かたつむりさんのレビュー一覧
投稿者:かたつむり
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火車
2001/05/23 21:21
重くて切ない
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暖かく魅力的な人物が続々と出てきながら、ぞっとするほど怖い作品でもある。事件の背景には多重債務者の悲惨な人生が隠されているのだが、彼らの話を所詮どこかに欠陥のある人の話、と流すことができないのだ。この問題に取り組む作中の弁護士は彼らを交通事故に巻き込まれた者になぞらえる。
冒頭、本間の妻が既に亡いことが妙に思わせぶりに提示され、ここで誰も責めようのないその事故死の事情が明かされる。一つ間違えばこうした奈落の底へ愛する人や自分も転落しうるのだと、この短い場面で読者は本間と共に納得させられるのだ。誰でも被害者に、そして加害者になりうる。
人間の持つ全ての善なる性質を信頼していながら、同時に人間の中に潜む徹底したエゴイズムも残酷なほどはっきり描かれている。
本間の息子の智くんは消えた近所の犬を探すという主筋の雛形を担っており、可愛い狂言回しでもあるのだが、こちらの捜索は愛犬家にとって涙無しには読めない痛ましい結末に終わる。かける言葉もなく本間が呟く独白は、そのままラストへと響いていく。
「『本来あるべき自分になれない』という憤懣を、爆発的に凶暴な力でもって精算するという形で罪を犯す人間が、これからもあまた満ちあふれていくだろう。その中をどう生きてゆくか、その回答を探す試みは、まだ端緒についたばかりなのだ」
どうしようもない人間というものを冷たく、優しく見つめる筆者の視線が切ない。
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