亜李子≒Aliceさんのレビュー一覧
投稿者:亜李子≒Alice
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2003/01/31 21:26
まるで聖書のような悪魔の物語
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これは題名の訳しかたも素晴らしいと思った。『敬虔な幼子』、とても高尚な物語に思える。しかし、そこはゴーリー。そう一筋縄な物語の訳がない。
物語は、内容説明の通りでしかない話だ。物語を読むとそれが良く解るだろう。何も重大な事件はない。淡々と、ヘンリーの一生が語られていく。
だが、エドワード・ゴーリーは自らその挿絵をも描いている。この作品は挿絵と文章が互いに雑じり合って初めてひとつのストーリィが姿を現すのだ。
ヘンリーの心は確かに純粋だった。けれども、それはあまりにも純粋過ぎたのだ。
彼は神を崇拝し、悪行を行なわず、死後は天国へ行こうと心に決める。ここには宗教への盲信的な信仰が現れているだろう。だが、この程度なら誰にも害は成さず、『敬虔な幼子』で済む。しかしヘンリーは、純粋過ぎたのだ。
宗教に盲信することでどんな結果が生まれるかは、かの事件で大半の人間は解ったと思う。彼らが正しいと思うことは正しく、世界の法はそれに劣るのだ。ヘンリーは純粋であるが故に神を盲信し、神の御心のままに行動しようとした。その行動の恐ろしさが現れている挿絵も在る。
例えば、何か手伝うことがないかとドアを覗き込むヘンリーが後ろ手に持っているものは『ハンマー』である。一体手伝うためにどうハンマーを使うのか。ハンマーを使うような仕事を頼まれたら、彼は素直にそれに従うのだろうか。答えはきっと応であろう。少しの躊躇もなくそのハンマーを振り下ろす幼子の姿が目に浮かぶ。
素晴らしく高潔で、かつ神に従順な幼子の物語。純粋過ぎた彼のこの話を、一面的にしか読めないひとは可哀想だ。
紙の本ウエスト・ウイング
2003/01/31 21:04
何も書かれていない本よりも真っ白な本
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装丁からして白に黒の印刷という本。そして描かれている建物の窓は昏く、そらも澱んでいる。
この本にはストーリィというものがない。否、それ以前に文字というものがないのだ。だから人に説明をするときに「こういう本なのだ」とは決して云えない。唯、文字のない本とだけ。
ゴーリーの絵が堪能できる本というのならば確かにそうなのだが、それ以上にゴーリーの機知に富んだ内容だと思われる。
掲載されているのはゴーリーの絵ばかりなのだが、両面開きの片側は真っ白なままだ。印刷ミスではない。最初から真っ白のままである。最後にもこの本に対しての解説は一切書かれていない。つまり、この本は読み手に全ての選択を委ねている本なのだ。
例えば壁紙の剥がれた絵にしても、それが剥がされたのか、自然に剥がれたのか、はたまた壁紙自体の意思で剥がれたのか。全くの説明がないために、読者は一枚一枚の絵に関して考えなければならない。これはどんなことを意味しているのか。向こうの廊下はどこに繋がっているのか。ドアの向こうには何が存在しているのか。階段を上がったらそこはどこの世界に繋がっているのか——。
ゴーリーを知っている読者はこれをホラーとしてとるかも知れない。けれどもゴーリーを今まで一冊も読んだことのない人間が読んだら、どう捉えるだろう。或いはコミカルに考えるかも知れない。
全ての情報が垂れ流し的に与えられ、受け手がそれに甘んじて受動的になれるテレヴィジョンとは全く異なっている。考えることを忘れてしまったひとに、是非とも読んで欲しい本だ。
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