久我忍さんのレビュー一覧
投稿者:久我忍
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ヘルタースケルター
2003/08/05 17:34
タイガー・リリィの奇妙な冒険
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女は誰しもが心の奥底で『美』というものへの憧れを抱く。
本作に登場する『りりこ』という人物は、その殆どがニセモノで出来ている。彼女は吉川こずえのように、生まれながらに美しさを持っている訳ではなく、何度となく手術を繰り返し、肉体を、そして美を維持するために大量の薬を服用し、その副作用からくる激痛に精神を蝕まれながらも、それでも自分が美しくあることを望んだ。
りりこを改造したクリニックを追いかける麻田検事は、やがてはクリニックではなく、りりこそのものを追いかけ始める。だがその追跡はひどく緩やかで、優しく、けれど容赦はない。
歳を取ることを恐れ、美の衰えを恐れるりりこ。
そして、歳を取ることはすばらしいと思う。恐れてはいけない——そう告げる麻田検事。
多くの無理を重ねたりりこの体は、少しずつ彼女が恐れ続けた滅びに向かっていった。そして、まるで体の滅びに呼応するかのごとくにりりこは追い詰められていくのだ。
りりこを追い詰めたものは何なのか?
それは彼女の悪意であり、それに端を発する周囲の人々の行為であり、そして美に焦がれ続けた彼女自身でもあるだろう。
流行というものは、一過性のものだ。
りりこをもてはやしたマスコミは、次の流行を、そしてそのまた次の流行を追い続ける。そこに終わりはなく、対象が変化するだけだ。
やがてはその時の中に、忘れ去られることをひたすらに恐れ恐怖したりりこも埋もれていくだろう。そして、いつか自分も人々に忘れられる、そしてそんな日が楽しみだと言った吉川こずえもまた埋もれていくだろう。
女は誰しもが心の奥底で『美』というものへの憧れを抱く。だが、りりこほどに『美』に憧れ、そして全てを捨ててまでそれを得ようとした人物はいない。だからこそ、この物語は——りりこは読者を惹きつけてやまない。
この物語は、『美』という言葉に魅了されたタイガー・リリィの奇妙な冒険の軌跡である。
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