サイト内検索

詳細検索

ヘルプ

セーフサーチについて

性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示を調整できる機能です。
ご利用当初は「セーフサーチ」が「ON」に設定されており、性的・暴力的に過激な表現が含まれる作品の表示が制限されています。
全ての作品を表示するためには「OFF」にしてご覧ください。
※セーフサーチを「OFF」にすると、アダルト認証ページで「はい」を選択した状態になります。
※セーフサーチを「OFF」から「ON」に戻すと、次ページの表示もしくはページ更新後に認証が入ります。

  1. hontoトップ
  2. レビュー
  3. アキノさんのレビュー一覧

アキノさんのレビュー一覧

投稿者:アキノ

15 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

妖怪教養小説

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『妖怪馬鹿』で京極夏彦が取り上げるまで、豆腐小僧なんていう妖怪はまったく知らなかった。見るとただ豆腐を持っているだけの小僧である。怖くない。間抜けには見えても、もうぜんっぜんというほど怖くない。この怖くない妖怪に京極夏彦が注目する理由がぼくにはさっぱりわからなかった。

豆腐小僧が主役として登場する本書でも、その怖くなさと間抜けさはきわだっている。その間抜けで怖くない妖怪豆腐小僧が旅をするうち妖怪としての自分を発見するのが本書である。だから、まさに教養小説であるわけなのだけど、話はそれだけにとどまらず豆腐小僧が出会う鳴屋(やなり)や死に神などの妖怪というものの構造と成り立ちを明らかにしていく。つまり、妖怪というものがどのように成立し、どんな意味をもってきたのかもあわせて知ることができるようになっている。妖怪についての「教養」も同時に身に付くようになっているのだ。

さて、これだけでもさすが京極夏彦らしい小説というところなのだが、話はそれだけでは終わらない。実はそうした妖怪についての知識を知れば知るほど、豆腐小僧の不自然さ、不思議さがきわだってくるという構造になっている。先に進めば進むほど、むしろ謎は深まっていくのだ(もっとも豆腐小僧自身はバカで間抜けな鳥頭の持ち主なので、そのへんのところはあまり頓着しないのだけど)。そして、肝心の豆腐小僧の意味も意義もいっこうにわからないまま、それまで出てきた妖怪総出演、百鬼夜行の様相を呈してくるクライマックスを迎えるのだが——その阿鼻叫喚とドタバタの中、豆腐小僧はまるで頓悟するかのように、突如として己を知る(もちろんそうなるにはちゃんとワケがある)。そして同時に、読者は妖怪というものの成り立ちや構造を語ってきたのが、ただ単に作者の趣味だけではないことに気がつくことになる。さすが京極夏彦、無駄はないのだ。馬鹿で間抜けな豆腐小僧が見事に己の本分を果たすこのラストは見事見事。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本日本の税金

2004/01/28 18:07

払っているだけじゃなくてこれぐらいは知っておきたい

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ずっと税金の問題が気になっていた。消費税はいまにも上がりそうだし、累進性は逆行しつづけてるし、要するに「広く薄く」徴税する方向に動いているが、それがはたして正しいのかどうかよくわからなかったからだ。個人的に言えば、貧乏で年収も少ないぼくにとってはありがたくない方向に進んでいる。けれど、働き手が少なくなる高齢化社会を迎えることだし、財政も悪化しつづけていることを考慮すると、止むを得ない可能性もある。なにより、いまの制度がどうなっているのか、ぼくはあまりよく知らないのだ。

本書は税制度を考える上で、大いに役立つ本だった。まず、所得税、法人税、消費税、相続税、間接税等、地方税と主だった税金がすべて網羅されているところがすばらしい。これ一冊で日本の税制度について一通りの知識が得られるようになっている。さらに、問題点の指摘だけでなく具体的な提言もされていて、いまの税制改革で議論されている内容も含んでいるから、著者の意見と比較検討してみることができる。

たとえば、消費税の逆進性については、「最低生活水準を維持するのに必要な消費について負担した消費税額分を所得税額から控除する方式」を提言している。同じような提案は民主党が「基礎消費支出に係る福祉目的税額及び地方消費税額相当分の一律還付制度(カナダのGST税額控除方式の例=Goods and Services Tax Credit:家族を構成する成人・子供それぞれの人数に応じて定額を小切手等で還付)を創設することを提案する」としているけれど、これに対して政府の税制調査会は、「将来、消費税率の水準が欧州諸国並みである二桁税率となった場合には、所得に対する逆進性を緩和する観点から、食料品等に対する軽減税率の採用の是非が検討課題となる」としている。特定の商品だけ税率を変えるというのは、「何をどこまで」という問題がでてくる上、本書でも指摘されているように加工品に関しても問題が発生する。逆進性の対応に関しては、明らかに前者の方が優れているように思う。

ただ、憲法との関連については重要視しているわりに説明が少し足りないような気がする。あまり普段は意識しない所得税の基礎控除が憲法25条で保障されている生存権の反映であること(基礎控除はたった38万円)や、「税を貫く大原則は租税立法主義(憲法84条)」だということはぼくは知らなかったし、重要な観点だと思う。だから、特に租税立法主義と公平性との問題はもっと具体的につっこんだ議論が欲しかったけれど、このへんは新書でたぶんページ数も制限されていることだろうから、止むを得ないのだろう。

税について疑問を持っているけど、何がどうなっているのか分らない、というぼくのような人もたくさんいると思う。そういう人にはぜひお薦めしたい一冊だ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

幸せを倍化させる一冊

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 新しい世界やものの見方を教えてくれる書物に出会うことは、とても幸せなことである。別にそれは科学書だってビジネス書だって小説だっていいのだけれど、批評の場合はその幸せが倍増する可能性がある。なぜなら、そこで教えられる新しい世界やものの見方を応用できる数多くの本や映画が紹介されるからだ。けれども実際には、なかなかそんな優れてしかも面白い批評というのは数少ない。僕が過去に出会ったもので言えば、野田昌弘『SF英雄群像』、荒俣宏『別世界通信』なんかがそうだった。そしてその中に、この瀬戸川猛資の『夢想の研究−−活字と映像の想像力』は間違いなく入る。とにかくやたらめったら小説(主にSFとミステリ)と映画が出てくるのだが、紹介の仕方が本当にうまい。また同時に数多く出てくるすでに評価の固まった有名作家、有名作品の意外なエピソードの数々。司馬遼太郎が実はこんなものも書いていてだとか、夏目漱石が『吾輩は猫である』で触れていたとあることだとか、驚くことばかりである。ちなみに巻末に書名・作品名・人名の索引がついているのがさらにありがたい。しかし驚くなかれ。これがまた34ページもあるのだ。言っておくが1000円は全然高くないぞ。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本春にして君を離れ

2021/05/07 09:14

解説も読みどころ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

スゴ本の人がクリスティ最恐と評していたので読んでみた。否応なく自分を見直さずにはいられない本であり、万一これを読んで、主人公みたいな人いるよねーこわいねー、とかいう人がいたらそいつが一番ヤバいやつである。毒親を描いた本としても読めるが、毒親にならずにすんだ可能性はあったと思う。聞きかじった限りでは、もっとどうしようもなく恐ろしい毒としか表現しようがない親もいる。どうすれば毒親にならずにすんだかは、栗本薫の解説を読めばわかる。どうでもいいけど、中島梓ではなく栗本薫なんだな。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

電子書籍

電子書籍モンキーターン 3

2016/02/23 17:22

河合克敏の技術の高さ

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

競艇という、おそらく読者のほとんどがなじみのない世界を描いているにもかかわらず、この3巻まで来てもまだ競艇学校を卒業もしていないというのはすごいことだ。読者にわかりやすく競艇の面白さ、難しさ、奥深さを丁寧に伝えながら、先はわかりきっているのに飽きさせずに読み通させる。河合克敏の読ませる技術の高さはすごい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

電子書籍

続きを読みたくなる

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

風呂敷の広げ方が見事で続きを読みたくなる。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本まずデフレをとめよ

2003/02/20 05:37

インフレ目標政策に反対する前に

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日銀総裁人事を控えて、インフレ目標政策がさまざまなメディアで議論されている。賛成意見も反対意見も数多く出ているけれども、マスメディアではどっちかというと批判が多いようだ。取り上げられ方も、日銀に株や土地を買わせて無理やりインフレを起こさせるような、そんな説明をされている。かなりいかがわしくてインチキくさい印象を持ってしまうかもしれない。デフレの原因はそもそもグローバル化が進行している中で日本が抱える構造問題であり、インフレにしたとしても景気なんかよくならず、一部の人間が株や土地を値上がりさせるために仕組んでいる陰謀だとか。

そういうマスコミの作り上げたムードに流されて、インフレ目標政策に反対するのは、ちょっと待って欲しい。反対するのは本書を読んでみてからでも遅くないはずだ。この本はインフレ目標政策をめぐる議論をコンパクトにまとめ、その疑問や批判に明快に答えている。小泉政権がデフレ克服に本腰を上げ、日銀総裁も代わるというタイミングになって、インフレ目標政策はマスメディアでもしょっちゅう取り上げられるようになったが、知らない人にとっては突然出てきたように思うかもしれない。だが、実はインフレ目標政策の導入は、経済学者の間で5年以上に渡って議論されてきたものなのだ。論点はこの本の中にほぼ出つくしていると言ってよい。時間がない人は、第1章だけでも目を通せば、マスコミで喧伝されている内容とずいぶん違う印象を受けるのではないかと思う。たとえばそこには、「日銀は株や土地を買うべきだ」とは一言も書かれていない。提言されているのは、「長期国債買いオペを大増額せよ」ということだ。さらに、より具体的な政策提言を行っている第6章では、ETF(株価指数連動型投信)の購入は「現実問題として考えれば、実行するには困難が多い」とむしろ否定的だ。

前例のない政策を導入してよいものかと不安に思う人も多いかもしれない。だが、戦後デフレになった国は日本が初めてなのである。だから、逆にいうといまの日本でどんな政策をしても、それは前例のない政策になる。戦前にデフレになったのは大恐慌時や昭和恐慌が上げられるが、本書の第5章で詳しく論じられているように、このときデフレ克服の決定的な手段となったのは金融政策であった。構造改革でデフレを克服しようという方が、よほど前例のない手段なのだ。

長く続く不況に対してこれまでさまざまな手段が打たれてきたが、財政政策だけでは限界があったし、構造改革にいたっては景気を悪化させただけにとどまっている。どれもデフレ克服にはいたっていない。諦めよという人もいるが、不況で失業率が高まるとともに、自殺や犯罪は増え続けている。セーフティネットを張ればいい? どこからそんなお金を調達するのだろう。デフレ下で名目GDPが減少を続けている限り、財政はいかに絞っても悪化を続けるほかない。財政が破綻すれば、それこそ大インフレをもたらす可能性がある。アジア諸国にとってもインフレ目標政策による円安より、日本が財政破綻する方がよほど迷惑な事態だろう。

インフレ目標に強い反対を続けた速水総裁が退任するこのタイミングは、政策転換を行う最大の好機だ。その時期を見はからって本書が出版されたことは、より多くの人に理解してもらい、世論による後押しを得ようという戦略的な意図があるのではないかと思う。値段も手頃ながら送料無料になる1600円だ。一人でも多くの人が本書を読み、インフレ目標政策に対する理解を深めてほしい。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本ゾウの時間ネズミの時間 サイズの生物学

2003/07/09 14:06

自分サイズの時間を

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本のおもしろさにはいろいろあるが、ぼくが特に好きなのは、常識的な知見をひっくり返してくれるようなものや、他の問題にまでさまざまに新たな発想を得られそうな本だ。本書もそういう一冊である。

本書の白眉は真っ先に出てくる「時間は体重の1/4乗に比例する」だ。筆者によると、動物の生理的時間はどれも変わらない可能性がある。つまり、ウスバカゲロウの一生は当人にとっては嘆くほど短くないし、鯨の寿命ははたで見ているよりも長いとは感じていない。蟻んこの一日はめちゃくちゃ長いし、ゾウの一日はあっという間なのかも。

ということはである。ぼくは年々一日や一年が短くなっているように感じているが、これは相対的な時間の短さ(それまで生きてきた時間に対する一日・一年の比)だけによらないかもしれない。小さいときは体重も少ないから、ものすごーく長い一日を過ごしていた可能性がある。というか、ぼくの記憶ではたしかにそうだ。夏休みなんか、永遠に続くのではないかと思っていた。あのときは、体重が軽かったからだったのか! あるいは、痩せた人がせかせかして落ち着きがなく、一方で太った人が鈍くて腰が重いのも、時間感覚が違うことで説明ができてしまう。

以上のことは妄説に過ぎないが、こんな風に本書からいろいろな発想が生まれてくる理由はたぶんこうだ。ぼくたちはふだん、お日様が昇って沈む天体の動きによって計られる時間に縛り付けられている。普段の生活も体内のリズムもそれにあわせて刻まれている。何より、社会生活がそれに合わせるように要求してくる。しかし、これには不自由を感じることも多い。特にちょっと長いスパンで見るとそうだ。同じ期間で経験することの量や質には個人差がある。本来であれば、同じ期間で同じ結果を出さなくても良いのだが、社会生活は物理的な時間によって制限されているため、同じ期間でできることを要求される。そうした部分にストレスを感じていると、もうひとつ時間軸を持っていてもいいのだ、という物理的な時間からの解放はかなり魅力的だ。もちろん、本書には個々人によって時間軸が違うようなことは書かれていないが、唯一絶対と思いがちな時間を相対化してくれるだけでもずいぶんと発想は変わってくる。実際、あちこちで本書の感想や書評を読んでいると、そういう発想の転換から何かを得ている人がけっこういる。

少しだけ本書を補足しておくと、人間の寿命とゾウや鯨の寿命はそんなに変わらない。ゾウは50〜60年ぐらいのようので、むしろ人間の方が少し長い。本書の話と矛盾するようだが、これは人間と他の動物が「生態的寿命」と「生理的寿命」という別の寿命で生きているためだ。「生態的寿命」で生きていた縄文人は、その寿命は30年ぐらいだったそうである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

あるいは階級社会にならないとも限らない日本の将来を考えるためにも

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

先日、映画『サラマンダー』を見てきた。映画自体は、まああまりお薦めできるような代物ではなかったのだが、それはともかく、冒頭に興味深いシーンがある。

この映画は、地下鉄工事の現場監督をしている母親のところに、子供が訪れるところから始まる。子供は何か言いにくそうにそわそわしながら母親のところに行く。母親がどうしたのか問い詰めると、子供は成績が悪く奨学金がもらえなかったことを母親に告げる。母親は失望し、子供は思わず「パパに出してもらえばいいじゃないか!」と言ってしまう。母親は悲しそうに黙り込む。子供は坑道の奥に走り去る。

さて、本書を読むと、これだけの内容からこの親子についてさまざまなことが読み取れる。イギリスには上流階級、中産階級、労働者階級があるが、肉体労働を糧としていることから、この家庭が労働者階級に属することがわかる。また、子供が奨学金を必要としているのは、おそらく私立の学校に行かそうとしているからだろう。教育熱心な母親であり、子供にはなんとか中産階級になってほしいという願いを持っているようだ。ひょっとすると、母親は中産階級の出であることも考えられる。たぶん離婚したであろう父親は、労働者階級に属すると思われる(子供の養育費も払ってなさそう)ので、結婚したが階級の差に我慢できなかったのかもしれない。

イギリスが階級社会であることは知っていたが、階級によってこと細かに文化差があることは本書をよんではじめて知った。生活習慣や考え方、読む新聞からパブの入り口まで違っているのだ(もっとも、最近は変わりつつあると書かれているけど)。ちょっと前まで一億総中流などと言われた日本ではイギリスのような階級社会はなかなか想像しにくい。しかし、実は日本はイギリスのような階級社会にいま近づきつつあるのではないだろうか。本書では、「ゆとり教育」が階層の固定化につがなることを警告している。それだけでなく、長く続く不況が階層の逆転を困難にして、その傾向にいっそう拍車をかけている。
日本とイギリスの歴史的な関わりや、テロの遠因にもなっているイギリスが過去にやってきたいい加減きわまりない外交なども含め、表面的には見えないイギリスの本質に迫った良書。手軽で読みやすく、イギリスについての基礎知識を得るには最適かもしれない。

でもひとつだけ疑問が。筆者は誤ったイギリス礼賛本や「イギリスブーム」に憤っているが、そんなにイギリスって流行ってるんだろうか。たしかにベッカム人気はすごいけれども。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本経済論戦は甦る

2002/11/14 01:51

今が旬

2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

日本経済について、危機感をもっている人はきっとたくさんいると思う。しかし、結局何がどうなって日本はそんなに不況に陥っているのか、あまりよくわからない人も多いんじゃないだろうか。例えば、デフレは最近になってこそ誰もががよくないと思い始めたようだが、ちょっと前まではそんなことは全然なかった。「よいデフレ論」と言われるものがあちこちに跋扈していた。正直言うと僕も数年前までデフレは内外価格差を縮めるものだという、ありがちな誤解をしていた。さすがに最近の調査を見ると、「デフレはよい」と思っている人は確実に以前より少なくなっているように思う。
でも、じゃあデフレの原因はなんなの? どうやったデフレは終わるの? そういう話になったら、また問題はややこしくなってくる。ある人は不良債権処理をしてダメな企業を退陣させることこそが肝心だと言い、別のある人は不良債権処理はデフレを悪化させるだけなので、財政出動こそがいま必要なものだと言う。あるいは、あっちにはインフレターゲティング付リフレ政策(金融政策)がもっとも有効だという主張があれば、こっちには金融政策なんか無効だと言う人とそんなことしたらハイパーインフレになるぞという人たちがいる。いったいどれが本当なんだろう? 今は竹中大臣を中心にして不良債権処理を加速させようとしているが、貸し渋りが発生して企業がたくさん潰れてもっと不況になる可能性はないんだろうか?
こういう疑問は将来に対して不安を持っている人たちが当然持つ疑問だと思う。こうした疑問に対し、この本は論点をはっきりさせ、ある程度すっきりした回答を与えてくれる。鍵となるのは、大恐慌時代に活躍した二人の学者、フィッシャーとシュムペーターである。世界的な恐慌の中でこの二人は不況に対してまったく対称的な考え方を持っていた。フィッシャーは不況を「きわめて有害」なものと考え、そこから脱出する方策として金融緩和、「リフレ政策」を唱えた。一方のシュムペーターは「不況は経済にとって有益な働きをする」と考え、古くなって非効率なものが市場から退出した後により効率のよいものが市場に出現するという「創造的破壊」の考え方を唱えた。
こうして見ると明らかなように、小泉首相の「構造改革」はまさしくシュムペーター的な創造的破壊の方向で動いている。ということは、大恐慌を克服したのはシュムペーターの考え方を採用した国だったということになるのだろうか? ところがこれが大違い。実はフィッシャーの考え方を採用した国から順番に不況を脱出していったのだ。
この本には他にも先にあげた疑問にある程度わかりやすく丁寧に回答を与えてくれる。例えば、リフレ政策はハイパー・インフレにつながるか? 筆者は「結びつきにくい」と考えている。理由は日本が財政的にそこまで追い込まれていないからだ。では、直接的にデフレから脱出する方法は何か? 日銀の国債買いオペによるリフレ策である。
とはいえ、この本にも疑問点が無いわけではない。不良債権処理に関しては特にそうだ。例えば、不良債権処理を水をくみ上げるポンプのつまりを取るようなものと述べているが、つまりを急いで取らないと、本当に景気回復は遅くなるのだろうか? 実際、昭和恐慌脱出時には銀行貸出の回復は主要マクロ指標の中でも最後尾だったことが指摘されている。多くの企業では投資を控え資金があまっている状況だ。銀行の不良債権処理は強制的に行なうより、景気回復を待ってじっくり行なう方がよいんじゃないだろうか。
全体を通して読みやすく、難しい議論もわかりやすく伝えようとする筆者の気持ちが伝わってくる本だった。特にエピローグは日本経済について先行きを心配する、幅広い人に読んでほしい。この本は、間違いなく今が旬である(…というか、一年後ぐらいには「そんな議論もあったなあ」となっててほしい本である)。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

発見するべくして発見した、まるで研究者の鑑のような人

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

恐竜の本を開くと、ギデオン・マンテルの有名なエピソードがのっている。妻が偶然みつけた化石の歯を、アマチュアの研究家だったマンテルがそれを大型爬虫類のものと確認し、イグアナの歯を持つ動物「イグアノドン」と名づけた。単なるアマチュアの化石好きが、幸運に恵まれて、史上初めて恐竜を発見したわけだ。しかし、以来マンテルは外科医の仕事そっちのけで化石にのめりこみ、妻に愛想をつかされ孤独の中で死を迎えることになってしまう。単なる化石愛好家が偶然によってもたらされた幸運から恐竜を発見し、しかし結果的にそれは不幸な結末へとつながってしまうという、まるで人生訓のようなこのエピソードは、実によくできている。

しかし、本書によると、このわかりやすいが陳腐ともいえるエピソードは、実際に起こった出来事の一部を曲解して捉えたものに過ぎない。マンテルが生きた時代は、科学が猛烈なスピードで発達し、地質学や古生物学がちょうど端緒についたころであった。その中にあってマンテルは、単なる愛好家や素人研究家にはまったくとどまらず、時代を牽引するような獅子奮迅の働き振りを見せていた。常に最先端の学説を取り入れ、収集した化石を鋭い観察眼で調べ、晩年にいたるまで精力的に論文を発表し、多くの人を集めて講演を行い、本を書いて一般の人に広く地質学を紹介した。それは王室を始めとして数多くの人に影響を与え、社会的にも高い評価を受けていた。本書は残された日記や論文など多くの資料をもとに、地質学に生涯を捧げたマンテルの真の姿を丹念かつ詳細に描き出している。

これまで語られてきたエピソードとは異なり、マンテルは運もけして恵まれた人ではなかったようだ。イグアノドンの化石も偶然手に入ったとは言いがたい。それ以前からマンテルは化石を収集し、熱心に地質学を学び、論文も発表していたのだから。むしろ必然といってもいいだろう。一方でマンテルは子供を病で失い、大事故に遭って背骨が曲がるほど強打し晩年まで神経痛に悩まされている。さらに、当時の有力者で学界にも大きな力を持っていたDinosaurの名付け親オーウェンからは非常に憎まれていた。本書の記述はややマンテル側に偏りすぎているような気もしないではないが、マンテルは自分の業績を捻じ曲げ否定しつづけるオーウェンに対し、ずっとフェアでいようとしつづけたようだ。そのフェアな姿勢と彼の死後も続いたオーウェンの執拗な攻撃が、あるいはいまのマンテルへの過小評価につながっているのかもしれない。大事故にも、家族との別離にも、オーウェンからの嫌がらせにもあきらめることなく、マンテルは天に召されるまで地質学の研究を続けた。それは情熱とかひたむきとかそういう言葉では言い足りないものを感じる。彼にとっては、地質学の研究はまるで呼吸をするかのようにやめようのないものだったようである。

全般的に資料に基づいて事実を淡々と積み重ねるような書き方で、けして読みやすいとはいえないけれど、宗教的な世界観や過去の遺物に足を引っ張られながらも新たな発見と考え方の進歩によって確実に次のステップへと進んでいく様子が非常によく伝わってくる。第二次産業革命を迎えようとするイギリスの熱を帯びた時代を知るのにも役立つ一冊である。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

政策転換の声を

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

小泉新内閣が発足したとき、テレビで経済政策に対する世論調査をやっていた。結果は発足前に比べて10ポイントも上がっていた。こまかい数字は忘れたけど、たしか45%ぐらいだったと思う。マスコミの世論調査はあまり信用ならないけれど、多少なりとも支持率はあがったのだろう。ちょうど直前に、株価が多少回復していたからだ。竹中大臣も「構造改革の成果が出始めた」と自画自賛している。でもそりゃむちゃな言い草だ。けっこうみんな忘れていそうなのだが、小泉政権誕生時の株価は13,700円ぐらいはあったんだから。上がったといっても、それすら戻していない。自分で猛烈に下げておいて、ちょっと回復しただけで自画自賛するんだから性質が悪いけど、それでだまされる方もちょっとどうかと思う。

それでもこのまま構造改革を続ければ、もっと株価も上がってきて本当に景気が回復する可能性があるのだろうか? ところが、もしデフレのまま本当に構造改革が進むと、デフレがより進んでしまう可能性のあることが本書では指摘されている。簡単に言うと、需要は増えないのに生産性だけ上がるので、需要と供給のギャップがより広がってしまうからだ。では、どうすればよいのか? 答えは歴史の中にあった。本書は金融政策こそがいまもっとも必要とされる政策であるということを、昭和恐慌時の経済状況と現在の状況を比較することで示したものだ。実際、当時の状況といまの状況はデフレ下での高い失業率という点以上に、まるで双子のように似通っている。当時も構造改革か金融政策かという同じ議論がなされ、政府や日銀が構造改革路線を歩み、対応が後手後手になってしまうところまで同じだ。でも、ひとつ大きな違いがある。昭和恐慌時には、金輸出再禁止と日銀の国債引受の開始(つまり積極的な金融政策)という二度にわたる大きな政策転換を経て、景気を回復させたのだが、この二つの政策転換の間には、「農村部の深刻な不況とそれに対する政府の無策に憤慨し」た青年将校によるクーデター未遂、五・一五事件という不幸な出来事があった。昭和恐慌時といまの違いは、政府が政策転換するほどの大きなショックが(幸か不幸か)ないということだ。

表題にもある通り、失業率が5%ほどのいまの「大停滞」と10%近くもあった「恐慌」とは痛みに違いがある。だから、多くの人は「自分には関係ない」とか、「物が安くなってラッキー」とか思っているかもしれない。政府に政策転換を本気で要求しないといけないほど、本当に追い詰められているのはまだ一部の人間だけなのだろう。いやひょっとしたら、本当に追い詰められていても政府を信じてがまんしているのかもしれない。株価がちょっと上がっただけで、ごまかされていてはいけない。自分が痛みを味わう前に、あるいはどうしようもないところに追い詰められる前に、さっさと政策転換を要求していかないといけない。かつて小泉首相は父親が自殺した子供たちからの自殺防止の訴えに、「今後も大変なことがあると思うけど、負けないで頑張ってほしい」と言った。まるで気持ちを汲み取っていない言葉だ。同じような子供を作って欲しくないがための訴えなのに。父親を亡くした彼らは、自分でがんばって生きていくしかないじゃないか。五・一五事件のようなことを起こさないと、政策当局者がやばいと気づかないようでは——あまりにも不幸すぎる。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本覘き小平次

2002/10/05 15:29

小平次萌え(笑)

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

正直に書く。これまでの京極作品と比較して、それほどよいできとは思わない。また、あまり怖いとも面白いとも思わなかった。にもかかわらず、僕はこの作品が好きだ。

怖いと思わなかったのには、いくつか理由がある。僕はいままでの京極作品のほとんどを網羅している。京極がどのようなスタイルで作品を書くか、おおまかなところはわかってしまっている。その結果、不幸にも僕は素直に作品を読めなくなってしまった。作品世界につかる前に、どういう構造か無意識に読み取ろうとしてしまうのだ。これが第一の理由。

第二の理由は、僕が他の誰でもなく小平次に感情移入してしまったからだ。僕には小平次の気持ちが痛いほど−−とまでは言わなくても、結構よくわかる。その結果、怖くなくなってしまった。小平次がどういう人間で、どういう役割を担うかは読んでもらって確認してほしい。そうすれば、僕の言っている意味はわかってもらえると思う。でも意外と、僕のような人は多いんじゃないだろうか。

最初に面白いとか、怖いとかは思わなかったと書いた。結末の処理の仕方や後半のそこにいたるプロセスは僕は決して好きではない。読み終わってすっきりしない点も残っている。でもそんなことに関係なく、僕はこの作品が好きだ。それは、小平次というどうしようもない男をこうまで魅力的に(と思うのは僕だけかもしれないが)描いているからである。

最後に忠告を。もととなっているのは、山東京伝の『復讐奇談 安積沼』である。webででも読めるが、本作を読み終わってから、もとがどんな話なのか確認したほうがよい。ネタバレになる部分が多いので要注意。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

紙の本深くておいしい小説の書き方

2003/01/28 23:27

「単なるバカ」にはまずお薦め、でも「ヘンタイ」には…

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

初めに断っておくと、ここで言う「ヘンタイ」は小説を書く人で「単なるバカ」は書かない人のことである。筆者は冒頭でそういう区分けをしているので、その流儀に従ってここでも同じように(一応かぎカッコつきで)呼ぶことにした。

基本的にこれは「ヘンタイ」用に書かれているが、「単なるバカ」にも十分にお薦めだ。「単なるバカ」は文学がとっつきにくくて理解しがたいものと思っているかもしれない。僕もそう思っていて、その理由は僕が高校の現代国語の授業で判明した。僕は大学時代を含めて、16年(浪人も含めると17年間!)も教育を受けてきたのだけれど、悲しいかなほとんどの授業で何をしていたのか覚えていない。そんな中で唯一、いまでも強い衝撃を思い出せる授業がある。高校のときに現代国語でやった『舞姫』の授業だ。小学校から国語の授業というのは、漢字と文法を覚える以外は何のためにやっているのかさっぱりわからないものだった。だが、『舞姫』の授業は違った。歴史的背景の把握から始まり(そのこと自体が驚きだった)、『舞姫』が書かれた意義まで解説しきったその授業は、「これが『舞姫』に関するもっとも新しい解釈です」という格好のよい締めで終わった。僕はそのとき初めて、文学がもつ深さと面白さに触れたのだ。しかし、同時に他の文学を読んでわかるにはどうもかなり教養が必要だということもわかってしまったのである。めんどくさがりの僕には、これは避けるに十二分すぎる理由だった。僕の文学に対する理解は、それっきり深まらなかった。

だが、実はもうひとつ文学を楽しんで読む方法があった。『舞姫』がわかったのは、先生の導きがあったからだ。だったら、あらかじめ、どこが面白いのか解説してもらえばよいのである。本書はドストエフスキーの大作『罪と罰』を小説の書き方の題材としてとりあげ、どこがどんな風に面白いのかわかりやすく、詳しく解説している。『罪と罰』を読んでつまらなかった人も、まだ読んでいない人も、これを読めば楽しめるようになるはずだ。そんなわけで、この本は「単なるバカ」で文学がいまいち楽しめない人、つまり大多数の「単なるバカ」にも十分お薦めなのである。

では、「ヘンタイ」にはどうなのだろう。僕もたくわんのヘタ程度の「ヘンタイ」の端くれなので「ヘンタイ」の悩みもある程度わかっているつもりだ。その経験から考えると、「ヘンタイ」初心者または「ヘンタイ」志願者にはあまりお薦めしない。なぜなら、初めのうちはまず「書くこと」が重要だからである。書く前からこれを読むと、考えすぎて書けなくなる可能性が高い。どうしても何か指針が欲しい人は、幸いにしてこの前の講義録『天気の良い日は小説を書こう』がある。それだけを読んでとにかく書いてみることが大事だ。その上で何本か書いてみて壁にぶつかった人には、非常に示唆に富んだ内容になっている。

つまり、この本は大多数の「単なるバカ」と悩める「ヘンタイ」にお薦めな本なのである。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

紙の本

「呪い」に関する一般向けの良書

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

古くから日本人の心に根付いた「呪い」を幅広く紹介する一般向けの良書。呪いがその実効性を恐れる人の心によってバブル的に膨らみ、際限なく広がっていく奈良・平安の呪詛合戦や、呪禁道、陰陽道、密教と発達していく呪いのテクノロジー、またいまでも行われている丑の刻参りの方法の変遷など、興味深い話題が丁寧にわかりやすく解説されている。また、著者のライフワークともいえる現代に残る呪い信仰「いざなぎ流」にも簡単に触れられているので、より専門的な『憑霊信仰論』の入門書としてもお薦め。

このレビューは役に立ちましたか? はい いいえ

報告する

15 件中 1 件~ 15 件を表示
×

hontoからおトクな情報をお届けします!

割引きクーポンや人気の特集ページ、ほしい本の値下げ情報などをプッシュ通知でいち早くお届けします。