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言葉にできない感情

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　普段なにげなく感じていても、言葉にできない感情がある。この小説で、江国香織はそんな感情をさらりと書いてくれた。日常生活の中で言葉に表わさずに通りすぎていく感情たちを言葉で読む事が、こんなにも気持ちがよくて、また同時に胸が締めつけられるものだとは知らなかった。
　初夏の昼下がりのバスルームのような、爽やかでひんやりとした雰囲気のある小説だが、さっぱりとした語り口の裏にあるものは、胸が引き裂かれそうなほどの狂気の愛だ。幸せな雰囲気の中にも切なさがあふれている。
　できれば涼しい風の吹く明るい夏の午後、オープンエアの喫茶店、もしくは広々とした公園の芝生の上、愛する人のことを考えながら、この小説を読みたい。