大宮検番さんのレビュー一覧
投稿者:大宮検番
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「心の専門家」はいらない
2002/06/05 10:48
「心」キャンペーンの裏側にあるもの
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「心の時代」というのは、実は「心のモノ化、商品化の時代」だと著者は言う。
言われてみればそんな気もする。
少年による凶悪犯罪が増えても、犯人の心理分析と被害者の対症療法のみに精を出し、根本的な対策を講じようとしない心理学者。
ブームに乗りいろいろな病名を作り印税を稼ぐ心理学者と、その手の本を消費し続ける心理学マニア。
このような「心の商品化」を中心になって進めているのが、臨床心理学者や臨床心理士などの「心の専門家」である。
従来、金で売り買いできない、そして、してはいけないものとされてきた心を商品化すること自体が社会的に大きな問題を孕んでいるが、そもそも「心の専門家」たちのメイン商品たるカウンセリング自体が内包している問題も大きいと著者は言う。
すなわち、カウンセリングは、個人に表れてきた問題を個人の内面のみに還元することによって、問題の顕在化を阻止し、社会な問題の解決を阻んでいるというのだ。
筆者が紹介している「父親を過労死で失って傷ついたが、カウンセリングで立ち直ることができた。傷ついた子供すべてにカウンセリングを」と新聞に投稿する小学生は、父親を死に追いやった加重労働を決して問うことがないのである。
いわば、カウンセリングは、問題をなかったことにしてしまう効果があるのである。
さらに、カウンセリングは、問題が社会化される契機を奪うと同時に、家族などクライアントと一緒に悩むはずであり、また、悩むべきであった人々に「専門家に任せているのだから……」と身を引かせる効果があるという。
筆者はあるPTSD患者を紹介しているが、この患者のPTSDは、筆者が指摘するとおり、ある事件自体ではなく、その後の周囲の態度によって引き起こされているのではないかと思えてならないのだ。
そして、「心の専門家」の登場による人間関係の希薄化が、さらにカウンセリング需要を増大させるというこの見事な戦略から考えれば、「心の専門家」グループの裏側では有能なマーケティングの専門家や経営コンサルタントが活躍しているのではないのかという気さえしてくる。
「心のケア」「心の時代」など、実際に行われていることを知ることもなく、「『カネ』ではなく、『モノ』でもなく、『心』なのだ」という漠然としたイメージだけで無批判にすばらしいものだと受け入れてきた我々は、この本によって、「心のケア」というものの実態を知るべきである。
そして、「心の専門家」たちが推進している「心のケア」というのが、実は、「心のカネ化」であり、「心のモノ化」であるという現実をしっかりと認識すべきなのだ。
その他、カウンセリング観、「治療」の意味、スクールカウンセリングの現状、PTSDと「心のケア」に対する見解など、40年間、臨床心理学を批判的に見つめてきた著者の視線はとても鋭い。
「心の専門家」の顕在的、潜在的ユーザーである我々はもちろんのこと、カウンセラーやその志願者にも読んでいただき、自分たちがしている、しようとしていることは一体何なのかということを問い直していただきたい。
また、誰に頼まれたのか「心のケア」キャンペーンを繰り広げてきたマスコミの方にもぜひ読んでもらいたいものである。
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