津村 エミさんのレビュー一覧
投稿者:津村 エミ
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ある朝、セカイは死んでいた
2001/04/19 16:02
それでもセカイで生きていきたいあなたへ
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頭のあんまりよくない私がこのような本を読むと、つい自分も頭がよくなったような気になって、難しい単語なんか羅列してしまったりしてしまう。ハッキリ言って、この本に出てくる有名人(柳美里とか伊丹十三とか小林よしのりとか)はなんとかついていけたけれど、その分野では有名であろう評論家や作家などはぜんぜんわからなかった。しかもそれらが対象物を説明する比喩として出てきてしまった時には、参りましたと土下座するしかない。ただでさえ難解な内容なのに、比喩さえもわからなかったら、いったいどうやって理解していけばいいの!?とため息と一緒に本を閉じたくもなるが、そんな心配はご無用。むしろ不勉強な人にこそ読んでいただきたいと思う。それはなぜか?と考えてみると、どうも切通さんの対象物(人)との絶妙な距離感にあるようだ。本人もおっしゃっていた通り、彼は対象をきちんと分析しながらもけっこう感情移入型。文章の裏に彼の顔、「わからないもの」に少しでも近づきたいという純粋な気持ち、が見え隠れするからこそ、読者は信頼して読み進めていけるのかも。
♪ 明日がある 明日がある 明日があるさ〜 ♪
こんな歌が流行する昨今、私達はすでに死んだセカイに生きているのかもしれない。こんな歌にはちっとも励まされないが、それでもそんなセカイに生きていくしかないと、諦めに似た気持ちで毎日を送っている人にこそオススメしたい作品だ。結果よりもそこに到るまでの「過程」、例えばかの連続幼女殺人事件の容疑者Mがどのように考え、感じ、行動し、今現在何を思っているのかに迫っていく著者がそれらに対してどう意味づけするのか、に重きを置くこの作品を読むと、そこにはどうしても物事を単純に「善」と「悪」では片付けられない気持ち、現実に絶望しながらもなぜだか明日を生きる気持ちになってしまう。ここには正解は書いていない。それは誰にでも通用する正解など、この世界にはそもそも存在しないからだ。私達は一般論的な答えをもう必要としていない。ただ、「わからないこと」が気になり始めてしまった人は、「切通理作」という人間に共鳴することの快感を味わえる1冊だ。
モザイク
2001/05/18 17:16
田口ランディの磁場
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田口ランディの小説を読むたびに感じること。今の世の中で心を病んでいる人こそ正常で、平気で生きている人の方が異常なんだ、という感覚。読めば不安でたまらなくなるのに、なぜかどうしても、彼女の磁場に引き寄せられてしまう私がいるのだ。
この小説のタイトルを聞いて、小学生の時に作った「モザイク」のことを思い出した。ひとつひとつが違う断片をつなぎ合わせて一つの絵が完成することが、なんだかとても不思議だった。どんな形の断片も、どんな色の断片も、ちゃんと調和してしまうのだもの。
現代は「個性」の時代といわれて久しいが、高度情報化社会においては、それは少し違ってきていると思う。情報が操れないヤツ、特に「みんなと同じ」情報を共有できないヤツは無能だとでもいわれそうな今日この頃、「個性」とは何を指すのだろうか。3部作の最終巻である本書を手に取り、過去の作品の中でもくり返されてきた「新しいOS」を持った人間の完成がどんな形で表されるのか、期待して読んだ。
幼い頃に両親を亡くし、世紀末を生き抜くために自衛隊に入隊、その後精神病院の看護婦となった主人公ミミ。現在彼女は「運び屋」になった。対象は人間。運ぶ先は精神病院。「運ぶ」途中で消えた14歳の少年正也を捜しながら、物語は霧雨の渋谷を舞台に進んでいく。
登場人物たちは「現代は死んだ人の記憶の堆積」「身体性」「見るように聴く」「共鳴」など、ランディ語とでもいうべき単語で会話する。このランディ語がわかるようになることが、「完成形」を知る上でも重要なポイントになる。
情報が氾濫する現代においてエネルギーが必要なのは、情報そのものよりそれらを取捨選択する情報処理能力だろう。何もしなくても情報はどんどん外側から勝手に与えられてしまう。ある人はその状況から逃げ出すかもしれない。ある人は新しいOSを使って処理できるかもしれない。本書はその近未来が語られている小説といえるかもしれない。
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