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  3. APRICOTさんのレビュー一覧

APRICOTさんのレビュー一覧

投稿者:APRICOT

363 件中 16 件~ 30 件を表示

紙の本匿名口座 上

2006/07/27 09:46

スイス銀行界の暗部にようこそ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

スイス、チューリッヒの大手個人向け銀行USB(ユナイテッド・スイス・バンク)。ニック・ノイマンの父親はUSBに勤めていたが、17年前ニックがまだ11歳の時、何者かに殺された。父の死にはUSBが何らかの形で関わっている…と直感したニックは、真相を探り出そうとUSBに入行する。だが、匿名口座を利用した大物国際犯罪者のマネー・ローンダリングを皮切りに、スイス銀行界の暗部に足を踏み入れていく。

スイス銀行がマネー・ローンダリングに関与している事そのものは別に意外ではないが、その詳細なメカニズムは実に興味深かった。さすが著者がスイス銀行勤務経験者だけの事はある。そして、情報小説としてだけでなく、物語としても非常におもしろかった。特に、複数のプロットが次第に1つの点に収束され、白熱のクライマックスに突入していくのはお見事。わくわくドキドキ楽しめた。上下各約470ページのかなり長い話だが、長いとは全然感じなかった。

だが著者は、金融はエキスパートかもしれないが、兵器の事は全くご存じないようだ。いくら超小型の核兵器だからって、重さがたった5キロとは笑止千万。500キロのミスプリかな?それでも軽すぎる気が…兵器の知識以外にも、細かい欠点や問題点は多々あるが、それらを補って余りあるおもしろさがある。編集者がもっと注意してあげれば良かったのに。

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氷点下50度、決死の犬橇リレー

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

1925年冬、北極圏に近いアラスカ北西部の港町ノームに、疫病のジフテリアが発生する。住民を救うには血清を届けるしかない。だが、海は氷で閉ざされ、船でのアクセスは不可能。航空機もまだ未発達で信頼性に欠ける。そこで、1000kmを越える陸路を、犬橇のリレーで血清を運搬する事に…というノンフィクション。

まず、航空機VS犬橇の攻防が興味深かった。当時の航空機技術は、とても極地での長距離飛行に耐えられるものではなかった。不凍液や防氷技術は開発されていない、航法装置がなく、目視で変化のない氷原を飛行せねばならない、そのうえパイロットにはその種の経験がない…など問題点の一部を聞いただけで、しろうとの私ですら”こりゃあきまへん”と思った。だが当時、これが問題だとわからない人間が多かった事は、航空機技術がまだまだ周知されてなかった現われだろう。技術の未成熟とはこういう事か、と妙に納得した次第である。

一方、犬橇の方も安全確実にはほど遠かった。氷点下摂氏40度を下回ると、犬橇を走らせるのは非常に危険だという。その時氷点下摂氏約50度。だが犬橇ドライバーたちは、『人が死にかかっているのだから』と、ためらいなく血清運搬リレーに参加した。ひどい凍傷にかかったドライバーも、死傷した犬もかなり出た。だが彼らは、金銭的な報酬もなしに、一部の者を除いては栄誉すらなしに、いつもの仕事の延長線として、淡々とリレーを遂行したのである。まさに究極のボランティア精神だと敬服した。

私は、これまで犬橇にはあまり良いイメージを持っていなかった。強制的に橇を引かされる犬がかわいそう…と何となく感じていたのだ。だが、本書を読んで、犬橇では犬が主導的な役割を果たす事を、初めて知って驚いた。氷の割れ目や氷の薄さを探知して、安全なコースを選んで走るのはリーダー犬であり、人間は犬に従うとは夢にも思わなかった。また、犬が負傷したら橇に乗せるのが通例で、橇犬は決して使い捨てではないと知ったのも、心地よい驚きだった。

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紙の本血の味

2005/07/01 23:41

シェーン、悪徳の町で大活躍

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

マイケル・シェーン・シリーズの1949年の第17作。欲と腐敗と暴力が支配する町で、強大な悪に敢然と立ち向かうシェーンの活躍を描く、最高傑作の1つ。
ケンタッキー州の小さな鉱山町センターヴィル。鉱山主の跡継ぎチャールズ・ローシュは、シェーンに必死の救いを求める手紙を書いていた。この10日間に町では3人の人間が殺され、4人目はおそらく自分だと…果たしてシェーンが到着した時、チャールズはすでに殺されていた。センターヴィルは、鉱山主が意のままに牛耳っている町で、鉱山主の手先となった警察が、ゲシュタポ顔負けのやり方で人々を弾圧していた。若いチャールズは、そうした現状に疑問を抱き、改革を志していたのだ。
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とてもよくできた話である。法も正義も有名無実の悪の町で、改革派の若者が殺される。この種の話は落とし所がむずかしい。殺人犯人が町の支配者、またはその手先では当たり前にすぎて、ドラマとしてはともかく、推理小説としてはいただけない。しかし、「ここはセンターヴィルだ」の決まり文句ですべてが片付けられる町の荒廃ぶりを、これでもかこれでもかと描いておきながら、殺人事件の真相は町の悪徳とは何の関係もなかったというのでは、肩すかしを食らった気になる。その点、この小説はひねりの効いた解答を示していて、こうした問題を見事にクリアしている。しかも、真相を導く過程も精巧で、破綻やご都合主義は特に見られない。
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この小説が書かれたのは1949年、アメリカにまだ労働運動が根付いていなかった時代が舞台で、「労働運動は共産主義的行為だ」と本気で口にする資本家が登場するなど、ところどころに古さを感じさせる。にもかかわらず、この小説は生命を失ってはいない。それは、高度に政治的な背景を扱いながらも、主眼は政治ではないからだろう。シェーンは別に労働運動のシンパではない。彼はただ探偵として、客観的な証拠に基づいて殺人犯人を突き止めようとするだけなのだが、そのためには、労働運動つぶしに殺人事件を利用しようとする町の権力者たちと対決せざるを得なくなる。つまり、テーマは権力に抗しての正義の追求であり、これは現代でも充分通用すると思う。

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紙の本別れのキス

2005/06/12 13:07

オーソドックスにおもしろいハードボイルド探偵物

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

フレッド・カーヴァーはフロリダの私立探偵。警察官だったが、膝を撃たれて片脚が不自由になり、退職を余儀なくされた。友人の警察官から依頼を受ける。老人ホームに入っていた叔父が死に、死因に不審な点は見られないが、あのホームには何か怪しいところがある…と叔父が生前訴えていたのが、どうにも気になるというのだ。友人の気が済むのなら、と軽い気持ちで調査を始めたカーヴァーだが…。

地味でオーソドックスなハードボイルド探偵物だが、とてもおもしろかった。オーソドックスにおもしろい話は、たくさんあるようで、意外とお目にかかれない。作者の腕がもろに出るので、かえって難しいのだろう。その点、この作者は本当に上手だと思う。特に、情景描写と人物描写が秀抜。たとえば、フロリダの酷暑は本当にうだるように感じられるし、いやらしい悪徳警官マグレガーはその悪臭がにおってくるようだ。また、エンディングの”別れのキス”のもの悲しさも、抑制された筆致だが、胸にジーンと来るものがある。
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なお、本書はカーヴァー・シリーズの第3作で、第1作「トロピカル・ヒート」と第2作「焼殺魔」が、同じ二見書房から出ているとの事。機会があれば、他の作品も読んでみたい。

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紙の本白い国籍のスパイ 上

2005/04/15 23:39

ドイツ人にはユーモアがないなんて誰が言ったの?

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作者ヨハネス・マリオ・ジンメルは、ウィーン生まれのドイツ人。他の作品はともかく、本書はユーモアとウィットに富んだとても楽しい話で、「ドイツ人にはユーモアがないなんて誰が言ったの?」と言いたくなる。私にとっては最も気に入っている本の1つで、ずっと前に読んだのを今また読み返した。
舞台は第2次世界大戦前夜から戦後の混乱期。トーマス・リーヴェンは、ドイツ人の若手銀行家だが、その才能をほしがる各国の諜報機関から、寄ってたかって罠にかけられ、スパイになるよう強制されてしまう。だがトーマスは、彼らに従うようで従わず、片っ端から一杯食わせてしまう…という痛快で型破りな小説である。
もっとも痛快一辺倒の話ではない。基本的には、苛酷な運命にもてあそばれ、人生を狂わされる男の物語であり、胸を突くような悲劇的なシーンもある。ユーモアと悲劇の奇妙なブレンドが、本書を一層忘れがたいものにしている。
そして、主人公トーマス・リーヴェンは、ふるいつきたくなるほど魅力的。不屈の意志を持つ平和主義者だが、観念的・狂信的な理想主義者では全くない。敵味方を問わず流血を防ごうと、懸命に知恵を絞り、そのためには自らの命すら賭ける、実際的な姿勢が特にすばらしい。お人好しで、特に女性に弱く、何度も手痛い目に遭わされるが、それもご愛敬だろう。
本書で最も個性的、かつ型破りなのは、トーマスが大の料理好きな事。しょっちゅう料理の腕をふるっては、友達を作ったり、敵を幻惑したり、良いアイディアを思い付いたりする。ご丁寧にも、小説の中に詳細なレシピまで挿入されている! 実におかしい。何と遊び心に富んだ小説だろう。
なお、本書の原題は ”Es muss nicht immer Kaviar sein”、意味は「いつもキャヴィアでなきゃならん事はない」。こなれは悪いが、なかなか含蓄のあるタイトルだと思う。

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紙の本美食ミステリー傑作選

2005/04/14 17:22

ハイセンスのアンソロジー

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルが示す通り、食事にまつわるミステリーのアンソロジー。収録作品は以下の通り。
マージェンダール「とっておきの特別料理」、ダネル「殺人料理」、コリア「完全犯罪」、デュモント「リード氏食卓にのる」、マコナー「すばらしいスフレ」、シスク「卵料理の隠し味」、A・H・Z・カー「お代は舌で」、ブロックマン「ディナーはラム酒で」、スレッサー「コック長に脱帽」、マシスン「一杯の水」、エリン「デザートの報い」、マナーズ「二人はお茶で」、O・ヘンリー「感謝祭の二人の紳士」。
前に読んだ「美酒ミステリー傑作選」もおもしろかったが、本書はもっとおもしろかった。贅沢でおいしそうな料理が次々と登場するのみならず、どの話も気が利いていて、とにかくおもしろい。
同じく食をテーマにしたアシモフ編の「16品の殺人メニュー」が540ページに16編なのに対し、本書はわずか270ページに13編だが、ずっと満足感・充実感がある。前者がボリュームはあるが大味な料理だとしたら、本書は舌の肥えた料理人が腕をふるった、コクとうま味のある料理といったところだろう。
小鷹信光という人、とてもセンスの良いアンソロジストだと思う。彼が編集したアンソロジーなら、何でも読んでみたい気持ちになっているが、ほとんど絶版なのが残念。

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紙の本イタリア遺聞

2003/01/15 20:31

エスプリに富んだ楽しいエッセイ

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ヴェネツィア共和国の一千年の興亡を描いた大作「海の都の物語」に書ききれなかった、いわばこぼれ話を中心にしたエッセイ。塩野さんの本は読んでみたいが、「海の都の物語」や「ローマ人の物語」のような分厚い超大作はちょっと…という方に特にお薦め。

特におもしろかったのは、トルコのハレムの話(トルコはヴェネツィアの宿敵)。“官能的”の一言では片づけられない、ハレムの知られざる実態と、その中でしたたかに生き抜く女たちの姿が興味深い。これをテーマにした歴史小説があれば読んでみたいのだが。
世界最古の叙事詩「オデュッセイア」は、実は朝帰り亭主が女房に言い訳するための壮大なホラ話だった…という説もケッサク。軽い文体の中に、男性心理への深い洞察が潜んでいる。
アガサ・クリスティーが40歳の時の写真しか載せなかった…という話を皮切りに、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスが、長生きしたにもかかわらず、20代の若い時の彫像ばかり作らせ、しかも美化修正してしまった…という、容貌についての話にも大笑い。

などなど、読みやすい文章で気軽に楽しめるが、エスプリと人間洞察に富んだ、とてもおもしろいエッセイである。お試しあれ。

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紙の本ハラスのいた日々 増補版

2002/07/10 23:04

やはり犬を飼っている一読者の感想

3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

子供のいない著者夫婦が、初めて犬を飼い(柴犬で名前はハラス)、ハラスと過ごした日々とハラスへの愛情を、あけっぴろげにつづったエッセイ。私も犬を飼っているので、共感したり、ニヤニヤしたりして、楽しく読んだ。

特に、ハラスが「散歩連れてけ」とすごい目でにらみつけるくだりは、うちの犬そっくり。渋々散歩に出るが、犬が手放しで喜ぶのでやめられない…という著者の記述も、私の気持ちにピッタリだ。

ハラスが死につつあるあたりの描写には泣いてしまった。前に飼っていた犬が老衰で死んだので、犬に死なれた喪失感は痛いほどわかる。だが、著者の嘆きがあまりにすさまじいので、「いいからさっさと新しい犬を飼いなさい」と言いたくなった。冷たい言い方かもしれないが、私の場合、今の犬が家に来て初めて、前の犬を失った悲しみが癒えたのだから。

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マルコ対ラオスCIA、やるせない対決

3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

プリンス・マルコ・シリーズの1972年の第28作。舞台はベトナム戦争時。隣国のラオスで、現地のCIAが麻薬密売組織と手を組んでいるとのスキャンダラスな情報がもたらされ、マルコが真相究明を命じられる。
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本書で特に印象的なのは、ラオスCIA責任者のチ・ヴィラールである。現地CIAの任務は、北ベトナム側を支援するラオスの共産主義勢力、パテト・ラオを抑える事である。パテト・ラオとの戦いには、勇猛な山岳民族のメオ族の協力がなくてはならないが、メオ族は麻薬を生業としている。その麻薬業を手助けするようメオ族から強要されたら、ラオスCIAはイヤとは言えないのだ。
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つまりヴィラールは、祖国に尽くすために手を汚しているのであって、決して悪人ではない(実際彼は、麻薬組織からは一銭も受け取っていない)。ある意味見上げた人物だし、気の毒だとも思う。一方マルコはマルコで、ラオスCIAの”悪行”をやめさせるよう、米大統領直々の特命を受けている。任務をまっとうしようとするプロ同士が、同じアメリカ政府の矛盾した命令に引き裂かれて対決せねばならないのは、実にやるせないと思う。

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紙の本スターリン暗殺への七日間

2009/01/12 23:32

肩の凝らないスターリン物

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「チャイルド44」に「脱出記」と、スターリン時代のソ連の残酷さを背景にした本を続けて読んだため、ついでとばかりに長年積ん読にしていた本書を引っ張り出して読んだ。
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1953年、年老いて病に冒され、ますます狂気の色を濃くしたスターリンは、ついに第3次世界大戦につながる軍事作戦を発動させてしまう。作戦を中止させるため、ソ連内外の関係者がスターリン暗殺に立ち上がる。数奇な生い立ちを持つ若いMGB(KGBの前身)将校アレクサンドル・トレントンも、否応なしにその渦に巻き込まれていく。
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「チャイルド44」はすさまじい迫力に圧倒されるが、プロットはかなり荒削りなのに対し、本書はかなり洗練されている。前半はなかなか筋が見えて来ないきらいがあるが、スターリン暗殺に向けて話が動き出す後半は息詰まる迫力。特に、多数の登場人物のうち、誰がどのようにスターリン暗殺、あるいは暗殺阻止に関わって来るかが見えて来る過程は、ゾクゾクするほどおもしろかった。肩の凝らないスターリン物を楽しむのなら、「チャイルド44」よりも本書の方が適していると思う。
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訳者あとがきでも嘆かれているが、ヒトラー/ナチス物の娯楽小説はたくさんあるのに、スターリン物はほとんどない。もう少し出てくれるとうれしいと思う。

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紙の本サンドラー迷路

2008/01/25 09:51

コクのあるスパイ・サスペンス

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

死んだ父親の後を継いだ若い弁護士、トマス・ダニエルズの事務所が放火される。まもなくトマスは、父親の顧客だった大富豪サンドラーに関するファイルが紛失しているのに気づく。放火と何か関連が? そして、サンドラーの知られざる遺児と称する若い女性が出現。彼女の話に心を動かされたトマスは、サンドラーをめぐって各国の諜報機関が暗躍する、複雑で危険な迷路に足を踏み入れていく。
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派手さには欠けるが、非常にコクのあるスパイ・サスペンスで、ゾクゾクするほどおもしろかった。オセロのように白が黒、黒が白に目まぐるしく入れ替わる、先の全く読めない展開と、精巧に練り上げられた複雑なプロットが楽しめる。ノエル・ハインドの作品、他にもあれば是非読んでみたい。

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紙の本13のダイヤモンド

2007/01/02 23:44

ダイヤモンドのタイトルに偽りなし

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

英国ハーパー・コリンズ社のミステリ双書、クライム・クラブの創刊60周年を記念して、1990年に編纂された全編書き下ろしの短編集。収録作品は以下の通り。

ロバート・バーナード「ぶらさがっている男」、グウェンドリン・バトラー「昼食をとる女たち」、サラ・コードウェル「コリンズ氏を知っているか?」、エリザベス・フェラーズ「犯人逮捕」、アンシア・フレイザー「ネメシス」、レジナルド・ヒル「洋上の聖餐」、シャーロット・マクラウド「甘い罠」、ジョン・マルカム「溜池(システルナ)」、パトリシア・モイーズ「すべてを持っていた男」、マイクル・ピアス「マムール・ザプトと鳩の家」、マイク・リプリー「消えたディーゼル」、マーティン・ラッセル「ダイヤと真珠」、エリック・ライト「瓜ふたつ」。

書き下ろしなので、つまり傑作を選んだものではないので、あまり期待していなかったのだが、ものすごくおもしろかった。どの作者も、この企画に全力を傾注したのがうかがえる。レベルがとても高いうえに、1つ1つの話がとても個性的。”ダイヤモンド”というタイトルも、全然看板倒れではない。ただし、かなり刺激の強い、辛口の話が多いので(特に前半)、苦手な人はご注意を。

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紙の本琥珀蒐集クラブ

2006/06/06 14:28

なつかしの”琥珀の部屋”

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

エカテリーナ宮殿を飾っていたソ連/ロシアの至宝”琥珀の間”。第2次世界大戦中にナチス・ドイツに略奪されて以来、その行方は杳として知れない。その琥珀の間をめぐって、手段を選ばぬ秘宝ハンターたちが暗躍する。アメリカの判事レイチェル・カトラーは、父親が琥珀の間にいわくを持つロシア人移民である事から、争奪戦に巻き込まれていく。

実は、琥珀の間にはちょっとした思い出がある。ン十年前、NHKラジオのドイツ語講座で、”琥珀の部屋”という話をやっていたのだ。語学基礎講座の教材の割には異色でおもしろい話で、結構楽しんだのが記憶に残っている。そこで、琥珀の部屋(琥珀の間)をテーマにした本書を知り、なつかしくて飛びついた次第である。

閑話休題、本書はとてもおもしろかった。奇をてらわない、良い意味でのオーソドックスな物語で、最初から最後までわくわくドキドキ楽しめた。琥珀の間の解説が詳しくてわかりやすいうえ、物語にしっくり溶け込んでいるのもさすがである。主人公レイチェルとその前夫ポールの善玉キャラクターが平板なのが惜しいが、個性的な秘宝ハンターたちの生き生きとした悪役ぶりが物語に華を添えている。

なお本書の邦題は、原題(”The Amber Room”)と同じく、そのものズバリ「琥珀の間」の方が良かったと思う。

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紙の本かくてアドニスは殺された

2006/05/21 23:48

ユーモア・ミステリーはかくあるべし

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

若い弁護士ジュリアがイタリア旅行に行く事になり、同僚の弁護士たちはいたく心配する。ジュリアは、生まれ故郷のロンドンですら、しょっちゅう迷子になるような、超おっちょこちょいなのだ。だがジュリアの災難は、予想をはるかに上回るとんでもないものだった。殺人容疑で逮捕されたというのだ! そして、事件前にジュリアが書いた、脳天気な手紙が次々と届く。同僚たちは、恩師のテイマー教授を囲んで、手紙を手がかりにワイワイガヤガヤと推理を戦わせるが…。

アメリカのユーモアはゲラゲラ、イギリスのユーモアはクスクス、とよく言われる。本書はイギリスの話だが、クスクス笑いっぱなしだった。驚異の天然ボケ・ジュリアの、少し(大いに?)ズレている手紙が実におかしい。同僚たちの、どことなくトンチンカンなやりとりにも笑える。抑えた筆致で、大真面目に書かれているので、なおさらおかしい。

ユーモアも上質だが、本格的な謎解きとしてもなかなか良く出来ている。驚くべき結末は最初唐突な感じもするが、読み返してみると、軽妙な文章の中に伏線が巧妙にはりめぐらされていたのがわかる。ユーモア・ミステリーはかくあるべし、と言える傑作である。お試しあれ。

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紙の本敵意ある証人 上

2006/04/30 20:27

正攻法で描かれた、コクのある骨太のドラマ

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ヴィクター・カールはユダヤ系の若い弁護士。法律事務所への就職がかなわず零細事務所を開くが、まともな仕事はなく破産寸前の状態。人生に失望し、捨て鉢になっていた折り、千載一遇のチャンスが訪れる。超エリート弁護士のプレスコットから、仕事を持ちかけられたのだ。とにかく黙って言われた通りにしろ、余計な事は一切するな…とプレスコットから釘を刺されて、”マネキン”として公判に臨むヴィクターだが…。
貧しさから抜け出そうと必死の若者が、出世と引き替えに魂を売らねばならない事態に陥って苦悩する…という話は特に珍しくない。本書では、この珍しくないテーマが正攻法で描かれるが、非常にコクのある、骨太のドラマになっている。
登場人物たちが生き生きとした存在感をもって描かれているのが一因だろう。主人公のヴィクターは、野心ばかりが先走りした優柔不断な人間で、本来なら好きになれないタイプだが、読んでいるうちに”しっかりしろ、がんばれ”と応援してしまう。また、下品で傲慢で実にイヤな奴だが、強烈な吸引力を持つ市長候補のジミー・ムーアに、おためごかしの陰険古狸プレスコットと、悪役にも怖いほどの迫力がある。こうした海千山千の悪役たちに、頼りない青二才のヴィクターがどう立ち向かっていくのか、わくわくドキドキして楽しめる。

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