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  3. KAZUさんのレビュー一覧

KAZUさんのレビュー一覧

投稿者:KAZU

74 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

流動性と市場価値

12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

ここオーストラリアでもそうだが、多くの先進国では(あるいは資本主義の西洋の国々では?)、「流動性」と「市場価値」が重要であるようだ。住宅も、中古市場が8割以上、新築はあまりない。労働者もほとんどが転職で、新卒採用という概念さえあまり聞かない。

日本では中古住宅の市場価値が不当に低く、また新卒者以外の労働者の「市場価値」も不当に低い。そういうふうに海外に住んでいると感じるのである。その点を改善してよりよい日本にしていこう!ということであれば、著者の文科省批判もある程度なっとくできるのであるが・・・私には、これも日本独特の甘えというか、温さ(ぬるさ)を感じてしまうのである。

高学歴ワーキングプアとは、すなわち博士号取得者の「市場価値」が日本国内で不当に低い、という問題なのであろう。日本の企業が博士号取得者の「市場価値」を正当に評価していない、ということであろう。であるならば、不動産と違って、労働、とくに研究者は国内が相手ではなく、海外、もしくは世界で勝負するものであるから、博士号を取得した研究者は国内での職がないなどと嘆く前に、どんどん「海外流出」すればよいのではないか?

しかし、ここで少し意地悪な意見を言わせてもらうならば、それらポスドクは海外ではほとんどサバイブできないであろう。もしくは、海外で職を得る切符を手にする事さえ大半が無理であろう。日本国内よりも、海外はより厳しい競争が待ち構えているのである。そして、それが世界標準である。そのとき、誰を批判しても恨んでも、あまり意味のあることではない。

本書を読んでも残念ながら、「日本を良くして行こう」という前向きな姿勢を感じることができない。

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紙の本

紙の本三四郎 改版

2009/06/13 22:17

寺田寅彦の役割

12人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

最近、最新鋭のシンクロトロン放射光施設でX線回折実験をやっている。そもそもX線回折の始まりはどうなっていたのだろう?という興味から、昔の論文を読んでみた。1913年のネイチャー4月号に寺田寅彦のX線回折に関する論文がある。残念なことに、1913年のネイチャー1月号には、オーストラリア出身のブラッグ博士のX線回折の論文が掲載されており、しかも論文のタイトルは一字一句寺田寅彦のものと同じである。当時の地理的状況からして(ブラッグ博士は英国キャベンディッシュ、一方の寺田寅彦は、極東の日本である)惜しくもノーベル賞はブラッグ博士の手に渡ってしまった。3ヶ月の差である。

この小説で主人公の三四郎に大きな影響を与える野々宮さんは、X線回折の生みの親、寺田寅彦がモデルとなっていることは有名な話である。当時の実験の雰囲気や、研究環境などに興味があり、そんな理由でまたこの三四郎を読み直してしまった。何度も読んでいても、毎回新たな発見がある点、やはり夏目漱石、そして三四郎は名著なのだろう。

外国人講師ではなく、日本人の講師を東大もそろそろ考えなければならないのではないか?廣田先生を推す根拠となる、このような機運が当時の日本には興ってきていたのだということと、先にあげた寺田寅彦のX線回折の発見、それは世界最先端の英国キャベンディッシュに拮抗するだけの力、そして気運が当時の日本にあったのだと言うことが物語の背景にあることは、今回の三四郎を読んでの新たな発見であった。

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紙の本

旨い日本酒にめざめる

10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

著者の日本酒と日本料理に関して追求をする姿勢は、なんだか凄く身近に感じられた。それもそのはず、著者は僕と同じようなフィールドの科学技術系の研究者であり、極めて科学的説得力を持って日本酒を研究(?)しているわけである。
本書は、名古屋で知る人ぞ知る会席料理店「京加茂」のご主人に、日本に帰国して邪魔した際に頂いた(本書の中に「京加茂」は日本酒の合うオススメ料理屋として紹介されている)。「京加茂」さんの料理は今までの人生で食べたことがないほどの感動を僕に与えてくれたわけであるが、僕は全くの下戸。料理に日本酒はたのまなかった。そして、本書をその後読んで、そのことに強烈に後悔することになるのである。
アルコールを混ぜない昔ながらの日本酒を燗をつけて飲む。それにマッチした日本料理で、「あー日本人に生まれてよかった」と思わず独り言を言ってしまうほどの力が日本酒にはあるのである。
早速オーストラリアに戻る直前に、本書で紹介されているお酒、もしくはアルコール分の入っていないお酒を買い、オーストラリアへと持って帰ってきた。今はそれら日本酒を燗で夕食時に飲んでいる。下戸だったはずの僕でも楽しく美味しく日本酒とオーストラリアの食材でつくった日本料理を楽しんでいる。僕の日本酒に対する概念が完全に覆ってしまった。
昔、造り酒屋さんで単純に日本酒のアルコール度数を知りたくて、「この日本酒にアルコールはどれぐらい入っているのですか?」と聞いたことが有る。そしたら、「な、なに!うちの酒にはアルコールなど入れてないよ」と怒られた記憶がよみがえった。完全なる誤解であったが、醸造用アルコールを入れることは日本酒の本来の旨さをなくしてしまうことだと本書を読んでようやく理解できたわけである。そして、そのときの店主が僕の質問を勘違いして怒った理由もである。

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紙の本

ダイソンの掃除機

10人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

最近、ずっと欲しかった、あのダイソン社の掃除機をようやく手に入れた。ダイソンの回し者ではないが、ダイソンの掃除機は、サイクロン技術と吸引力が落ちないノンフィルター技術(左脳的理論思考)に、奇抜な未来的デザインとゴミの集まりが見えるという遊び心(右脳的思考)のバランスが素晴らしく、研究者である僕の心を虜にしている。もちろん昔から掃除は僕の役割であるが・・・
さて、訳者の大前研一氏いわく本書「ハイコンセプト」は「これからの日本人にとって必読の教則本」だそうである。
本書は一見易しい例え話のみで構成されていて、右脳のみを使って「感覚的に読める」(つまり理論的に読む必要のない)。しかし、この本は今まで読んだことがなかったような、難解な、読むのに骨の折れる本だと強く感じるのである。
そもそも左脳を使った理論思考というのは、訳者の大前氏の「企業参謀」から脈々と続く、ビジネスで成功するための必須事項であり、その訓練、習得さえ覚束ないのが現実であろう。しかし、これからのインビジブル、ボーダレス、マルチプルな社会では、左脳(理論思考)に加え、右脳による6つのセンスが必須だというのである。
ここで大切なのは、左脳的思考を習得している人のみ、右脳的思考が活きてくるという点である。もともと左脳的思考が出来ない人々には、右脳的思考のみでは意味がないということを忘れてはならないのである。
よって、本書は、一見左脳的思考が出来ない人への福音書に見えて、その実、実に敷居の高い、そして残酷な書なのかもしれない。左脳的技術の上に、右脳的遊びを取り入れて大成功したダイソンの掃除機をかけながら、そのように思うのである。

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紙の本

紙の本楽園のしっぽ

2005/10/01 17:55

自然から教えてもらうこと

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今、シンガポールのチャンギ空港からインターネットにアクセスして本書の書評を書いている。二週間の日本滞在を終え、福岡からオーストラリアのブリスベンへ戻る途中なのである。福岡からのフライト中、本書を読み終え、感情が高まっているうちに書評を書いておきたかった、というのはかっこよすぎる理由であるが、一度ユビキタスを試してみたかったということもある。海外移動中に書評を投稿するのは、bk1初ではないか?などと思ったりもしている。
さて、日本滞在中は、数ヶ月まえから房総の実家に滞在している連れ合いと娘と合流し、愛知万博を含めた日本国内旅行を満喫する予定であった。しかし、僕と息子の出発直前、連れ合いは(村山由佳さんと同じく)右足首を骨折してしまい、全ての旅程の大幅変更を余儀なくされた。房総滞在中は、連れ合いを置いて娘と二人、連れ合いの卒業した鴨川の高校、鴨川の海岸や白い灯台まで散策した。それらは村山由佳さんの多くの小説の舞台となっている「なつかしい」場所なのである。
そもそも本エッセーの根底を流れる自然とのふれあい、生活、そして人生を楽しく生きる哲学を実践したくて(移住当時は村山由佳さんの著作を知らなかったけど)、僕ら家族はオーストラリアに移住したのである。しかし、日々の生活に流され、最も重要なことを置き忘れてきたということを本書は優しく教えてくれるのである。いや、本書だけではなく、村山由佳さんの作品すべてに通じるメッセージは僕にとって、とっても重要なものであるのだ、ということを再認識させてくれるのである。
ブリスベンに戻る明日から、早速裏庭を耕そう・・・などと思っているのである。

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紙の本

紙の本永遠。

2006/12/30 20:22

水族館で娘と交わした会話

8人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今年最後の書評は、昨年と同じく村山由佳さんの作品である。「おいコー」もウエブ上で再開し、NHKのラジオも聴いた。そして、実家で撮っておいてもらった村山さん出演のTV番組も観た。そしてそして、数日前まで連れ合いの実家である千葉県のK市にもいた。そう、オーストラリアに移住後、8年目にして初めての日本での年越しである。(「天使の卵」の上映期間は、帰国時には終了していたことだけが残念である。)
【目の前を、カツオが群をなして泳いでいく。「刺身にするとうまいやろうねぇ。」】、これ、先月久々の家族旅行で訪れたメルボルンの水族館で娘と交わした会話である。幸い僕と娘の関係は極めて良好。この物語のような悲しく切ない関係とは程遠いのもであるが・・・やはり村山由佳さんの作品のこと、さすがに感情移入して物語に深く入り込んでしまった。
村山さんと同じく僕も「永遠」、という言葉を信じてはいないが、永遠という時間が微分された一瞬一瞬、その一瞬を大切に生きていくことの重要さを再認識させてもらえた本書であった。その一瞬一瞬の積分が永遠というのであれば、「一瞬の輝きを信じて一生を生きることもできる」というわけである。来年は、忙しくなりそうな予感。そうだ、来年の目標は「一瞬を大切に生きる」としよう。

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紙の本

紙の本天使の卵

2013/02/12 20:19

不思議な体験

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2004年3月26日金曜日、それはオーストラリアからの10日間の限られた帰国中。練馬区の大泉学園駅近くの企業を訪問し、その後成田から出国する予定であった。

午前7時50分、東京へ向かう新幹線の中で僕は文庫本「天使の卵」のページをめくった。「天使の卵」を手に取ったのは、新幹線での移動時に程よい厚さの本であるし、村山氏の処女作である本書にも目を通しておきたいという、単純なものだった。

そして、初めの数ページをめくり、唖然とした。「3月26日金曜日午前7時50分」。物語は「大泉学園駅」での出会いから発展していくのである。

いくら何十万人の読者がいようと、物語の始まる日時ぴったりに、しかもその実際の物語が展開される舞台に向かいながら本書を読み進める読者は、恐らく世界中に僕一人であろう。新幹線の中で涙しながら「天使の卵」を読み終えた後、大泉学園駅に降り立った自分は、すでに現実の世界と物語の世界が頭の中で交錯していた。

残念ながら、僕には物語に出てくるような運命的な出会いは訪れなかった。だけれども、当初大泉学園駅からタクシーで訪問先の企業へ行く予定を変更し、少し肌寒い春の町を歩くこととした。そして、小説の舞台である駅から(主人公たちの通った高校の近くに)実在する企業まで小一時間散策を楽しむことができた。細い路地や駅前の料理屋、学校、病院などの風景は、初めて訪れる町とは思えない懐かしさ。

なんとも不思議な、極めて個人的な体験だった。

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紙の本

僕の思想の原点

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

なっ、中川昭一(自民党政務調査会長)氏が目の前にいる。ななんと、僕の20cm隣に下村博文副官房長官)氏が・・・2007年3月28日(水)、豪から一時帰国中の僕は一体、今日本で何をしているのだろう?

話は、20年以上前に遡る。本著、阿比留のブログの著者、阿比留瑠比氏は高校時代の所属していた新聞部の一年先輩であり、高校時代の二年間、僕は先輩に文章のイロハを教わった。いや、思い出した。阿比留先輩の当時からのあまりの凄さに、僕自身は文系進学を諦め、原子力工学という理系最右翼(?)の道に進んだのであった。

それから20年余、阿比留先輩が産経新聞で活躍していたことは、小林よしのり氏の漫画の中での登場や、産経新聞の紙面で知っていた。そんな折、昨年産経新聞が記者ブログを立ち上げ、その中に阿比留先輩のブログを見つけることとなった。先輩はブログ登場と同時に超人気記者となり、今回そのブログが出版されることとなったのである。先輩は、高校時代からもそうであったが、理系的理論構築の凄さと人間味溢れる文章、そしてその軸が絶対にぶれない強さを持ち合わせている。そのことが、ブログが炎上せずに常に人気を博しているゆえんであろう。

そのブログ出版記念パーティで、ブロガーも抽選で参加できることを知り、応募していた。村山由佳著「天使の卵」での偶然を昔書評に書いた記憶があるが、またしても10日間という短い帰国時に奇跡は起こった。偶然一日だけ予定が空いていた東京滞在3日間のうちの一日、3月28日(水)夜に、出版パーティの抽選に当たってしまったのだ(当選は前日夜にメールで知らされた)。20年ぶりにお会いした阿比留先輩は、横に広くなられていた以外、高校時代の雰囲気そのままで、再開した瞬間に20年ぶりだとは思えない気分となった。僕の思想の原点、そして高校時代の思い出とともに、楽しく不思議な一晩のパーティを過ごしたのであった。

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紙の本

紙の本バルサの食卓

2011/02/26 20:06

上橋ファンタジー発想の裏話

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

オーストラリア関係書籍の蒐集の関係で、上橋菜穂子さんのアボリジニー関係の書籍は所持しており、拝読もしていた。しかし、最近まで上橋さんが超有名ファンタジー作家であることをしらず、しかもその著作を読んだことがなかった。

現在、獣の奏者と精霊の守り人を読んで、まるでアリスの活劇版を観ているようで、それでいてアジアの独特の雰囲気もあり、オーストラリア関係とは関係なくのめり込んでいった。主人公達のとる行動やその裏にある思考は、自然科学を観る目そのもので、非常に楽しい。

本著は、それぞれの物語で登場する料理を、南極料理人の西村さん率いるチーム北海道の方々が再現するといった企画である。上橋さんの各料理に関するコメント部分は、ファンタジーの発想の裏話的な感じで、面白い。そのほとんどの料理の発想が、オーストラリアでのアボリジニ関係のフィールドワークの時のものであることも、大変趣き深い。カリカリのトーストと蜂蜜、バター、西洋おかゆ、エミュー肉など、私も上橋さんと同じような感動体験をして、現在に至っている。

一方、現在読書中の「狐笛のかなた」は胡桃餅とあぶり餅。これは、大宰府の梅が枝餅と長野のおたべの両方をイメージさせるもので、両方とも私と私の連れ合いに深いつながりがある。オーストラリア在住12年目にして、ちょっとだけ里心がついている。

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紙の本

紙の本論文捏造

2007/04/15 18:51

科学の進歩に寄与するものは・・・

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今年の年始、2007年1月4日のネイチャーの表紙は、タイタンの湖の発見の写真が大々的に飾られ、科学雑誌最高峰のネイチャーらしき年の始まりであった。実は、同じ号に私の上司と博士課程の学生の二人の名前で論文が載った。金属の凝固学では実に1960年代以来のネイチャー論文掲載で、我ら学部は年明けそうそうもうお祭り騒ぎである。残念ながらこの論文には私の名前は載っていない。もちろん同じ研究グループであるから、実験の手伝いなどは行っているが・・・

研究は、よく言われることであるが、研究者への性善説、そして無報酬の査読システムに支えられているし、論文が掲載されたからといって、その内容が自然科学的に確定した真実であるわけではない。ある種の「叩き台」として科学の進歩に貢献しているに過ぎないはずである。論文は、(1)要旨、(2)背景、(3)実験手法、(4)実験結果、(5)考察、(6)結論、(7)参考文献、により成り立っているのが一般である。そのうち、(5)の考察こそが科学者の腕の振るいどころであり、そこを色々と考えることが科学者冥利に尽きる点でもある。しかし、世界最高峰といわれるそれら雑誌は、2ページ〜4ページの長さで、(4)の結果さえセンセーショナルでありさえすれば良いような風潮にあったと思う。そして、そこに、科学を出世や営利目的の土台で「測定」するメディアの目が確実に存在する。最近話題になる、サイエンスコミュニケーション、一般人へわかりやすく科学を説明する、また、サイエンスリタラシーなど、確かに大切なことだとは思うが、それらは元々科学とは相容れないものがあると感じるのである。そこには、科学では白黒つかないものを強引にわかり易く白黒つけてしまうマスコミを始めとした「サイエンスコミュニケーター」の落とし穴が潜んでいるのではないだろうか?

本著にもあるように、ネイチャーやサイエンス誌は、その科学雑誌最高峰である「責任」が強く求められている。私の上司と博士課程の学生は、ネイチャーへの投稿後半年以上もの時間を、編集者や査読者との議論で過したようである。論文そのものは4ページであるが、その「証拠」として公開されているデータは実に40ページにも及ぶ(それらも読者は閲覧できる)。そして、著者の役割が明確に示され、たとえ同じグループだから、少し実験を手伝ったから、ということでは、共著者にはなれない。本著では科学雑誌の役割についてかなりきつい批判がなされている。そのことを受けてかどうか定かではないが、その後、それら雑誌にはかなりの進展があったように感じる。一方、メディアやサイエンスコミュニケーターには、あの事件後、科学をより良くするための進展はあったのであろうか?それとも、単なる科学、科学者、科学雑誌批判、問題提起で満足しているのであろうか?

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紙の本

紙の本理科系の作文技術

2003/05/12 23:53

研究者としてやっていくノウハウの全て

6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作文が苦手な理科系の方は意外に多いように思う。それは、普段の実験で実践している思考方法、ロジスティックな頭の中身を文章にするときに、ついつい見せかけを良くしようという下心が芽生え、文学的表現を試みるために起こる悲劇だと思う。何の事はない、普段の思考をそのまま簡単に、わかりやすく、着飾らない言葉で短く表現すれば、それが最上の作文になるのである。

研究者の文章作成のノウハウ本としてはバイブルと言われている本書を、私自身は職業研究者になってのちに読んだ。大学卒業後2年してからのことである。その後、本書は文字通り私にとっての文書作成のバイブルとなった。大学時代に読んでおけばよかった、願わくば授業で本書を使った「理科系の作文技術」なる講義があればよかったのに、とずっと感じている。

本書に足りないもの。それはインターネットに関連した事項、たとえば、e-mailやPowerPointを利用したプレゼンの仕方の類である。しかし、その基礎となる事項はすでに本書の中に、手紙の書き方や学会講演の要領として詳しく書かれており、それを現代風に応用すれば済むことである。

まさにこの一冊で、職業研究者としてやっていくノウハウの全て −研究立案から論文発表まで− を得ることが出来る。1981年に出版された噂のバイブルはその版を重ねて現在も出版されている。その事実が本書が「本物」であることの証明となると思う。

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紙の本

人生選択の自由

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本書の発売日は2005年8月18日。明日である。そして僕はまだ発売されていない本の書評を書こうとしている。

自らがオーストラリアに移住して、海外書き人クラブを主幹し、インターネットを駆使して世界中をリアルタイムで結ぶ「ボータレス出版」の新境地を開いた柳沢氏。そんな氏による、働き盛り30代サラリーマンのための海外移住指南書である。

移住時の葛藤や移住後の喜怒哀楽を記した体験本は世の中に多数存在する。特に、自費出版という形のものも含めれば、あるいはウエブ上のものも含めれば、なおさらその数は増す。しかし、それらは読者からすれば、単なる一事例に過ぎず、読み物として面白い・・・という段階で終わりである。一方、ある特定の都市や国への移住一般を取り扱ったガイドブックも多数存在している。それらは確かに「便利」ではあるが、読者の心に影響を与えたり、感動を与えたりするものではない。

本書は、そんな個人個人のディーテールに特化した体験オンリー本や、広く薄い一国(あるいは一都市)に特化した情報本でない。

本書は、その両方を取り入れた、そしてその両方の掛け算をしたような、極めてユニークな本なのである。それは、内容の3分の2を占める柳沢氏自身の移住体験からくる移住者(あるいは移住予備軍の)心理描写の普遍化と移住のノウハウ、そして内容の3分の1を占める様々な国に散らばる海外書き人クラブの方々が取材した15人の海外移住者へのインタビュー、その二つが絶妙なバランスで配置されていることによる。つまり、総論と各論のバランスの良さは、今までにない「ボーダレス出版」の賜物であると言える。

漠然と「移住したいなぁ」と思っている読者に具体的なイメージを与え、移住の決意を既にしている読者には最後の一押しの勇気を与えてくれるわけである。もちろん想定読者は30代の家族を持ったサラリーマンであろうが、案外、会社のエースである30代の幹部候補者に「海外に移住するので会社を辞めます」と言われ、「い、一体なにが起こったのか?」と慌てている人事部の方、あるいは上司の方々にもオススメかもしれない。この本により「サラリーマンを辞める」側の心理が把握できるからである。

冒頭の「僕はまだ発売されていない本の書評を書こうとしている。」という部分の種明かしを。この本に登場する「15人の海外移住者体験談」の筆頭は、この僕である。そして、この本が出版される数日前に、著者の柳沢氏がサッカーの試合の帰りに本書を我が家に届けてくれたのである。

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紙の本

2006年初めの書評は、【からだによければ地球によい】

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

実は、魚柄仁之助氏の著作はほぼすべて所持しているし、読んでいる。エッセーとして面白く、全ての著作は読むに値するのであるが・・・実際に三度の食事を作るわが身としては、参考書はどれか一冊で十分ともいえる。
辞書的な使い方としては、「ひと月9000円の快適食生活」と「1年間10万円 つくる、食べる、もてなす365日全記録」を参考に、そして、行き詰った時には本書「うおつか流清貧の食卓」をふと読み返しているのである。
本書はかなり初期のころの作品で、まだ魚柄氏が有名(?)になる前のものであり、しかも北九州弁を使用していない。しかし、氏の基本的な食に関する考え方や、影響を受けたと思われる書籍の数々が参考文献として掲載されている点、まさに魚柄氏のオリジナリティを色濃く示した内容となっている。
経済原理にも則った、シンプルかつおいしい日本食。今年は、昨年よりもさらに楽しく食事を作って行こう!それも僕の今年の目標である。

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紙の本

紙の本脳視ドクター・トムの挑戦

2005/12/18 21:10

君たちはどう生きるか

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

脳の働きを知ること、それは現在の科学で最も注目されている分野の一つであることは間違いないであろう。「こころ」が何なのかを明らかにするという哲学にも通じる究極の学問でもあるし、右脳と左脳の使い分けによるビジネスへの応用など(大前研一氏の最近の著作)、その応用例の裾野は限りなく広い。
本書は、脳機能研究の最先端を行く主人公の中田力教授の医者として、そして研究者としての生き様を、「君たちはどう生きるか」という問いかけを通じて克明に記録した伝記である。人間の「こころ」の謎に迫るため、アメリカへ研修医として渡航し、そして様々な経験を積んでいく姿には感銘を受る。そして、ついには脳の働きを可視化する装置を開発し、医学、理学、工学の分野で長けた人材をひきつけ、「こころ」の謎の解明へと最高のスタッフと共に突き進んでいくのである。
中田教授が採択されたCOE、センターオブエクセレンス。中核的研究拠点として政府が特定分野の研究の後押しをしてくれる制度である。その制度は、ここオーストラリアでも実施されている。僕は、そのCOEの一つ、軽金属の研究プロジェクトのシニアリサーチフェロー(上級研究員)として来年から採用されることになった。主人公の中田教授の生き様は、(程度の差はあるが)海外で研究をしている僕にとって刺激的かつ示唆に富むものである。
語り部は、科学技術関係のジャーナリストして著名な、中野不二男氏。中野氏の視点は、その原点でもある著作「カウラの突撃ラッパ」(日本ノンフィクション賞受賞)でも見られるとおり、妥協を許さない理論と実証に基づく緻密な事実の再構築。そしてその裏にある人間の心理状態の描写の凄さにある。
なお、本書は、その出版直後に中野不二男氏から直接頂いた。中野氏のファンでもある僕にとってこれほど嬉しく、ありがたいことはないと、氏への感謝の気持ちでいっぱいである。

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紙の本

テーマパークとパーマカルチャー

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

僕はテーマパークが大嫌いである。そんな僕はこの書評を書いている現在、テーマパークの大御所とも言えるフロリダ州のオーランド・ディズニーワールドに滞在している。ここに滞在中、地球の気候の変調のせいか、ここフロリダやアラバマでも竜巻が起こり、北米は雪ふぶきである。地球はおかしくなっているのか、それとも単に気象の変動の誤差範囲内であるのか・・・

さて、オーストラリアからロス経由でフロリダに来る機内で、この本を読んだ。前回の著作「オーストラリア楽農パラダイス」から更にパーマカルチャーに関してタナカ氏の見識、体験度が深まり、その分、氏の悩みも随分増しているように感じる。僕の居るクイーンズランド州のパーマカルチャーの発信基地であるクリスタルウォーターズには訪れていないが、タスマニア、ビクトリアを中心としたエコビレッジの体験ルポは圧巻である。

僕は工学研究を通じて(水素吸蔵合金や、軽金属、そして鉛を含まないハンダの研究など)持続可能社会の実現に貢献しようと考えているし、ある程度は貢献してきたと自負している。しかし、タナカ氏も感じているように、地球環境に与えるエネルギー収支を考えてみると、自分がやってきたことへの自信が揺らぐのである。人間としての営みと持続可能社会の実現とはなかなか相容れないものがあるのである。たとえパーマカルチャーを実現しても、である。

話は冒頭に戻る。ここディズニーワールドに来ているのは、米国の金属工学のとある学術学会出席のためである。数十年前までは湿地帯であったここオーランドの自然環境を著しく破壊して突如100万都市として出現したオーランドと巨大テーマパーク。その会場で僕は、持続可能社会の実現に貢献すべく、その研究成果を膨大なエネルギーを消費しながら発表するのである。少なくとも僕が使ったエネルギー以上に僕の研究成果が将来のエネルギー消費を抑えられる、と自分に言い聞かせながら。

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