アユムさんのレビュー一覧
投稿者:アユム
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女生徒
2001/07/28 08:34
狂気という名の“本日晴天”
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僕は、写真という表現形態にほとんど、興味がない。
だから大学時代、周りの人間のなかで、ちょっとした写真ブームになった時期があって、友達がカメラと魚眼レンズを保存するために冷蔵庫みたいな、バカ高い保存ケースを買ったりした時は、当然カメラを隠して、缶チューハイを敷き詰めたりして、本気で怒られた。
でも何かの雑誌の巻頭カラーで、佐内正史の写真を見たとき、ページをめくる手が、かなりの間止まったのを憶えている。
「静かな気分のまま、狂っていく。しかも冷静にそれを、みてる。本日晴天。」
そんな風に僕は感じた。それは、日傘をさしたおばちゃんが、団地のような場所をただ歩いている写真だった。僕は時々、その写真を見返しては「この、いっちゃった感じは、なんなんだろう?」と考えたりした。そして、その写真を見るたびに、後頭部に軽い日射を受け、徐々に過去の記憶が薄くなって、瞬間の“意識”が鋭利になってゆくのを感じた。そしてその感覚は、悪くない感覚だった。
その後、彼の写真は音楽誌等で、目にする事があったけど、そのとき感じたような、強烈な感じはあまりなかった。最初に観た写真は、写真集に収められる予定の作品であったので、彼の作家性がストレートに表現されていたんだろうと、僕は想像したけれど、その写真が載った写真集は気が付けば絶版になってしまっていた。
そして、僕は転勤になった店(本屋さんなんです)の棚の片隅にターン(返品)される寸前のこの本を見つけた。そして、その中の写真は、あの日僕が感じた、“あの感覚”に満ちていた。僕は迷わず多くの、本を愛する貧乏書店員が持つと言われる、「マイストック」にその本を放り込むと、ささやかな給料日を待たずして購入した。
本というのは、たぶんこんな本のことを言うんだ。シンプルで上品な装幀、何度も手に取りたくなる素材感、そしてお気に入りの表現者と、特別な“感情”。
すべて、読み終えてから写真だけをパラパラと、追っていたら、彼の魔法は“緑”に関わってるのかなぁ、と少し感じた。少なくても僕にとっては。
最後に太宰の、この作品について少しだけ。
「あさ、目を覚ますときの気持ちは、面白い。」
この言葉から、物語はスタートする。
素敵じゃないか。
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