋
2002/12/18 11:28
アメリカ保守派の大論客、パトリック・J・ブキャナンの初めての邦訳書
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日本でも「極右」として知られている、アメリカ保守派の大論客、パトリック・J・ブキャナンの初めての邦訳書である。
「今世紀中、イスラム国アルバニアを除き、ヨーロッパで現在の人口を維持できる国はゼロ。2050年にはヨーロッパ人は世界人口のわずか10分の1──しかも中位年齢50歳の最年長層」「すでに終末的人口危機のロシアは2050年にはイスラム勢力によって中央アジアから駆逐され、広大なシベリア地方は人口15倍の中国に奪われる」
異民族、異人種に対する脅威論というのは、常に「生殖」をベースに語られる。いや、ここは「繁殖」と表現すべきだろう。19世紀末、欧米諸国で広まった「黄禍論」は、黄色人種が白人を駆逐するというものだった(ハインツ・ゴルヴィツァー『黄禍論とは何か』)。中国人や日本人がゴキブリのように「繁殖」し、世界を席巻するという脅威論だ。20世紀末になると、今度は「文明の衝突」論が出てくる(サミュエル・ハンチントン『文明の衝突』)。欧米VSイスラムという世界観である。
ブキャナンが本書で唱える西洋の危機は、「黄禍論」と「文明の衝突」をミックスし、伝統的なアメリカの価値観を復活させよと主張する内容だ。文化的多元主義がより過激になった「分離主義」がアメリカを覆っているとブキャナンは嘆く。家族の崩壊、中絶の容認、ローマ・クラブによる「成長の限界」説、植民地支配など欧米諸国にかけられる「人道に対する罪」の数々……これらの要因が欧米を弱体化させているという。
少子化先進国の日本も一応「欧米」のなかに入れられているが、ブキャナンの本音は違うところにある。「アメリカもまた、いかなる『文明の衝突』が起ころうと西洋の東部戦線に就くのはロシア人だと、しっかり認識しておかねばならない」。第二次世界大戦で共産国ソ連とアメリカが手を組んだ時と同じように、白人優位主義が根底にあるのだ。(宮島理/フリーライター 2002.12.13)
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