まっくるさんのレビュー一覧
投稿者:まっくる
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クルーグマン教授の経済入門
2001/05/29 16:49
必読の一冊
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世の中には経済学の専門教育を受けなかったものが書いた経済書があふれている。そして、経済学的に間違っているものも多い。例えば、比較優位という概念の元には、そうそう簡単に貿易戦争などとはいえないはずであるが、実際には日本が負ける等々を書いた書籍が多いのが現実である。ノーベル経済学賞も噂されるポール・クルーグマンによる本書は経済学上の信憑性を疑うことなく安心して読める入門書である。
さらに本書は一般的な経済書の翻訳とはひと味もふた味も違う訳文も魅力である。山形浩生の手による翻訳は語り口調で親しみやすく、原文の生き生きとした文章を巧みに再現している。もちろん、この訳には賛否両論はあるだろうが、固くて難解な文章が本物の経済学から人を遠ざけ、いいかげんな経済本の跳梁跋扈を許してきたことを考えると、歓迎すべきではないだろうか。
本書は経済「学」入門ではなくて「経済入門」であり、体系だった経済学の解説はない。その代わり、本書にあるのは時事的なものや間違った概念の流布しているトピックが満載である。貿易赤字は解消しなくてはいけない、インフレは悪い、といった当たり前だと考えていることに対し、経済学の視点から正しいことを教えてくれる。題材に取り上げられているのはアメリカの事例ばかりであるが、経済学的な過程が大事なのであり、内容は日本にも十分に通用するものである。
銀行収益革命 なぜ日本の銀行は儲からないのか
2001/05/16 04:10
論理的考察に満ちた良書
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いまだ明るい声の聞こえてこない日本の金融業界であるが、それに関する本も多数出版されている。残念ながら、それらの本のほとんどが、ポール・クルーグマン言うところの空港経済本の域を出ない。つまり、中身がないのである。
本書はこの点において群を抜いて優れている。著者はマッキンゼイ&アソシエイツのコンサルタントという職業柄、入手した各種情報を同僚の手も借りつつ、優れた分析力で考察を進めていく。そして、類書と比してここが最も重要なことだが、現実的な改善策を提示していくのである。本書の帯には『利益3倍、経費25%減、資産55%減』とあるが、これが決して荒唐無稽なものではないことは、読者にはすぐにわかるであろう。
本書で提示される数字は誰でも入手可能なものから考察しているので、正確性に疑問を感じるかもしれない。それを元に出された結論には納得しかねるかもしれない。
しかし、著者ほどの名が通ったコンサルタントならば、各銀行が未公表としている数字も入手しているはずである。公表はできないものの、それを念頭に置いているはずであるから、大体において間違ってはいないであろう。
しかし、これが総論でしかないことも事実である。銀行業界全体としての進むべき方向を明確に提示してはいるが、各行に踏み込んでいる点はない。守秘義務に触れない程度でも良いので、もう少し各行の内情を示しつつ筆を進めて欲しかった。その点を考慮すると、本書の主張の全てをそのまま受け入れることはできない。各行にあわせてアレンジするのは読者の役割である。
本書には銀行業界を論ずるにあたっての論点がコンパクトにまとめられている。そして、著者なりの結論もしっかりと記述されている。おおよそ金融に関わる全てのものは、本書を一読しても損はない。特に、銀行業界に興味を持つ学生は、本書を自分なりに考察しなおしてみると良いだろう。
カリスマ 中内功とダイエーの「戦後」
2001/04/30 23:29
膨大な労力の結論は?
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本書はダイエーグループとその総帥であった中内功の一代記である。本書も佐野氏の他の著書同様に膨大なインタビューによって一歩ずつ進んでいくスタイルで書かれている。
ダイエーの経営不振とともに同社のこれまでの経営方針を批判する文章を多く目にするようになったが、本書が批判的に検証しているのはダイエーではなく、同社の創業者である中内功氏個人の功罪である。
著者にとって、中内功氏を理解するためのキーワードは「人間不信」である。著者は30年以上にわたる中内氏およびダイエー関係者との膨大なインタビューを集成したものであり、紹介されるエピソードは全ては中内氏の「人間不信」というキーワードに即したものである。 しかし、佐野氏に関する予備知識なしに本書を読んだ読者は誤解するのではないだろうか。雑誌連載を加筆訂正したというスタイル上の理由もあるが、本書には結論といえるようなものは何もでてこない。ただひたすらエピソードの紹介とその関係者とのインタビュー、そして著者の情緒的なコメントが続いていくだけである。結論がない一方で、収録されたエピソードは「人間不信」を立証するという目的に合致するものである以上、読者には中内ダイエーに対する抜きがたい不信感のみが残るのではないだろうか。著者からの明確な結論を出さずにある方向に誘導しようというのは卑怯である。
また、ところどころに著者の一方的な思い入れも見受けられる。一例を紹介すると、ハワイのアラモアナショッピングセンターの食堂の描写として
異様で巨大なその空間に足を一歩踏み入れたとたん、
映画「ブレードランナー」の一シーンに突然紛れ込んだような錯覚に襲われた。
室内のため酸性雨こそ…
としているが、現地を訪れたことのある小生としては、その記述は誇張しすぎであると指摘しておく。そもそも著者は大量生産・大量消費に懐疑的である。また、紋切り型の短絡的な表現も散見される。
結論として、本書はノンフィクション作品としてはあまりいいできとはいえない。しかし、ダイエー40年以上の歴史をたどる資料としての価値は一級である。
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