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  3. つきこさんのレビュー一覧

つきこさんのレビュー一覧

投稿者:つきこ

53 件中 16 件~ 30 件を表示

紙の本夜のピクニック

2004/08/17 14:44

みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにどうしてこんなに面白いんだろう

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。本書はその一夜に起こる出来ごとの物語。
『みんなで、夜歩く。どうして、それだけのことがこんなに特別なんだろうね』とは登場人物の一人のセリフだが、面白いにきまってんじゃん!! たくさんの同世代、しかもお年頃の男女が一緒に一晩過ごす!
そんな三十路を過ぎた女から見て楽し過ぎるシュチエーションに加え、過去に泣くほど辛いマラソン大会や遠泳大会の記憶を持つ人はあんな過酷な体験も、しといてよかったーと初めて思えるかもしれません。
高校生達のディティールがいいんですよ。また。誰と一緒に歩くとか、この際の告白タイムとか、保護者の炊き出し(?)のシーンとか。
そうそう、こんなことあったよね、とか。こういう奴いたよな、とか忘れていたような自身の記憶をオーバーラップさせながら読む。
もちろん、恩田陸のことですからノスタルジーを刺激するだけでなくちゃんと物語としての面白さも用意しています。
小出しにされる謎その1、謎その2、読み進むと最後にはあっ!という驚きが。こんなのありっ!?
「六番目の小夜子」のあのシーンにドキドキした人ならきっと楽しめます。
ただ歩くだけの話と馬鹿にしてはいけない。どうせノスタルジーなんでしょ、と斜に構えてもいけない。活字でこれだけのドキドキを体感させてくれるなんてめったにない経験です。あー読書って楽しいーと読み終わって心からそう思える本です。

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紙の本800

2005/03/29 21:48

素晴らしい青春小説?いえいえ、これはスポーツ小説の傑作ではないでしょうか。

1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 優れたスポーツ小説の条件の第一は、読み終わった後そのスポーツをやってみてもいいような気にさせることではないだろうか。
 私はこの本を読み終えた後なんだか無性に走りたくなった。ものの5分でへばってギブアップするのが分かっていてもとにかく走りたくなる。
 それくらい走ることの楽しさ、気持ち良さがストレートに伝わってきた。

 400メートルトラックを2周、陸上競技の中でもマイナーな800メートルを題材にした本書には二人のTWO LAP RUNNERSが登場し、主人公の二人が一人称で交互に語る形式で物語はすすんでいく。
 性格、育った環境、所属する陸上部の雰囲気や人間関係、女の子との付き合い方、何もかも全てが正反対、どちらも典型的なスポーツマンとは言い難い二人を主人公に据えたところも秀逸なら、彼らを取り巻く人々との奔放なおよそ“らしくない”高校生の日々を描きつつ800メートルの面白さを存分に体感させる著者の筆力には感心する。

 「ノンストップ青春小説」と銘打たれているが私としてはスポーツ小説の傑作としてお薦めしたい。
 彼らは決して陸上一筋というわけではなくて、女の子と楽しく遊んでみたり遊ばれてみたり、時には恋に悩まされ、家庭の問題にも巻き込まれたりとそれなりに色々な物に取り囲まれている。その辺りを、“青春を描いた”とするにはちと物足りない。
 こういうのもありかもね、とは思うもののそれ以上の何かを私は感じることはなかった。
 だがここで描かれた800メートルというスポーツの魅力、そのスポーツに魅せられた彼らの姿はとびきり魅力的だ。
 彼らの中ではきっと走ることとそれ以外のことは等分ではないのだろう。
 結局のところエピソードの全てもクライマックスを盛り上げるための伏線でしかない。
 彼らを取り巻く様々なことを経てたどり着くラスト。
 何から何までとにかく対照的な彼らだが、TWO LAP RUNNERとして走る遺伝子を持って生まれたことは間違いない。
 そう感じさせてくれるラストに胸が熱くなる。

もちろん青春なのかスポーツなのか分けて考えるのは愚かしい。どちらにせよ傑作であることには違いないのだから。

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紙の本ヒートアイランド

2004/08/31 13:12

これから彼らはどう生きて、どんな大人になるのだろう

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

読後、物語が完結しているにも関わらず小説の主人公達のその後が気になってしょうがないことがある。彼と彼はまた会うことがあるのだろうか、またその時彼と彼等の関係はどうなっているんだろうか、その時彼はどんな選択をしているんだろうか、etc.etc...
 ヤクザが経営するある非合法カジノから大金が強奪される。強奪したのは裏金などのヤバい筋の強奪を専門とするプロフェッショナル。しかし強奪された大金の一部が渋谷のストリートギャング・アキとカオルの手に渡る。
 そこからアキとカオルのストリートギャング、失ってしまった金の行方を追うプロフェッショナル達、面子をかけて強奪された金を取返そうとするヤクザその1、その上渋谷の利権をめぐって対立するヤクザその2まで加わって四つ巴の攻防が繰り広げられる。
 この辺りの攻防は一種のコン・ゲームとしてもとても楽しめる。ストリートギャングにファイトパーティ、そんな単語を裏切って本書はすぐれて知的な魅力なあふれた物語である。アキやカオルはそんじょの刹那的に生きる若者ではなく、自分の頭で考えに考え抜いて行動している。プロフェッショナル達もしかり。体力のみならず知力の限りを尽くそうとしているのが伝わってくる物語だからこそ、読者のハラハラドキドキ感も格別である。
 文庫本でこれだけの充実したエンターテイメントを味わえるなんてはっきりいってお買得である。ただし、アキのその後については既に「ギャングスター・レッスン」「サウダージ」が刊行されている。その後が知りたければハードカバーで。なんだか出版社の術中にはまっているような気もしなくもないが、迷わず続編も買いだろうと言わせる魅力があるのは間違いない。

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紙の本飛ぶ教室

2007/10/22 21:40

子どもの領域を飛び出して、大人に迫り来るもの

9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

言わずと知れた傑作児童文学の改訳版です。二十年前のヒット曲などを聴くと、そのあまりにもゆっくりとしたメロディーに調子が狂ってしまうのですが、本書はその逆です。スピード感溢れる畳み掛けるような文章が、慣れ親しんだ物語とはいえ新鮮でした。何かにつけ気忙しい現代人にあわせた超訳かと思ったら、こっちがケストナーの地の文章だそうです。文科省推薦図書がラノベ風になって再登場とでもいいましょうか。児童文学はちょっと、という大人にも読みやすくなってます。

が、トリヤーの挿絵はありません(泣)

ケストナーといえばトリヤー。その作品にさらなる魅力を与えていた挿絵がないのは正直悲しい。そして高橋健二訳のケストナーに慣れ親しんできたせいで、こどもの本が持つ教え諭すような優しい響き。そんなものも若干薄れてしまったようで、大人とはいえ少々寂しくもあります。
とはいえその欠落を補って余りあるのが、末尾に寄せられた訳者による解説。名文です。

ケストナーは確かに子どものための本をたくさん書いた人だけれど、その視線の先には常に大人がいた。この飛ぶ教室が出版されたのはドイツにナチ政権が誕生した年。「何やってんだよ大人」多くの子どもがそう思っただろうなか、「大人ここにあり」の気概を見せた。そう、そうなんだよ。だから好きなんだよケストナー。大人になったが故にその真価に気付く。その魅力を余すことなく伝えてくれる解説から得るものは、本文に負けず劣らず多い。

酒場の勇者ばかり増えてもしょうがない。

「賢さのない勇気は乱暴に過ぎない、勇気のない賢さは冗談にすぎない」。どう考えても時局に喧嘩を売ったとしか思えない、ケストナーのこのカッコ良さ。久々に痺れると共に、もういい大人なんだけれど、いつまでたってもそうはなれない己の未熟さを反省せずにはいられない。
これはクリスマスの物語。勇気と賢さとその他諸々と。そんな色々なものを詰め込みながら、子どものそんな勇気と献身に対して、大人は正しく報いているだろうかと思わずにはいられない物語。子どもの時に読み損ねたより多くの人に届けばと、押し付けがましくも思う。

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紙の本銀河ヒッチハイク・ガイド

2008/03/10 23:10

笑えない現実は、もう笑うしかない

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

主人公の前にはお先真っ暗の現実が待っていた。何といってもある日突然、地球が消滅してしまうのですから。そして主人公は真空の宇宙へと投げ出される。地球人と信じていた宇宙人と、「銀河ヒッチハイク・ガイド」という本とともに。さあそこから宇宙ヒッチハイクの旅の始まりです。

笑えます。目の覚めるような馬鹿馬鹿しさに、思いっきり脱力します。だが深い。解説によるとSF界では古典的傑作とされる、シュールでブラックなドタバタSFコメディ。原書はもう四半世紀以上も前にイギリスで出版され、今でもカルト的な人気を誇るシリーズ第一作です。SF特有の難解な世界観とは無縁なので、SF嫌いの人でもとっつきやすいはずです。

あらすじを説明するのは困難です。登場人物はみんな個性的。すじを説明したところで、何の意味もない。意表をつく展開を味わい、台詞や行間に散りばめられた皮肉や深遠な真理に触れるには、やはり手にとってもらわなければならない。そして何度も読み返したくなる。そんな本です。笑いをとるのは、深刻ぶるよりもっと難しい。笑うもよし、考えるのもよし。含蓄に富んだ英国的ジョークが満載です。

人生、宇宙、すべての答えは?

こんな問いが世界中の人を巻き込む、知的遊戯に満ちた一冊です。頭の固い人にはお薦めできません。

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紙の本クジラの彼

2007/03/05 22:14

”擦れ違い”が不可能となりつつある現代日本。最後のフロンティアは自衛隊にあり

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

甘々恋愛モードにどっぷりと浸かってみたい気分だったので本書を手にとってみました。
全6編からなる短編集、全編甘々恋愛モード全開ですなのに、なのに何だか笑いの連続でした。爆笑、失笑、忍び笑い。
甘々恋愛モードに浸るには私自身がやさぐれすぎたのか、それともしょせん甘々恋愛バナシはたから見るとコメディでしかないという人生の真実をさりげなく衝いたものか。
(とはいえ”トイレが取り持つ仲”ロールアウトは掛け値なしによく出来たコメディですが)
「恋は始まるまでがいちばんいい」というこの本の帯にある北上次郎の言葉にしみじみと肯けるあなたはこっち側。そんな事ない、と思うあなたはあっち側。
とはいえ読後感の楽しさはこっちだろうとあっちだろうと同じく面白かったとなるでしょう。良くも悪くも恋愛は人の感情を上下に揺さぶります。この小説はうまく上方に振れた恋愛における楽しい・嬉しい上澄み部分をこれでもか、と読ませてくれます。
かつて恩田陸は「ライオンハート」のあとがきで「メロドラマと言えば擦れ違いであるが、きょうび擦れ違いをやるのは難しく、成立するのはSFしかないと思っていた」と書いていましたが、なんのなんの現代日本には自衛隊という最後のフロンティアがありました。
”すれ違い”や”会いたくても会えないもどかしさ”といったメロドラマには必須の要素も自衛隊という特殊な舞台を持って来る事でやすやすと解決。普通の恋愛模様も”自衛隊”という特殊なフィルターを通すと何だかドラマチックに変身してしまいました。まぁ同時に自衛隊の閉鎖性や特殊性も浮き彫りとなった訳ですが。
おおむね女の子の押しが強く男性陣は受身勝ちですが、日々厳しい訓練で鍛え上げられた肉体に実は相当真摯に彼女を思っているらしい、という女性にとってはパラダイスのようなお話ばかり。自衛隊員の株が上がりそうな話ばかりなので老婆心ながら苦言をひとこと。
人は立場で作られる。職業から醸し出される雰囲気というのはあるものです。制服を脱いだときの中身が肝心なのですよ、お嬢さん方。
とはいえその職業ゆえに長く不遇をかこっていた彼らがようやく普通の人と同じラインに立てた事を寿ぐべきか。
自衛隊ものを書かせたら有川浩、その評価を不動のものにする一冊に違いありません。

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紙の本東京番外地

2007/03/19 22:41

両国・横網町公園はヨコヅナではありません。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

横網町公園。この本を読んで始めてそのような公園があることを知りました。その場所がどういう意味を持つ場所なのかも本書を読んで始めて知りました。不勉強の謗りは免れません。
ですが。”そんなの誰も教えてくれなかった”という気持ちもちょっぴりあります。
東京拘置所・不夜城にドヤ街と地方在住者でも一度は聞いた事がある場所から、食肉市場にイスラム寺院と、東京に住んでいても永遠に足を踏み入れずに終わりそうな場所まで15箇所。気鋭の映像作家が”現代の15の情景を活写”、とくれば写真集のようなものかと思ったのですが、写真少ないです。極私的ドキュメントとはつまりルポの事でした。
写真が少なくてちょっとがっかり、と思いつつ読んだのですが写真が無くても大丈夫。リズムのよい言葉で綴られた文章は写真無しでも充分にその場の空気を伝えてくれます。東京のそんな所にそんな場所が、と驚きつつ読み進んだ読者をその場が発信するメッセージ、つまり”もっと考えて欲しい事”へと巧みに誘導していきます。”そんなの誰も教えてくれなかった”事がたくさん詰まっています。
ノンフィクション系映像作家という事で、生真面目な文章だったら嫌だなという気持ちがあったのですが、そんな先入観は見事に裏切られました。すごく読み易くて面白いです。ユーモアのある文章に何度となく笑いが零れました。
また、台詞無しで雑多な思いを表現する映像にも似て、短いながらも的確に著者の思いを表現した言葉になるほど、と幾度も感心させられました。
「ここにはこんな問題があるんだからもっと考えなさいっ」と詰め寄られると逃げ腰になりますが、東京にはこんな場所もあるんだよと好奇心を揺さぶりつつも、面白いもの見たさの背後にひそむ”直視したくない場所・こと・もの”へと手を取って誘い込む、例えて言えばそんな読後感でしょうか。
「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」。そんな言葉がぽろっと飛び出すから、そうよねぇと素直に肯けてしまうのです。
彼の世界はもっと柔軟で奥の深いものではないか。森達也といえば『A』を撮った人、という従来のイメージを覆す一冊でした。

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インドへの道は遠く遥かなり

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いい年をした大人がはるばるインドまで、UMA(未確認不思議動物)を求めて旅に出る。

なんて下らない。けれどその下らなさが堪らなく楽しい。

辺境作家高野秀行がUMAハンターとなる今回のミッションで、探索するのはUMA愛好家が勝手にそう名付けた怪魚ウモッカ。本当にこんな魚が実在するの???その奇怪な詳細は本書にゆずるとして、全力をあげて下らないUMA探索行に没頭する、可笑しくも真面目な日々にたっぷり笑わせてもらいましょう。

実用性や有用性が何よりも尊ばれ、下らないことがますますやり難くくなる世の中。下らないことに全力をあげる姿はいっそ清々しく、神々しくもあります。なので、川口浩探検隊も真っ青な顛末に文句をつけるのは野暮というもの。

著者は入念にリサーチしました。周到に準備しました。にもかかわらず、伊達や酔狂でどうにかなるものでもない世の中で、ロマンを貫き通すのは大変なこと。もうほんっとそのくらい見逃してあげたらと思わなくもないのですが、その”そのくらいが”早々許されないことも重々承知しているだけに、がっかり感よりも痛快さに天秤が傾いてしまいます。
 
どこまで続くか探し物ハンター高野の旅。次回はどこに赴くのか。それもまた楽しみです。そして辺境作家らしく、現地に行かなければ体感し得ないような現地事情、いいかえれば途上国事情にもさらりと触れていて、そんな世界もあるのだということを押しつけがましくなくアナウンスしてくれる辺りも好感度大です。そんな風に冷静な観察眼を持ちながら、どうしてこうなるのか。ああほんと人の世は不思議です。

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どうせ転ぶなら、もっと大きなお金に転ぼう

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

面白おかしく同性愛を取り上げるものが増えた。それは社会の多様性や寛容さの表れというよりは、多くの人間が”金に転んだ”証左だろう。

でもいいのかな?そんな風におもちゃにしてると、もっと大きなマネー取り逃がしちゃうよ。お金好きなんじゃないの?

敢えて下品に言えば本書の中身はこんな感じ。”寛容”な地で”繁栄”を謳歌し、英国消費者ヒエラルキーのトップに君臨する、知られざるピンクポンドパワーをとくとご紹介。ピンクポンドとは、ゲイ達が使うお金・そんな彼らのお金が流れ込むマーケットのこと。その巨大さにびっくりです。本書の設定レートは今となっては高すぎですが、多く見積もればなんと年間700億ポンド!18兆円超とはただごとではない。浜銀総研が数年前に査定した「萌え」関連市場全体でもたかだか888億円規模。いかにケタ違いの市場かがよくわかります。

本書では、ピンクポンドの旺盛な消費意欲がどれだけ実体経済を潤しているか、そんな彼らの消費行動がどのように社会を動かしてきたかが紹介されます。英国のみならず、南アフリカ経済が好調な原因だって、豊富な資源以外に説明がつきそうで騙され、もとい納得してしまいます。そして彼の地ではいかにLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)が根付きつつあるかも、苦い歴史と共にご紹介。とはいえそこは『京都人だけが知っている』の著者らしく、あくまでポジティブなのがおかしい。

ま、新書です。「萌え」関連市場なんてぴんとこない、その程度にはピンクポンドも眉唾ものかもしれません。ですが、自由になるお金を財布にいっぱいつめた人間に企業は優しい。そうして社会が変わってきたことに異論がある人は少ないでしょう。ロンドン市長がLGBT支持を掲げ、一緒にゲイパレードに参加する姿からは、寛容なきところ繁栄は訪れない。そう実感させるに充分です。”みんな違って みんないい”明確にそのメッセージを発した地が繁栄を謳歌する姿は、その逆よりははるかに健全。風通し良さげで羨ましい限りです。

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紙の本きみはポラリス

2007/06/17 21:13

食わず嫌いは良くない事を痛感

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

 ”いとしさの王国へ”という、女性作家による影響を受けた少女漫画論みたいな本の目次を立ち読みしていた時、三浦しをんが飽食への警句をカニバリズムと絡めて描いた清水玲子の”22XX”を挙げているのに度肝を抜かれた。大島弓子や岩館真理子などいかにもな作品が並ぶなか、異彩を放ちまくると共に「三浦しをん侮れず」。彼女に対する見方を改めるきっかけとなった。
 で、本書です。さくさく読める11編からなる短編集なのですが、これ最早恋愛じゃないでしょう。”ただならぬ恋愛小説の登場!”というコピーでは真価を伝えず気に入らないけれど、他にどう言いようがあったのか、出版社も悩むところだよなと同情を覚えます。世間で良しとされるものを、素直に受け入れる事に抵抗を覚える向きにはしっくりくる、ひと癖もふた癖もあるひねたお話が並びます。大体”22XX”に影響を受けた人間が、表層だけを描いて満足するはずがない。
 キラキラきゃんきゃんと愛や恋を語っているようで、その世界は深い。明るく正しい世界に感じる違和感だとか、世間が崇め奉るものに対して注がれるケッという視線。この視点に私はシンクロする。
 りぼんやマーガレットの読者だったなら見過ごせる事が、花とゆめやLaLaの読者だった者には見過ごせない。意外ともいえるほど深い読後感を感じた根底には、恐らくそういう事が関係しているのだと思います。
最初と最後の二話は読者サービスともとれるような、あっち系のお話。彼女は世間からどう見られているのかよく知っている。けれど、あぁ彼女ならこういうもの書くわよね。なめてかかると手痛いしっぺ返しをくらう。最終話「永遠につづく手紙の最初の一文」ベタな設定です。けれどこれが結構とんでもない。こっそり忍ばせたのはアンチテーゼか人権宣言か。既成概念を捨てた時に現れるシンプルな疑問。どうしてそれがだめなんだろう?読んでるこちらも線を引くことの意味がわからなくなる。
こんな事に気付いてしまったら、後はもう冬の一等星を目指すしかないじゃないか。自動車盗と女の子の一夜の邂逅を描いた「冬の一等星」叙情溢れる佳作です。元気でテンポの良いエッセイも楽しいけれど、こんな話をもっと読みたいと思った。ところで切なくも美しいこの作品に著者が付けた自分お題が「年齢差」……。あぁ三浦しをんあなたってば。本当に侮れない人です。この自分お題と作品の着地点との乖離を味わうのもまた楽し。

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紙の本女のケモノ道

2005/08/16 13:09

面白うてやがて哀しき…

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

10年ほど昔、創刊間もない「クレア」という女性誌にとても面白いマンガエッセイが連載されていた。
最近は迷走の感があるクレアだが創刊して間もない頃のクレアには勢いがあった。文芸春秋社が従来にない女性誌をめざしただけあって、ありきたりのファッションやコスメ情報にとどまらない“Something Else”な感じが結構好きだった。
その中でも最も楽しみにしていたのが岡崎京子の”女のケモノ道“。
毎回インパクトのあるイラスト漫画とそこに添えられた女三人のだらだらトークに大うけしたり、そうなんだよね〜としみじみと感じ入ったり。
世の中はバブルが崩壊したとはいえまだまだイケイケドンドンがまかり通っていた時代。
クレアの前半で繰り広げられるリッチでゴージャスな世界とは一線を画し、働く女性の現実が誌面のどこよりもリアルに感じられて好きだった。
面白おかしく毎日を過ごしているようでもどこか哀しい、そんな毎日を見事にすくいとって笑い飛ばしてみる。そんな岡崎京子が好きだった。

10年ひと昔。文中の固有名詞や風俗に時代の変化が感じられるのは否めないが、しかし時代を経たからこそあらためて岡崎京子の並外れた感性に驚嘆させられる。
例えば「女のピンク道」。30歳は負け犬だとかなんとか騒がれるはるか昔から働く30代の女はつらいのよ、と看破している。それでも女は行く。過去どんな女性達も経験したことのない自由で、だからこそどうしていいかわからなくなる女の道を。
彼女はこんな面白いものを描いていたのだ。そしてその才能は突然の事故により奪われてしまった。もしも今彼女が元気だったらどんなに面白いものを私達に見せてくれたのだろう。そう思うと残念でたまらないし吉本ばななの解説で明らかにされる作者の近況に思わず涙ぐんでしまった。
岡崎京子という稀有な才能の持ち主が再び筆をとる日がくることを心より願う。

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紙の本イトウの恋

2008/09/06 09:54

昔、昔、ヨコハマのお話

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

タイトルが表す通り、イトウという人物の恋の顛末を綴った物語です。ですが、恋バナに終始するお話でもありません。

物語の始まりは現代の横浜から。冴えない私立中学教師久保耕平が、屋根裏の旅行鞄の中で眠っていた古い手記を発見し、廃部寸前の郷土部の活動を盛り上げようと画策したことから始まります。続いて登場するのが元モデルにして人気劇画「ビースト海峡」の原作者田中シゲル、イトウの孫の娘です。ところで明治維新後間もない日本で、通訳として活躍した青年イトウの恋の相手は英国人旅行家I・B。「日本奥地紀行」を著したイザベラ・バードに想を得た人物です。耕平とシゲル、イトウとI・Bという時代を違えた二組の男女を登場させ、いきなり明治の昔に飛んでもついて来られないだろう現代人への配慮が行き届き、手記を読み進む形で現代と過去を繋ぎます。

母親ほども年が違う、人種が違う、階級が違う。そんな二人に恋が芽生えるとは何と不可解な。けれど年齢や容姿といった外見的要素を越え、その人のもつ公平さとか高潔さやユーモア。そんなものに惹かれることもまた起こり得るのかもしれないと、時代も何もかも違う二組の男女を通じて浮かび上がらせる手法が周到です。

畢竟、恋とは不可解なもの。そうなるとは思わなかったのに、こうなってしまった。そんな不可解さとともに生きるのも人生。そして不可解さのうちでも最たるものの恋を描きながら、ただ幸福なばかりでもない人生で不可解さと共に生きることを、手記が教えてくれる、物語が教えてくれる。”娘、おまえは誰のようにもなる必要はない。おまえ自身の不可思議な人生を生きるのだ”その言葉に辿りついた時救済を感じるのは、きっと娘に限らないと思います。

僕なんかが頑張ったところでどうせと、やる気のなさ全開だった郷土部員赤堀くんが、彼自身の人生を歩み始める姿。彼に限らず各人が、誰のものでもない自分の人生を生きる姿には、お約束とはいえ心励まされます。

そういえばイトウのフルネームは伊藤亀吉なのですが、「日本奥地紀行」に登場するのは伊藤鶴吉。著者のユーモアはこんなところにも生きてます。

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紙の本武士道シックスティーン

2007/11/16 23:53

いずれ武蔵か小次郎か。少女剣士ふたりの戦いがまぶしくも清々しい

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

武道はスポーツではないと思っている。けれど勝ち負けはある。そして勝ち負けだけが全てでもない。何なのそのわかりにくさ???なのである。白黒つけることだけに慣れた未熟な人間には限りなく奥が深い。本書は著者初の”人が一人も死なない”エンターテイメントだそうです。そして主人公は未熟ここに極まれりというふたりの少女剣士。不敵な笑みが似合う兵法者を気取る女子高生・香織は太平の世に甦った剣鬼のごとく。その人物像がもうたまらなく変で滅茶苦茶楽しい。いずれ武蔵か小次郎か。彼女の前に立ち塞がる思いもよらぬ敵・早苗。貴様を斬る。だが斬れない。あらら一体いつになったら斬れるのだろう。

この、勝負は簡単につかないという辺りから物語は佳境に入ります。
勝ち負けだけが重要なわけではない。けれど勝ち負けはある。勝つことが全てなのだろうか。どうして戦うのだろう。本書に込められた意味は限りなく深く大きい。読後感はとても爽やかだ。
性差変われど猛々しさはそのままに、勝ちにいくだけならどうしようもない。女の子はもう充分強いし乱暴だ。どうしてまた女の子が主人公なのだろうと読む前は不満だった。けれど著者が目指したのはきっともっと新しい地平。本書では女子高生が武士道を語る。これからは武士道の時代という意見に賛成一票。けれどそれは五輪書のような古い衣を脱ぎ捨てて、これからの人に相応しく進化した新たなる武士道の形。そこに、どうか存分に戦う楽しさを知り、切り開いていって欲しいという、新しい時代への祈りにも似た思いを垣間見る。
己を見極めた少女剣士二人が存分に打ち合う姿は清々しい。そしてそんな爽快さを多くの人と分かち合えれば、新しい時代だろうが何だろうがきっと恐るるに足りず。

ハードボイルダーらしき著者が、一体どんな顔をして書いたのだろうと思わずにいられない、交互に語られる女子高生の一人称が最後までむず痒かった。けれどそのむず痒さもかえってクセになる、元気のいい女の子がチャンチャンバラバラやってるだけでも相当に楽しめる一冊です。
けれど著者はやっぱりハードボイルダーらしく男に優しい。男の子、かっこ良すぎです。

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紙の本銀漢の賦

2007/07/22 20:59

銀漢とは天の川の事、そして美しく年を重ねた男もまた銀漢なり

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五十を過ぎても俺達ちょいワルとばかりに枯れないオジサンが増えた。けれど逆立ちしたってセクシーさではラテン男に敵わない。日本男子は”もののふ”たれ。プリンシパルのある生き様こそがセクシー。髪に白いものが目立つお年頃、オヤジ二人の友誼と義の物語に萌えました。

 人は死を思う時、その生を思う。袂を分かったかつての友人に、死期が近い事を打ち明ける所から物語は始まります。白皙の美少年は権力の座を登りつめ、飄々とした精悍な若者は小役人に留まった。違う人生を歩んだ二人。けれど一方に死期が迫った時、藩の命運を巻き込んで、二人の人生は再び交差する。友人は合わせ鏡のようなもの。存分に生きたか悔いは無かったか。その生き様に己を見る。

 二人の間に影を落とすもうひとりの友十蔵、通り過ぎていった女性。脇を多彩な人物が固め、物語に広がりをもたせます。けれど二人に焦点を絞った事で拡散しがちな視点が、生き様という一点に収斂されていきます。剣戟シーンにカタルシスはやや欠けるものの、一番の見せ場ではオヤジかっこいい!と思わず胸がすくような爽快感に包まれました。萌えます。
 枯れないオジサンがなぜかっこよく見えるのか。人の美しさは覚悟と心映え。万人にとっての正義ではないかもしれない、けれど筋を通した。その生き様が潔い。

 要所要所で物語を盛り上げる漢詩に、やっぱり教養は大事と痛感。ガンダム名言集ではこの奥行きは生まれない。

 あの頃は良かったとばかりに青春物大人気。けれど後ろを振り返るばかりでなく、たまには前向きな年寄り(すいません)の話から元気を貰うのもいい。年輪を重ねた著者だからこそ書けた、壮年男性に夢を与えるに違いない終わり方まで全編心配りがきいていて、気持ち良く本を置く事ができました。将来性に期待を込めて4つ星です。

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紙の本贖罪 上

2008/08/31 00:32

物語がそこにあること

4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

女の子がひとり。裕福に育ち、早熟で聡明。彼女はある脚本を書き上げた。誉めてほしくて。だがその脚本をもとにした、彼女の素晴らしさを知らしめるはずの家庭劇は結局上演されずに終わる。代わりに起こった事件のせいで、ようやく互いの愛に自覚め、引き裂かれた恋人が一組。それが全ての始まり。

長い序章が終わり、時は流れる。誰が主人公なのか?見失いそうになりながらも物語は進む。不変の愛を描きたいのか、罪を暴きたいのか。運命に翻弄される人々を描きたいのか。引き裂かれた恋人たちを描きつつ、作者は別の企みを忍ばせる。時代は第二次大戦を経て現代へ。賞賛を求めていたかつての少女は多くを学ぶ。そうして迎える終章。

ああ作者は小説が書きたかったのだ。馬鹿みたいですがそんな感想しか浮かびませんでした。古今東西ありとあらゆる物語が読まれ、今なお新たに生まれ続け、暇潰しとして物語が消費される中、どうしてまた新たな小説を書くのか。小説を書くことの意味、筆をとらずにいられない衝動。そんなものをストレートかつ技巧を尽くしてぶつけられた気がしました。

エレガントな作風は上品にして緻密。冗長過ぎるきらいはあれど、何が書かれているかでも物語性十分で面白い。そして、どうして書かれたのか。そちらは本を愛する人ならきっと深い共感を寄せるに違いない一冊です。

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