あるぱかさんのレビュー一覧
投稿者:あるぱか
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シドニー!
2001/03/16 09:48
そこにないもの
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一言で書けば簡単だ。この「シドニー!」は、すばらしい文章。なのだ。オリンピックのことも描かれている、もちろんスポーツノンフィクションなどではなく、だからといって、シドニーの旅行記でもなく、オリンピック期間中の日記でもない。ああ、範疇なんてどうでもいい。
そう、とにかく、この一冊の本は、どうしてこんなに素敵なのだろう。と考えさせられる。
村上春樹は、そこで起こっている出来事を実直に書き、あるいは、表には見えないモノをほころびからそっとのぞいては書く。そして、そこまでは、ノンフィクションライターと呼ばれる人たちが皆していることではあるのだけど、村上春樹が行うことは、さらに、そこにはないものを書こうとしているのだ。
それは、今までの旅行記でもそうであり、オウム事件のインタビューでは、語ろうとする人へインタビュアーがいくつも扉をしめしているようでさえある。
「シドニー!」では、高橋尚子やキャシー・フリーマンを迎えるスタジアムの描写。それはそこで起きていることなのだけど、実際には村上春樹という人でないと見えないし感じられないことを描いている。
村上春樹でなければ書けない文。というのは、それは小説においても、技術的な意味だけでの文体などではなく、村上春樹でなければ、すくいとれない世界を描いているからに他ならない。それは精神的なことでもあり肉体的なことでもある、すくいとる「力」のようなものだ。
この「シドニー!」でこそ、その村上春樹の力を感じる。
また、有森裕子を描いた最初と最後の章は全体の勢いで書いた文とは全く異なり、限りなく小説的文体で描かれる。
だっていいかい?オリンピックゲームをメタファーとして捉える。ここまではいい。それをテーマパークだという。それもいい。しかし、そこから作者はシドニー郊外の野生動物園で熟睡していたワラビーと結びつけるんだ。そしてそれはメタファーではないと言う。
ワラビーの尻尾。それが村上春樹の護符であるのなら、これから書く村上春樹の小説も読まないことには…。
ナイト・ピープル
2001/03/15 23:14
あたしたちはね、まさに失われた道をあてもなく馬を走らせる二人のアパッチなんだよ
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待望のバリー・ギフォード。
まぎれもない傑作。傑作。という文字で、このランを埋め尽くしたい。現代アメリカ文学の中でも、バリー・ギフォードの読み応えさ加減は突出している。さあ、とにかく、翻訳小説好きなくせに、ギフォードの小説を読んだことがないあなたなら、読んでみるしかない。
そんな、誰にでも書ける、「とにかく読め!」を書きたくて、この書評に登録してしまったようなわたしだ。まず、ギフォードを読もうよ。だ。
この「ナイト・ピープル」は、あとから続く「アライズ・アンド・ウォーク」と「ベイビィ・キャット・フェイス」で三部作という形をとっているのだが、それぞれも短編集という形になっている。そして、それぞれの短編がまた他の短編を浸食している。という、あとがきにも書いてあるようなことは、そう、誰も書けないことではない。ギフォードがギフォードであるのは、この饒舌な文章。この饒舌な文体。この饒舌な物語にある。あまりにも短いセンテンスの間に、あまりにも多くの物語は詰め込められ、何度か読み返すはめになるかもしれないが、読み返しても、返さなくても、あるいは最初から読んでも、とばして読んでしまっても、ギフォードの悪夢から逃れることはできない。
起承転結のような公正でもなく、豪華絢爛な文体ではないし、めまぐるしく変わる展開というのでも、クールな登場人物がでてくるというのでもない。 ただただ、このなま暖かい悪夢の世界に引き込まれてしまうのだ。
ナイト・ピープルでは、「男たちにとっては、いたるところで真夜中なのだ」と連続殺人の犯人は…と、この物語のエッセンスを出すのも、ミステリィのラストを説明してしまうのと同様に、罪なように思える。
もちろん、この小説には殺人や悪意ばかりで満たされているのではない。マーブルレッスンの書く、そして、ギフォードが書いている神様宛の文書を読んでほしい。
ポップ1280
2001/03/15 23:21
こんな小説を書いたやつはいない
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ごぞんじ「このミス」の2000年の一位です。
一位といえば、その上にはなにもない。もう、あとは下だけ、てっぺんです。で、どうなの?と、みんなに聞きたい。
わたしは、2000年の初め頃に買ったモノの、誰もさわいでいなかった。ような気がする。するんです。違うの?で、わたしも騒ぐ場所もないという事情ながら、酔った。酔っぱらった。いや、酒、飲めないんですけど。
これは、かなり笑える。でしょ?ね?そして、身につまされる。でしょ?ね?そして、すっきりする。でしょ?ね?
と、ほんとに、みんなそうなのか?誰しも、そう思うのか、そこらへんが不安なのだ。そして、最後までは主人公に感情移入できない。どう?ほんとどうなの?
と、最初から最後まで、きみはどうなのか?どう思うのか聞きたいのだが、そして、栄えあるこのミス一位という栄冠に関わらず、あまり売れてなさそうなのだが、そこらへんどうなのだろう。
それはないだろう。と何から何までリアルさを求める貴兄にはお奨めできないのだが、それもこれも人によって書かれることは何でもあり。というあなただけには、ジム・トンプソンの描く神なき世界の扉は開くだろう。
保安官、ニック・コーリーは最初はあたなにも共感できるかもしれない弱い男だ。あるいはあなたと同じ女々しい男だ。そしてあなたのように、多くのことをかかえて、どこかの調子を揃えるために、しだいに穴が大きくなって。
そう、それは次第に共感を越えて、一線を越えるどころか、遙か彼方まで行ってしまう。漫画のように滑稽で、図らずもタイトルのポップと違った意味でポップな展開。
そして、主人公と、この物語が行き着いた先とは、わが敬愛するバリー・ギフォードが扉の序文で書いているタイトル「ジム・トンプソンの神なき世界」とあるのだが、ある意味、そこは、神の世界なのだ。どうなんだろう。だから、保安官が神様だったっていう話なんだけど、キミはどう?
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