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トシさんのレビュー一覧

投稿者:トシ

8 件中 1 件~ 8 件を表示

紙の本道は開ける 新装版

2002/04/21 23:10

非常に実用的で説得力のある悩み対策

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

いかめしい表題のこの本は、“How to Stop Worrying and Start Living” by D. Carnegieの全訳で、本屋では「自己啓発」のコーナーに必ず置かれている。題名が示すとおり、この本は「悩み」の克服法を書いたハウ・ツー本である。本書は世界的な大ベストセラーとなり、今でも全世界でカーネギーの自己啓発セミナーなるものが開催されている。僕はこの手の本は嫌いで読まないのだけれど、昔の友人がこのセミナーに出席していたく感激していたことなどもあり、数年前に読んでみた。

言わんとすることは単純明快だ。冷静に事実を分析して感情を排除する、ということに尽きる。カーネギーはそれを次の公式にまとめている。(1)最悪の事態を想像すること、(2)最悪の事態を受け入れる覚悟をすること、(3)落ち着いて事態を好転する努力をすること。ありもしない期待にしがみついたり、逆に解決不可能な問題に無理に努力して焦ったりして精神も肉体も消耗してしまうことが最悪であり、冷静に対処することが必要なのだという。至極もっともで、たとえば抑鬱症に対する対処法としてよく言われていることとも共通するところがある。

本書の面白いのは、徹底的に実用書として構成されていることである。各章の末尾に要約があり、また最初の第一部ですべての結論を述べている。おそらく人生のなかで一度は学ばなければならないことがここに簡潔に書かれているので、この本が売れるのもうなずけるのだ。
また、さまざまな実例が数多く取り上げられているのも面白い。実績があがらずレイオフの危機にあるサラリーマンなど、競争社会たるアメリカの生々しい姿が浮き彫りになっている。これから社会にでる若者に読ませたい一書だ。
引用された以下の言葉が本書の内容を総括していると思う。
「悩みに対する戦略を知らないものは若死にする」--- アレクシス・カレル

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紙の本人間の土地 改版

2001/08/27 20:56

「星の王子さま」の作者の思想

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 この本は「星の王子さま」の著者として有名なサンテグジュペリが、飛行士(当時はそれは冒険家を意味した)としての体験を題材に綴ったエッセイ集である。本書には、命懸けの飛行、遭難した僚友の救助、砂漠への不時着、など非日常的な体験が語られている。しかしこの本の面白さは、そのような個々の体験の興味深さではなく、個々のエピソード中に語られるテグジュペリの独特の感性や思想にある。本書はテグジュペリの思想を知るには格好の一冊ではないかと思う。

 印象に残っているエピソードがある。テグジュペリが砂漠に不時着し死にかけたとき、死への恐怖はなく、むしろ自分たちを待っている人たちのことを思うときだけがつらかったという。彼らのために生き延びなければならない。「自分たちは難破者ではない。僕らこそが救援者だ」。

 テグジュペリは、自分の役割を知らず、ただ日々を過ごしている人々を痛烈に批判している。責任について、役割を果たすことについて熱く語る。しかし、テグジュペリの場合、それが特別に優れた仕事をさしているのではなく、例えば一介の農夫の仕事にもそれを見出す。本書では、様々の非日常的な特殊な体験が語られるが、特殊な英雄的なものを語ろうとしているのではなく、いつもごく普通の人間について語る。飛行機からアルゼンチンの街を眺めながら、そこに住む名もなき人々の生活に思いを馳せる。不時着した砂漠で実家の家政婦を思い出す。

 テグジュペリの人生は恵まれないものであったらしい。郵便飛行士になったが会社から地上勤務にまわされる、戦闘機に乗り祖国のために闘おうとするが無意味な任務に命を賭けさせられる。報われない境遇のなかで、ニヒリズムに陥ることなく自分を保つため、テグジュペリは次第に強固な思想を作り上げていったのではないだろうか。彼はもともと英雄タイプではなかった。「星の王子さま」に描かれた王子さまとバラや狐との心の触れ合いの世界。そういったものを厳しい現実に抗して守り抜こうとしたテグジュペリの苦闘が彼の作品を生み出していった、私にはそんな風に思える。

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目に見えないものとは何か

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 「かんじんなことは目には見えない」。これは「星の王子さま」の有名な言葉である。「星の王子さま」に書かれていることはこの言葉に集約されている。しかし、「かんじんなことは目に見えない」、とはいかにもありふれた言葉である。「星の王子さま」を読んだときに感じる、あの、心の深いところに沁みる感じ、子供の頃に戻っていくような感じ、さまざまの気負いや緊張を解かれ裸の心に染み入る感じは、どこからくるのだろうか。私にとってこの本は、そんな疑問に答えてくれる本であり、「星の王子さま」の魅力の謎をとき、一層感動を深めてくれるような本であった。

 著者は、臨床心理士であり、性格心理学やトランスパーソナル心理学を用いて、「星の王子さま」を初めとするサン・デクジュペリの著作とその人物を分析する。私はテグジュペリ関連の書籍をそれほど多く読んだわけではないが、この本の視点はユニークなのではないか。著者は、テグジュペリとその分身である星の王子さまを「中心気質」という性格類型として捉え、中心気質的な生き方が現代社会では過小評価され疎外されていることを、テグジュペリの恵まれない人生と重ねあわせる。さらに、テグジュペリ作品の持っている精神的な力強さ(死を恐れぬ行動)を、トランスパーソナル心理学を援用しながら説明していく。

 この本は学術書ではない。著者がこの本を書くきっかけとなった個人的体験が後書きに記されているが、この本からは「中心気質」的なもの(つまりは「星の王子さま」的なもの)の価値が広く理解されて欲しいという著者の思いが伝わってくる。

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紙の本落下する夕方

2002/04/07 16:28

失恋と未練の物語

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 元恋人の新しい彼女が部屋に押しかけてきて居ついてしまう、というありそうもない設定なのだが、不思議と素直に入り込んでしまえる。 なにより、押しかけてくる華子のキャラクターがとても魅力的なのだ。物語自体は、梨果の健吾への未練と、健吾の華子への未練が主軸になっている。こんな未練の物語など普通面白くないはずだが、それを魅力的にしているのは華子の存在だと思う。感情を表にあらわすことがなく、なにも信じないと言い切る彼女。ある意味で正反対の梨果と華子が次第に心を通わせていくところがいい。

 華子は、放浪生活を続けて人と深く関らないように生きているという点で、「神様のボート」(江國香織)の草子と似ている。こういうキャラクタに魅力を感じてしまうのは、普通の読み方ではないのかもしれないけれど、僕としてはそこに魅力を感るのだ。江國香織の小説は、普通にいう現実的な生活(大人の生き方)から、踏み外してしまう人をよく描いている。健吾や梨果にしても、元の恋人への執着に生きている彼らは現実から遊離して幻に生きているわけだ。僕はそういう現実からのズレの部分が結構好きで江國香織に惹かれているのかもしれない。

 江國香織の小説ではそれとなく挿入されている詩や歌がなんともいい。「流しのしたの骨」では主人公の「折り紙」がよかったが、この小説では梨果の口ずさむ「きつねがりのうた」がなんともいい雰囲気をかもし出している。

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紙の本神様のボート

2002/04/06 22:24

魅力的な狂気

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 別れた男といつか再会できることを信じて、娘と二人で放浪生活を続ける母娘の物語。葉子は男と再び出会うまで一切の生活に馴染むことがないよう心を閉ざし、ひとつの町に居ついてしまわないように放浪を続ける。人生の意味を大きく変えてしまうような出会いというものはあるが、それが終わった後では人はまた新しい生活や出会いへと切り替えていくものだ。終わったものに固執する葉子は、一種の狂気に憑かれている。 しかし、この小説は読み手をその狂気の中へ引き込んでいく力がある。葉子に移入してしまえるのだ。江國香織自身が「わたしが書いたもののうち、いちばん危険な小説」と言っているのはその辺のことを言ったのだろう。

 しかし、僕はこのような「狂気」が単に危険なものだとは思わない。むしろ僕はこのような狂気は結構好きなのだ。柳美里はエッセイのなかで、「自殺は悪いこと」という社会通念に反対して、死ぬことも人生における個人の正当な選択肢であって、自分も人生において成すべきことがなくなってしまったときにはちゃんと死にたい、と書いていたが、僕にはこの潔さはとても気持ちよいものだった。葉子の狂気も、自分という人間の中で大きな部分を占めてしまった人を失ってまで生き延びることを善しとしない、ある強さに基づいていると思う。それは大切な人を失ったという現実から逃れたいという弱さに基づくのではなく、その反対であるように思えるのだ。だからこそ、葉子に移入することができるのだと思う。
 もちろん、このような生き方は現実において破滅の危険をはらんでいる。しかし、あえてこのような狂気の生き方を肯定的に描いてしまう江國香織という人には僕はとても好感がもてる。

 この小説は、とても歯切れのよい明晰な文章で書かれていて、心に残るような言葉も多い。この人の文章はうまく言えないがとても魅力的だ。母と娘それぞれの孤独感や芯の強さもとても魅力的に描けており、僕は江國香織の小説の中では一番すきな小説のひとつだ。

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紙の本センセイの鞄

2002/02/18 00:40

馴染むことの幸福

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 これはおもしろかった。川上弘美の描写は普通の言葉で淡々と書かれているのだが、何ともいえない雰囲気をかもし出している。四十前のツキコと七十前のセンセイが酒飲み友達として交流をはじめ、次第に互いにかけがえのない存在になっていることに気づいていく、という話だが、この二人が店で酒を飲んだり、二人して歩いているなにげないシーンの描写がとてもよい。何気ない会話や魚をつつく仕草などのなかにある楽しさや幸福感が、皮膚感覚で伝わってくる。酒を飲むシーンは何度となくでてくるが、これがまた本当においしそうなのだ。帰り道の夜の冷気の心地よさや星の美しさなども胸にしみてくる。

 川上弘美はこの小説の中で「馴染む」という言葉を使っているが、お酒もセンセイとの交流も、ツキコの「馴染んだ」もの、「馴染み」つつあるものだろう。そのようなツキコが馴染むものが、この小説の中では生き生きと幸福感をもって描かれている。一方、ツキコの馴染めないもの、たとえば小島孝との付き合いは「かすかな違和感、しかし消しようのない違和感」として描かれる。ツキコとセンセイは実はとてもよく似ている。頑固だが、ユーモアがあり、悪ふざけや子供じみたところもある。だからこそ気が合い馴染んでいく。自分に合ったもの、馴染めるものに出会うことは幸福なことであるし、そのようなものを数多く自分の周りに置くことができれば幸せだろう。そんな幸福感をこの本は感じさせてくれる。

 話の後半では二人の関係が恋愛へと発展していくのだが、僕は個人的にはこの小説では前半が好きだ。恋愛の感情の綾も面白いのだが、むしろ二人が恋愛というものを抜きにして、ごく自然に馴染んでいく前半の描写のほうがずっと面白かった。

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紙の本「死ぬ瞬間」と臨死体験

2001/09/09 22:00

「死」に触れることにより「生」を知る

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 極限状態を観察することで様々の知見が得られることがある。例えば地質学者は地殻の構造を解明するために大地震を調査し、心理学者は人間の心を解明するために精神異常者を研究する。本書の著者、エリザベス・キューブラー・ロスは、死にゆく人々に数多く接する経験から、人間に関する豊かな智恵を引き出した。キューブラー・ロスは、アメリカでのホスピス医療の草分け的存在である。本書は彼女の講演を編集したものであり、ロスの思想の全体像を知る格好の入門書だと思う。

 本書でロスは、マイダネクのナチス捕虜収容所跡での体験を自分の仕事の出発点として語っているが、私は、ロスの仕事の全てはこの出発点に含まれているのではないかと思う。
 ロスはマイダネクでナチスに親兄弟を全て殺されたという少女に出会う。彼女ははじめ、ナチスの恐ろしさを世界中に訴えようと誓った。しかしそれは憎しみというマイナス感情をばらまくだけだと思い直し、この悲劇を受け入れて、人の心からマイナス感情を少しでも取り除く仕事をしたい、とロスに語ったという。
 自分の身に起こった悲劇を受け入れられないとき、また、正当な怒りや悲嘆の感情を押し殺してしまったとき、人は屈折したマイナス感情を心にため込む。ロスは、死に行く子供たちが皆このような屈折から自由で老賢者のように落ち着いていることを発見した。以来、子供たちがロスの師であり、ロスの仕事は、患者とその家族の心の中にあるマイナス感情の由来を解き明かして取り除き、死を受け入れられるようにすることであった。

 死を目前にするという体験は特別な体験だ。その時、つまらない自己防衛機制やプライドや価値観は意味を失い破壊され、何が大切で何が不要かがはっきりとしてしまう(それをロスが「最後の審判」になぞらえて語るのも面白い)。マイナス感情もまたある種の防衛本能から発しているから、そんな体験の中で乗り越えられていく。本書にはそのような人々が生き生きと描かれている。
 本書の魅力は死に行く子供たちとそれを看取る親たちのエピソードが数多く語られていることだと思う。それらのエピソードを読むことで、死に臨むという事態を疑似体験することができるし、本当の意味で素直になるということがどういうことかわかる。「臨死」の体験はなにも不治の病人に限らない。最も大切な人を無くした人、最も大切な夢を失った人もまったく同じ体験を、つまり「死」を垣間見る体験をしているのである。そのような体験を持つ人なら、本書に書かれたことは身近に理解できると思う。

 本書でロスはまた、死後の世界や自身の神秘体験についても語っている。本書の日本語題名が変に仰々しいのはそのためだ。しかし、ロスの語る神秘体験や死後の世界を興味本位で読むことは間違っていると思う。それは、ロスが死にゆく子供たちを通して語ったこと −− 屈折を解消し本当に大事なことを悟ること −− の延長戦上にあるに過ぎない。たとえばロスの神秘体験は一種の擬似的な臨死体験である。ロスは数多くの死に臨む人々に接する中で触発されて自分でも精神的に同じ体験をしてしまったのではないかと私は思う。また、ロスはかなり直感的に行動する人だ。例えば、「私が今日来たのは、明日のワークショップにあなたにぴったりの人物が現れるという確信があったからです」、「みんなが偶然と思っているものはじつは『神の配慮』です」、等々。このようなことを非合理的として退けたり、逆に神秘的なものとして持ち上げたりすることは間違っている。なぜなら、そのような(間違った)合理主義や神秘主義こそがつまらない自己防衛的な心の動き過ぎないからだ。本書を通して読むことで、きっとそのことが了解されるだろうと思う。この本はスピリッチュアルなものへの良い入門書でもあるのかもしれない。

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勇気を与える良書。事実によるヨブ記。

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 この本は、ナチスの収容所の体験を記した手記であるが、いわゆる収容所の残虐で過酷な実態を描いたものではない。そうではなく、そのような極限状態において人間が心理的にどうなってしまうのかを、心理学者の目から記述したものである。
 すべてを奪われ、希望のない、死と隣り合わせの過酷な状況の中で、人は家畜と化してしまうのか、廃人となってしまうのか、それとも、なおも人間としての誇りを保ちながら生きることができるのか。本書は、このような問いに対する、現場からの報告である。
 この極限状態において一部の人々が見せた崇高な態度というものは、それが事実であるだけに、読む人々に勇気を与え、人間の尊厳というものに対する認識を改めさせると思う。

 この本は収容所を描いたものであるが、ファシズム、ナチスといった史実に対する興味で読まれるべきではないと思う。筆者も述べているとおり、収容所で起こった出来事は、形と程度を変えて通常の人生にも起こることであり、収容所の人々の生きざまは、私たちから遠い、別世界のものではない。

 私は、学生時代に初めてこの本を読んだときには、正直、遠い世界の話として興味本位に読み流していた。しかし、年月を経て、それなりに人生のままならさ、報われなさ、世の中の不条理を経験した後に改めてこの本を読み返してみて、筆者の言葉一つ一つが身につまされた。

 「世の中なんでそんなもんだから」、「人間なんて弱いものだから」といった私たちの呟きが逃げ口上に過ぎないことを本書は暴き出してくれる。読むものに勇気を与える良書である。

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